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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第六章 俺が主(あるじ)殿?

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11.繁盛?

 幸いソラルちゃんは極めて実践的な人間だったため、すぐに納得してくれた。

「判りました。

 いつもの通りやります」

「いつもの通りって、こんなのいつもやっているんだ」

「はい。

 野生動物が絡むと予定とか順序とか全部すっ飛ばされますから」

 鍛えられているわけだ。

 そういえばソラルちゃんって、いきなりヤジマ芸能の経営を押しつけられて放り出されたんだっけ。

 それなのに何とかしてしまったし、最終的には後継者というか代役まで自分で見つけてヤジマ商会に戻って来たんだよね。

 今やヤジマ商会(うち)でも有数の経営者に育っている。

 部下の信頼も厚い。

 特にヤジマ芸能については、未だに裏の支配権を握っているという噂もあったな。

 北方派遣団の副団長を務めるほどの人材だし、丸投げしても大丈夫だろう。

「ではよろしく」

「はい!」

 いいね。

 信頼できる有能な部下がいて、ほっといても何もかも片付けてくれるって、何という幸せなんだ。

 突然無理難題を押しつけられる事ばっかの俺にとっては救い主だよ。

 そもそもそんな仕事には最初からカカワリアイになりたくないもんだけど、来てしまうのは防げないんだよなあ。

 だとしたら次善の策は、丸投げできる人材をキープしておくことだよね。

 ソラルちゃんが早速部下の人たちを呼び集めて指示しているのを尻目に、俺はこっそりその場を逃れた。

 せっかくの休憩時間なんだから休まないと持たないからな。

 うっかり懇親会とか言っちゃったし、提案者で主催者の俺が欠席するわけにもいかない。

 今夜は長丁場を覚悟しないと。

 控えていたハスィーたちが合流し、ハマオルさんや犬猫の護衛が回りを囲んで、すみやかに俺たちの部屋に帰還する。

 俺たちは寝ているから起こすなとメイドさんに指示して、俺はようやく落ち着くことができた。

 疲れた。

 こんなんばっかだなあ、俺。

「今までもすべて見事に解決されて来たではありませんか。

 心配いりません。

 マコトさんは大丈夫です」

 ハスィーの根拠の無い励ましが身に染みる。

 傾国姫が言うんだから、そうなのかもしれない。

「あの場面で、あのような展開になるとは予測出来ませんでした。

 マコトさんは常に私の予想の上を行きます。

 憧れます」

 ロロニア嬢がなぜか目をキラキラさせながら俺を見ているけど、全然そんなんじゃないからね。

 あれは北聖システムでの仕事の応用だよ。

 まったく違った2つの団体、例えば北聖(うち)と他の会社が共同作業にかかる前には、必ずメンバーで懇親会をやるのだ。

 日本人はああいう状況だと、いきなり仕事にかかってもうまくいかない。

 ドライになれないからね。

 だから仕事にかかる前にウェットな宴会をやって、なあなあの関係になっておく必要がある。

 これ、別に北聖システムとか日本の会社だけの方法じゃないと思うぞ。

 アメリカ人は、映画などによると社長とかが自宅でパーティを開いて部下の人たちを招待するという話じゃないか。

 身銭を切って。

 それに比べたら、プロジェクトの予算に最初から交際費とか何とかが計上されている日本の方がドライかもしれない。

「懇親会か。

 なるほど」

「大したもんじゃな。

 とっさに出てくるのじゃから」

「そこがマコトの凄い所です。

 何気ない一手なのに、後で考えてみたら一石二鳥どころか三つも四つも成果が上がっている。

 それどころか、この場面ではこの手しかないという最良の一手だったことも多い」

「天性のものかの。

 だとすれば、我らが頂く盟主として申し分ない」

 シルさんとカールさんが何か言ってるけど、俺は疲れて眠いので無視する。

 ああいう話を聞いても意味不明で混乱するだけだからな。

 何度でも言うけど俺はサラリーマンだから、与えられた課題をコツコツと片付けるだけなのだ。

 それにしても、みんな俺の部屋に集まってきてしまっているな。

 自分の部屋に帰ればいいのに。

「お気になさらず。

 この人数が入れる部屋が空いてないもので、少しお借りするだけです」

「これから懇親会における我々の対応について打ち合わせをせねばなりませんので」

 セルミナさんとトニさんが言って、他の人たちが頷いた。

 だったら俺も?

「マコトさんとハスィー様は、そのままでよろしいと思います。

 変に策を巡らそうとするとかえって馬脚を現しかねませんので、いつもの通りにお願いします」

 酷い事を言われている気がするけど、まあいいか。

 俺はハスィーと一緒に寝室に籠もった。

 リビングからは色々議論しているような声が聞こえてくるけど、無視だ。

「あなた。

 少しお休み下さい」

 ハスィーがベッドの上に横座りで腰掛けて誘ってきたので、膝枕で寝そべる。

 ヤるのも好きだけど、この姿勢も落ち着くなあ。

 でも目を開けるとハスィーの顔がまともに見えてしまって心臓に悪い。

 堅く目を瞑っていたら、いつの間にか寝てしまったらしい。

 優しく揺り起こされて目を開けると、ハスィーの顔がアップで迫っていた。

 心臓が止まるかと思ったぜ。

 俺の嫁の美しさは物理的な衝撃を伴うんだよ。

 大昔のSFにヒーローが熱線銃を片手に色々冒険する話があるんだけど、とある惑星で「美しさ」を極めた種族に遭遇するんだよね。

 ヒーローは目のくらむような美女に会うんだけど、その美女は「私は出来損ないで、この程度の美しかありません」と。

 ホンマモンの完成品は、見ることもできないくらいの美しさだったりして。

 ハスィーを見るたびに、その小説を思い出すんだよなあ。

 シャ○ブロウ、だったっけ。

 まあ、あの小説の美女はなよなよしたおよそ実用には向かない鑑賞品だったけど。

 俺の嫁は、バリバリのビジネスウーマンだからな。

 今でもギルドや企業からスカウト話が引きも切らないらしいし。

「それを言い出したら、マコトさんはもっと凄いではありませんか。

 引き抜きというよりは取り込みですが。

 相手は国家レベルですし」

 ハスィーが言ってくれるけど、そんなの何かの間違いだから。

 サラリーマンなんか引き抜いても、組織がなければ何の役にも立たないって。

 その組織、ヤジマ商会はすでに俺の手を離れている。

 経営はジェイルくんに丸投げしてしまったから、俺にはもう手を出せない。

 そもそもヤジマ商会はむしろ持ち株会舎であって、直接事業をやっているわけじゃないからな。

 配下企業が何やってるかなんて、報告書でしか知らない。

 つまり俺は経営者としては役立たずなのだ。

 そんな俺を引き抜いて、何をさせようというのか。

 やっぱ案山子か。

 親善大使とか(泣)。

「トニから聞いたのですが、本国政府ではマコトさんの評価がうなぎ登りどころか突き抜けているそうです。

 マコトさんが親善大使として北方へ赴いてからの半年間で、エラ王国政府とソラージュの友好度が劇的に上昇したとか。

 もともとエラとソラージュは両国王陛下の友誼だけで繋がっているような所がありました。

 国としてはお互いにあまり良い雰囲気ではなかったのですが、それが今ではエラからソラージュにラブコールを送ってきているそうです」

 そうなの?

 でもそれ、俺とは関係ないんじゃ。

 セルリユ興業舎の活動のせいでしょ?

「いえ。

 一番態度が変化したのは貴族階級だそうで、投資や共同経営の依頼が大量に舞い込んでいるそうです。

 その大半、というよりは大部分はヤジマ商会関連ですが、それに伴って取引企業への引き合いも増えているとのことです」

「あれか。

 野生動物関連事業?」

「それもあるでしょうね。

 でもそれだけではないそうですよ」

 よく判らんな。

 大体俺、エラに行って何やってたかというと、うろつき回って挨拶とかしかしてないからね。

 セルリユに居た頃と違って、書類へのサインの仕事もほとんどなくなってしまった。

 ますます実業から離れて行くなあ。

 俺、まだサラリーマンと言えるんだろうか。

 経営者というには難があるし。

「マコトさんは、わたくしの旦那様です。

 それでは不足ですか?」

 傾国姫(ハスィー)が悪戯っぽく微笑みながら聞いてきた。

 いえ。

 全然文句ありません。

 俺は無言でベッドから降りて窓のカーテンを閉め、ドアの鍵がかかっているのを確認してから明かりを消した。

 まだ懇親会まで時間あるよね?

 まあハマオルさんにはバレバレだっただろうけど、リビングで議論していた連中には気づかれなかったはずだ。

 終わった後、俺もハスィーも部屋のシャワーできっちり汗なんかを落としたからね。

 脱ぎ捨てた服はまとめてベッドの上に放り出し、新しい服を身につける。

 どうせ懇親会のために着替えなければならなかったんだよ。

 誰かが儀礼用の上等な服を、替えの下着まで含めて用意してくれていたんで助かった。

 そこまで頭が回る人は……結構いたりして。

 まさか俺たちがこの時点でヤることまでは想像してなかったとは思うけど。

 ドアがノックされた。

(あるじ)殿。

 ソラル部長から準備が出来たので、そろそろおいで願えませんかとの伝言です」

 よし。

 では行きますか。

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