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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第六章 俺が主(あるじ)殿?

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14.感謝?

 俺たちは、というよりはハスィーはそうやって別々に食っている人間と野生動物を引き合わせていった。

 傾国姫に逆らえる生物はいないからね。

 野生動物たちの間では、ハスィーは「マコトの兄貴の(つが)い」というよりは「アレスト興業舎の最初の舎長」と認識されていたらしい。

 つまり「マコトの兄貴」たる俺や、現在のアレスト興業舎舎長である「シルレラの姉御」より上位の存在と断定されたのだ。

 野生動物って、いったんそう思い込んでしまうともう、ちょっとやそっとでは覆せない。

 この時点でハスィーは野生動物にすら「傾国姫」として祭り上げられてしまった。

 ちなみに後で聞いてみたら、「傾国姫」って意味不明だけど人間の国をひっくり返せるほどの脅威であるという認識だということだった。

 間違ってないけど。

 野生動物たちは「マコトの兄貴」には何か頼んだり気安く話しかけてきたりを平気でやるんだけど、「傾国姫」に対してはもうただひたすら崇め(たてまつ)るだけで、依頼などとんでもないらしかった。

 それどころか何か命令されたら無条件で従うことになっているのだそうだ。

 一体どうなっているんだ。

 人間側も、実はそれに近い。

 ララエ公国の人達は本来何の関係もないはずなのに、俺の嫁という以前に「ソラージュの傾国姫」の印象(イメージ)が強すぎて、やはり凄まじい脅威だと思われてしまったようだ。

 しかも野生動物たちが絶対帰依しているのを見ているからね。

 ユラン公子殿下はかろうじて踏みとどまっているけど、それ以外の人たちは既に征服されてしまっている。

 もう、この宿を占拠しているのは傾国姫を信仰の対象とする何かの宗教結社なのではないかと思えるくらいで。

 俺の嫁はとんでもないな。

「そんなことはありません。

 わたくしの名も虚名も、すべてマコトさんあってのものです。

 わたくしはヤジマ大使の妻という以上の者ではないです」

 ハスィーはそう言うけど、無理があるよね。

 とにかくそういう訳で、しばらくすると懇親会の会場は人間と野生動物たちが親しく会話する姿で埋め尽くされた。

 穏やかに話し合っている者もいれば、掴み合い寸前の激論を戦わせているカップル? もいる。

 ユラン公子殿下とハムレニ殿の周りには、いつの間にか双方の配下? たちが集まって、そのまま何かの検討会と化しているようだった。

 やっぱりもう、俺いらないよね?

 ソラルちゃんとヒューリアさんに後を任せて逃げようとしたら、疲れた顔のソラルちゃんに止められた。

「セルリユ興業舎の派遣隊を見舞ってやってくれませんか?

 みんな全力で働いて、疲れて倒れているんです。

 大変な一日でしたから」

 それはそうだ。

 みんなには無茶振りしてしまったし。

 悪いことしたなあ。

 でも見舞うだけでいいの?

「マコトさんが顔を見せてくれただけで、みんな奮い立ちますよ。

 何といってもマコトさんはみんなの主人なんですから」

 そうなのか?

 親会舎の会長というのならそうかもしれんが、それ以前に皆さんは会舎員(サラリーマン)のはずだ。

 労働力を提供して正当な報酬を受け取っているだけで、本来俺やヤジマ商会に対して従属したりする必要はないはずなんだけどね。

 するとヒューリアさんが言い出した。

「マコトさん。

 実は、ここに来ているセルリユ興業舎の舎員たちの中には、エラ王国で奴隷となっていた人がかなり含まれています。

 面接で選びましたので、技能を持つ人が多いんですよ。

 すぐにセルリユ興業舎で働けるくらい」

 そうなんですか。

 そういや、奴隷契約を大量に買い取ったと言っていたな。

 セルリユ興業舎もエラで急速に事業を拡大しているから、人員確保は急務だっただろうし。

 双方の要求が一致したわけで、良かった良かった。

 それで?

「その人達には希望に添ってどこで勤務するのかを決めて貰っていますが、親善使節団の随行員を募集した所、元奴隷だった人たちの大半が志願しました。

 一刻も早くエラを出たいという志願理由もありましたが、大多数はマコトさんに直接仕えたい、というものです」

 何で?

「よく判らないんだけど」

 ソラルちゃんが叫んだ。

「決まっているではありませんか!

 みんな、マコトさんに感謝しているんです。

 ひょっとしたら一生このままかもしれない地獄から、彼らを救ったんですよ。

 マコトさんは」

「そんなことはないだろう。

 大体、彼らの契約を買い取ったのはセルリユ興業舎であって」

「それでも命令したのはマコトさんです」

 断言されてしまった。

 それほどのことかね?

 確か、何かの話の流れでエラ王国には経済奴隷がいるから彼らを使ったらお得ですよ、というような話になって、それじゃ雇ったらと提案しただけのような。

 後で大量の奴隷契約を買い取ったと報告を受けたけど、それはセルリユ興業舎の事業展開に必要な事だろうからね。

 俺にはあまり関係ないと思うんだけど。

 ヒューリアさんとソラルちゃんは脱力して下を向いたり空を仰いだりした。

「それがマコトさんなのだと、判ってはいるのですが」

「私達の苦労が」

 失礼な。

 俺が何をしたというんだ。

「だからこそマコトさんなのです。

 わたくしがフォローしますので」

 ハスィーがよく判らないことを言って、ソラルちゃんとヒューリアさんが頭を下げた。

「ハスィー、よろしくね。

 懇親会の方は任せて」

「ハスィー様、お願いします」

 二人は去った。

 ソラルちゃんからみると、ハスィーはまだ「様」なのか。

 ヒューリアさんはもと「学校」仲間だから呼び捨てね。

 二人ともヤジマ商会では同じ課長待遇なんだけど態度が違うな。

「あなた。

 行きましょう」

 ぼやっと二人を見送っていたら、ハスィーに急かされた。

 はいはい。

 さらっと見舞えばいいんでしょ。

 今日も疲れたから早く寝たい。

 いやハスィーと寝たいというわけではなくて。

 気楽に考えていたんだけどね。

 セルリユ興業舎の馬車が固まって止めてある辺りに行くと、突然叫び声が上がった。

「「「マコトの兄貴!」」」

「ヤジマ大使閣下?」

「ヤジマ会長様が?」

「傾国姫様もご一緒だ!」

「おい大変だ!

 ヤジマ閣下がいらしたぞ!」

 前半は野生動物たちの吠え声や鳴き声で、後半が人間だ。

 しかし、人間側の態度が変だ。

 天皇陛下が抜き打ちで被災地をご訪問されたような雰囲気になってしまっている。

 ハマオルさん以下の護衛の人たちが素早く展開して俺たちを守ってくれた。

 それでも俺とハスィーの前にはどっと集まって来た人間(ひと)たちが土下座せんばかりに並び、横や後ろの方まで野生動物たちに囲まれてしまった。

 ちなみに野生動物には見覚えがある動物(やつ)が多いから、前からセルリユ興業舎で働いている連中なんだろうな。

「皆様。

 お疲れ様です。

 皆様のお力で、懇親会は成功です」

 ハスィーが声をかけると熱意が籠もった返事が返ってきた。

「ありがとうございます!」

「こんなの何でもありませんよ!

 もっとやりたいくらいです!」

「お給金も……こんなに頂いてしまって。

 とてもご恩はお返しきれません!」

「ありがたやありがたや。

 ヤジマ会長様と奥方様がいらして下さって」

 何か拝んでいる人までいるし。

 傾国姫教はここまで浸透していたか!

「あなたからも一言」

 ハスィーに突つかれて、慌てて俺は言った。

「えーと。

 皆さんご苦労様でした。

 いきなり無茶振りしてすみません。

 でもおかげで、明日の会議はうまくいきそうです。

 ありがとうござました」

 シン、と沈黙が降りた。

 何?

 俺、何か悪いこと言った?

「勿体ない……ヤジマ会長様にそんなことを言って頂けるなんて」

「うおおおおっ!

 俺はもっとやれるぞ!」

「そうだ!

 このくらい何でもない!

 みんな!

 まだ仕事はあるんだ!」

「そうだ!

 倒れている暇なんかないぞ!」

 ちょっと待って?

 本当に倒れていたのか!

 駄目じゃん!

「皆様。

 落ち着いて下さい。

 お気持ちは嬉しいのですが、セルリユ興業舎の事業は長期戦です。

 ここで無理をされては、かえって今後のお仕事に支障を来すことになります。

 今夜はもう、休んで下さいませ」

 ハスィーが言ってくれなければ、大量の脱落者が出るところだった。

 それから俺たちは興奮している人たちを何とか宥めて休ませた。

 ハマオルさんの手配で警備の人たちが集められ、後片付けなどを手伝うことで何とかなったらしい。

 そんなことになっていたとは。

 知らなかった。

 俺、サラリーマンのはずなのに!

 いつの間にか現場の事を忘れていたな。

 本当なら俺もあっち側で、ハスィーの隣に立つ誰かを拝んでいたはずなんだよなあ。

 もっと傾国姫のお相手に相応しい誰かを。

「わたくしはマコトさんのものです。

 あなた以外の誰にも嫁いだつもりはありません。

 それに、あなたがエラやララエに転移していたとしたって、いずれわたくしたちは出会っていたはずです」

 ハスィー。

 そんな大昔の少女漫画みたいな展開は、さすがに無理だからね?

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