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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第五章 俺が調停役(コーディネーター)?

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6.食事?

 しかし言われて見れば、俺ってハスィーに何もしてやってない気がする。

 婚約した時だって指輪を贈ったわけでなし、結婚の時も同棲からそのまま雪崩れ込んだだけだもんね。

 失敗ったな。

 何か贈り物をした方がいいのか。

「わたくしはもう十分以上に、過分に頂いております。

 何より結婚して頂けたではありませんか。

 それだけでも身が縮む思いですので、もうこれ以上のお気は使わないで下さい」

 ハスィーはそういうけど、やっぱりちょっとね。

 でも俺の嫁は自分自身だけで完全無欠なんだよなあ。

 アクセサリーなんかつけても、本人の輝きの中で埋没してしまうだけだろう。

 化粧の必要がないくらいいつも綺麗だし。

 まあ、おいおい考えよう。

「マコトさんがそうおっしゃられるなら。

 楽しみに待ちますね」

 ハスィーが微笑みながら言って、俺はズンと脇腹を突かれた気がした。

 宿題を貰ってしまった。

「わたくしの事より、マコトさんはどうなのでしょうか」

「何が?」

「欲しいものや集めたいものなど、ないのですか?」

 ハスィーに言われて考えてみたけど、特に思いつかない。

 いや、あのアニメの続きが見たいとか、あの軽小説(ラノベ)はどうなったのかとか、無理に思い出せば色々あるんだけどね。

 エアコンも欲しいし、日本式の風呂にも入りたいし、ラーメンも食いたい。

 でもそれはみんなこっちの世界では不可能な事だから。

 いや待て。

 風呂くらいなら実現可能か?

 ラーメンも本気で努力すれば何とかなるかも。

 だけど、優先順位的には低いんだよな。

 俺はまだ、サバイバルの最中だから。

 こっちの世界には年金も健康保険もないし、ヤジマ商会の会長などと言ったっていつひっくり返るか判らない。

 だからそういうのは老後の楽しみに取っておくべきなんじゃないかな。

「とりあえず仕事があってハスィーがいるから、欲しいものはないね」

 そう答えると、嫁は無言で抱きついてきた。

 いかん。

 さすがに移動中の馬車の中で襲うのはちょっと。

 ハマオルさんたち、絶対気づくし。

 幸い、ハスィーも色っぽく誘ってくるようなことがなかったので、何とか事なきを得たのであった。

 窓の外を見ると、結構な速度で景色が流れていた。

 急いでいるらしい。

 道も曲がりくねっている上にちょっと傾斜がかかっていて、山の中を進んでいるようだ。

 その分、路面の状態がイマイチなんだよね。

 俺たちの馬車は最新型でサスペンションみたいな機構がついているからあまり揺れないけど、他の人たちはきついんじゃないかなあ。

 もっと酷くなるようだったら、ルリシア殿下だけでもこっちの馬車に乗って貰った方がいいかも。

 そんなことを思っている内にお昼になり、道からちょっと外れた空き地に停まる。

 馬車で円陣を組んでから簡易テーブルが整えられ、昼食になった。

 随行の馬車から食べ物らしい包みが降ろされる。

 狼騎士(ウルフライダー)隊のアロネさんが俺たちの分を運んできてくれた。

 (シルバー)エルフって、明るい所で見るとマジ眩しいな。

「ありがとう」

「ランチ弁当です。

 基本、昼食はこの形になります」

「みんなの分もあるの?」

「はい。

 出発前に食材を用意します」

 用意がいいな。

 ていうか、初日はいいとしても明日からは大丈夫なのか?

「先行部隊が出ていますので、事前に宿や食堂などで手配します。

 これは偵察隊を兼ねていますから、セキュリティ面でも役に立ちます」

 不思議に思っていると、フクロオオカミたちが集まっている所にでかい鳥が舞い降りてくるのが見えた。

 ハマオルさんやシイルたちに何か報告しているようだ。

 野生動物の警戒態勢が出来ているのか!

「まだテスト段階ですが、実用試験は順調に進んでいますよ」

 アロネさんに何でもないように言うと、頭を下げてから去って行った。

 凄い。

 前からマジでドリトル先生かよと思っていたけど、現実(リアル)でそうなっているような。

 しかも偵察部隊とか警戒とか。

 このままではヤバい方向に行ってしまうんじゃないのか?

 俺は慌ててロッドさんを探して聞いてみた。

「まさか、軍隊になってませんよね?」

「マコトさん。

 気がつきましたか」

 ロッドさんはニヤッと笑った。

 まずいでしょう!

「違いますよ。

 マコトさんが最初に決めた理念は鉄則として守っています。

 これは狼騎士(ウルフライダー)隊だけではなく、野生動物全体の方針として認識されました」

「私の理念ですか」

 俺、何かそういうのって決めたっけ。

「『野生動物は人間とは戦わない』。

 素晴らしい理念です。

 帝国の難民の救助に向かうとき、マコトさんがユマ司法官閣下に確約させたことですね。

 『戦わない』のです。

 人間側がいくら戦おうとしても、相手にならない。

 同時に、人間の方も野生動物を争いのために利用しない。

 この原則は絶対です」

 さいですか。

 ああ、確かにそんなことを言った気がするな。

 ユマさんって頭が良すぎて、すぐにフクロオオカミの軍事利用とかを考えてしまうからね。

 釘を刺しておいたんだけど。

 そうか。

 これまで野生動物で軍隊を作るとかいう話が出てこなかったのは、そのせいだと。

「この理念はフクロオオカミ・マラライク氏族の長老を通じて動物会議で広められました。

 極めて単純ですが、これほど重要な事はありません!

 マコトさんが連中の間で『兄貴』と呼ばれるのは、この理念の提唱者であることが大きいのですよ!」

 ロッドさんが勝手に感激していた。

 ふーんとしか言えないよね。

 俺なんか、そんなことを言ったのを今の今まで忘れていたんだけど。

 でも、改めて言われて見れば確かに重要だよな。

 セルリユ興業舎での演習とか見ていても、野生動物を軍事的に利用出来たら、今のこっちの世界では無敵かもしれない。

 特に、電子機器なしで広域偵察が出来るというのはでかい。

 飛んでいる鳥を警戒する奴なんかいないからな。

 ロッドさんと話しているうちに野生動物たちが集まって来てしまって、みんなで「さすがはマコトの兄貴!」とか吼え始めたので、俺はすぐに切り上げて食事に戻った。

 ハスィーに加えて、親善使節団のみんなが迎えてくれた。

 ルリシア殿下主従もいる。

 みんなで和気藹々と弁当を食っていた。

 うーん。

 また俺の戯れ言が暴走しているみたいだけど、いいんだろうか。

「素晴らしいことではありませんか。

 マコトさんのお心が世界に広まって、より良い未来に向かっていくのですから」

 ハスィー、俺はキリストとかそういうんじゃないから。

 サラリーマンだから。

 地球でもこっちでも、ボランティアすらやったことがないんだからね。

 過大評価は止めて。

「その件については、わしも感心しておるよ。

 人間と野生動物のあるべき関係を、これほど端的に表した言葉はないじゃろうて」

「それほどのものでしょうか」

 俺の疑問に、カールさんが淡々と答えた。

「地球……わしらの世界でなら、これは単なる人間側の自分勝手な論理にしか過ぎん。

 じゃが、こちらではむしろ人間の方が弱者じゃ。

 野生動物たちは連携して戦えるのじゃからな。

 もし敵対したら、人類に勝ち目はないじゃろう」

 そうだよな。

 科学兵器があったとしたって、最終的に人類側が勝つことなんかあり得ない。

 殲滅戦になってしまう。

 地球そのものが敵になるようなもんだからね。

 万一勝てたとしたって、人類以外の野生動物をすべて滅ぼしてしまったら人類もまた滅亡する。

 物理的には勝てても、生態系が丸ごと崩壊するんだから。

 それだけじゃないぞ。

 おそらく種族としての精神的外傷(トラウマ)が酷すぎて生きていけない。

 自暴自棄になって自滅するだけだ。

「マコトさんがそのような事を。

 知りませんでした。

 ますますファンになりました」

 ロロニア嬢が呟いたが、ハスィーは珍しく反応しなかった。

 俺にピタッとひっついて目を閉じているから、周りの声が聞こえてないのかも。

「アレスト興業舎やセルリユ興業舎でも、その原則は最優先で守られています。

 それだけではなく、騎士団や警備隊にも理念として浸透させているはずです。

 ソラージュだけではありません。

 今回の遠征は、他国やソラージュ以外の野生動物の間でもその原則が守られるかどうかの確認を兼ねていると聞いております」

 アレナさんが言った。

 そうなのか。

 凄いね。

 全然知らなかったけど。

「マコトさんのお力ですよ。

 この理念があるからこそ、野生動物の方々が進んで協力して下さっているということもあります。

 でなければ、これほど急速に協調体制が整うことはなかったはずです」

「さすがは『マコトの兄貴さん』です!」

 ルリシア殿下が弁当を食いながら感激して叫んだ。

 いや。

 「マコトの兄貴さん」って何?

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