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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第五章 俺が調停役(コーディネーター)?

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2.押しつけ?

 ルリシア殿下、というよりはロロニア嬢を通じて宮廷に連絡を取って貰ったところ、幸いルミト陛下は王都エリンサに帰還していることが判った。

 本来ならまず謁見のお願いを出して、陛下のご予定の空いている時間に割り込ませて頂く、という手続きが必要なのだが、ロロニア嬢が戻ってきて言う事には「今日中に来れば会ってやる」とのことだそうだ。

 何それチート。

「ルミトの奴にも情報が行っているはずだから、便宜を図ってくれとるんじゃろう」とカールさんが言ったけど、それでもあんまりな厚遇だ。

 他の国の大使が聞いたら激高しそうだな。

 知られないようにしないと。

 でもこっそり行くなんて出来ないわけで、俺は出来るだけ目立たないようにセルミナさんと二人だけで王宮に向かった。

 ハスィーはおかんむりだったけどしょうがない。

 傾国姫が動くと、ただそれだけで王都エリンサにニュースが走るようになってしまっているからな。

「二人だけで出かけるって、初めてでございますね」

 セルミナさんがはしゃいだ声を上げたけど、止めて。

 誤解しようと待ち構えている人たちがいっぱいいるから!

「誤解ならよろしいのですが……確かに曲解しそうな方ばかりですわね」

 ちょっと身震いしていたけど、その気持ちは判る。

 俺も狼騎士(ウルフライダー)とか言われたら似たような気持ちになるから。

「そうではないのですが……まあよろしいでしょう。

 真面目なお話をしましょう」

 今までは不真面目だったの?

「大使が本国政府からの命令で急に出国するのはよくあることで、外交的には特に問題になることではないのですが、ヤジマ大使閣下は親善大使です。

 その親善を損なうような方法は止めた方が良いでしょうね」

「親善を損なう、ですか」

「はい。

 今回のソラージュ本国からの指示は帰国ではなく、そのままララエに向かえということですので、考えようによってはヤジマ大使閣下がエラよりララエを重視しているというような解釈も可能です。

 親善大使という職務上、その行動原理は『親善』ですから」

「ではどうすれば」

「おそらくルミト陛下から何らかの条件がつくと思われますので、出来るだけそのお考えに沿うように対応願います」

 まあ、ルミト陛下のご性格やヤジマ大使閣下との友好関係から言って、そんなに無体な事はおっしゃられないと思いますが、とセルミナさんは微笑んで言った。

 おっかないな。

 俺の行動いかんでソラージュとエラの関係に罅が入ったりして。

 まあルディン陛下からは好きにやれと言われているんだから、俺がどうしようが勝手なんだけどね。

 建前上は。

 自分の国の国王(トップ)に楯突いていいことは何もないわけだから、そこら辺は最大限考慮しなきゃならないか。

 護衛の馬車を従えて馬鹿でかい王城に行き、入城の手続きをお願いすると、しばらく待たされた。

 やっぱ急だからかなと思っていたら、門をくぐった途端に整列した衛兵隊に出くわした。

 しかも、俺の馬車が通り過ぎると同時に捧げつつっていうの?

 揃った動作を見せてくれる。

 止めて欲しい。

「ヤジマ大使閣下。

 返礼を」

 ハマオルさんに急かされて、俺が急いで御者台に上がって答礼すると、ウォーッというような歓声が上がった。

「お見事です。

 (あるじ)殿」

 いいけどね。

 しかし、これ登城するたびにやられるのかよ。

(あるじ)殿にこうやって敬意を捧げられるのは、たまたま当直していた衛兵たちの特権です。

 衛兵にとっても名誉なことなのですから、できる限り応えて差し上げるとよろしいかと」

「判りました」

 ハマオルさんが言うんだから間違いないだろう。

 手続きだと考えればいいか。

 馬車の席に戻ってセルミナさんを見ると、満面の笑みだった。

 何?

「ヤジマ閣下は、私がお仕えした外交官の中では断トツのトップでございます。

 私は閣下にお仕えできたことを誇りに思います」

 さいですか。

 俺が何したか俺もよく判らないけど、セルミナさんがそれで満足なら別にいいです。

 前と違って衛兵が逃げてしまったというようなこともなく、順当にルミト陛下の前に通される。

 私的(プライベート)な謁見らしく、貴族が並んでいるようなことはなかった。

 侍従長のワラムさんが控えているだけだ。

 後はもちろん護衛が並んでいるけど、そういうのはいないことになっている。

 ハマオルさんたちは閉め出された。

 俺とセルミナさんのそばにはペットでございというふりをした犬と猫がいてくれるけどね。

 謁見の口上を述べようとしたら「そんなのは良い」と止められた。

 ざっくばらんすぎない?

「ルディンから緊急の連絡が来た。

 何が起きているのかよく判らぬが、大変らしいことは判った。

 自由に出国してかまわん」

「ありがとうございます」

「ただし条件がある。

 まず、セルリユ興業舎は置いていくのだな?」

 セルミナさんが応えてくれた。

「はい。

 あれらはもともと親善使節団が直接随行しているものではございませんので。

 独自に動きます。

 もっとも一部はヤジマ閣下に同行する事になると思いますが」

「それはかまわん。

 活動がいきなり停止したというような事がなければ許す。

 次に、親善使節団はエラからの遠征という形をとって貰いたい」

 何とおっしゃる。

「それは、つまりエラ王国に本拠を置いたままララエ公国に一時的に移動する、ということでございますか?」

「そうなるな」

 変なことを言うもんだ。

 俺たちはソラージュの親善使節団だぞ?

 本拠も何もないでしょうに。

 俺が頭をひねっていると、セルミナさんが頷いた。

「要するに現在の臨時親善大使館をそのままにしておくように、ということでしょうか」

「そうだ。

 形式で良い。

 マコト殿以下ソラージュ親善使節団は、本拠地をエラに置いたまま他国に行っている、という建前を維持して欲しいのだ。

 貴族どもが五月蠅いのでな」

 何が五月蠅いのでしょうか。

「ヤジマ大使閣下がこのまま他国に渡って帰ってこないことを心配する者がおります。

 商売を始めた途端、オーナーに逃げられるのかと心配になるわけです。

 ヤジマ閣下の大使館が維持されていれば、そのような心配は解消されますので」

 ワラムさんが説明してくれた。

 そんな馬鹿な理由で俺を止めようとする輩もいるのか。

 ルミト陛下も苦労しているんだな。

 判りました。

 そのくらいお安い御用です。

 セルリユ興業舎やヤジマ食堂(レストラン)もあの屋敷を拠点にしているから、どっちにしても屋敷の維持は必要だしね。

「お心のままに。

 あの屋敷はそのまま維持します」

「うむ。

 それを聞いて安心する者も多いであろう。

 でもまあ、たまには戻って来てくれると嬉しいが」

 ソラージュに帰国する前にはもう一度エリンサに来る必要はあるだろうね。

 地図で見たけど、ソラージュの北部国境はほぼエラ王国に接しているんだよね。

 東部はララエ公国だ。

 つまり、俺がララエから直接ソラージュに帰国するのでなければ、北方諸国を巡った後どっちみちエラを通ることになる。

 海路をとるなら別だけど。

「ではそれでよろしいでしょうか」

 話がついたと思って立ち上がりかけたら、ルミト陛下が言った。

「もう一つ、依頼いや願いがある」

 他国とはいえ王様の命令(おねがい)だ。

 聞くしかない。

「何でも」

「マコト殿につけているルリシアとその侍女のロロニアだが、連れて行ってくれぬか」

 何と?

 ロロニア嬢はともかく、ルリシア殿下って正規の王女ですよね?

 絶句した俺の顔から視線を逸らしながら、ルミト陛下は続けた。

「別にソラージュの親善使節団に入れろとは言わぬ。

 臨時雇用の随員といった形で同行させて欲しいのだ。

 もちろん費用は払う」

 いえ、そういう問題じゃなくでですね。

「ルリシアもそうだが、特に侍女のロロニアは何かと役に立つぞ。

 クレモン家のネットワークはエラに限定されないからな。

 それもマコト殿が自由に使って貰って構わない」

 ルミト陛下、怪しいですよ?

 何企んでます?

 王族をよその国の親善大使なんかに預けて何をしようと?

 政治(おわらい)の臭いがぷんぷんするなあ。

 面倒くさいんだよ!

 でも王様に向かってそんなことは言えないので、俺は決断した。

「お心のままに。

 ルリシア殿下とロロニア嬢、およびその随行員はソラージュ親善使節団ではなく、私が個人的に引き受けます」

 ゴネられて、出国を禁止されでもしたらどうしようもなくなるからな。

 それに、あの二人はヤジマ商会で雇うことになっている。

 それが許可されたと思えばいいか。

「そうか。

 よろしく頼む。

 ちなみにルリシアにはまだ決まった相手がいないからな」

 ハスィーがいなくて良かった……。

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