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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第五章 俺が調停役(コーディネーター)?

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5.出発?

 違った。

 ナレムさんの話では、帝国騎士(ライヒスリッター)が守るのは帝国政府の命令で活動する貴顕だけだということだった。

 戦場における早駆けとかね。

 つまり、ただ帝国の貴顕というだけでは護衛対象にならないのだ。

 日常生活における護衛はその貴顕個人の裁量になる。

 自分で費用を負担して装備を揃え、生活費や給料を払って護衛して貰うわけね。

 帝国騎士(ライヒスリッター)は、そういう意味では貴顕個人の雇い兵じゃないので、護衛対象からは給料を貰わない。

 帝国政府のお雇いなのだそうだ。

「でも、帝国騎士(ライヒスリッター)は自分で護衛対象を選べるのですよね?」

 ルリシア殿下の問いに、ナレムさんは淡々と応えた。

「誰でも良いというわけではございません。

 いくつか条件があって、そのすべてに当てはまった場合のみとなります」

 その条件が気になるけど、それはいいや。

 つまりナレムさんが退職したってことは、カールさんがその条件から外れたんだろうな。

「私は、どうしてもカル様の護衛をさせて頂きたいと考えましたもので。

 思い切って帝国近衛団を退職し、カル様に直談判したわけです。

 幸いかなり蓄えがありましたため、いざとなれば無給でもお仕えしたいと思っておりましたが、幸いカル様に執事として雇って頂くことが出来ました」

 凄いな。

 何があったんだろう。

 いや聞かない方がいいだろうな。

 ルリシア殿下も思う所があったようで、質問は終わった。

 何か謎が解けるどころか増えた気がするけど、まあいいか。

 俺には関係がない話だ。

 その後、俺たちは愉快に歓談した。

 俺たち以外が駆け回ってくれたこともあって、翌日にはもう出発することになった。

「本国政府からの命令では、とりあえずララエ公国の首都サレステに向かえということです。

 至急となっておりますので、護衛も速度を重視して狼騎士(ウルフライダー)隊を含む野生動物護衛分隊をメインとします」

 ロッドさんが報告してくれた。

 ちなみにロッドさん率いる騎士隊については、建前上は俺の護衛なので野生動物訓練チームを除く全部隊が随行してくれるそうだ。

 でなければ、公的な用もないのにソラージュの騎士隊がよその国に滞在していることになってしまうからな。

 それに加えてヤジマ警備からハマオルさん直属の数名。

 さらに俺の馬車には犬猫の護衛隊がついてくれるらしい。

 猫はずっと馬車の中で猫撫で要員を兼ねるけど、犬の人たちは交代で馬車に併走するとか。

「大変ですね」

「何、(イヌ)らにとってはむしろ馬車などに乗る方が大変です。

 正直言えば、併走する程度では運動にもならぬほどです」

 黒犬のサダリさんが淡々と答えた。

 プロだな。

 ちなみに飯は自給自足するらしい。

 料理設備を持って行くと速度が落ちるのだが、これだけは譲れないと野生動物たちがストライキも辞さない構えだったそうだ。

 君ら、本来は野山で自分で食い物を調達するのが当たり前なんじゃないの?

「料理された食い物は我々の熱意の糧なのです!」

「飯が不味いとやる気が出ません」

 ナポレオンの軍隊みたいだな。

 兵士は胃袋で行進する、だったっけ。

 違うかもしれないけど。

「後のことはお任せ下さい。

 我々はもう少しエラ王都(エリンサ)で足場を固めてから、後を追います。

 また都合が付き次第、支援隊を向かわせますので。

 ララエ公国にもセルリユ興業舎の支店がありますから、そちらにも連絡しておきます」

 残念ながら、フォムさんたちセルリユ興業舎北方派遣隊の幹部はついてきてくれない。

 足がないし、そもそも王政府からの命令は親善大使(オレ)に対するもので、セルリユ興業舎とは関係がないからだそうだ。

 ただソラルちゃんは、都合が付き次第追いかけてきてくれる予定らしい。

 狼騎士(ウルフライダー)隊の方はシイルが選抜隊を率いてついて来てくれるそうで、心強い限りだ。

 親善大使とか言っても、自分じゃ何も出来ないからなあ。

 フクロオオカミの群れが護衛してくれるんなら安心だ。

「マコト殿に手を出そうなどと考える者は、もうおらんと思うがの。

 王宮の衛兵隊がマコト殿を将軍(インペラトール)と呼んだことは、既にエラどころか周辺諸国にも広まっておるそうじゃ。

 マコト殿の後ろには、見えない軍隊がついていると思ってよい」

 カールさんが戯れ言を言っていたけど、まさかね。

 その原因となったエリンサ犬類連合のライラさんには事情を説明して、納得して貰った。

 犬類連合の会舎化はフォムさんたちセルリユ興業舎が請け負ってくれるらしい。

 専門家(プロ)をソラージュから呼び寄せるなどの対応もしてくれるということで、ライラさんはシッポを激しく振って感謝してくれた。

「マコト殿。

 我らにも御身を『犬類の友』と呼ばせて頂けるでしょうか」

「もちろんです。

 光栄です」

 何かよく判らないけど承認しておく。

 「マコトの兄貴」と似たようなもんだろうし、もうドルガさんからそう呼ばれているからね。

 今更ひとつくらい増えても大した問題はないだろう。

「マコトさん。

 ……いえ、何でもありません」

 セルミナさんから何か凄く残念な顔を向けられたけど、だって俺にはよく判らないから。

 サラリーマンは言われたことをすべて受け入れて、その上で努力するものなんだよ。

 お前はA社の担当だと言われたら、無条件で「はい」と答えるのだ。

 そうやって会社というものは動いていくわけで。

「マコトさんは会舎員(サラリーマン)というよりは経営者、いえ企業の総帥(オーナー)なのでは」

 ヒューリアさんにも残念そうな表情を向けられてしまった。

「マコトさんはそれでよろしいのです。

 きっと何か深いお考えがあるに違いありません」

 ハスィー、無理してかばってくれなくてもいいから。

「その通り。

 マコトさんの思う通りにすればいい。

 私たちはただ、ついて行くだけ」

「ロロニア、あなたは別についてこなくてもよろしいです。

 妻たるわたくしがマコトさんの背中を守ります」

「それでは私はマコトさんのすぐ前を行く。

 露払いをする」

「不要です!」

 ルリシア殿下主従には、悪いけど別の馬車に乗って貰おう。

 混乱状態のまま、俺は馬車に乗り込んだ。

 俺の馬車にはなぜか俺たち夫婦しか乗ってない。

 遠慮されてしまったらしい。

 他の馬車は狭くて、こっちほど乗り心地は良くないらしいんだけどね。

「どちみち全員は乗れませんので。

 それに、同乗するとしたらまずはルリシア殿下ですよ。

 つまり、ロロニアがついてきます」

「わかった。

 俺たちだけで行こう」

(あるじ)殿。

 それでは出発いたします」

 御者をやってくれているハマオルさんの声がして、馬車が動き出す。

 リズィレさんの顔がちらっと見えた。

 専任護衛だからね。

 やれやれ。

「やっと静かになりましたね」

 ハスィーがしみじみと言った。

 俺の肩に頭をもたれかけてくる。

 ホントだよ。

 何か疲れた。

 精神的に。

「そういえばハスィーはロロニアさんが苦手なの?」

 ちょっと気になっていたので聞いてみる。

 他の人がいない所じゃないと聞けないしね。

 ハスィーは少し悩んでから言った。

「苦手というほどではありませんね。

 むしろ本音が出る分、精神的には楽かもしれません」

「喧嘩友達ということ?」

「違います」

 ハスィーはちょっとむっとしたようだった。

「『学校』時代は、ほとんど話したこともありませんでした。

 あの頃のロロニアは必要最小限の言葉しか使わず、大抵の場合は沈黙を持って応じていましたから」

 ロロニア嬢、ますます長門○希じゃないか。

 まさか○ルヒとかはいなかっただろうな?

「そのハ○ヒという方がどのような存在なのかは存じませんが、ロロニアはエラ出身ということもあって孤高を貫いていました。

 ラナエなどの方が級友たちとよく話していたほどです」

 いや、多分ハスィーはもっと孤高だった気がする。

 確か、ロロニア嬢ってヒューリアさん以上に裏で動いていたんじゃないの?

「それについては存じませんが……わたくしは手元が不如意で、何かを購入するような余裕がございませんでしたので」

 ハスィーは赤くなった。

 そうか。

 ビンボだったんだよな、俺の嫁は。

 それが今では多分、「学校」仲間の間ではトップクラスの稼ぎ頭だ。

 ギルドの執行委員時代もそうだし、今だってヤジマ商会の副会長だもんね。

 うーん。

 そういや、ハスィーって何かを欲しがることがないよね?

 我慢しているわけじゃなくて、物質的な欲自体がなかったりして。

「それを言えば、マコトさんだってそうですよ?

 あれだけの稼ぎがあるのに、特に何かを欲しがることがないではありませんか。

 普通なら殿方は美術品を買い集めたり、女性との交際にお金を使ったりすると思っておりましたが」

 ハスィーが不思議そうに俺を見た。

 いや。

 俺の嫁に勝る女性や美術品ってないから!

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