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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第六章 俺が主(あるじ)殿?

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1.試験採用?

 もう休憩どころじゃない。

 俺はアレサ公女殿下を伴って宿に戻った。

 これが狼騎士(ウルフライダー)隊員の戯れ言ならいいんだけど、もしアレサ様が本気だったりしたらえらいことになる。

 なるか?

 あれ?

 何かヤバいような気がするけど、具体的には何だっけ。

「特に問題はないと思うが」

 カールさんがだらけた格好でソファーに座っていた。

 ここ、俺の部屋なんですけど。

「皆が集まれる場所がなくての。

 本日の報告会をしようと思ったのじゃが、セキュリティ上問題があるとナレムが」

「ハマオル殿には連絡済みでございます。

 ヤジマ大使閣下」

 ナレムさんがきちっと姿勢を正して言った。

 いやカールさんのそばに立っているんだけど。

 ハマオルさんを見ると、ちらっと頷いてくれた。

 なら問題ない。

 俺もいい加減というか、自分の行動すら他人(ひと)に頼るようになってきてしまったな。

 貴族だからね。

 俺の本質はサラリーマンなのに!

 でも前に何かで読んだけど、大企業の経営者なんかは自分の予定(スケジュール)をすべて秘書に任せていて、訳もわからないまま秘書の指示通りに動くのが普通らしい。

 そういえば、俺ってヤジマ商会の会長だったっけ。

 休職中だけど。

「アレサ様!

 探していたんですよ。

 これからご一緒出来るそうで、ご挨拶したくて!」

 いつもテンションが高いルリシア殿下と、その後ろでため息をついているロロニア嬢もいる。

「はあ。

 そうなってしまいました」

 アレサ様は戸惑い気味だ。

 隣の国の王女様から、いきなり同輩扱いされたらそうなるよね。

 そもそもアレサ様って、自分が公女だという自覚が薄いみたいだし。

 大公家に生まれた正統な公女殿下なのに、どうしてああなったんだろう。

「これからよろしくお願いしますね!」

「は、はい。

 こちらこそ」

 でも根が真面目で一生懸命なので、そこそこ上手くやっていけてはいるんだよね。

 舞台を整えてやれば、化けるんじゃないかなあ。

「それが狙いですか。

 マコトさん」

 ヒューリアさんがニヤリと笑いかけてきた。

 何かこの人、だんだん本性が見えてきたような。

 知り合ってから結構たっているんだけど、やっぱり抑えていたんだよな。

 ヒューリアさんだって「学校」出だし、しかも成功例の一人らしいからね。

 ハスィーやユマさんみたいな桁外れは別にしても、二つ名持ちに匹敵する人材であることには間違いない。

 だって異能がひしめくヤジマ商会で会長の社交秘書やってるんだよ。

 それ以外にも色々動いているどころか、親善使節団では企画者(プランナー)だし。

 なまじの才覚ではやっていけまい。

「いや、別に意図はありませんよ」

「そういうことにしておきましょう。

 でも事実を隠し通せるものではございませんから」

 何か怖いぞ。

「マコトさん。

 疲れは取れましたか?」

 セルミナさんが聞いてきた。

 トニさんもいる。

 全員集合かよ。

「はあ。

 すっかり駄弁ってしまいました」

「このところお気に病むことが多かったですから。

 私個人としましては、もっとペースダウンしてもよろしいのではないかと思いますが、ソラージュの禄を食んでいる身ではなかなか申し上げられませんので。

 お許し下さい」

 駄弁っちゃ駄目なの?

「ソラージュが何か?」

「お気づきではございません?

 ヤジマ大使閣下は見事な、いえ見事すぎる成果を上げていらっしゃいますよ。

 エラ・ララエとも、このところはヤジマ大使閣下の話題が沸騰しております。

 それはつまり、ヤジマ大使閣下を擁するソラージュの国力の証明ということになりますので」

 そうなのか。

 まあ俺はソラージュの貴族だし、ヤジマ商会はソラージュの会舎だからね。

 よその国から見たら、ソラージュの国力が増しているように見えるのは判る。

 でもそれが俺とダイレクトに結びつくかね?

 親善大使とか言っても、何か騒ぎを起こしてばかりいるだけのような。

「騒ぎ、という言い方には抵抗を感じますが、それでもヤジマ閣下が存在感を示していることは確かでございます。

 自信を持たれてよろしいかと」

 珍しくトニさんも口を挟んできた。

 言いたいことは判るよ。

 ハスィーの旦那として、しっかりやれってことですよね?

 判ってます。

 傾国姫の恥になるような事はしません。

「ところでマコトさん。

 アレサ様が何か?」

 ハスィーに言われてやっと気がついた。

 そうだよ。

 アレサ様の扱いについて、みんなに相談しようと思っていたんだっけ。

「実はですね。

 先ほどアレサ様が……」

 俺はアレサ様の狼騎士(ウルフライダー)隊への試験入隊について説明した。

 どう考えてもまずいよね?

「アレサ様はどうお考えですか?」

 みんな遠慮しているせいか誰も何も言わないので、ハスィーが聞いた。

「私は……興味があります。

 ではなくて、やりたいと思います」

 何と!

 アレサ公女殿下、乗り気とは。

 いやアレサ正騎士の方か。

狼騎士(ウルフライダー)隊は騎士隊とは名乗っておりますが民間企業の組織ですし、待遇もよくありませんよ?

 隊員は全員女性ですので気安いとは思いますが、その反面力仕事なども自分でやらなければなりませんし。

 それにご身分が」

 ハスィー、詳しいね。

 というよりはハスィーだってアレスト興業舎の舎長だったし、その後はヤジマ商会の副会長なのだから知っていて当然か。

 俺が知らないだけで(泣)。

「私はララエの騎士団の正騎士です。

 ご存じと思いますが、ララエの騎士団は傭兵団のようなものです。

 正騎士といっても私みたいな下っ端は雑用でも何でもやります。

 それに」

 アレサ様はニコッと笑った。

「野生動物、大好きなんです。

 皆さん、こちらの身分など眼中にありませんから」

 そうか。

 アレサ公女様、じゃなくて正騎士アレサさんが悩んでいたのは、むしろその身分のことだもんな。

 騎士団でも結構周りに気を遣っていたみたいだし。

 いくら正騎士でございと言い張っても、言われた方はさいですか、と言うわけにはいかないからね。

 だから狼騎士(ウルフライダー)隊の身分無視はむしろ居やすい場所なのかも。

「ですが、本当に大丈夫でしょうか?

 失礼ですが、体力的に」

 ハスィーも容赦ないなあ。

 ジョギングで倒れたことを持ち出してきた。

 まあ、誰かが言わなければならないことだしね。

「それは……頑張ります!

 やってみたいんです。

 試験入隊ですか?

 それをお願いします」

 ハスィーに反対されたせいか、益々乗り気になってしまった。

 アレサ様は俺の前に直立してきっちりした動作で頭を下げた。

 この辺は騎士団で叩き込まれたんだろうな。

 うーん。

 まあ、やってみて駄目だったら親善使節団(こっち)に来ればいいだけだしね。

 狼騎士(ウルフライダー)隊のみんなに言っておけば大丈夫か。

「判りました。

 ご身分は今まで通りララエ騎士団正騎士で、親善使節団の随行員のまま狼騎士(ウルフライダー)隊に出向していることにしましょう。

 出向期限は特に定めません。

 私の方から狼騎士(ウルフライダー)隊の隊長に言っておきますので、細かい事は話し合って決めて下さい」

「はい!

 ありがとうございます!」

 アレサ公女様、じゃなくてアレサ正騎士は嬉しそうに敬礼してから、部屋を出て行った。

 小走りになっているぞ。

「ハマオルさん」

「お心のままに。

 (あるじ)殿」

 これでみんなに伝わる。

 しかし、ハマオルさんも相変わらずだな。

 こういう時に芝居じみた対応になるんだよね。

 「お心のままに」って、まるで俺が貴族みたいではないか。

「マコトさんはまごう事なき貴族ですし、ハマオルの対応は配下の者としては当たり前ですよ」

 ハスィー、思い出させないで!

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