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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第四章 俺は派遣の冒険者?

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2.調整局?

 エルフって貴族なのか!

 やっぱ人類の上位存在?

 だが、ハスィー様は大きく手を振って否定した。

 慌てているな。

 可愛い。

「わたくしがアレスト伯爵の娘であることは事実ですが、今回の件とは特に関係はありません。あくまで、ギルドのプロジェクトの担当というだけです」

 プロジェクトって、多分こっちでの、そういう仕事なんだろうな。

 少なくとも、俺がプロジェクトについて理解している程度には似ていると。

 どうも、魔素が都合良く変換しすぎてくれるせいで、日本の会社で打ち合わせをやっている雰囲気になっている。

 いやその前に、是非ともこの疑問を解消しておきたい。

 こっちの貴族制度は知らないけど、俺に伯爵と聞こえたということは、つまりアレスト市を治める貴族ということなのだろう。

 俺の知識はラノベのだけど、伯爵と言えば貴族のスタンダード、王家や重鎮ではなく、また木っ端貴族ではない、「普通」の貴族だったはずだ。

 それはいいとして、気になることがある。

 貴族はみんなエルフなのか?

 ジェイルくんが、淡々と答える。

「違いますよ。アレスト家はエルフですが、ソラージュ王国貴族の7割くらいは人間です。王家も人間ですし。貴族はエルフが2割、ドワーフが1割というところでしょうか」

「エラとかララエの方は、王家を含めて貴族の大半がエルフだと聞いたことがあります。ホルム帝国の皇帝がドワーフというのは、有名な話ですね」

 もっとも長い歴史の中で混血が進んで、純粋なエルフやドワーフは少なくなっているし、人間の貴族にはほとんど両者の血が入っていると聞いたことがありますけど、とキディちゃんが補足してくれた。

 いきなり割って入る割には落ち着いているな。『栄冠の空』の受付だったドジキャラとは思えない変貌ぶりだ。

 ひょっとして、あっちは演技か?

「すみません。そこら辺がまったく判らないので、教えていただけませんか」

「そうですね。プロジェクトの説明の前に、基礎情報を共有しておいた方がいいかもしれません」

 ハスィー様も、ビジネスウーマンに戻っていた。仕事にかかると人格も切り替えられるらしい。

 いや、こっちはそれどころじゃなくて、大量に出てきた新しいデータを処理するので手一杯なんだが。

 それに、今気づいたけど、キディちゃんはどこまで知っているんだ?

 俺が異世界人だと知らなければ、出てこない台詞があったけど。

 キディちゃんは、俺の方を向いていたずらっぽく頭を下げた。

「あ、ヤジママコトさん、すみません。ある程度は父から聞いています。私もこのプロジェクトに参加することになったそうです。

 よろしくお願いしますね」

「はあ」

 はあ、だよ。

 俺の知らないところで、物事が大きく動いているらしい。まあ、派遣の若造なんかにわざわざ教えてやる必要もないということか。

 気を取り直して続ける。

「あ、私のことはマコトと呼んで下さい。ヤジマは家名です。

 ところで、この国がソラージュ王国という名前であることは聞いてましたが、他の国のことは全然判らないんです。今話に出たエラ、ララエ、ホルム帝国などとは、どのような関係なんでしょうか」

 そういえば俺、かろうじてこの国については聞いていたけど、他の国のことはまったく知らないよな。

 まあ、日本にいる小市民は、他の国のことなんか知らなくても生活していけるのと同じだ。

 今のところ、自分には関係ないけど、この機会に聞いておくべきだろう。

 ジェイルくんとキディちゃんの間で譲り合うような雰囲気があった後、ハスィー様がこほんとひとつ咳をしてから話し始めた。

「ソラージュ王国が、海以外の三方向で他国と国境を接しているのはご存じでしょうか」

「いえ」

「大雑把に言いますと、西側が海、北にエラ王国、東がララエ公国、そして南側がホルム帝国です。実は、それ以外にもいくつかの国がありますが、無視して構わない程度ですね。

 3ケ国のそれぞれ向こう側の国については、国家戦略的には重要ですが、現在のわたくしたちにはとりあえず、関係がないと思っていいです」

 ハスィー様、意外にひどいこと言うな。小国は無視ですか。

 まあヨーロッパの方も、中東から南欧あたりはゴチャゴチャしてよく判らないし、弱小国はほとんど無視されているけど。

 アフリカなんてもっと凄いしな。

 国のパワー的に見て誤差程度ということか。

「国力は、ホルム帝国が圧倒しています。我が国を含めた残りの3ケ国の合計とほぼ同じ、といったところでしょうか。

 そもそもは南方の小国家の集まりだったのが、百年ほど前にその地域全体が統一されて、帝国を名乗るようになった国です」

「征服国家ですか。怖いですね」

 やだなあ。

 戦争が起きたりするんだろうか。

 思わず漏らすと、ハスィー様が笑って首を振った。

「百年前に、我が国を含めた三カ国を巻き込んだかなり激しい戦いがあって、痛み分けのような形で周辺国家との休戦協定が結ばれてからは内政に力を向けているようです。それ以来、小競り合いすらほとんどありません。

 国境も静かなもので、貿易が盛んです。

 もっとも帝国内部では、時々内戦があるようですが」

 ふうむ。

 ラノベでは、あまりない状況だな。

 とりあえず戦争の気配はないし、魔物もいないし、魔王はいても人間が(勇者だったとしても)討伐できるようなもんじゃないから、これでは主人公が活躍しようがない。

 ハーレム系のラノベなら有り得るけど、だったら帝国側に転移しそうなものだ。

 こっちの国では、正直動きようがないだろう。

「でも、百年前はひどかったらしいですよ」

 キディちゃんが口を挟んだ。

 結構押してくるタイプらしい。

「この辺りまで戦場になったみたいです。そもそもアレスト市って、前線の砦の後方支援基地として建設された補給地から発展した都市だとか」

 へえ。

 なるほどな。だから商業が発達しているのか。

「すると、アレスト市は帝国に近いんですか」

「そうですね。南の山を越えると国境の街があります。最前線の砦から発展した街ですが、その南は帝国領です」

 ほう。

 だとすると、アレスト市の貿易は帝国と?

「というよりは、帝国と我が国の陸路貿易の中継点ですね。農業生産も伸びていますが、むしろ商業都市といっていいと思います」

 それでギルドが大きな力を持っているのか。

 で、アレスト市の領主であるアレスト伯爵は、統治は代官に任せて王都にいると。

 反乱とかを疑われないための措置かな。

「もっとも、今回のプロジェクトは帝国とは直接関係はありません」

 ハスィー様が、強引に話を引き戻した。

 まあ、自分の仕事が一番だよね。

「むしろ問題になっているのはアレスト市の位置ですね。ホルム帝国との国境が近いということは、王国でも帝国でも中央から遠いということで、要するに辺境です。

 従って人口が少なく、山や原野が広がっていて、周囲には野生動物が多数生息しています」

 ああ、そういえばフクロオオカミのツォルさんなんか、群がいるとか言っていたもんな。

 狼の群れが街の近くにいるって、地球じゃちょっと考えられないよね。

 しかもあんなでかい、狼というよりは怪物だし。

 話が通じるにしても。

 でも、怪物狼と協定を結ぶなんて、そこだけみればラノベというよりはファンタジーなんだが。

 もの○け姫じゃあるまいし。

 あれ?

「あの、そういえばちょっと前に『栄冠の空』のクエストでフクロオオカミと知り合ったんですが、それと関係があるんですか」

 ハスィー様は大きく頷いた。

 やっと自分のターンが来て、嬉しそうだ。

「まさに、そのことです。フクロオオカミを初めとする有力な野生動物の群れとは、ギルドが国家の承認の元、協定を結んでいるわけですが、最近になって問題が発生するようになってきたわけです」

 フクロオオカミだけじゃないのかよ!

 ツォルさんなんか、体長3メートルはあったぞ。しかも、それでも成体じゃないらしいし。

 似たようなのが大量にいるとしたら、人類が生き残っているのが不思議なくらいだ。

 そういうのと協定を結んで、何とかしのいでいるわけか。

 そいで、問題が起こっていると。

 人類同士で戦争やっている場合じゃないなあ。

「問題ですか」

「はい。ギルドというか、国でも危機意識はあるのですが、どうにも対処の決め手がなかったところに、マコトさんの提案があって」

 提案?

 そんなのしてないよ!

 誰だ、俺にそんなことを押しつけたのは!

 ホトウさんか?

「あ、それでギルドはプロジェクトを」

「はい。ギルド調整局の機能のひとつに、野生動物の対処があります。この度、わたくしは自治局の担当を外れて、このプロジェクトを専任で担当することになったわけです」

 ハスィー様は、にっこり笑った。

 花のようだ。

 でもハスィー様。

 それ、絶対貧乏くじを引かされているぞ!

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