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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第六章 俺が主(あるじ)殿?

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7.重大報告?

 会議? は停滞していた。

 というよりは始まっていなかった。

 どうやら俺の巡回が済むのを待っていてくれたらしい。

 シルさんやロッドさんが野生動物たちをユラン公子殿下などに紹介したりして場を繋ぎ、その間に席を並べてうまく相対できるようにしていた。

 ちなみにこの場の責任者であるはずのソラルちゃんは裏方に徹するつもりらしく、姿が見えない。

 セルリユ興業舎の代表がこんな若い女なのか? と舐められたらアカンと思ったのか、表には出てこないようだ。

 傾国姫(ハスィー)ぐらい他を圧倒していればどうにでもなるけど、ソラルちゃんは外見上はちょっとした平民の美少女というだけだからな。

 それにシルさんがいればヤジマ商会の面子は保てる。

 何てったってアレスト興業舎の舎長だ。

 会舎の立場で言えば俺とハスィーの次くらいには偉い。

 しかも帝国皇女。

 さらに野生動物関連事業の第一人者。

 これだけの役がついていれば、リーチされたら誰も逆らえない。

 実際の所、野生動物たちは言うまでも無くシルさんには従順だったし、ユラン公子殿下を初めとするララエ公国側も圧倒されて文句を言うどころじゃないようだった。

 ヤジマ大使以上に厄介な存在だと認識されたんじゃないかな。

 あながち間違ってないし。

「何を言っている。

 そもそもこの会議はマコト、お前のために開催されるんだぞ。

 ララエ公国はたまたま場所がそうだっただけの、言ってしまえば被害者だ。

 面子を立てるために対応しているだけで、本来は会議には無関係に近い」

「そうなんですか!

 一体何があったんです?」

「それをこれから話すんだよ。

 まあ、結果的にはララエ公国側にも直接関係してくる話だから丁度良かったがな。

 時間が勿体ないからさっさと始めるぞ」

 シルさんに追い立てられるように席につくと、なぜか俺だけだった。

 裁判みたいだ。

 ニュースやドラマなんかで時々観るけど、裁判官側とこっち側の真ん中に突出して被告人の席があるだろう。

 あんなかんじなのだ。

 ハスィーを初めとする親善使節団は後ろの方にいる。

 ラヤ僧正様もいない。

 俺、裁かれるの?

「違う。

 いいから黙っていろ」

 シルさんは俺のちょっと後ろの席について、被告人に対する弁護士のような態度で言った。

 でも、これじゃどうみても俺がつるし上げられている格好だよ!

「それでは開始したいと思います。

 質疑応答は後で受けますので、申し訳ありませんがララエ公国の方はご静聴願います」

 ロッドさんが厳粛に言ってユラン公子殿下を初めとする人たちが頷き、そして裁判(違)が始まる。

「まずはお礼申し上げる。

 マコトの兄貴。

 急な会見をよく受けて下さった」

 いきなり、あの何て言ったっけ野生動物会議の議長である鳥の人が言った。

 でかいけどごく普通の鳥に見えるんだよな。

 でもその言葉は重々しく聞こえるのは不思議だ。

 あいかわらず熊の人の肩に乗っているけど、その(ひと)って秘書か何かですか?

 まあいいけど。

 でもこの(ひと)、何て名前だったっけ。

 思い出せん。

「(ハムレニ殿だ)」

 シルさんが囁いてくれた。

 助かった。

「いえ。

 こちらこそ、動物会議議長であるハムレニ殿、および野生動物会議議員である皆様にお会い出来て光栄です。

 これまでご挨拶出来なかったことを、お詫び申し上げます」

 俺もよく、こんな言葉をつるつる喋ってるなあ。

 いい加減慣れてきたのかもしれない。

 だって、俺の乏しいサラリーマン人生ではこんな言葉使ったことなかったもんね。

 いや待てよ。

 俺、北聖システムに勤務していたのは1年ちょっとだけど、こっちに来てからもう3年くらい過ぎてない?

 ということは、もうこっちでのサラリーマン経験の方が長いのでは。

 サラリーマンとして勤めた期間って大したことない気もするけど。

 派遣とか臨時雇用だとかばっかで、その次はいきなり舎長代理とか顧問とかベンチャー立ち上げとか、まっとうな正社員として働いたことって無かったような。

「勿体ないお言葉です。

 さすがは『マコトの兄貴』。

 噂に違わぬ人物ですな」

 ハムレニ殿がおべんちゃらにしか聞こえない話をしたけど、光栄にも魔素翻訳で本当にそう思っているらしいことが判る。

 そんなんじゃないのになあ。

 なんか酷い羞恥を感じるんですが。

 そこでシルさんが口を挟んだ。

「ハムレニ議長閣下、および野生動物会議員諸氏に申し上げる。

 人間側は『マコトの兄貴』を含めて基本的な情報すら把握できていない。

 そこで、概略説明を私の方から行いたいと考えるがよろしいか」

「よろしくお願い申し上げる。

 『シルレラの姉御』」

 ハムレニ殿が答え、野生動物側が一斉に頷いた。

 何か芝居くさいな。

 最初からそう決まっていたみたいだ。

 まあ、確かに野生動物の方から全部説明するのは無理があるよね。

 人間社会の常識にそれほど詳しいはずもないし、身分も判らないから下手すると何か言っただけでマナー的にトラブルになる可能性すらある。

 だったら野生動物たちが信頼しているシルさんに全部説明させた方がいい。

 人間側にもメリットがあるぞ。

 シルさんは人類社会でもほぼ頂点と言っていい身分だから、どんな説明をしても誰かを礼儀(マナー)的に侮辱したりする心配がない。

 冒険者として下々の常識にも通じているし、当然貴族や政府の役人の扱いにも長けているだろう。

 だって帝国政府の官僚だった人たちを配下に持っているくらいなんだからな。

 こうしてみると、シルさんって異常なくらい何でもできる人じゃない?

 こんなに使い勝手がいいキャラって、軽小説(ラノベ)にもそうは出てこない気がする。

 まあ、そういう存在がいるのも現実(リアル)の面白い所なんだけどね。

 現実(リアル)想像(フィクション)を凌駕する。

「ありがとう。

 ヤジマ大使、およびユラン公子以下の方々もよろしいか」

「賛同する」

 ユラン公子殿下がすかさず答えた。

 さすが。

「お願いします」

 俺も遅ればせながら続き、シルさんが頷く。

「それでは。

 まず、野生動物会議について説明申し上げる。

 そもそも野生動物会議とは、ある地域における野生動物同士の認識を共有するために開かれるものである。

 開催時期はほぼ定期的だが、招集があれば臨時の開催も可能だ。

 今回の会議は、ワタリハヤブサのハムレニ殿の招集によって、臨時で開催された」

 ハムレニ殿って「ワタリハヤブサ」という種類なのか。

 カッコいいなあ。

 一見平凡に見えるけど、ハヤブサって地球では最速の鳥なんじゃなかったっけ。

 特に急降下は時速300キロを越えるというF1並の高速飛行が可能のはずだ。

 地球だとどういう種類なのか知らないけど、確かシベリアハヤブサとか聞いた覚えがある。

 どっちにしても、野生動物会議を招集して仕切れるんだから、相当出来る(トリ)なのは間違いない。

「今回の開催理由は?」

 誰なのか、せっかちな人が言った。

 あれ、ララエ公国内務省の人じゃないのか。

 内務省ということは、当然野生動物会議についても知っているわけだ。

 そんな重要事を国家安全保障を担当する役人が知らないはずがない。

 つまり、何が起きているのかは大体想像がついていたんじゃないかな。

 でも逆に言えば、会議の目的までは掴んでなかったってことだね。

 シルさんは突然の横やりにも平然と答えた。

「それは、やはりハムレニ殿から伝えて頂いた方が良いだろう。

 その後は私が説明を継続する。

 よろしくお願いする。

 ハムレニ殿」

「了解した。

 シルレラの姉御」

 話を振られたハムレニ殿が頷いた。

 ていうか、そういう風に見えた。

 何かこの(トリ)、もうどっかの有力団体の偉い人に見えてきているんですけれど。

 魔素翻訳の威力って凄いな。

 人の認識まで侵食できるらしい。

 そんなことを思っていると、ハムレニさんが話し始めた。

「私は年に何度も長距離を渡る種類の野生動物(トリ)だ。

 様々な地域の状況を知っているし、ある意味定点観測しているとも言える。

 よって今回気づいたことがあったので、当地にて野生動物会議を招集させて頂いた。

 快く招集に応じてくれた諸氏には感謝するが、当然諸氏も私が気づいた予兆を感じ取っていたためだと思う」

 野生動物の大半が頷いたようだった。

 凄いな。

 セルリユ興業舎で文句ばかり言っていた連中とは訳が違う。

 長老たちか。

「その兆候とは?」

 今度はユラン公子殿下だった。

 それはそうだ。

 自分の国で何かあると言われたんだからね。

 先走る気持ちは判る。

 ハムレニ殿は淡々と言った。

「この地にて、魔王顕現の兆候がある」

 な、なんだってーっ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 推敲 >会社の立場 ↓ 会舎の立場 >これだけ役がついていれば、リーチされたら誰も逆らえない。 ↓ これだけ役が揃ってると知れば、リーチされたら誰もが避けて通る。(麻雀ルールで例えるのなら…
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