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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第四章 俺は派遣の冒険者?

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16.勉強?

 ここらが切り上げ時か。

 俺はハスィー様を伺った。

 ハスィー様は、かすかに頷いて支部長と僧正様に頭を下げると、俺を伴って退出する。

 疲れた。

 二人とも、期せずしてため息をシンクロしてしまって、お互いに顔を合わせて苦笑する。

 ハスィー様が、憂い顔をみせて言った。

「マコトさん、すみませんでした。支部長がどうしてもと言われるので」

「かまいません。それよりスウォークの僧正様もこのプロジェクトに関わってくるんですか?」

「はい。まあ、このプロジェクトの性質からいって、ギルド外から横やりが入らないわけにはいかないことは判っていたのですが……わたくしの力の無さでマコトさんを煩わせてしまって、申し訳ありません」

「とんでもないです!」

 ホント、ハスィー様は自己評価低すぎなんじゃないのか。

 組織員である以上、各方面からの圧力を避けては通れないのは当たり前だ。

 むしろ、ハスィー様の場合、俺に構い過ぎてうまくやれていない気がする。

 支部長室前で突っ立っていても仕方がないので、俺たちはプロジェクトの部屋に戻ることにした。

 恐れ多いけど、並んで歩く。

 本当は、俺が一歩下がるべきなんだけど、そうしようとするとハスィー様も下がってしまってうまくいかないのだ。

 ハスィー様、お立場をお考え下さい!

 まあいい。

 それより、この機会に気になっていたことを聞いておく。

 二人きりになれるなんて、次はいつになるか判ったもんじゃないし。

 並んで歩いているので、圧倒される美貌を見ないで済むのがありがたい。正面から観てしまうと、うまく口が回らなくなるからな。

「先ほどマレさんからお聞きしたのですが、ハスィー様はアレスト支部の執行委員なのですか?」

 いや、疑っているわけではないんだけど。

 ちょっと、地位が高すぎる気がするんだよね。年齢からしても。

 俺の見たところ、ハスィー様ってどうみても20代前半だと思うのだ。 

 エルフの歳なんか判らないけど、普通の人間とそんなに違うようにも見えないし。

 領主の娘であることを考えに入れても、ちょっと出世しすぎなのではないか。

「あ、はい。過分な地位とは思いますが、わたくしの主な仕事は対外有力者や団体などとの渉外や、それに伴う儀礼・式典関係ですので、ギルドを代表する立場でないと失礼に当たるということで、押しつけられました」

 なるほど。

 そういうことか。

 会社でもそうだけど、何も営業や製造販売などだけが業務ではない。本業の他にも関連団体との交渉や会合の出席、セレモニーへの参加などの、言わば「社交的な」仕事がある。

 ギルドみたいな半ば公的な組織なら、尚更だろう。

 そしてこういうのって、担当者にある程度の地位がないとやりにくいことが多い。

 向こうが社長とか専務を出してきているのに、こっちが課長とか係長では失礼なのは当然だ。

 やはり、ある意味でその組織を代表する立場の人がやることが望ましい。

 ということで、ギルド支部が存在する都市の領主である伯爵家の娘で、しかも見目良いエルフであるハスィー様なら、その役はぴったりということになる。

 この場合、年齢はあまり関係ない。

 役員にしては歳が若すぎるということもない。

 同族企業なんかではよくあるよね。20代で専務とか。

 だからギルドはハスィー様を役員待遇にしたのだが、普通ならそういう人は現場から離れるものだ。

 役職的にも、取締役だったら事業本部長とかのレベルだしな。

 だが、役員だからといって低い立場(職層)につけないわけではないのだ。

 異世界人の適性診断の担当とか。

 ギルドにとって重要かつ微妙なプロジェクトのリーダーとか。

 やりたいと本人が強く主張すれば、誰も止められない。

 そして、役員であることは間違いないハスィー様は、その気になれば人事権も行使できるというわけか。

 で、権力をふるって今回の仕事をでっちあげ、自分が責任者に収まったと。

 気にくわない次席を飛ばすのも簡単だ。

 パネェ。

 さすがは貴族。

 おしとやかなだけではないということか。

 ギルドの職員として見ても、結構有能なんじゃないのかな。

 でなければ、ギルドにしたって執行委員にはしないだろう。本人の自己評価は低いけど、多分エルフとか伯爵令嬢とかの条件がなくても、相当出世する器なのかもしれない。

 この美貌だし。

 ハスィー様をプロジェクトの部屋に送り届けると、俺は荷物を持ってそのままギルドを後にした。

 これ以上、ここにいてもやることないしな。

 ハスィー様が昼食を一緒に、と言ってくれたけど、さすがに遠慮した。

 執行委員レベルの人が、外部の業者とあまり親しいところを見せるべきではないよね?

 変に勘ぐられる可能性があるし。

 癒着とか。

 特に、ギルド内部やそのすぐそばでそんなことをしたら、あっという間に噂が広まってしまいかねない。

 ただでさえ、ギルドの廊下でやらかしてしまった後なのだ。

 サラリーマンとしてはぺーぺーの俺でも、そのくらいは判るよ。

 それでは、改めてご一緒に、という約束をして逃げるように去ったわけだが、やはり単独でこんなところに来るべきではないな。

 派遣の業者なんだから、身の程をわきまえないと。いつ次の、何といったっけ、あの元次席みたいな人が出てくるか知れたもんじゃないし。

 ギルドを出た俺は、とりあえず『栄冠の空』に戻ったのだが、『ハヤブサ』のメンバーは誰もいなかった。

 キディちゃんもシルさんもいない。

 それにしても、キディちゃんやシルさんが派遣メンバーになってしまったら、『栄冠の空』の渉外や受付は誰がやるんだろうか。

 そんな面子をぶっ込むほど、このタスク・フォースは『栄冠の空』にとって重要なのかなあ。

 大口の取引先ではあると思うけど、組織の命運を賭けるほどではないような。

 まあいいか。

 俺には関係ないし、どうでもいいと言えばどうでもいいことだ。

 下っ端は、言われたことを着実にやっていればいいのだ。

 それが組織というものだ。

 待っていても誰も帰ってきそうにないため、俺はマルト商会の自分の部屋に帰った。

 ソラルちゃんもジェイルくんも見当たらない。もっとも、こんな日中にフラフラしているほど、みんな暇じゃないのは当たり前だけど。

 仕方なく、俺は自分の部屋で絵本を読み、マルト商会の飯場で昼飯を食ってから自分の部屋に戻ってさらに絵本を読み、夕方になってちょっとジョギングしてから夕食に行った。

 絵本を読む合間に、キディちゃんが用意してくれた薄い木の板に白墨のような筆記具で字を書く練習もした。

 読むだけでは駄目で、ある程度は書けるようにならないと、というキディちゃんの好意である。そういうものも、『栄冠の空』には用意してあるそうだ。

 紙は高価なので、板で我慢しろと言われてしまった。書きにくいことこの上もない。

 おまけに、俺は字が下手だ。

 だって、最後にまとまった字を書いたのって、大学の入学試験だぞ。それから後は、せいぜいメモを取るくらいで、手書きで長い文章なんかほとんど書かなかったからなあ。

 俺たちの世代って、スマホはまだだったけど、タブレットとかは当たり前に携帯していたし。

 大学もそれを推奨していて、レポートなんかも全部デジタルで提出だった。

 まとまった字を手書きで書く機会なんか、めったになかったしな。

 会社に入ってからも、報告書や稟議書なんかも全部システム経由だし。

 今ではもう、日本語で手書きの文章が書けるかどうかも怪しい。

 さらに言えば、こっちの文字はかな漢字やアルファベットと似ても似つかないもので、かろうじてアラビア文字か何かに似ているような気がする程度だ。

 子供の絵本レベルなので、まだ表音文字なのか表意文字なのかすら判らない。

 まあ、どっちにしても『音』で単語を識別できるかどうか判らないので、この際発音はどうでもいいんだけど。

 本当言うと、魔素翻訳に頼らずにソラルちゃんやハスィー様と話したいものだが、無理だろうなあ。

 言葉を覚えなくても意志が通じてしまうから、そもそも会話を習う意味がないし。

 だけど、せめて店の看板くらいは読めるようになっておきたいじゃないか。

 今のままだと、つまらないことで騙されたり誤解されたりしそうで怖い。

 もっとも、俺は別に言語取得に才能があるとか、勉強が出来るとかいうわけではない。

 人並みだ。

 むしろ、英語なんかは不得意な方だった。

 ラノベばかり読んでいたので、現国なんかは得意だったけどね。

 あれ、結構読解力向上に役立つよ。

 あとは歴史とか、政治経済とか。

 でもラノベのはデフォルメされているから、それが真実と思いこんでしまうと、厨二病だと思われかねないからなあ。

 もちろん、俺はそんなものは卒業したけどね。

 現実にチートなどはないのだ。

 いや、実際には現実にも天才はいるし、馬鹿げてデキる奴もいるけど、それはチートというほどではない。

 サラリーマンの武器は、コツコツと積み重ねた努力によって培われた信用だ!

 虚しいなあ。

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