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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第三章 俺が巡業団長?

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16.出立?

 フォムさんは呆れるほど手際が良かった。

 ジェイルくんに匹敵するのではないか。

 次の日にはもう、当該公爵領への親善使節訪問の日程が決まっていた。

 ていうか、多分あらかじめ作ってあった臭いな。

 そもそも公爵殿下との会談自体、茶番だった気がする。

 お膳立ては全部整っていたのでは。

 まあいい。

 適当に申し込んでおいた観光ツアーの日程表が届いたようなもので、文句を言うつもりはないんだよ。

 ただちょっと、俺の人生って何なのだろうとか思ってしまうだけで。

「計画表によりますと、宿泊は当地の公爵邸で1週間ほどかけて領内の景勝地を回ることになっているようですね」

 ハスィーが書類を読んで言った。

 俺の嫁が全部やってくれるのはありがたい。

 もう俺、考えるのを止めようかな。

 そんなことを言ったら、ハスィーはなぜかやる気を出してしまった。

「マコトさんは重要な事だけを決断して頂ければ結構です。

 後は私が片付けます」

「重要な事って、何を?」

「マコトさんにとって重要な事です。

 私にはよく判りませんが」

 それ、俺にもよく判らないんだよね。

 そもそも俺、流されているだけで別に何か目的があるわけじゃないから。

 軽小説(ラノベ)なんかと違って明確な敵もいなさそうだし。

 いや命は狙われているらしいけど、だからといって俺に何か出来るわけじゃないもんな。

 俺個人で言えば、「一生もつだけの財産を作る」とか「嫁を娶る」とかの野望は既に叶ってしまっている。

 特に努力したつもりもないんだけど。

 日本だったらこの野望を叶えるどころか普通の生活を維持するだけでも大変なんだが、こっちの世界では楽なもんだからなあ。

 まあ、書類にサインして人と会うだけの人生に耐えられればだけど。

 それは別に嫌じゃないから、もはや俺には改めてやりたい重要な事なんか思いつかないぞ。

「でしたら、とりあえず楽しんだらいかがですか?」

 ヒューリアさんが有益な意見を出した。

 なるほど。

 そういえば俺、個人的に楽しもうとしたことってあまりなかったっけ。

 一応サバイバルしているという自覚があったからな。

 こっちで何とか生きていける立場を築くまでは、とか考えている内に忘れてしまったらしい。

 そうか。

 俺はここにいてもいいんだ!(違)

「よし判った。

 とりあえず楽しもう。

 それが当面の目標だ」

「はい!」

 ハスィー、嬉しそうだな。

 知らない間に負担をかけていたのかもしれない。

 どうも俺の嫁は変に俺に遠慮しているというか、引け目があるみたいなんだよね。

 勝手に婚約させたとか、アレスト興業舎の借金を押しつけたとか。

 そんなの全部、むしろ俺のためになっているのに。

 「続・傾国姫物語」とかいう絵本はまだ読んでないけど、まさしく真実なんじゃないかな。

 ハスィーがいなければ俺は破滅していたわけだから、全然引け目なんか感じる必要はないんだよ。

 うっかりそう言ってしまった。

 また失敗した。

 泣かれた。

「マコトさんも、そろそろご自分の妻の弱点(ウィークポイント)を把握なさって下さい。

 無敵の傾国姫の唯一の急所なのですから」

 ヒューリアさんにうんざりしたような口調で言われて、俺は慌ててみんなに出て行って貰い、ハスィーを抱きしめて過ごしたのだった。

 最近、こうやってハスィーと大々的に接触する機会が増えているんだけど、なぜかあんまり色っぽくならないんだよなあ。

 恋愛小説だったら濡れ場のはずなのに。

 ハスィーが真面目過ぎるのがいけないのかもしれない。

 そんなハスィーは嫌いじゃない、というより好きだけど。

 ちゃんと夜の生活はやっているよ?

 数日後、用意が整ったというので朝食の後すぐに出発した。

 同行は親善使節団全員だ。

 ユアンさんたちが見送ってくれた。

 料理人(コック)の皆さんは、俺たちがいない間はソラージュ臨時親善大使館付属の食堂(レストラン)の運営に専念するそうだ。

 知らないうちに規模がかなりでかくなっていて、料理人(コック)さんも人数が増えていた。

 好きにやれと言った以上口は出せないけど、大丈夫なのか?

 そう聞いたら、久しぶりに会ったソラルちゃんが説明してくれた。

「エラ王国の教団と共同で新しく『ヤジマ食堂(レストラン)』チェーンを展開することになりました。

 表向きの出資はヤジマ商会とエラ王政府です。

 臨時親善大使館の食堂(レストラン)はパイロットケースですね。

 ここで色々と試して、その結果を計画に反映させます」

 ソラルちゃんももはや一流の経営者だね。

 聞いた所では、セルリユ興業舎北方派遣団の団長代理的な立場にいるらしい。

 まだ二十歳くらいでしょう?

 凄いとしか言い様がないけど、あまり頑張りすぎないでね?

 倒れたりしないように。

「ありがとうございます。

 気をつけます。

 長期戦でマコトさんを追いますから、無理はしません」

 ちょっと変な台詞が混じったけど、まあいいか。

 俺たちの馬車が動き出すと、いつの間にか前後を馬車が囲んでいた。

 護衛だけでなく、セルリユ興業舎の派遣隊が一部同行するようだ。

 俺の馬車は特別製で大勢乗れるので、今回は使節団全員に同乗して貰っている。

 ルリシア殿下主従は後で合流するらしい。

 セキュリティ面で楽になるし、今後の事を打ち合わせておきたかったんだよね。

 というよりは意識合わせか。

 動く会議室だ。

「日程ですが、到着は明日の夕方になる予定です。

 途中で一泊ですわね」

 早速ヒューリアさんが説明を始めた。

「宿泊はホテルで?」

「セシアラ公爵家で手配して頂きました。

 オルミド領という伯爵領のはずれにある宿ですね。

 エラの主要街道沿いですので、比較的良い宿屋が揃っているそうです」

 無論、ハマオルの「手の者」が先行して視察済みです、とヒューリアさんが付け加えた。

 そうか。

 実はハマオルさんも、俺の護衛というだけではなくてヤジマ警備の精鋭を連れてきているらしいんだよね。

 その人たちは他のセルリユ興業舎の舎員に混じっているので、誰だか判らない。

 味方にすら正体を明かさないという凄さ。

 スパイ大作戦かよ!

「その他、セルリユ興業舎関係の者が動いております」

「今回は『セルリユ興業舎北方諸国開発団』の初めての遠地公演になりますので」

 アレナさんが付け加えた。

 ハスィーの秘書だったはずなんだけど、最近は結構あちこちに首を突っ込んでいるらしい。

 もともとアレスト興業舎では教団担当とかやっていたからな。

 さすがに親善使節団の随員だけはある。

 みんな多才だなあ。

「遠地公演ですか?

 もうエラの離宮で上演したのでは」

「あれは王都からは離れていましたが、王室の直轄領でしたから。

 今回は初めて、王室の庇護がない条件で行うわけです。

 セシアラ公爵殿下はルミト陛下と親しい方と聞いておりますので、そんなに心配はないと思われますが」

 それでも絶対ではありませんから、とアレナさん。

 そういう問題もあるのか。

 確かに、ヤジマ商会系列の会舎が自由にやれているのはルミト陛下のお言葉があり、しかも王家直轄領だからだ。

 エラ王国はソラージュと違って、領地が違えぱその領主が権力を持つらしいからね。

 騎士団なんかも領主に忠誠を誓っているというし。

 つまり、俺たちの安全は領主の機嫌次第ということになる。

 実際には力関係などもあって、領境を越えたらいきなりタイーホとかにはならないと思うけど。

「今回はテストケースということで、とりあえず動いて問題点を洗い出すことになるようじゃな。

 小規模派遣隊じゃが指揮はロッド騎士長がとると聞いておる。

 狼騎士(ウルフライダー)隊も大半が動員されるとか」

 カールさんもお詳しいですね。

 どうもこの人、ヤジマ商会系列の会舎に独自の伝手があるらしくて、自分では動かないように見えて情報はしっかり握っていることが多い。

 もとギルド総評議長だからなあ。

 一筋縄ではいかないよな。

「ロッド騎士長ですか。

 騎士団員が民間業者を指揮してもよろしいのですか?」

 トニさんの問いに、カールさんは飄々として応えた。

「ロッド騎士長は騎士団員のまま正式にセルリユ興業舎に出向しておる。

 部長待遇だったかの。

 法的には問題ない」

 アレスト興業舎でもそうだったっけ。

 ユマさんが暗躍したんだろうね。

 まあいい。

 そんなのはどうでもいいのだ。

 俺が知りたいのは、俺は何をすればいいのかということで。

「マコトさんは、そのままでよろしいのではないでしょうか」

 セルミナさんが言って、俺以外の全員が深く頷いた。

 何なの?

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