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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第五章 俺が調停役(コーディネーター)?

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18.出向依頼?

 ララエ公国のアレサ公女殿下、じゃなくて騎士団のアレサ正騎士は頑張り屋さんではあるのだが、身の程知らずじゃなくて自己認識が甘い方である事が判明した。

 最初に「お情けで正騎士になった」と言っていたのは、文字通り真実だったわけだ。

 こっそり上司の騎士団長さんを呼んで聞いてみたら、頭を掻きながら謝ってきた。

「アレサがそんなことを。

 申し訳ありません」

「いえ、こちらこそ貴隊の大切な騎士を勝手に消耗させてしまったようで」

 商売人なら、これをこっちの失態とみて何らかの要求を出してくるかも。

 だが団長さんは肩を竦めただけだった。

「構いません。

 自業自得です。

 いつも身の程を知れ、と言い聞かせているんですが、自分の限界がイマイチ判っておらぬようでして」

 ほう。

 さすが騎士団長。

 腐っても信義の方を優先するか。

「アレサには、これまでにも散々厄介事を押しつけられておるのです。

 本人に悪気がないどころか一生懸命なので、更に厄介です。

 正騎士になんぞ、しなければ良かったと何度思ったかしれません」

 きついな。

 でもやっぱ問題児ではあったか。

「失礼ですが、セバレン殿とアレサ様はどういったご関係でしょうか?」

 ヒューリアさんが聞いた。

 この人、セバレンさんだったっけ。

 でも覚えられそうにもないな。

 だって、この人ホントにどこにでもいる「ただの騎士団長」なんだよ。

 過度にイケメンだとかマッチョだとか、そういう判りやすい特徴がない。

 それなりに有能そうで、臨機応変に事態に対処できるんだろうけど、俺の記憶に残るためにはそれだけでは駄目なのだ。

 男は。

「アレサは……アレサ様は、私の遠い縁戚になります。

 何、私のはとこだったか何だったかが大公家に嫁いだというだけなのですがね。

 あっちは一族の本家のお嬢様、私は分家もいいところですので、お互いに存在すら知らなかったのですが」

「その縁で?」

「はい。

 私の騎士団はツス大公家の専属扱いですので、先方はつまり大のお得意様です。

 多少の無理は聞かざるを得ないわけで、公女殿下の一人を預かってくれ、と言われれば否応もなく」

 やっぱそうか。

 騎士団が公女を採用するメリットって、何もないからなあ。

 いや箔付けくらいにはなるかもしれないけど、デメリットの方が大きすぎる。

 アレサ様ご本人が言っていた通り、何かあったら非難されるのは騎士団なのだ。

 かといって大事にしまっておく余裕などないだろうし。

「最初は事務方として採用しようと思ったのですが、騎士団の事務は少数精鋭でやっております。

 使えない者を置いておく余裕はないと断られてしまいました」

「団長様なのにですか?」

 これはハスィー。

 セバレン団長は、傾国姫(ハスィー)を直視しないように目を落として答えた。

 ハスィー、ちょっと怒っていて危険な雰囲気が滲み出ているからね。

「その……事務方のトップは私の妻でして」

 あ、それは駄目だ。

 逆らえるわけがない。

 でもそうか。

 旦那が団長で奥さんが後衛(違)だとしたら、この騎士団って文字通り家族経営なのだろう。

 もちろん騎士たちのほとんどは家族じゃないけど、経営の中枢は血縁で固めているという。

 俺が担当した北聖システムの顧客の半分くらいは同じパターンだったな。

 ご主人が社長で奥さんが専務、あとの幹部も半分くらいは同族だったりして。

 それでいて従業員が百人を越えていたりするんだから、馬鹿には出来ない。

 中規模程度の組織なら、中枢を同族で固めた方がうまくいくことも多いんだよね。

 そういうわけでアレサ様は営業、じゃなくて騎士としての採用になったと。

「一応、大公家にそれで良いかと問い合わせたのですが、ご自由にどうぞという回答だったもので」

「そうですか……」

 アレサ様、見捨てられてない?

「でも、アレサはとにかく真面目で熱心であることは確かです。

 騎士の訓練にも積極的に参加しますし、任務も断ったり渋ったりすることはありません。

 結果はともかくとして。

 やる気だけはあるので正騎士に任命したわけです」

 「任命」と来たか。

 つまり、セバレンさんの騎士団はソラージュやエラのような騎士が「叙任」されるような組織ではないんだろうね。

 見かけが派手だから判らなかったけど、やっぱり冒険者のチーム、いやその上のレイドだったかクランだったかの集団に近いものなのだ。

 でも一応大公家と契約を結んで騎士団らしいことをやっているので、俺の脳には「騎士団」と聞こえるんだろうな。

「しかし、やる気があってもそれだけでは」

 セバレンさんが声を落とした。

「本人の能力と乖離していると?」

「そこまでは。

 アレサは別に無能ではないのです。

 実際、役に立つ状況では切り札になり得ます」

 騎士団を代表させて俺に挨拶に行かせるとか?

「ただそういった状況が、現状ではあまり発生しないということなのですがね」

 それはそうだろうな。

 セバレンさんの騎士団って、地球で言えば小規模の民間警備会社のようなものだ。

 そんなところに貴顕がいても、大抵の場合は役に立たないどころか邪魔になるだけだろう。

「大体判りました」

 面倒くさくなったのか、ヒューリアさんがきっぱりと言った。

「ではアレサ様はそちらにお引き渡ししますので」

「はい。

 ご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした。

 今後はもう二度と皆様の前には」

「ちょっと待って下さい」

 え?

 今の、俺?

 みんなが一斉に俺を見たので内心パニクったけど、「俺」は何事にも動じない落ち着いた態度で続ける。

「アレサ様は、適所を得ておられないというだけだと思います。

 失礼ですが、セバレン団長の騎士団ではその真価を発揮できないのではないでしょうか」

「はあ。

 それはその通りだと思いますが」

 団長さんは、だから? と言う顔付きで俺を見返す。

 というよりは何か怯えている?

 まあ、外国の親善大使に迷惑をかけたわけだからね。

 俺、一応貴族だし。

 騎士団長にしてみれば、いい想像が出来るはずがないだろう。

 でも「俺」、何を言い出すつもりだ?

「そこで提案なのですが、アレサ様をそちらの騎士団所属のまま、私の親善使節団に出向させていただくわけにはいかないでしょうか?

 もちろんこちらからのお願いということで、依頼料をお払いします」

「それは……何とも」

団長さん、唖然としているな。

 俺がそんなことを言い出すとはまったく思ってなかったんだろう。

 俺もだけど。

「それは良い考えじゃな。

 双方に都合の良い提案じゃと思うぞ」

 いつの間に現れたのか、カールさんが割り込んできた。

「しかし。

 アレサはあれでもララエ公国の公女身分でして」

「気にすることはない。

 わしはソラージュの親善使節団の随員だが、帝国皇子でもある。

 エラの男爵令嬢と名乗っておった娘は、実はエラ王国の王女じゃしな。

 つまり、ヤジマ大使はそういった貴顕を使うことに長けているわけでの」

「帝国皇子殿下?

 これは失礼いたしました!」

「気になさるな。

 アレサ殿が普段は正騎士として扱われているようなものじゃ。

 宮廷でもない限り、身分がどうのと言いだすことはないよ」

「はあ……それにしても、なぜアレサを?」

 なぜなんだろう?

「それはもちろん、これからララエ公国で活動するに当たって、アレサ様が親善使節団に大いに力になって下さるからですわ」

 ヒューリアさんが更に割り込んだ。

 いつの間にか俺の戯れ言が発展している。

 あの「俺」もどっかに消えてしまった。

 無責任な。

「役に立つ、のですか」

「はい。

 ララエ公国の公女というご身分は、国家レベルでの事態の対処には無類の力を発揮します。

 ソラージュ王国親善大使としてでは出来ないことも、ララエ公国の公女殿下が絡んでいれば、容易に達成できることもございます。

 ですので、とりあえず我が使節団がララエ公国に滞在する間だけでも、アレサ様を出向騎士として預からせて頂きたいということで」

 そうなの?

 俺の戯れ言をそんな風に発展させるとは、みんな恐るべし。

 一方、聞いているうちに何とかいう騎士団長さんの表情が変化した。

 愛想が良いおじさんから、切れ者のビジネスマンを思わせるひんやりとしたムードに移行している。

 頭の中でCPUが激しく活動しているらしい。

 やっぱ、第一線で組織を率いる人は違うな。

「ふむ。

 ……少し、考えさせて頂いてよろしいでしょうか」

「当然でございます」

 オヌシもワルよのう、いえいえお代官様にはかないません、というような雰囲気で、ヒューリアさんと団長さんが笑い合う。

 俺、知らないからね。

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