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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第五章 俺が調停役(コーディネーター)?

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14.略式の式典?

 日没よりかなり前に宿に到着。

 ちなみに地球のリゾートホテルのようなものを想像してはいけない。

 江戸時代なんだよ。

 幸い仕様は欧州風なので、現代日本人にはむしろ馴染みやすいんだけど。

 それでも地球のホテルと違って宴会場などが完備されているわけではなかった。

 その宿も、規模で言えば中くらいで俺たちソラージュの親善使節団に加えてセルリユ興業舎のスタッフが泊まったら満員になってしまいそうな規模だ。

 分遣隊とはいえ、7大公領の騎士団とセルリユ興業舎の派遣隊がみんな泊まれるような宿ではない。

 増して宴会などは。

「ソラージュ親善使節団の部屋は確保しました。

 それ以外の者は野営になります」

 そういうことね。

 もともと俺たちもララエの騎士団も、長期に渡る移動のための装備は自前で持ってきている。

 自炊設備もあるので、それを持ち寄って野外パーティとしゃれ込むということだった。

 ただし、ララエ公国の本当の代表とは宿の部屋できちんと会う必要があるそうだ。

 挨拶だけしたら、後は無礼講でパーティでいいらしいけど。

「変則的な対応ですね」

 セルミナさんが教えてくれた。

「ララエ公国は臨機応変な外交を得意とする一方で、頑なに手順を守ろうとする傾向があります。

 本来なら親善大使の歓迎などは公都サレステで大公会議が行うはずなのですが」

 何か理由があるのでは、とセルミナさんが言うけど、そんなの判らんものね。

 俺としては言われた通り淡々とやるだけだ。

 宿に着くと、俺たちは部屋に案内されてすぐに準備するように言われた。

 宴会(パーティ)の前に歓迎式をやってしまいたいそうだ。

 これをやらないと親善大使としての俺は正式にララエ公国に入国したことにならないらしい。

 手順を守ろうとするってこのことか。

 でもエラ王国の場合は離宮とはいえ国王陛下がいる場所に行ってから正式な挨拶をしたんだけどな。

 ララエは違うようだ。

 俺たちは、ていうか俺とハスィーは急いでシャワーを浴びて旅の汚れを落とすと、親善大使夫妻に相応しい儀礼服に着替えた。

 こんなの、ルミト陛下やユリス王子殿下に謁見した時くらいしか着なかったんだけどね。

 まあ、最初だけだろうし。

 ハスィーに格好をチェックして貰っていると、ハマオルさんがドアをノックした。

 いよいよか。

「それでは」

 何か偉そうな人に案内されて廊下を進む。

 偉そうなと言っても騎士団の偉い人というわけではなく、明らかに文官だ。

 宮廷の何かの役職についているんじゃないかな。

 侍従とか。

 ちなみに連れて行かれたのは俺たち夫婦だけで、他のメンバーは呼ばれていないようだった。

 ルリシア殿下もいない。

 親善大使だけ、手っ取り早く認証とかしたいのかも。

「こちらでございます」

 ドアを見ただけでも豪華な部屋と判るぞ。

 この宿で一番なんじゃないかな。

 侍従? の人がドアをノックして俺が来たことを告げると入室の許可がおりた。

「略式ですので、このままお進み下さい」

 侍従? の人が言うので、自分でドアを開けて、ハスィーと一緒に入る。

 ハマオルさんとリズィレさんが素早く続き、壁際に立つ。

 部屋の中にいたのは数人だった。

 正面にいるのは俺と同じくらいの歳に見えるイケメンで、髪が栗色だからエルフやドワーフじゃない。

「ヤジマ大使。

 こちらへ」

 イケメンの隣に立っている人が指示して、俺たちは静々と進んだ。

 で、どうすれば?

「ソラージュ王国親善大使、ヤジマ子爵夫妻。

 ララエ公国は貴下の入国を歓迎します。

 私はララエ公国公子、ユラン・タラノ・ララエです」

 いきなりかよ!

 しかも全部言われているし!

 しょうがない。

「ヤジママコトです。

 こちらは妻のハスィー・ヤジマ。

 ララエ公国の歓迎に感謝いたします」

 とりあえず定型文でお茶を濁す。

 魔素翻訳があるから、マジで無意味な返答だ。

 ユアン公子殿下は真面目に頷いた。

 振り向いて言う。

「これでいいかな?」

「確認しました」

 誰かが言って、途端にユラン公子殿下が肩の力を抜いた。

「すまない。

 ヤジマ大使殿には意味不明だったかもしれぬが、公廷がどうしても手続きはきちんとせよと言うもので」

「きちんとやったとはとても言えませんが、一応略式で無事完了しました」

 ユラン公子殿下の隣に立っている男が俺の方を向いて言った。

「失礼しました。

 こちらの都合で親善大使閣下を振り回してしまいました。

 私はララエ公国外務省のソロム書記官です。

 ララエ公国は、ヤジマ大使閣下を歓迎します」

 俺たちを置いてけぼりにして話が進んでいくけど、これってやっぱ「手続き」なの?

「ララエ公国には、他国の公式訪問者に対しては一定の儀式が済むまでは公にはその存在を認めない、という不文律があります」

 ソロムさんが言った。

 説明してくれるらしい。

「もちろん入国を認めないというわけではないのですが、認証儀式が済むまでは、例えばヤジマ大使閣下はソラージュのヤジマ子爵閣下として扱われます。

 一般の貴族として入国したことになるため、親善大使の外交特権が使えません。

 それでは色々とつけいる隙が出来てしまうので」

「ララエ公国の貴族からの干渉ということでしょうか」

 ハスィーが割って入った。

 無礼というわけではない。

 もう公式の挨拶は済んでいるし、ハスィーは俺の正室だからね。

「それもありますが……実は、出来れば早急に対処して頂きたい問題が発生しておりまして」

 ユラン公子殿下が手で額を支えた。

「まったくもってお恥ずかしい限りなのですが、現在のララエには対処できる者がいないのです。

 エラで活躍なさっていたヤジマ大使をいきなり呼びつけたご無礼についてもお詫びします」

 何なの?

 また変な事態に巻き込まれかけているのか俺?

 ていうか、多分もう逃げられそうにないけど。

「それはどのような」

「早急と言っても一刻を争うというほどではありません。

 とりあえず、今夜は騎士団がヤジマ大使閣下を歓迎したいと言っておりますので、明日お話しさせて頂きます」

 ユラン公子殿下は一礼してから、俺の目を避けるように立ち去った。

 外務省の書記官と名乗ったソロムさんも逃げるようにいなくなる。

 俺とハスィーは顔を見合わせた後、同時にため息をついた。

 何か知らんがララエ公国って、訳がわからん。

 でもユラン公子やソロム書記官って、どうも貧乏くじを引かされたような雰囲気がプンプンしていたからなあ。

 嫌な役目をお互いに押しつけ合って、力の関係で負けたとか。

 猫の首に鈴をつけるように命じられた鼠みたいな。

 いや、そこまでは酷くないか。

 まあいいや。

 明日には教えて貰えるらしいし、これから歓迎会だそうだから、嫌なことは先送りするか。

 さっきの侍従の人に案内されて部屋に戻ったら、何かえらく疲れた。

「何だったんだろう」

 ついぼやいてしまったら、ハスィーが答えてくれた。

「マコトさんならもちろんお判りと思いますが、おそらくは野生動物関連で何か大規模な状況が発生しているのでしょうね。

 ララエ公国には対処できる者がいないという台詞がありましたから」

 言いながらソファーに腰掛けると、いつの間にかそばに立っていたリズィレさんがお茶を配膳してくれた。

 こんなこともするんだ。

「ありがとう」」

「師匠……ハマオルに命じられました。

 親善使節団の他のメンバーは後で集合になるそうですので。

 ヤジマ大使閣下夫妻は、ここで寛いでいて頂きたいとの伝言です」

 ヒューリア様から、と付け加えてリズィレさんが下がる。

 そういえばハマオルさんがいないな。

 全体警備に回ったんだろう。

 つまり俺たちの世話をしてくれる人がいないわけか。

 従業員も来ないし。

「ララエ公国の騎士団の命令で、宿の従業員は総動員体制のようです。

 混乱状態なので、切り離しました。

 ここは(リズィレ)が守ります」

 ハマオルさんが人払いしてしまったらしい。

 まあいいけどね。

 7大公領の騎士団とソラージュのセルリユ興業舎派遣隊が入り交じって駆け回っているとしたら、確かにそんな場所には居たくないよな。

 準備が出来て呼びに来るまでは、ここで待機していようか。

 そういえばハスィーが何か言っていたっけ。

「ララエ公国で何が起きているか……って、やっぱりそれしかないよなあ」

「マコトさんがララエ公国内を自由に動けるようにした、ということは、そうなのでしょうね」

 野生動物たち、また何かやったのか?

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