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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第四章 俺が将軍(インペラトール)?

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14.恩人?

 グダグダになってシャワーを浴び、身体を乾かしてから着替えて食堂に行くと、ルリシア殿下に加えてミラルカ様以下セシアラ公爵家の皆様が待っていてくれた。

 ていうか、俺が待たせたみたいだ。

 親善大使の分際で王女殿下や公爵家の方を待たせるとは何事か、と思ったけど仕方がない。

 一応、俺が主賓ということになっているらしいし。

 ルリシア殿下はオブザーバーの立場の上、そもそも王女の身分を公にして男爵領を訪問したりしたら大変なことになる。

 だから多分、対外的には男爵家の令嬢ということになっていると思う。

 身分的に言えば、この中では俺がルリシア殿下の次に高位だからね。

 ミラルカ様は公爵の妹君(いもうとぎみ)というだけで正式な身分はないし、あとは何とかいう若い男爵だけだ。

 俺は子爵だし大使だから伯爵として扱われる。

 カールさんがいればダントツのトップなんだけど、ここには来てないから。

 遅れたことを謝りながら席につき、粛々と朝飯を食う。

 朝クイホーダイに慣れた俺には物足りない量だったけど、後で差し入れでもして貰おう。

 すぐに食べ終わってミラルカ様にこれからの予定を聞くと、しばらくはここで新会舎の設立について検討したいとのことだった。

 セルリユ興業舎の人も何人か残るようだ。

 てことは、俺いらないよね?

「この度は誠にありがとうございました。

 セシアラ公爵家を代表して感謝させて頂きます」

 ミラルカ様は満面の笑顔だった。

 身内の不手際で危うく大問題になるかと思ったのに、蓋を開けてみたらセシアラ公爵家の発展に大いに寄与しそうな結果になったわけだしな。

 それは笑顔がこぼれるよね。

「それでは、お先に失礼させて頂きます」

 ミラルカ様の了解を貰って引き上げる。

 正確にはこの屋敷や領地の責任者は何とか男爵のはずなんだけど、誰もそのことは口にしない。

 あれは無かったことなのだ。

 ていうか、男爵自身がここには居なかったことにされかねないな。

 お飾りとはいえ新会舎の代表になるらしいから、心配しなくても大丈夫だろうけど。

(あるじ)殿。

 準備は出来ております」

「判りました」

 何事にも先手必勝なハマオルさんが言ってくれて、俺たちはそのまま馬車に乗った。

 セキュリティ上の都合もあって、ルリシア殿下主従やヒューリアさんも一緒だ。

 出発して領主館の方を眺めると、ミラルカ様以下公爵家じゃなくて何とか男爵家の皆さんが並んで頭を下げていた。

 そんなのいいのに。

 俺たちの馬車の前後を護衛の馬車が囲み、その周りを狼騎士(ウルフライダー)隊が一組ずつついてくれている。

「後は?」

 護衛が少ない気がする。

「フクロオオカミは人を長期間乗せて走るとバテるので、交代で警備するらしいです。

 人を乗せなければいつまでも走り続けられますから」

 そうか。

 小柄な女の子とはいえ、やはり人間を乗せて走るのはきついんだろうな。

 馬などと違って、フクロオオカミは必ずしも人を乗せるのに適した身体構造じゃないからね。

 それについてはアレスト興業舎時代にロッドさんたちから報告を受けている。

 もともと犬科の動物は背中に何かを載せると負担が大きいんだよ。

 背中の骨や筋肉が痛むし、足の負担も問題だ。

 馬なんかは蹄があるせいで負荷に耐えられるけど、犬科の動物はそういう構造になってないからね。

 肉球?

 フクロオオカミくらいでかいとそれだけ負担は軽減されるけど、なくなるわけじゃない。

 だからロッドさんたちは、背中じゃなくてむしろ肩の辺りに負荷が分散してかかるような鞍を考案していたんだけど。

 でもやっぱり、あまり長時間の負担は止めた方がいいのだろう。

 いざという時に疲れて動けないようでは本末転倒だ。

 ふと見ると、俺の護衛の犬の皆さんが俺の馬車に併走していた。

 朝練の後なのに元気だな。

 猫の皆さんはちゃっかり馬車に乗っている。

 一人はルリシア殿下の膝の上にいるけど、残りは巧妙に隠れていて探さなければ見つからない。

 そう、護衛猫の人たちは俺にも判らないような偽装でついていてくれるのだ。

 誰かを公式訪問するときには堂々と姿を現すけど、それ以外は隅の方に隠れていたりする。

「ハマオルから聞いたのですが、犬の方達が表の護衛(ガード)なら、猫の方達は裏の護衛(ガード)なのだそうです。

 大っぴらには犬が担当し、影からは猫が守ると」

 ヒューリアさんが教えてくれた。

 そうなのですか。

 俺の知らん所でみんな色々やっているんですね。

 今更だけど。

「でも猫の方達は王室で大人気ですよ」

 ルリシア殿下が膝の上の猫を撫でながら言った。

 もうハマッているのか。

「貴族から得体の知れない野生動物を宮廷に入れて何かあったらどうするのだ、という反対が出ましたので、急遽セルリユ興業舎と契約したと聞いております」

 ロロニア嬢、やはり知っていたか。

「セルリユ興業舎なのですか?

 ニャルー商会ではなく?」

 ハスィーが聞くと、驚いた事にルリシア殿下の膝の上の猫の人が口を開いた。

 いや別に驚くことはないか。

「ニャルー商会はエラ王国における業務をセルリユ興業舎に委託しております。

 (ネコ)々はニャルー商会からセルリユ興業舎に派遣されている形ですので。

 ヤジママコト殿」

 さいですか。

 もういいけどね。

 俺には関係ないことだ。

 でも美少女の膝の上で丸くなっている猫が急にビジネス口調で話し出すのは物凄い違和感があるよ!

 しかもこの(ひと)、相当切れ者くさい。

 サラリーマンというよりはビジネスマンの口調だったぞ。

 ニャルー商会でもエリートなのかもしれないな。

 そんなことを思っていると、猫の人がルリシア殿下の膝から降りてきちんと座り直した。

 猫って姿勢がいいよね。

「我々エラ王国派遣隊の猫は、全員志願してきております。

 精鋭なのはもちろんですが、それ以上に大恩あるヤジママコト殿のお役に立ちたいと心を燃やす者ばかりです」

 何だって?

 俺は慌てて姿勢を正した。

 この(ひと)もただもんじゃないけど、言っている内容はもっとヤバそうだ。

 ていうか大恩って何?

 俺、何かしたっけ。

 猫の人たちに。

「何を言われます。

 ニャルー総帥を導き、『ニャルーの(シャトー)』設立に手を貸したのはヤジママコト殿ではありませんか。

 今現在のソラージュにおける猫の隆盛は、ひとえにヤジママコト殿のおかげと言っても過言ではありません!」

 ニャルー総帥(そうすい)

 あの猫又、そこまで行ったか。

 「総統」と呼ばれるのも時間の問題とみた。

「いえ、私は少々助言しただけで」

「『猫喫茶』という新しい事業形態を示して頂き、資金援助から会舎設立まですべてにおいて手を貸して下さった。

 とりわけ猫獣族であるキディの姉御を(ネコ)々のために専属で派遣して下さったことには感謝の言葉もありません!

 キディの姉御がすべて話して下さいました。

 ヤジママコト殿こそ、英雄だと」

 キディちゃん、何やってるの!

 ていうか、キディちゃんも姉御か。

 俺の「マコトの兄貴」と似たようなものか。

 いや、確か猫と猫獣族の間ではそういう言い方をするんだっけ。

 まあそれはいい。

 猫の皆さんには過剰な思い込みがあるみたいだけど、俺はそんな大したことはしてないから!

「こちらからもお礼を申し上げさせて頂きます」

 ハスィーが口を挟んだ。

「マコトさんを守って下さってありがとう。

 わたくしどもも精一杯努力は致しますが、完全ということはあり得ません。

 猫の方達はわたくしどもの死角になっている面も把握できると思いますので、今後ともよろしくお願い致します」

 ハスィーが頭を下げると、猫の人も前足を揃えてきちんと頭を下げた。

 これ、CGか何かじゃないよね?

「もったいないお言葉です。

 傾国姫(おくがた)様はヤジママコト殿にとって大切な方と聞いております。

 力の限り護衛させて頂きます」

 もう。

 この人、猫じゃないよな。

 ドリトル先生どころじゃない。

 大抵の人間を越えているよ!

「やはり、マコトさんは凄い。

 すべてに君臨するお方なのですね」

 ロロニア嬢もいい加減にして!

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