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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第五章 俺が調停役(コーディネーター)?

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15.歓迎会?

 使用人の人が呼びに来たのは、日が暮れてしばらくたってからだった。

 やっとか。

 かなり腹が減っているんですが。

 ハマオルさんに言われた通り、ラフな格好に着替えて部屋を出る。

 会場は宿の前にある空き地らしかった。

 駐馬車場なのかもしれない。

 その中央には急遽用意したらしいキャンプファイアーが焚かれていて、その他にも松明が無数と言っていいほど立っていた。

 なるほど。

 武闘派の騎士団らしい演出だな。

 自分たちが野営するんだったら、周りの連中も巻き込んでしまえということなんだろう。

 何も考えてないのかもしれないけど。

「ヤジマ大使!

 こっちだ」

 カールさんに呼ばれて歩いて行くと、テーブルが並んだ所に親善使節団のメンバーが集まっていた。

 ルリシア殿下主従もいる。

 その周りを護衛が囲み、さらに後ろにはフクロオオカミをはじめとする野生動物たちが寝そべっていた。

 あー、これは安全だわ。

 実際、騎士団の人たちもビビッたのか近寄ってこないせいで、その周りはぽっかりと空いていた。

「皆さん、お疲れ様です」

「何の。

 親善大使には親善大使のお役目があるじゃろう。

 我らはそれ以外のことをしていただけよ」

 カールさんが豪快に笑い、影のように従うナレムさんもかすかに微笑んでいるようだ。

 何て言うか、この帝国皇子様は知れば知るほど得体が知れなくなるなあ。

 街の商人とかギルド総評議長とか地球の東ドイツ人で迷い人とか帝国皇族とか、蓋を開ける度に違う姿が出てくるような。

 エラ国王陛下とお友達だし、アウトドアでは生き生きするし、軽小説(ラノベ)の主人公枠なんじゃないの?

「席はないのですか?」

「バーベキューですので。

 立食式とでも言いましょうか」

 ハスィーの質問にアレナさんが困ったように答えている。

 傾国姫(ハスィー)って、ひょっとしたらバーベキューとかやったことがないんじゃないだろうか。

 アレスト興業舎では、舎員たちの気晴らしとかフクロオオカミへのサービスの意味で時々やっていたんだけどね。

 ハスィーが参加したことは無かったか。

 深窓の令嬢だからなあ。

 そういえば、深窓の令嬢どころじゃない王族もいたっけ。

「ルリシア殿下はこのような席をご存じですか?」

「バーベキューなら、小さい頃ですがクレモン邸で何度かご馳走になったことがあります。

 あの頃はあまり食糧事情が良くなかったこともあって、楽しみでした」

 心配無用だった。

 王女殿下の前は貧乏男爵の令嬢だったっけ。

 しかも貴族というよりはむしろ、下町を駆け回っていたような雰囲気があるよね。

 この人も型破りな王女様だ。

「ヤジマ大使閣下!

 始めたいと思いますが?」

 あの何とかいう騎士団の団長さんが大声で聞いてきた。

「大丈夫です」

「判りました!

 それでは!」

 そして、歓迎会とやらはいきなり始まった。

 誰かがちょっと挨拶したかと思ったら、わーっというかんじで食い物に群がる人達。

 歓迎会という話なのに、俺たちはほっとかれて忘れられたらしい。

 あちこちに置かれた移動式の野外焜炉で食材が焼かれ、騎士団の団員たちがそれを片っ端から食いまくる。

 セルリユ興業舎の舎員たちも負けていない。

 特にフクロオオカミたち野生動物の近くの焜炉はフル回転していた。

 食材を焼いたり煮たりしているのは狼騎士(ウルフライダー)隊の美少女騎士たちで、なるほどこうやって餌付していたのか。

 フクロオオカミたちが狼騎士(ウルフライダー)に従順すぎると思っていたけど、胃袋を握られていたわけね。

 野生動物たちだけでは食材を煮たり焼いたりできないからな。

 調理された飯を食おうと思ったら、狼騎士(ウルフライダー)に頼るしかないのか。

 セルリユ興業舎で出会った連中も、主に食い物のせいで帰りたくないとか言っていたし。

 恐るべしセルリユ興業舎、じゃなくてラナエ嬢。

 えげつなさは健在だ。

 シルさんかもしれないけど。

「あの……ヤジマ大使閣下」

 俺たちも適当に野菜や魚を焼いて食っていると、遠慮がちな声がかかった。

 振り返ると、小柄な騎士が立っている。

 女性だ。

 一瞬、狼騎士(ウルフライダー)かと思ったけど騎士服が違うのですぐに判った。

「これはアレサ様」

 ララエ公国何とか領の公女様だ。

 今は正騎士らしいけど。

 でも身分で言うと王族に近いはずなんだよね。

 護衛とかお付きとかいなくてもいいのか。

 まあルリシア殿下も俺のそばで何かほおばっていて、侍女のはずのロロニア嬢はどっかに行ってしまって放置状態だけど。

 アレサ様は突然深々と頭を下げた。

「歓迎会などと言って呼び出しておいて、お構いもせずに申し訳ありません。

 うちの団長からお詫びしてこいと命じられまして」

「いえ、こういった催しは野生動物たちにも好評ですのでありがたいのですが。

 ……団長殿が?」

「ご挨拶に伺おうとしたらしいのですが、その、後ろにおられる方々に圧倒されてしまったみたいです」

 そう言って視線を投げかけた先にはツォルがいた。

 確かに。

 体長4メートルの魔獣が何かをむさぼり食っている姿は、知らない人からみると金輪際近寄りたくない光景だよな。

 ちなみにツォルたちが食っているのは肉とかじゃなくて、チャーハンに似た穀物・野菜の炒め物や焼魚だ。

 あの図体なのに、フクロオオカミってむしろベジタリアンに近いんだよね。

 いかにも牛とか馬を襲って食い殺しているみたいな迫力(イメージ)なんだけど。

 実際には草食系だったりして。

「あー。

 それは失礼しました。

 ……アレサ様は大丈夫なのですか?」

「私は以前ソラージュに参ったことがありまして、アレスト興業舎のサーカスも拝見させて頂きました。

 セルリユでも、ヤジマ学園を見学させて頂きましたので」

 だから野生動物の方々が身体の大小や姿に関わらず、理性的なのを承知しております、とアレサ公女様じゃなくて正騎士さんは言った。

 いえ、それはセルリユ興業舎の毒に染まった連中だけで、大抵の野生動物は違うんじゃないでしょうかと言いかけたけど、ここでそんな話をしてもしょうがないよね。

 話を戻すと、つまり団長さんたちはビビッて近寄れず、生贄として若い公女様を差し出してきたわけだ。

 がっかりだね。

 気持ちは判らないでもないけど。

 まあいい。

 では勇気ある、かどうかは判らないけどこの公女様を歓迎しよう。

「それでは改めて。

 ソラージュ親善使節団のメンバーをご紹介させて頂きます。

 アレサ公女様」

 そう言ってハスィーたちを紹介しようとしたら、アレサ公女殿下が言った。

「……今は正騎士としてここにいますので、出来れば『公女様』は止めていただければ」

 うーん。

 ルリシア殿下二世か。

 庶民的な王族・公族に立て続けに会うって、偶然じゃなくて俺の所にそういうのが回ってきているだけなんだろうな。

 まともな大使や貴族相手には、まとも(笑)な貴顕が当てられるのだろう。

 まあ考えてみたら、夜中に屋外のバーベキュー会場でツォルが何かをむさぼり食っている所に平気で近寄ってこれる貴顕がそんなにいるとも思えないしね。

 この公女様も何か訳ありなんだろうな。

 大したもんだとは思うよ。

 一通り紹介が終わった所で締める。

「それでも見事な勇気です、アレサ殿。

 尊敬に値します」

 褒めすぎかと思ったけど、遠くからこっちを伺っている団長さんたちがちょっとウザかったからな。

 アレサさんはますます恐縮して言った。

「いえ。

 私は騎士としては落第スレスレで、お情けで第一隊において貰っているのです」

 上司がいないのをいいことに、アレサさんは日頃の鬱憤を晴らすように自虐を語る。

 それでいいのかララエ公国の騎士。

「ララエには7つの大公領がありますが、各領を統べる大公家の子女は全員公子または公女になります。

 その結果どうなるとお思いですか?」

 あー。

 なるほど。

(まつりごと)に関われる大公家の者はごく少数で、それ以外は何とかして生計(たつき)の道を探すことになるわけです。

 公国政府に奉職したり、貴族家に嫁入りしたりして、生残(サバイバル)りに励みます。

 大公家でも出来るだけ支援はしてくれるのですが、人数が多いと取りこぼしが出てくるのは仕方がありません。

 私も頭では理解しているのですが」

「アレサ殿は、それで騎士団に?」

「はい。

 伝統的に、騎士団は余った大公家の子女の最終処分場となっております。

 私はツス大公家の遠縁であるセラート騎士団長の伝手で奉職させて頂きました」

 処分場かよ(笑)。

「ですが、騎士団側は受け入れを嫌がります。

 それはそうですよね。

 大公家の者に何かあったら非難されるのは騎士団なので」

 愚痴っぽくなってきたぞ。

 でもまあ、大体判った。

 アレサさんもそうやって騎士団に押し込まれたんだろうな。

 それでも頑張って何とか正騎士にはなったものの、疎外されている上に碌な任務には使って貰えないと。

「使って頂いてはいるのです。

 ヤジマ大使閣下のお出迎えとか、ソラージュの視察団への同行とか、騎士団本来の任務とはかけ離れたお仕事ばかりですが。

 でも!

 いいんです!

 私は大丈夫です!」

 いや、大丈夫じゃなさそうですけど?

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