12.新キャラ?
数日後。
俺は、マルト商会からの出向の身分のまま、インターンを解かれて契約社員? として正式にギルドへの派遣を命じられた。
これで、俺も立派なサラリーマン(違)だ!
俺だけじゃなくて、ホトウさんを初めとするパーティ『ハヤブサ』の面々と、キディちゃんにシルさんもいる。
思ったより大人数な上、何気に『栄冠の空』のキーパースンが含まれてない?
『栄冠の空』は、この仕事によほど力を入れているらしい。
そもそも稼ぎ頭のホトウさんや、渉外のシルさんを投入するというのが大きい。現場と営業のエースを専従にするというのだから、『栄冠の空』はこの仕事に社運を賭けているといってもいいくらいだ。
どっちかというと、俺はオマケかな。
異動の辞令をもらった(といっても口頭で言われただけだが)後、俺たちはホトウさんに引率されて、ギルドに挨拶に行かされた。
シルさんは何か用があるらしくて不参加である。
ハスィー様が、まだ用意が調ってないらしくてガランとした部屋で迎えてくれた。
俺の知らない人が数人いて、ギルドの職員だと言われたけど、結構でかいプロジェクトなんじゃないか?
ハスィー様って、結構偉かったんだな。
ギルド内の階級は判らないけど、会社でいうと最低でも課長級はいくと思う。
予算の執行権限を握っているらしく、プロジェクトの進展に伴う作業についてズバリ言っていたからね。
自分の好きにやれるのでなければ、あんなに好き勝手には言えないだろう。
ハスィー様って、いくつなんだろうか。
エルフだからなあ。
美人過ぎて、マジで歳が判らないんだよ。
永遠の十○歳な声優とかと一緒で(違)。
まあいい。
ハスィー様は挨拶の後、ギルドの職員の人を紹介してくれた。
こっちからは、ホトウさんを初めとする『ハヤブサ』と俺が挨拶。それに、キディちゃんが加わる。
ちなみに馬のボルノさんも参加するらしいが、ここでの紹介は無かった。
「ミトヤ・フィーです。このプロジェクトの次席を拝命しました」
きっちりしたかんじの男がかすかに頭を下げる。
フィーは家名だろうから、名のある家の出なんだろうな。歳は、みたところ30過ぎか。
無表情で、ハスィー様の下で仕事することについてどう思っているのかは判らない。
「アレナ・エイルスです。内務を担当します」
そう言って頭を下げたのは、またしても美少女に見える女の子だった。
クールビューティとまではいかないが、それなりに整った顔立ちで、生真面目そうに髪を上げている。
この人は銀髪だった。
いるよね、ラノベでこういうポジションの人。
大抵、主人公に接近してかなり露骨に迫るんだけど、結局悲恋で離れていくタイプだ。
勝つのはツンデレなんだよね。
あの傾向って、俺にはどうしても納得できないんだけどねえ。真面目で真剣に考えてくれるタイプの方が、どう考えたってツンデレで暴言吐いて暴れるヒステリー女よりいいだろう!
まあ、恋愛は人それぞれだから別にいいけど。
でも、実際にはすぐに暴力をふるってくる女より、しっかりと主人公を支えてくれる健気な女の方が、長期的にみてお買い得のはずだよね。
俺は主人公じゃないから、どうでもいい話だけど。
ていうか、現実の社会に主人公などというものは、いないから。
「マレ・タフトです。経理を担当します」
また女性か!
ギルドって、何気に女性率高くない?
茶髪の活発そうなタイプで、本質を知る前のキディちゃんとキャラが被りそうだけど、今となっては唯一の癒し担当かもしれない。
それにしても、この明るい人が経理か。
どうも、イメージと職種にミスマッチがあるな。
こういうポジションは、眼鏡の怜悧なタイプのはずだ。ラノベなら。
あ、そういえば眼鏡ってこっちに来てから見たことないけど、存在するのだろうか。
ないとしたら、近視の人とか高齢で遠視になった人なんか、かなり不自由する気がする。
まあ、地球でも昔は眼鏡なんかなかったはずなので、なければないでどうにかしているのかもしれない。
でも、日本でも江戸時代にはもう、眼鏡はあったはずだよね。
こっちの科学技術の進度からすると、眼鏡くらいありそうだけど。
そう考えていると、マレさんが徐に懐から眼鏡を取り出してかけた。
おおっ!
やはり理数系キャラか。
じゃなくて、眼鏡ってやっぱりあるんだな。
数字を扱う職種は、眼鏡なしではやってられないだろうし。
ちなみに、IT業界も眼鏡率は高い。
一日中ディスプレイを眺め続けていたら、大半はどうしてもそうなるよ。
「失礼しました。これがないと、皆様のお顔もよく見えませんので」
マレさんが、もごもご言う。
だったら、最初からかけていればいいのに。
なんかドジキャラ設定も付いているようだ。
いやー、ラノベって本当に楽しいよね!
これはラノベじゃないけど。
それから俺たちはお互いにどうも、とかよろしく、とかモゴモゴ言いあって終わった。
ギルド組はさっさと自分のデスクについて仕事を開始する。
さすが文官。
一人一人にデスクがあるとは。
と思ったら、ハスィー様が長机の所に案内してくれた。
この辺が『栄冠の空』組の待機場所になるらしい。
といっても、俺たちが出勤するのは現場の仕事がある時だけで、基本的には非常勤である。まあ、それでもギルド内に居場所がないのはモチベーションに関わるということで、ハスィー様が用意してくれたようだ。
いい上司に恵まれたなあ。
このスペースは『栄冠の空』が自由に使っていいということなので、装備などを置いておくことになるな。
いいよね、自分の机。
俺も、入社して研修が終わって事務所に配属されて、すぐに自分の机が貰えたことが一番嬉しかったもんなあ。
やっぱり、出社したときに拠点があるとないとではモチベーションが違ってくるよね。
同期の中には先端的な部署に派遣された奴もいて、聞いたところによると、そいつの領分は移動式の小さなロッカーが一つだけだそうだ。
その中に自分用のノートパソコンを含む個人用荷物一式が入っていて、出社すると適当な場所に座って仕事するらしい。
もちろん無線LANなので、事務所内ならどこにいても仕事できるとか。
そんなの嫌だよね。
嫌だと言っても、そう決まっていたらどうしようもないけど。
「じゃあ、僕たちは今日は引き上げようか」
ホトウさんが言った。
「帰ってこっちに持ってくる装備を用意しなきゃね。あ、マコトはここで待機ということで。
僕たちは、今日は引き上げだから、マコトも適当なところで切り上げていいよ。直帰していいから」
「はあ。了解です」
どうせ、俺には持ってくる装備なんかありませんから。
俺以外の『栄冠の空』組が引き上げてしまうと、俺は広い待機スペースにぽつんと取り残された。
何このボッチ感は。
ギルドの人たちは、黙々と仕事している。
ハスィー様は、用があるらしくて出かけてしまった。
どうしようかな。
絵本でも持ってくれば良かった。
「あの、お茶いかがですか」
いきなり呼びかけられて、俺は飛び上がった。
いつの間にか、アレナさんがそばに立っている。
全然気づかなかった。
「あ、はい。どこにあるのか教えていただければ」
「とんでもない! 私の役目です」
アレナさんは慌てて手を振ると、逃げるように去った。
いいよね、銀髪。
うちの会社には結構外国人がいたけど、銀髪の人はいなかったなあ。ガイジンの金髪率は高かったんだけどね。
もっとも、みんな男だったけど。
あとはハッサンみたいな汚い髭モジャとか、兆さんのような日本人と見分けが付かない連中ばかりで、あまり面白くなかったな。
それに比べると、こっちは凄いぞ。
アレナさんの銀髪、マレさんの染めてない茶髪、名前忘れたけど次席のあの男はどうでもいいとして、ハスィー様の豪奢な金髪。
いやー、いいなあ。
「どうぞ」
アレナさんが、熱いお茶を出してくれた。
ちなみに、お茶といっているけど正体不明の無味な液体である。
ちょっと緑がかっているので、勝手にお茶と呼んでいるんだけど、間違っているかもしれない。
今までもっと重要なことが多すぎて、聞き損ねていたけど、いずれは判るだろうということでそのままになっている。
無味なんだけど、ちょっとすっとするのがいい。
熱いのに不思議だが。
ハッカ茶みたいなものなのかもしれないな。
俺は、ふと思いついて尋ねてみた。
「アレナさんは、ここに来る前はどの部署にいたんですか?」
「私ですか? 同じ調整局です。教団の対応を担当していました」
教団?
スウォークさんたち?




