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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第六章 俺が主(あるじ)殿?

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5.意外?

 シルさんは言いかけた俺を手で押さえると、一歩下がった。

 そこに草の塊みたいなものが運ばれてくる。

 担いでいるのは教団のロープを着た人たちだ。

 つまり?

 塊が降ろされ、教団の人達が引っ込むと、シルさんが片膝をつく。

「『大地の恵み』教団、ラヤ僧正猊下なる」

 誰か、多分教団の人が声を張り上げると、草の塊が開いて小柄な姿が現れた。

 ラヤ僧正様が公に姿を現すとは。

 そんなの、俺の結婚式以来じゃないか!

 あの時はララネル公爵殿下やアレスト伯爵閣下も片膝をついていたな。

 つまり、そのくらい権威があるのか。

 俺が一歩進み出て片膝をつくと、後ろの人たちも一斉に跪く気配を感じた。

 それがこっちの常識なのね。

 地面しか見えないのでよく判らないけど、ラヤ僧正様は何か身振りをしたようだった。

「皆に生きる喜びを。

 世界と大地と空に感謝を。

 そして、ここに集まった者たちに祝福を」

 アニメ美少女な声が響く。

 次の瞬間、人間と野生動物が一斉に返した。

「「「ありがとうございます。

 僧正様」」」

 吠え声や鳴き声、人間の叫びの混成合唱だ。

 ひどい不協和音だったが、不思議に不愉快ではなかった。

 魔素翻訳の効果か?

「もういいぞ」

 シルさんに言われて顔を上げると、ラヤ僧正様はあの草の塊に戻っていた。

 どうやら内部が空洞になっているらしく、つまりは籠か。

「マコト。

 こっちに来い」

 シルさんの命令だ。

 俺が草の籠に近寄ると、隙間からラヤ僧正様が覗いていた。

「ラヤ様」

「ここから失礼しますよ。

 私どもはあまり人前に姿を現せないので。

 マコト、しばらくぶりですね。

 元気そうで何よりです」

「ありがとうございます。

 でも、なぜここに?」

「私はマコトの追っかけですから」

 「追っかけ」かよ!

 前は俺の担当僧正だとか、訳が判らない事をおっしゃっておられたけど本当なのか?

 戯れ言くさいな。

「さあ?

 どうでしょうか。

 それより、話を進めないと。

 シルレラ。

 よろしくお願いしますよ」

「は。

 ラヤ僧正様」

 シルさんが頷いて、ラヤ僧正様は草の陰に引っ込んだ。

 まったく何やってんだか。

 どこからともなく現れた教団の人たちが、草の塊を担ぎ上げて運んでいく。

 日本の神輿みたいに、棒で作った台に載せているようだ。

 何だよあれ。

 もうちょっとマシなのを用意できなかったのか?

「そう言うな。

 あれは教団の正式な籠らしい。

 私も初めて知ったけどな。

 有史以前のスウォークは、あれに乗って人類や野生動物を導いていたそうだ」

 シルさんが説明してくれた。

 それほど由緒あるものなんですか!

「そんな古いものをどうして」

「今回は人間相手ではなかったからな。

 いくらスウォークでも、街道や街であれに乗ろうとは思わんだろう。

 だが野生動物相手なら別だ。

 そもそも、人間が作った乗り物は山では役に立たないからな。

 あれは軽くて担ぎやすいし、万一壊れてもすぐに作り直せるから便利なんだそうだ」

 それはそうだろうな。

 人類文明がまだ洞窟で焚き火とかだった時代は、あれでもオーバーテクノロジーだったんだろう。

 その頃は道なんか良くて獣道レベルだっただろうしね。

 当時の人間にとっては神様が通るようなものだったはずだ。

「でも、あれって人間以外には担げませんよね?

 最初から人間を使っていたんでしょうか」

「その前はフクロオオカミなどに乗っていたらしいぞ。

 スウォークには向いてないからかなり苦労しそうだけどな。

 さてマコト。

 無駄話をしている暇はないんじゃないか?」

 そうでした。

 振り返ると、ユラン公子殿下やルリシア王女殿下を含めた全員が俺たちを見ている。

 失敗った。

 みんなを置き去りにしてしまった。

 ていうか、人間だけじゃないぞ。

 いつの間にか、多種多様な野生動物たちがずらっと並んでいるじゃないか!

 しょうがない。

 俺は咳払いすると、まずは人間の方を向いた。

「ご紹介いたします。

 ソラージュ王国アレスト興業舎舎長、シル・コット殿です。

 野生動物関係の元締めをお願いしています」

 あえて民間人風に紹介したのに、シルさんはあっさり覆した。

「シルレラ・アライレイ・スミルノ・ホルム帝国皇女である。

 故あってアレスト興業舎に奉職している。

 この度の野生動物会議の決定の履行に伴う行事の立ち会い役を依頼された。

 よしなに」

 何ですか、それ?

 まあいいか。

 俺は頷くと、今度は野生動物側を向いて言った。

「ヤジママコトです。

 野生動物会議の皆様。

 ご訪問を歓迎させて頂きます」

 一番前に並んでいる野生動物の真ん中にいた熊が進み出た。

 体長は2メートルを越えるだろう。

 横幅は相撲取り並だ。

 凄えな。

 この野生動物(ひと)がトップか?

「お気遣い、痛み入る。

 私がこの度の野生動物会議で議長を務めるハムレニです。

 ヤジママコト殿」

 何と、喋ったというか鳴いたのは熊の右肩に留まっている鳥だったよ!

 体長は50センチくらいはあるだろうけど、茶色の平凡な鳥だ。

 この(ひと)が議長?

 いや、確かに言われてみると何というか威厳や自信みたいなものが尋常でなく感じられる。

「ハムレニ殿は、今回の会議の主宰だ。

 議長は会議の都度、選出される」

 シルさんが教えてくれた。

 フクロオオカミや熊さんがいる中で、この鳥さんが選ばれたのか。

 凄い(ひと)なんだろうな。

 それは後で考えるとして、ここはやっぱ俺が仲介役を期待されているわけね。

 しょうがない。

 俺はとりあえず、ユラン公子殿下を初めとする人間側の主要メンバーを野生動物に紹介した。

 野生動物側はハムレニさんが自己紹介の後、皆さんをざっと紹介してくれたので助かった。

 ここにいる動物(ひと)たちは、それぞれの種族、というよりは氏族の長老クラスだそうだ。

 ちなみにフクロオオカミのホウムさんはこの動物会議のメンバーではなく、シルさんの同僚のような立場らしい。

 無任所長老というところか。

 尚、長老が来られない場合は権限を委譲された動物(ひと)が来ているとのことだった。

 ていうか野生動物が権限を委譲って、もうドリトル先生なんか目じゃないよね?

 なんか俺、とんでもない世界に転移したんじゃないのか?

 魔素翻訳の可能性がこれほどのものだとは。

「それは後でいいから、とりあえずマコトにはやることがあるだろう」

 シルさんが言うけど、何でしょうか?

「とぼけたことを言うな。

 ここにいる大多数は『マコトの兄貴』を見に来ているんだぞ?

 早く義務を果たせ。

 でないとえらいことになる」

 暴動とか?

 それは大変だ。

 というわけで、俺はハムレニさんやユラン公子殿下たちをほっぽって客寄せパンダを演る羽目になってしまった。

 ロッドさんが呼ばれ、状況説明を受ける。

「了解しました。

 それにしてもシルレラ舎長。

 自らおいでになるとは思いませんでしたよ」

「別の用で近くまでは来ていたんだ。

 そこにラヤ僧正様からの伝言が届いてな。

 マコトのためだから協力して欲しいと言われたら、仕方がないだろう」

 俺のためなの?

「それはそうですね。

 でもシルレラ舎長自ら出張ですか?

 アレスト興業舎は大丈夫なのでしょうか」

「心配いらん。

 会舎の世話はアレスト伯爵に投げたし、野生動物たちの相手は部下が育ってきてくれているから」

「どうでしょうか」

 ロッドさんは怪しげな目つきでシルさんを見ていたが、考えてみれば自分だって好き勝手に動いているからね。

 それに気づいて露骨に話を逸らせる。

「ではヤジマ大使閣下、ではなくて『マコトの兄貴』にはご足労をかけますが、よろしくお願いします。

 ツォルに乗っていればいいですから。

 時々手でも振ってやって下さい」

 何その投げやりな指示は。

「いいんだよ。

 連中はマコトを見に来たんだ。

 だから姿を見せるだけでいい。

 別に芸をしろとか言わんし、演説も期待していない。

 ていうか、長引くからやるな」

 さいですか。

 着替えをする暇もなく、俺はツォルの上に押し上げられた。

 狼騎士(ウルフライダー)隊が周りを固めてくれる。

 その中にアレサ公女様がいた。

 もう混ざっているのか!

「フクロオオカミに乗っているだけなら、あまり体力は使いませんから」

 アレサ様はそう言うけど、心配だよ!

「定期的に交代するのでご安心下さい」

 (シルバー)エルフのアロネさんが囁いてくれた。

 ならいいか。

 俺を囲んだ狼騎士(ウルフライダー)隊の先頭に立つシイルが声を張り上げた。

狼騎士(ウルフライダー)隊。

 前へ!」

 そのまままっすぐに野生動物たちの中に突き進む。

 歓声が上がった。

「ヤジママコト!」

「ヤジママコト!」

「ヤジママコト!」

「マコトの兄貴!」

「マコトの兄貴!」

「本当にいたんだ……」

「よし。

 これで故郷(なわばり)に戻って仲間に自慢できるぞ!」

「あれ、本物?」

「そんなにたくさんいないはずだから、本物だよ。

 多分」

 やっぱ俺って珍獣扱いかよ!

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