16.お願い?
初のレビューを頂きました。
嬉しいものですね。
ありがとうございました。
途端にアクセス数とブックマークが増えました。
やはり皆さん見てるんでしょうか。
フクロオオカミたちには、せっかく来てくれたのにすぐ帰れというわけにもいかないので、とりあえず待機して貰うことにした。
臨時親善大使館に付属するレストランからおやつがわりに余った食材などを提供して貰うと、連中は喜んで食った後、思い思いに寝転がった。
仕事だからセシアラ公爵領まで往復したりしたけど、やはりここ数日駆け回ったせいで身体が怠いらしい。
だったらエリンサ支店に戻って寝ればいいのに。
邪魔なんだよ!
臨時親善大使館の前を通りがかる人がビビッてるぞ。
知らない人が見たら、庭が魔獣の群れに占拠されたようにしか見えないからな。
「シイルの姉御たちを乗せて帰らないといけないので」
誰か知らないけど、頭が良さそうなフクロオオカミが言ってきた。
「姉御たちの仕事が終わるまで、私らはここで待機してますから」
口が回る奴もいるようだ。
「エリンサ支店に戻ると、何かと用を言いつけられるんですよ。
力仕事はいくらでもありますから」
アロネさんが教えてくれたけど、やはりそうか。
サボりだな。
まあいいか。
昨日まで大活躍だったからなあ。
サラリーマンなら業務に支障が出ない限り、自分の体調を整えておくべきだ。
その気持ちは判るから、何も言わないでおこう。
「昼前には戻しますので。
ランチまで提供したら、食材を食い尽くされますよ」
それはまずい。
レストランに迷惑がかかってしまう。
順調に発展しているらしいし、そのうちに臨時親善大使館の付属じゃなくて、こっちが乗っ取られてしまいそうだ。
ていうか、この屋敷はあくまで「臨時」の大使館だから、俺たちがエラ王国を去った時にはセルリユ興業舎かどっかのお店になるんだろうな。
「マコトさん。
先方と連絡がつきました。
すぐにいらっしゃるそうです」
セルミナさんが教えてくれたので、俺は急いで準備を進めた。
面会室なんかは使用人の人たちがやってくれるので、準備といっても俺自身の事だ。
親善大使じゃなくてヤジマ商会会長に会いたがっているという話だから、ヤジマ商会の上級職用制服に着替える。
シンプルで作業着に近いんだけど、公式の式典に出ても違和感がないくらい高級そうな雰囲気の服なんだよね。
シイルたちは着ている騎乗服がそのまま正装だ。
まあ、犬類連合相手に人間の服装が意味を持つとは思えないんだけど。
でも、礼儀だからね。
それにセルリユの犬類連合はヤクザか右翼並に統制がとれた集団で、規律を重視していたし。
多分、エリンサの犬類連合も変わらないんじゃないかな。
犬の性質からして。
部屋で待機していると使用人の人が呼びに来たので、ハマオルさんや護衛の犬猫の人たちと一緒に会議室にしている部屋に向かう。
今回は俺だけで、ハスィーたちの同席は断った。
あまり関係がないからだが、実は今日は会うだけのつもりなのだ。
商談とかするつもりはない。
むしろ、セルリユ興業舎との渡りをつけるくらいの気持ちだね。
だって仕事の話とか、俺判らないから。
ソラージュの犬類連合は、会舎化する前は行ってみれば野良犬の群れ以上のものではなかったから、どっちにしてもいきなり商談が始まるとは思えないしね。
では何の用かというと、やっぱりよく判らないんだけど。
だから、万一の時のために護衛は増やしている。
でも犬がいきなり襲いかかってきたら、無事では済まない気がするな。
「ご安心下さい。
我々が身をもって止めます」
護衛の犬が言ってくれた。
巨大な黒犬だ。
ええと、サダリさんだっけ。
インパクトが強かったから覚えてしまった。
サダリさんって、男だよね?
「心配ないでしょう。
敵意や戦意はないようです」
サダリさんの部下の人が言った。
「ハクは鼻が利きます。
捜索や判別の専門家です」
さいですか。
もはやミッション・イ○ポッシブルの世界ですね。
魔素翻訳で意思が通じるだけで、ここまで社交が広がるとはなあ。
地球の犬猫も、ここまで考えているのだろうか。
知らないのは人間だけだったりして。
会議室には、まずハマオルさんと部下の警備の人が入った。
すぐに手招きするので安全なようだ。
ゾロゾロと入る。
会議室はテラスルームとでも言うべき部屋で、ドアが大きく開いていて、中庭のフクロオオカミたちが見えた。
寝転がっているからあまり脅威には見えないけど。
演出くさいな。
セルミナさんか?
面会希望の犬たちは、ソファーではなくテラスに近い床に並んで座っていた。
ダリさんに匹敵するほどでかい灰色の犬が先頭で、その後ろに5頭並んでいる。
ドルガさんの時は若頭みたいな犬がいたけど、エラ王国では違うのか。
俺の後ろに狼騎士隊の隊長、副隊長、それに第一分隊長の3人が起立の姿勢で並び、俺の左右に護衛の人たちが展開する。
ハマオルさんは少し下がった。
位置が決まったのを確認してから、俺が言った。
「ようこそ。
私がヤジマ商会会長のヤジママコトです」
「初めまして。
ヤジママコト殿。
お忙しい所を、時間を割いて頂いて感謝します」
灰色の犬が吼えた。
「私はエリンサの犬類連合を束ねるライラです。
こちらは私の配下のものたちです」
「「「よろしくお願い致します」」」
吠え声が五月蠅いけど、敬意は判った。
「皆さん初めまして。
ところで、どういったご用件でしょうか」
野生動物相手に近況や天気の話をしてもしょうがないので、単刀直入に尋ねる。
俺だって暇じゃないからね。
本当なら今日の午前中は休みで寝ていられたはずなのだ。
幸い、ライラと名乗った灰色犬は気にしなかった。
当然か。
「はい。
是非ともお願いしたいことがありまして」
「お願いですか」
よその国の野生動物に俺が何をしてやれるというのか。
ライラと名乗った灰色犬は、背筋を伸ばして座り直した。
でかいな。
体長が1.5メートルくらいはありそうだ。
「ヤジママコト殿の事は噂程度には聞こえておりましたが、眉唾物だと考えておりました。
ですが、ソラージュから来たドルガ実業の担当者からその話が真実である、と教えられました」
俺の噂?
野生動物関係の?
「私の噂ですか」
「はい。
ソラージュで新しく設立されたヤジマ商会という会舎の後ろ盾で、セルリユの犬類連合が企業化できたと。
それに伴い、セルリユ中の犬類が急速に統合化され、生活水準が向上しているとのお話です」
ああ、そのことね。
でもドルガ実業がエラに使者を送っていたとは。
あの犬神、凄いな。
「ドルガ実業自体というよりは、セルリユ興業舎の事業展開に伴う便乗だったようですが。
いずれにせよ、エリンサ在住の我々犬類連合はそれによって奮い立ちました。
ソラージュの犬類に出来るのなら、エラの我々にも出来るはずだと。
そこで我々エリンサの犬類連合は会議を開き、王都の統一組織を作るに至ったわけですが」
「が?」
「ドルガ実業からの使者は、事業ノウハウの伝授は出来ても会舎設立の手伝いは出来ないと言うのです。
どうしても、人間に仲立ちして貰わなければならないと」
「それはそうでしょうね。
ああ、だからヤジマ商会の私に?」
なるほど。
だから「お願い」か。
後ろ盾になれとか、名前を貸してくれということだろうな。
でも無理なんじゃない?
エラ王国のギルドにヤジマ商会の名前が利くとは思えないし。
いや口座を開いて資金力があることは判っているから出来るかもしれないけど、でもよその国だからな。
利権とかで色々言われそうな気がする。
「ヤジマ商会が直接ライラさんたちの会舎に出資するのは難しいのでは」
俺が言うと、ライラさんは頷いた。
「それは承知しております。
我々が調べたところでは、そもそもエラで野生動物が会舎を設立することはかなり難しい。
特に犬類連合などという前例がない組織では、有力者の後押しがなければまず不可能だと」
さすがに判っているか。
じゃあ、なんで俺に?
ちょっと待てよ。
ひょっとして?
「はい。
ヤジママコト殿には、是非ともエラ王国国王との仲立ちをお願いしたく」
パネェ。




