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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第四章 俺が将軍(インペラトール)?

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3.トラブル?

 セシアラ公爵領に来て1週間がたった。

 セルリユ興業舎のイベントは順調に人気を集め、少しでも懐に余裕がある人は最低一度は行くほどの人気スポットになったらしい。

 それに伴って局地的に経済が活性化し、領内の金回りが良くなったということでミラルカ様はほくほく顔だった。

「公爵領の領都とは言っても王都から離れた地方都市でございますから。

 感覚的には田舎です。

 そこに王都で評判になったソラージュの巡業団が来てくれたわけで、人気も出ようというものです」

 冷静な分析はさすが公爵領の経済を握る公妹閣下。

 正式な肩書きはないらしいが、影の実力者といった所か。

 ミラルカ様がセシアラ公爵領の事実上のナンバー2であることは確かなようで、その人に気に入られた俺たちの待遇は上がった。

 といっても、大した違いはなかったんだけどね。

 もともと公爵殿下の賓客扱いだったからな。

 エラ王国の正式な王族であるルリシア殿下がいつも一緒にいてくれているので、ご自分の令嬢を紹介したい貴族が近寄って来ないのは助かる。

 その代わり、貴族や大商人のご令嬢が自ら近寄ってくるんだけどね。

 ただし目標はハスィーだ。

 みんなセルリユ興業舎の絵本を読んでいるらしく、本物の「ソラージュの傾国姫」に興味津々だった。

 貴族や商人のご令息たちは、もっぱら狼騎士(ウルフライダー)隊の方に寄って行く。

 傾国姫は美しすぎて近寄りがたいし、人妻だからかな。

 その点、狼騎士(ウルフライダー)隊は美少女ばかりだし、ちょっかいかけやすく見えるんだろう。

 最初は芸人扱いで話しかけるんだけど、狼騎士(ウルフライダー)隊の隊員の大半は貴族の出だ。

 遊び半分のお坊ちゃんでは相手にならず、たちまち撃退されてしまう。

 這々の体で逃げ出すのがオチだ。

 そういう人たちは、次にヤジマ芸能から派遣されてきているダンスチームの方に吸い寄せられるらしい。

 庶民的な美少女もまた、お坊ちゃんたちのターゲットだ。

 でもあっちの女の子たちはみんなプロだから、エラ王国の田舎の坊ちゃんなんかに引っかかるはずもない。

 うまく金を吸い取られて放り出されているそうだ。

 フクロオオカミは子供に大人気だった。

 「あれ買って」と騒ぐガキも結構いるらしかったが、別に奴隷じゃなくて正式な舎員だからね。

 ならばと個別に商談を持ちかける剛の者もいるらしいけど、うちの野生動物は群れの(おさ)の命令で来ているんだから、そんな交渉には応じるはずもない。

 そこら辺はセルリユ興業舎でしっかり管理しているので、特に問題は起きていないそうだ。

 誘拐などにも警戒しているが、さすがに公爵のお膝元でそんな馬鹿な事をしでかす奴はいなかった。

 すべて順調なのだが。

 もう大体公爵領の名所見学や重要な人への表敬訪問も終わったし、王都に帰ろうかと思って言ってみたら、もうちょっと居てくれと懇願された。

 近々公爵領の地方議会に当たる集会を開くので、是非俺に出て欲しいそうだ。

 そこで大々的にセルリユ興業舎との共同会舎設立を発表して、新しい産業の立ち上げを喧伝するという。

 当然出資も募集すると。

 まあ、いいですけどね。

 エラ王国の王政府からは何も言ってこないし、ルリシア殿下が一緒に行動しているので、王室公認の行動のはずだ。

 俺がどう動こうが問題はない。

 別に王都エリンサに帰る必要もなかったりして。

「エリンサの中央広場での興業が終わって、セルリユ興業舎の部隊は撤収しました。

 大部分の出し物はエリンサ郊外の敷地に移転して興業を続けることになります。

 常設化ですわね」

 ヒューリアさんが報告してくれた。

 王都でも着々と手を打っているらしい。

 経済侵略?

「王政府が認めているので、問題にはなっておりません。

 頭が堅い貴族からは反発の声も上がっているとのことですが、王都は王家の領地ですからね。

 何をしようがルミト陛下のご勝手です」

「反対派が何かして来ないかな」

「今のところ、特に利権を侵されたとか商売上の問題が出たということもありませんから。

 エラ王国では貴族の力が強い分、逆にご自分の領土外ではほとんど権限がないのですよ」

 セルミナさんによれば、エリンサはエラ王国の王都で国全体の首都であることは確かなのだが、同時に王室の領地でもあるので、公的にはエラ王国の貴族にほとんど権限がないそうだ。

 日本の東京みたいなものかな。

 国家全体の施政は日本政府が行うんだけど、東京都内なら都庁が何を決めようが国や他の道府県には口出しできないからね。

 この場合、各貴族領の領主やその配下の貴族は知事や県議会議員のような立場になる。

 その県内では施政や統治権限があっても、東京に来れば単なる一般人だ。

 貴族領の騎士団も同じで、王都に来たら民間人扱いになる。

 むしろ私兵と見なされるので、あまり大人数だったり集団で行動していたりすると拘束されかねないらしい。

「エラ王国では成功したことはないものの、過去に数回反乱や革命騒ぎが起きていますからね。

 王都の守りは堅いですし、主立った貴族の動きは監視されています」

「エラの軍は国王陛下が統帥権を握っています。

 王国軍の任務は国境警備と各貴族領の監視の他に、王都エリンサの防衛も含まれますので」

 セルミナさんとロロニア嬢が教えてくれた。

 エラって物騒だな。

 つまり、そういう所に生産資源(パワー)を投入しているから国力が低くなるのか。

 ソラージュより人口が多いのに国力は3分の2とか言っていたからな。

 相当効率が悪そうだ。

 この際だから、もうちょっと聞いてみる。

「エラ王国は娯楽が少ないような気がするのですが」

「マコトさんのおっしゃる通りです。

 文化的には歴史があるのですが、高尚な芸術はともかく庶民向けの娯楽は発達していません。

 貧富の差がソラージュより激しいですし、貧困層は生きるので精一杯です」

 だから駄目なのですよ、とロロニア嬢は苦々しげに言った。

 何か溜まってそうだな。

 そういえばロロニア嬢ってハスィーたちの「学校」仲間だから、ソラージュというかセルリユを知っているのか。

「はい。

 セルリユで3年間過ごしましたので。

 でもヤジマ芸能、ですか。

 あれは凄いです」

 ロロニア嬢が熱を込めて言った。

「私がセルリユに居た頃には存在しませんでしたが、ひょっとしてマコトさんが創設されたのでしょうか」

「ヤジマ芸能だけではなく、セルリユ興業舎およびその配下企業群もすべてマコトさんのものです」

 ハスィーが俺の腕を取りながら割り込んだ。

「この2年ほどの間に設立・発展させたものです。

 それとロロニア、『マコトさん』と呼ぶのは止めなさいと言っているでしょう!」

 傾国姫(ハスィー)、怖っ。

「どうしてですか?

 傾国姫には関係がないことです」

「あります!

 マコトさんはわたくしの夫です。

 妻の前で人の夫に気安く話しかけないで下さい!」

「ヒューリアやアレナ殿もマコトさんと呼んでいるみたいですが」

「それは長い付き合いがあるからです」

「私は知り合ってからあまり長くはありませんが、信頼を頂くには十分な時間を共にしたと思いますよ。

 そもそもマコトさんは何も言ってないではありませんか」

「わたくしが言うのです。

 ロロニア、喧嘩売ってるんですか!」

 やっぱロロニア嬢ってハスィーの天敵かも。

 傾国姫をここまで感情的に出来る人ってめったにいないよね。

 怒りの方向に。

 ハスィーもロロニア嬢が絡むと理性が吹っ飛ぶみたいで、どんな人にも天敵っているんだな。

 ルリシア殿下はおろおろしているだけだし、ヒューリアさんとアレナさんは逃げてしまった。

 トニさんやセルミナさんなんか、ロロニア嬢が来た時点で消えている。

 カールさんはニヤニヤしているばかりだしなあ。

 俺?

 もちろん戦略的撤退だよ。

 ロロニア嬢に聞きたい事があったんだけど、後でいいや。

 セシアラ公爵の使用人らしい人が、部屋に入るに入れずにうろうろしていたので聞いてみた。

「何か?」

「失礼いたします。

 公爵殿下がお呼びです」

 何だ?

 突然呼び出すということは、緊急の用事かな。

 急がないんだったらディナーの席で言えばいいんだし。

 ハスィーとロロニア嬢も口喧嘩を止めてこっちを見ているので、この際利用させて貰おう。

「ハスィーもロロニアさんも、ちょっといいかな。

 公爵殿下がお呼びだそうだから、ついてきてくれないか」

「はい!」

「喜んで」

 同時に言ってお互いそっぽを向くんだもんなあ。

 でもハスィー、何か楽しそうなんだよね。

 本気で言い合いできる相手って貴重だよ。

 ラナエ嬢やユマさんと離れてしまって、フラストレーションが溜まっていたのかもしれない。

 ヒューリアさんも「学校」仲間なんだけど、ヤジマ商会や使節団で立場に差が出来てしまっているからな。

 組織的な地位が違ってくると、人は本気でやり合えないからね。

 下手すると虐めになってしまう。

 難しいもんだね。

 使用人の人に案内されて、公爵の執務室に行く。

 俺とハスィーにルリシア殿下主従だ。

 いつの間にか、ヒューリアさんとアレナさんが合流していた。

 忍者か?

 ちなみに目立たないようにハマオルさんたちがついてくれている。

 公爵の屋敷内でも油断は出来ないらしい。

 怖い世界だ。

 カールさんには「わしは遠慮しておく」と言われて逃げられた。

 まあいいか。

 公的な呼び出しくさいから、まず俺が親善大使としての立場で聞くべきだろう。

 何かするのはそれからだ。

「お忙しい所を申し訳ない。

 一刻も早く知らせたいと思ってな」

 セシアラ公爵殿下がわざわざディスクから立ち上がって言った。

「何でしょうか」

「うむ。

 親善大使殿には直接関係がないかもしれないが、騎士団から連絡が入った。

 まだ第一報だが、領内の山中で貴族家の者が野生動物とトラブルになったらしい。

 けが人も出ているとのことだ」

 な、なんだってーっ!

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