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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第四章 俺は派遣の冒険者?

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9.高級レストラン再び?

「お久しぶりです。なぜか会いませんでしたね」

「少し、外で動いていたからな。詳細は言えないが。マコトが元気にやっているということは、ホトウから聞いて知っていた」

 シルさん。

 なんでそんなに馴れ馴れしいんですか。

 いや、ボーイッシュな美女にかまってもらえて嬉しいことは嬉しいんですが。

 キディちゃんもニコニコしているし。

「ようやく暇が出来て、ちょっとゆっくりしようかと思って歩いていたら、マコトとキディがいるじゃないか。

 デートか?」

「違いますよ! さっきも言った通り、これからの仕事について打ち合わせをですね」

「そうか。ならば私もまぜて貰おう。私もそのタスク・フォースに参加することになった」

 シルさんが?

 あなた、渉外じゃなかったんですか。

 会社だと、腕利きの営業をいきなり出向させるようなものですが?

 あ、違うか。

 シルさんって、冒険者としても有能なんだ。

 渉外をやっていたからといって、現場が出来ないわけじゃない。むしろ、そっちが本業かもしれないな。

 実は、会社って独自の論理で社員を異動させるんだよね。これまでとは全然違った職種に突然コンバートされることもよくある。

 まあハッサンや兆さんみたいな契約社員の専門技術者は動かないけど、正社員はいつどこに飛ばされても不思議ではない。

 だって、日本の会社で正社員(総合職って言い方は誰もしない)になるってことは、すなわち社畜になるということだから。

 具体的には、会社が命じれば何でもやらなければならないということだ。

 業務命令って絶対なんだよ。

 逆らったら首になっても文句を言えない。

 ソフト開発をやりたくて入社したけど、営業に回されたとかいうのは別に不思議でも何でもない。

 どう考えても営業が向いていると思うのに、総務をやらされることだってある。

 本人の適性なんか、まったく考えてないようにみえるんだよな。むしろ、向いてない仕事をやらせているようなところすらある。

 俺も最初は驚いたけどね。

 我が社は社員の個性を伸ばし、というような宣伝文句が当たり前だったのに、入ってみたらこれだもん。

 まあ、俺の場合はそもそも得意分野がなかったし、何をやりたいという希望もないので、どこでもいいやと思っていたら現場の雑用だったけど。

 それはそれで楽しかったし。

 楽しかったんだよな、多分。

 少なくとも、今よりは不安が少なかった。

「シルさんもですか? 私も参加するように言われているんです。よろしくお願いします!」

 キディちゃんが元気に言って、シルさんと握手している。

 俺以外はみんな、楽しそうだな。

「ところで、こんなところで打ち合わせもないだろう。そろそろ店も開いた頃だし、少し早いがお茶兼食事といこうじゃないか。

 今日は奢るぞ」

「わあ! ありがとうございます。マコトさん、行きましょう!」

「はい」

 逆らえないよね。

 確かに、こんな道端で延々と話し続けるのはどうかと思うし。

 これで昼飯代が浮いた。

 最近、昼は奢られることが多いな。

 俺たちは連れだって、街の中心らしき方向に向かった。

 人通りは、むしろ少なくなっている。

 通勤? している人はとっくに職場で仕事しているし、昼にはまだ早いからな。

 レストランはぼちぼち開き始めているようだけど、まだ準備中のところも多い。

「どこに行くんですか」

「お屋敷街の方なんだが、ちょっと高級な店だ。たまにはいいだろう」

 え?

 なんか、嫌な予感がするような。

 まさかな。

 いや別に、あの店に含むところがあるわけじゃないんだけど、高級すぎるんじゃないかなあ。

 ていうか、あの店と決まったわけではないし。

 アレスト市ほどの規模なら、高級店は何軒もあるよな。

 シルさんについて歩くことしばし。

 見覚えがある店が見えてきた。

「シルさん、ひょっとしてあの店ですか」

「そうだが? なんだマコト、知っているのか?」

「ええまあ」

 トカゲの僧正様に奢っていただきました。

 昨日。

 言えない。

「そうか。別の店にするか?」

「いえ、あそこに入りたいです。でも大丈夫ですか? かなり高かったような」

「心配するな。ボーナスが入った」

 ボーナスってあるのか!

 冒険者にも。

「わあ! ここって、有名な高級店じゃないですか。ギルドの理事の人たちとか、騎士団や警備隊の幹部御用達の店ですよね? シルさん、いいんですか?」

「かまわん。その代わり、日替わりランチだぞ」

 シルさんとキディちゃんが楽しそうにやりあっている。

 そんな高級店だったのか。

 知らなかった。

 まあ、値段が値段だしな。

 一般人が近寄れる店じゃない。

 俺だって、知っていたら入らなかっただろうし。

 それにしてもシルさん、そんな店に平気で入れるとは。

 凄い高給取りなのかも。

 シルさんが、俺を振り返って言った。

「言っておくが、私の収入はそこまで高くないぞ。私は渉外だから、仕事で利用することがあるというだけだ」

 ああ、そうですね。

 ギルドの偉い人とビジネスランチとかするのかも。

 接待はまあ、この店ではないだろうな。

 あるとしたら夜の店だろうし。

 店は開いていた。

 ドアを開けると、あの渋いウェイターさんが直立不動で待ちかまえていた。

「いらせられませ」

 うーん、この人がいるだけで高級感が段違いだな。

 どう考えてもただ者じゃない。

 本当にウェイターさんなのかどうかも怪しい。

 考えすぎだとは思うが。

「3人だ。お任せのランチで、まずお茶を頼む」

「かしこまりました」

 パネェ。

 眼を瞑れば、銀座あたりの高級レストランを訪れた常連客と、看板ウェイターとのやり取りにしか聞こえない。

 それにしても「お茶」なんだな。

 昼から酒をかっくらうわけにはいかないか。

 ウェイターさんは、俺を見ても何も反応しなかった。

 プロだな。

 案内されたのは、昨日俺がついたのと同じテーブルだ。

 凄くいい席である。

 何なんだろうか。

 ウェイターさんが、キディちゃんとシルさんに椅子を引いて座らせる。

 俺にはなかった。

 レディーファーストか。

 椅子を引いて座らせるっている動作、当然だが椅子がないと発達しないわけで、そういう意味ではこの世界(というよりは国)はヨーロッパやアメリカに近いのかも。

 ウェイターさんはすぐに高級そうなコップに注いだお茶を持ってきた。

 お茶請けまでついている。

 なんかもう、本当にここは異世界なんだろうか。

 俺って騙されているのかもしれない。

 突然テレビカメラとビックリ看板が出てきたりして。

 でも、言葉は違うんだよな。内容は判るけど、キディちゃんたちが話している言葉は未だに意味不明の発音の羅列なのだ。

 多分、一生判らないと思う。

 判る必要がないから。

「さて、と。ランチはもう少し後で来るそうだから、とりあえずタスク・フォースについて話しておこうか」

 シルさん、いいんですか。

 レストランなんかでそんなこと話して。

「大丈夫だ。今は他に客もいないし、この店は口が堅い」

 それはまあ、トカゲじゃなかったスウォークの僧正様のご贔屓なくらいですからね。

 どうも、どんどん深みに嵌っている気がするんだけど、気のせいだよね?

 俺はただの下っ端のサラリーマンなんだよ?

「まず、私が知っていることを伝えておこう。マコト、今度のタスク・フォースは焦臭い。聞いたところでは、スウォークが参加するそうだ」

 な、なんだってーっ!

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