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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第六章 俺が主(あるじ)殿?

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10.休憩?

 色々言われたけど、どうということは無かった。

 だってもう、野生動物会議のメンバーとユラン公子殿下を初めとするララエ公国の人たちは顔つきあわせているわけだしね。

 今更仲介でもないだろう。

 だが、このまま対策会議とやらに突入するのには無理がある。

 お互いに知り合ったばかりで名前も顔も役職も判らないから。

 野生動物会議の長老たちは、それぞれが種族または氏族の中でも重要な方たちだ。

 ユラン公子殿下とまではいかなくても、人間で言えば貴族に当たるんだよね。

 その辺り、ララエ公国側がまだイマイチ判ってないみたいだった。

 野生動物会議をハムレニ殿の随員(スタッフ)扱いする気配があったんだよ。

 これではうまくいかないだろう。

 しょうがないので、俺は立ち上がってまずララエ公国側、特にユラン公子殿下に対して野生動物会議というものについて説明した。

「野生動物会議は、ソラージュで言えば貴族院の分科会のようなものとお考え下さい。

 それに出席出来るのは、それぞれの氏族で重きを成している者だけです」

 ララエ公国にも貴族院ってあったっけ?

「ララエで言えば、領主会議のようなものだな。

 その大公領における重要な施策を検討・決定する会合だと思えばいい」

 シルさんが補足してくれた。

 本当言えばこういうのはソラージュ外務省のセルミナさんの方が詳しいんだろうけど、セルミナさんは親善使節団の随員だからね。

 身分的に言って、帝国皇女のシルさんから言って貰った方が受け入れやすいはずだ。

 ありがとうございます。

「すると、野生動物会議に出席しているのは」

「それぞれの氏族の長老、もしくはそれに準ずる者だな。

 私はオブザーバーの資格で参加している」

 これはちょっと怪しいな。

 この野生動物会議が招集された時には、シルさんはララエにいなかったわけだし。

 だが帝国皇女の言葉はララエ公国の人たちに大きな影響を与えた。

 単なる野生動物ではなく、貴族か大商人を見る目に変わったみたいなんだよね。

 そういやララエ公国って商業国家という話だから、貴族と大商人はそんなに違いがないかも。

 落ち着いた頃を見計らって、シルさんに野生動物会議の主要メンバーを紹介して貰う。

 人間側はララエ公国公子であるユラン殿下を筆頭に、内務省とか外務省とか何とかの紹介が続いたけど、それはいいや。

「とりあえずお互いの紹介は済みましたが、このまま対策会議を行うのは無理があると思います。

 特に野生動物会議の方々は、ここまで移動してきた直後ですからお疲れでしょう。

 ここはいったん解散して、英気を養うということでいかがでしょうか。

 会議は明日ということで」

 俺が言うと、野生動物の人たちは頷いてくれた。

 みんな疲れているんだろうな。

 肉体的なのか精神的なのかは知らないけど。

 両方かもしれない。

 だったらリラックスして貰おうか。

「提案ですが、これから夕方まで休息した後、双方の主要メンバーで懇親会を行なわれては。

 会場や料理はセルリユ興業舎が用意させて頂きます」

 言ってしまった。

 親善使節団(うち)やセルリユ興業舎の人達が慌てているけど、しょうがない。

 俺はヤジマ商会の会長だから、時には無理を押し通すのだ。

 いいよね?

「賛成だ。

 ハムレニ殿、ユラン公子殿下、『ヤジマ大使/マコトの兄貴』の提案だ。

 乗って頂けまいか?」

 シルさんも腹芸というか、タイミングいいよなあ。

 別に打ち合わせしていたわけじゃないんだけど、こう言われたらみんな頷かざるを得ないからね。

 ララエ公国にとっては仲介の労をとってくれた帝国皇女殿下。

 野生動物会議にとってはオブザーバーでアレスト興業舎の舎長。

 どっちにとってみても最重要人物であることには間違いない。

 その人にお願いされて断るのは難しいぞ。

「了解した」

「それは良い」

 お互いの頭領(トップ)の回答は端的だったが、双方のメンバーが一斉に話し始めた。

「ほう。

 マコトの兄貴に食事を提供して貰えると」

「セルリユ興業舎に出した連中が帰還命令を無視するほどの飯らしい」

「これは良い所に来ましたな」

「さすがはマコトの兄貴だ。

 歓迎ぶりが板についている」

 野生動物の人たちは、概ね歓迎のようだ。

「懇親会ですと?」

「礼儀とか、どうすれば」

「慌てるな。

 シルレラ皇女殿下がおっしゃられたことを聞いただろう。

 貴族相手と思えばいいのだ」

「しかし……野生動物相手の懇親など、どのような」

 ララエ公国側は慌てているな。

 まあ、何とかなりますって。

「それではここで解散します。

 こちらの用意が整ったらお呼びしますので、それまで休憩して下さい」

 俺の宣言に双方がゾロゾロと引き上げていった。

 野生動物会議の方々は、セルリユ興業舎の動物(スタッフ)が面倒を見てくれるようだ。

 残ったのは随行使節団の面々。

 セルリユ興業舎の人達は慌てて駆け去って行ってしまっている。

 俺の無茶振りのせいだな。

 すまん。

「マコトさん。

 お見事でした」

「本当に。

 賞賛の言葉もありません」

「凄かったです!」

 俺の(ハスィー)とロロニア嬢は何をしても無条件で褒めてくれるんだよね。

 ルリシア殿下はいつもと同じだし。

「本当にもう。

 経費をどうすればいいのか」

「何とかします。

 こんな時のために、ジェイルさんからギルド口座の使用権限を預かっていますから。

 今、ソラルさんを呼んでいます」

 ヒューリアさんとアレナさんは金勘定と準備の手配だ。

 よろしく。

「外交的には文句のつけようもないどころか期待を遙かに上回る実績と思います。

 これをもって昇爵してもおかしくありません」

「ソラージュの立場をどこまで上げて頂けるのか。

 ヤジマ大使閣下の力は底知れませんな」

 お役人の二人は政治的な判断ね。

 親善使節団は概ね支持してくれているようで良かった。

「マコト殿もよくやる。

 シャッポを脱ぐよ」

 どっかに隠れていたカールさんが出てきて言った。

 いいですけどね。

「マコト。

 よくやった」

「シルさんもサポートありがとうございました」

 そしてキーマンたるシルレラ皇女殿下も褒めてくれた。

 この人の評価は常に正しいから、俺はどうやらうまくやったみたいだね。

「でもいきなりの無茶振りは酷いですよ」

「それについては謝る。

 私も、突然ここまで来るとは思ってなかったんだ。

 ラヤ僧正様が動いていたから、多分碌なことにはならないとは感じていたけどな」

 シルさんはため息をついた。

 考えてみれば、この人も巻き込まれた口だよね。

 半ば強制的に仲介の補助をやらされたらしい。

 本当ならシルさんだけでも良かった気がするけどね。

 何せ帝国皇女だし。

「それは違う。

 私は身分はともかく公的な役職に就いてないからな。

 私人なんだよ。

 アレスト興業舎は私企業だし、その舎長というだけではララエ公国は認めるわけにはいかない」

「同じ理由でわしも駄目じゃな。

 帝国皇子といっても帝国の役職があるわけではない。

 ヤジマ商会顧問で親善使節団の随行員では弱すぎる。

 ララエ公国も公的には認めるわけにはいかんのだ」

 シルさんとカールさんが言うんだけど、何か言い訳に聞こえますが。

「そんなことはないぞ。

 まあマコトがいなかったら何とか頑張ったかもしれんが、ソラージュの親善大使で野生動物の『兄貴』であるマコトがいるなら、我々は引いておくのが筋というものだ」

「そうじゃな。

 現に、マコト殿はうまくやったではないか。

 我々の目に狂いはなかった」

 「我々」ですか。

 この二人も考えてみたら同じ帝国の皇族なんだよね。

 前からお知り合いで?

「いや?

 マコトの結婚式辺りでお目にかかったのが初めてだが」

「そうそう。

 それまでは名前もよく知らんかったがの」

 それは本当でしょうけど、その後は違うよね?

 物凄く気が合ったんじゃないのか。

 二人とも同じタイプだし、歳の差こそあるけどただもんじゃない気配を濃厚に漂わせているのはどうみても同類ですよ。

 共謀、とまではいかないにしても連携くらいはしているはずだ。

 それを聞いた二人はそっくりな微笑を浮かべた。

 いいですけどね。

 どうせ俺は案山子ですので。

「そんなことはない。

 マコトは(かなめ)だ」

「そうじゃぞ。

 みんな頼りにしておる」

 そんなことを言いながら、シルさんとカールさんは俺から離れていってしまった。

 顔を突き合わせて相談しているってことは、やっぱ何かやっているんだな。

 まあいいか。

 ほっとこう。

 それ以外に出来ないし。

「マコトさん!

 今聞いたんですが、急に懇親会ってどういうことですか!?」

 ソラルちゃんが飛び込んで来た。

 ヒューリアさんとアレナさんがコソコソと逃げていく。

 裏切り者ーっ!

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