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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第四章 俺は派遣の冒険者?

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8.僧正様?

 そういえば、気になっていることがあるからこの機会に聞いてみようか。

 ひょっとしたら、仕事に関わってくるかもしれないしな。

「キディちゃん、『大地の恵み』って知ってる?」

「あ、はい。教団ですね」

 知っていたか。

 それなりにポピュラーなんだな。

 前にソラルちゃんが、あまりメジャーじゃないとか言っていた気がするけど。

「その教団って、スウォークの人がやっているの?」

「そんなことはないですよ。ほとんどが人間です。でも、高位の方はスウォークが多いですね。というよりは、スウォークで下位の方はいないんじゃないでしょうか」

 へえ。

 何か特別な立場なのかな。

 シンボルとか?

 ラノベだと、エルフなんかが長命種だから結果的に最高位に昇るとか、定番なんだが。

「ハスィー様が少し触れましたけど、スウォークの人たちは基本的に無垢なので、神に近い存在だと考えられているんです。

 精神的な存在だと言った方がいいのかな。

 指導者ではなくて、人をサポートする存在だと思われています」

 あ、こっちにも神っているんだ。

 まあ当然か。

「でも、だったらスウォークが高い地位につくのはおかしいんじゃないの?」

「マコトさんの言っている『高い地位』というのが、例えばギルドの評議員とか議長とかを意味するんだったら違います。

 スウォークは、敬われる存在ではありますが、あくまで助言役です。人に命令する権利はありませんし、やろうとしたって出来ないでしょうね」

 なるほど。

 だから、俺の魔素翻訳は教皇とかじゃなくて「僧正」と訳したんだ。

 もちろん、俺は僧正という地位だか階級だかがどんなものなのかは知らないけど、ゲームとかラノベの知識ではまさにキディちゃんが言った通りの立場だからな。

 教団の高い地位にいるけど、命令権はない。

 そうか。

 これって、地球の立憲君主制国家における国王とか、日本の天皇陛下みたいなものなんじゃないかな。

 普通の人より高い立場で、国を象徴する存在。

 でも配下がいるわけではなくて、あくまで世話をされる対象。希望は言えるが、周りの人が従ってくれるとは限らない。

 あの時、僧正様が強引に俺と同席しようとしたのは、いわば「わがまま」だったんだな。

 その程度の権力はあるわけだ。

 でも、例えば戦えとか誰かを何とかしろ、と人に強制することは出来ないんだろう。

「それでですね」

 とキディちゃんが続ける。

「教団ですが、実は本拠は帝国にあります」

「帝国って、ホルム帝国?」

「そうです。帝国の首都『ナーダム』に教団の本部があって、教団は帝国の庇護下にあります」

 なんだ。

 こっちでも、やっぱり宗教と権力は切っても切れない関係なのか。

 でもソラルちゃんの話では、教団の力はそんなに大きくないということだったけど。

「あ、でも別に教団が帝国の支配下にあるとかではないですよ。そもそも教団の教義は文字通り大地の恵みに感謝しましょうということで、あまり権力とは結びつかないんです。

 絶対中立を詠ってますし、実際にどこかの国に荷担したことはありません」

 でも、世界中に教会とかあるんじゃないの?

 そんでもってスパイの巣窟だったりして。

 ラノベの設定だけど。

「SuuPAai? いえ、そんなものはいません。でも、確かに情報を集めやすいということはありますね。

 困ったときの相談所みたいな機能はありますし、戦争や内乱が終わるときの仲立ち役を務めたりするそうですから。

 でも、もうずいぶん長い間、国同士の戦争なんか起こっていないので、今はどうなっているのかわかりません」

「教団の信者は多いの?」

「うーん……信者じゃない、とか違う信仰を持っていると言い切れる人は少ないんじゃないかな。何というか、空気みたいなもので、普段は意識してないけど、ないと困るというような」

 うーん。

 何か判りかけてきた。

「結婚式とか、お葬式とかは教団でやるとか」

「あ、そうですね。普通の人は特にやらないですが、ちょっと地位が高い人とか、偉い人の場合は教団が主催してやることがあるみたいです。

 別にやらなくてもかまわないんですけれど、社会的な権威付けになるので。

 この国でも、国王陛下の就任式や国家的な行事には教団の僧正猊下が必ずご出席されますし、大抵の貴族はスウォークを相談役にしていますね」

 なるほど。

 これって日本の宗教、それも神道や仏教、キリスト教なんかが入り交じった状態と同じだな。

 日本人の場合、自分が何宗とか意識してなくても、七五三では神社に行き、正月は寺に初詣に行き、結婚式は教会でやって、誰も不思議に思わない。

 無信仰とも言えるし、すべての宗教を信仰しているとも言える。

 こっちの世界も同じなんだろう。

 自然宗教とでも言うのかな。

 しちめんどくさい教義とかは、あるとしても一般人は知らなくて、でも何となく精神的なよりどころとして受け入れている。

 そして、教団は人を信仰で縛っていない。

 でも規模は結構大きいんだよね。

 なぜそうなったかも判った。

 魔素のせいだ。

 魔素は、誰とでも話が出来るという状況を実現する他に、もうひとつ重大な機能を持っている。

 話したことに本音が混じってしまうのだ。

 それも下手をすると、話した内容とは違う部分で伝わってしまう。

 これでは、言葉巧みに人を扇動するようなことは、無理とは言わないが難しいだろう。

 魔素には距離制限があるから、距離を置いて言葉巧みに誘導することは可能だとしても、最後はやっぱり膝をつき合わせて語り合わないと、人は動かない。

 ああ、アジテーションで暴発させることは可能かもしれないけど(狂信者本人が信じ込んでいることは、本音で伝わるから)、それを持続させることは無理だ。

 同じように、狂信的な信仰があったとしても、それが育ちにくいことになる。

 個人的なものは他人に伝わりにくいし、少数のそういった信仰者が集まっても、大多数の賛同は得られないからだ。

 スウォークが崇拝されているのも同じなんだろうな。

 何てったって、俗世の欲望とは無縁の存在なんだから、信仰対象としてこれほど向いているものはないだろう。

 例えば、キリスト的な人が複数いるようなものだ。

 そして、そういう人が頂点に立つ信仰は、暴力的な方向には進まない。キリスト教の場合は、キリスト本人の意図とは関係なく発達したから、後で十字軍とか起こしたわけだしね。

 キリスト本人が複数、常に存在している状態では、多分あんなことにはならないだろうなあ。

「でも、何か最近、帝国と教団がぎくしゃくしているという噂があるんですよね」

 キディちゃんが、なぜか声を潜めて言った。

 周りに誰もいないし、無意味だと思うけど。

「帝国がこのところ、内乱続きで問題が続出しているらしいんです。まだ他国に影響するところまではいってないみたいですが、このままでは、というような焦臭い話もあります」

 なんだよそれ。

 聞いてないぞ。

 俺の就活にも影響するんじゃないだろうな。

「それで、教団ってそもそも平和維持が第一目的みたいな団体ですから、そんな危ない場所に本拠を置いておくのはいかがなものか、というようなムードになってきていて、ギルドの上の方でもピリピリしているみたいです」

 大変だなあ(他人事)。

 それにしてもキディちゃんは物知りだよね。

 冒険者のチームの受付って、やはり仮の姿なのでは?

「実は、『栄冠の空』にもギルドから時々変な依頼があるんですよね。それ全部、受付通しますから。

 どう考えても、これってアレだよなあ、というような依頼も結構多いし。

 具体的には言えませんけど。

 あ、マルト商会も、結構かかわっているみたいですよ。あそこは商会ですが、ギルドの御用達みたいなところがありますから」

「マルトさんが?」

 知らないよ。

 俺には関係ない話だね。

 俺ってほら、単なる下っ端のサラリーマンだから。

 ていうか、まだ派遣の契約社員だから。

 余計な情報は知りたくない。

「まあ、教団のことはもういいや。その、ギルドのタスク・フォースについて、何か情報入ってない?」

「それは私も聞きたいな」

 突然声がして、俺とキディちゃんの間に割り込んできた人影があった。

 ヒソヒソ話していたので、キディちゃんとの物理的な距離が縮まっていたのと同時に、周囲の警戒が疎かになっていたようだ。

 でも、警戒していても無駄だったかも。

 だって、間違いなく腕利きの冒険者のはずのその人にとっては、気配を消すことなんか朝飯前だろうし。

「シルさん?」

「マコト。久しぶりだな」

 いきなり出てきて笑いながら肩を叩かないで下さいよ。

 男前美人でドワーフなシル・コットさん!

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