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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三章 俺は冒険者チームのインターン?

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16.インターミッション~モス・ハラム~

 うまくいった。

 とりあえず、マコトは了承した。

 心配はしていなかったが。

 報告によれば、マコトは権威には従順だ。だが恐れ入って無条件に従うというわけではない。

 何というか、何らかの規範か、契約に従って行動を決めているように見える。

 つまり、理屈に合っていれば従うのにやぶさかではない、ということだ。

 逆に言えば、こっちが契約違反したとみるや、すぐに反旗を翻す恐れはある。

 極めて論理的。

 おそらく、マコトが生きてきた社会が高度に制御された規範や慣習によって安定を維持していたのだろう。

 マコトはそのルールに従っているだけだ。

 よって、こちらとしては常に真っ当に対応していけばいい。そうすれば、マコトは従ってくれるだろう。

 今回のような、マコトにとってリスクしかないような要請も、抵抗なく受け入れてくれたように。

 もっともマルトに取り込まれている以上、断られる心配などなかったが。

 だがこれで、マコトの身柄は確保したまま、ギルドとマルトに恩を売ると同時に、ギルドの動きをある程度把握できることになる。

 マコトがどうなるのかは別問題だ。

 はっきり言って、どうでもいい。

 というよりは、そもそも『栄冠の空』程度の組織が『迷い人』をどうこうできるはずもない。

 モスとしては、マルト商会やギルドの動きに「目」を残しておきたかっただけで、別に何か仕掛けようなどという野心はないのだ。

 正直、『栄冠の空』の代表としての仕事だけでいっぱいいっぱいで、これ以上何かやる余裕はない。

 通告の後、ハスィーがマコトと個人的に話しておきたいというので、念のために娘のキディをつけて送り出したが、まあ問題はないだろう。

 そうそう、キディにもそろそろ外部の風を当てるべき時が来ているのかもしれんな。

 物思いにふけっていると、無粋な声が聞こえた。

「代表、あれで良かったんでしょうか」

 ホトウが心配そうにこっちを見ている。

 マコトについて行かなかったようだ。

「別に問題はなかろう。後はギルドとマコトの問題だ」

「ですが、『栄冠の空』からも人を出すということは、僕らにもかなりの影響があるということになりますが」

「主導権はギルドが握る。我々は下働きだよ。マルトの所からも誰か出てくるだろう。さしずめ、あの若いのかな」

 何といったか。

 そう、確かジェイルだ。切れ者だが、まだ経験が不足しているな。

 少し、焦りが見えた。

 そういうものは、流れだ。

 下手に逆らったり強引に方向を変えようとしても、痛い思いをするだけだ。それどころか、やりようによっては将来に禍根を残すことになる。

 『栄冠の空』は、ここまでは順調に来たが、さらに一皮剥けるにはまだちょっと足りない。

 今回の件で、用意不十分なまま、うっかり前に出て行けば火傷することになる。ただ、「見」だけを出しておいて、あとは流れに沿って動けばいい。

 ホトウはまだ不満そうだったが、こいつも経験値がまだ足りていない。

 現場での実績は十分なのだが、そろそろ政治的な経験も積ませておく必要があるかもしれないな。

 ちょうどいい。

 マコトの監視役をやらせてみるか。

「よし。ホトウ、お前が今回の件を専任で担当しろ。ギルドから要求を聞き出して、最適な要員を準備しておけ」

「了解です」

「必要なら他パーティからの引き抜きを許可する。リーダークラスでもかまわん」

「もちろんです」

「今抱えている仕事は何だ?」

「いくつかありますが、緊急なものはありません」

「進捗状況をまとめて提出しろ。私の方からシルに言って、引き継ぎの手配をしておく」

 ホトウは、こいつにしては珍しく途方にくれた顔をしている。

 こういった仕事は初めてだったか?

「どうした。何か悩みでもあるのか?」

「いえ……代表、マコトって『迷い人』ですよね」

「そうなんだろうな」

「ひょっとして、僕たちは『大変動』の引き金を引くことになるんでしょうか」

 知っていたのか。

 頭がいいのは判っていたが、なかなかどうして、やるじゃないかホトウよ。

「さてな。それはわからんよ。むしろ、マコトを身近に見ているお前の方が詳しいんじゃないのか」

「それは……いや、失礼しました。早速、仕事にかかります」

 ホトウは慌てて出て行った。

 逃げたな。

 まあいい。気持ちはわからんでもない。

 だがホトウよ、こういうものは、たかが人間にどうこうできるものではないのだ。

 流れには従うのみ。

 我々は、ただ楽しめばいい。

 『栄冠の空』のモス・ハラム代表は、にんまりと微笑んだ。

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