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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第四章 俺は派遣の冒険者?

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6.教団?

 数人の人影。

 全員がゆったりしたマントみたいなものを着ているが、一人だけ飛び抜けて身長が低い人がいた。

 みんなに守られるように、真ん中に立って俺を見ている。

 フードを外しているせいで、顔が見えた。

 トカゲだよ!

 あのスウォークというは虫類だ。

 一瞬、喉切りのシーンが頭をかすめたが、努力して抑える。

 今日は何という日なんだ。

「お客様?」

 惚けていたら、心配そうなウェイターさんに声をかけられた。

 何とか頷く。

「大丈夫です」

「ありがとうございます」

 ウェイターさんが少し下がりながら小さく手を振ると、真ん中の小さな人影が滑るように進んできた。

 二足歩行だ。しかも、やたらに安定している!

 どういう進化を遂げたんだろう?

 他の人たちは、心配そうにこっちを見ているけど、動く気配がなかった。

 このスウォークさんがリーダーなのか。

 ウェイターさんが俺の向かいの椅子を引いて、スウォークが腰掛ける。

 シッポとか、どうなっているんだろう。

 ウェイターさんは一礼して去った。

 注文は聞かないでいいのか?

 俺は、とりあえず興奮を静めようと、いつの間にか出ていたコップを煽った。

 水だ。

「同席をお許し頂き、ありがとうございます」

 甘い声がした。

 美少女?

「いえ、とんでもないです」

 反射的に声が出ていた。この辺りは、俺もサラリーマンだな。

 会社員というものは、ある種のシュチュエーションに遭遇すると、自動的に正しい行動を取るように調教されている。

 例えば、いい顧客になりそうな人と偶然出会った場合とか。

 上司や、上司筋に当たる人に遭遇した時とか。

 目の前に座ったトカゲは、どうみても俺の上司、もしくは上位の存在だった。

 サラリーマンは肩書きである程度は威圧感が出るけど、それなしで自然と身体が引き締まるような人はめったにいない。

 でも、たまにはいるんだよね。

 地位に関係なく、この人は偉いと直感する相手が。

 大抵の場合、そういう人は実際にも偉いんだけどね。大企業の役員とか、大学の教授とか。

 同じ経営者やテレビに出ているような学者でも、全然そんな風に感じない人もいるから、あれが多分カリスマというものなんだろう。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 俺は、向き合っているトカゲから明らかな威厳、といっていいのか、人生の先輩とでも言えるような感触を受けていた。

「ヤジママコトですね」

 疑問形ではなく、確認するような口調で言われて、俺は思わず頷いた。

 現実とは思えない。

 初めて、ここが地球じゃないという事実を確信した。

 着ぐるみでは有り得ない。

 トカゲの頭は、人間の頭が入るほど大きくなかった。身体も細くて、肩がない。

 胴体からそのまま腕が生えているのだ。

 ただし、身体全体はマントを着た上でぴっちりとした服に覆われていて、中がどうなっているのかは判らなかった。

 いや違う。

 俺は見ている。あの時、喉と腹を切られたスウォークは裸だった。

「はい」

「なぜ、あなたの名前を知っているのか不思議と思われるでしょうが、答えは簡単です。

 とある人物から、あなたのことは聞いていました。いずれはお会いしたいと思っていましたが、その願いが叶いました」

 目を閉じて聞くと、アニメ顔の美少女が話しているとしか思えない、甘くて高い声だ。しかも、言葉を話しているというよりは、何か唄っているような音楽的な響きだった。

 これって、多分マルトさんたちが話している言葉とは、根底から違う言語なんじゃないか。

 つまり、スウォーク語か。

「ある人とは?」

「いずれ判ることです。それより、あなたにお尋ねしたいことがあります」

 人間の論法とは少し違う、一直線に切り込んでくるような話し方だ。

 ロジックが優先されているのだろうか。

 感情がないわけじゃなさそうだけど、やはりほ乳類とは感性が別なのかもしれない。

 俺は改めて覚悟を決めて、正面のスウォークを見た。

 疲れているけど、そんなことは関係ない。

 まさか現実で、こんなSF的な状況に遭遇するとは思わなかったな。いや、異世界転移自体がもう、非現実なんだけど。

 スウォークは続けて言った。

「あなたは、何を目指しますか?」

 何だ?

 何を言いたいのだろう。

 そもそも、俺って何かを目指していたのだろうか。

 全然思いつかない。

 人間の論理とは違うのかもしれないな。

「お応え下さい。ヤジママコト、あなたは何を目指しますか?」

 焦れたわけではないだろうが、黙っていると繰り返された。

 ここは、何か言うしかあるまい。

「あの丘の向こうを」

 いかん!

 こないだ読んだラノベの決め台詞を言ってしまった。

 カッコ良すぎるだろう!

 それに、意味不明だ。

 なんでこんな言葉が出てきたんだ?

 そうか、思い出した。これ、フクロオオカミのツォルさんが言った言葉だ。

 というか、その想いだ。

 痛い。

 痛すぎる!

 厨二丸出しではないか!

「判りました」

 スウォークは、短く言うと立ち上がった。

 そして、俺の顔を見て言った。

「いつでもおいでください」

 すうっと去っていく。

 そしてお付きの人たちの間に混ざると、そのまま店を出て行ってしまった。

 何だったんだ?

 おいでくださいって、どこに?

 俺が混乱していると、ウェイターさんが話しかけてきた。

「あの方がどなたか、ご存じないのではございませんか?」

「あ、はい。こっちに来たばかりで」

「これは失礼いたしました。あの方は、『大地の恵み』教団のラヤ僧正猊下でございます。本日はたまたま、こちらにいらしておられたようです」

 何だよそれ。

 ちょっと待て。

 聞いたことがあるぞ。大地の恵みとか天空への感謝とか。

 教団ということは、宗教なのか。

「僧正様でしたか」

 俺に僧正って聞こえるということは、仏教系かな。

 キリスト教だと教皇とか法皇とか、あるいは枢機卿とかになるはずだし。

 ラノベの場合は、なぜか圧倒的に西欧風の宗教が多いので、てっきり法皇とか司祭とかが出てくると思っていたけどなあ。

 僧正って、どれくらい偉いんだろう。

 自分で翻訳しといて、いいかげんだな魔素。

「普段は帝国の本拠地におられるはずですが、何かあったのやもしれません。あ、いや、お客様の動向を邪推するなど、僭越でございました。お忘れください」

 そう言って引き下がっていったウェイターさん、あんたこそ怪しさ爆発だよ!

 一体、どんなポジションにいることやら。

 それにしても唐突な登場と退場だった。

 誰が何の目的で、俺をどうしようとしているのだろう。

 わからん。

 そもそも、俺は今日偶然、この店に立ち寄っただけのはずなんだが。

 嫌だなあ。

 トカゲの僧正様に、厨二な話をしてしまったし。

 何か変な風に思われたんじゃないのか。

 いや、だったらいつでも来いとかは言われないか。

 この話、マルトさんにしておいた方がいいかな。

 精神的に、疲れた。

 それにしてもあの僧正様、声だけアニメ美少女って(笑)。

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