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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第三章 俺が巡業団長?

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15.観光?

 親善大使になって何が良かったかというと、どこかに行きたい場合に理由を捏造する必要がなくなったことだ。

 つまり、某貴族領に行きたいというのなら、表敬訪問でも何でもいいから「行きたい」と言えば、大抵は通る。

 何しろ「親善」に行く訳なので、特に理由は必要ないということで。

 問題は大使たる俺は別に行きたいとか思っていないということだ。

 行きたいのはフォムさんであり、つまりセルリユ興業舎北方諸国開発団の誰かであるわけで、俺がパンダであることは明白だった。

 どこに行っても利用されるだけの人生か。

「良いではありませんか。

 わたくしたち個人では行こうと思っても許可が降りそうにもない所にも行けるわけですし。

 観光だと思えば」

 ハスィーは気楽だなあ。

 まあ、そうなんだけどね。

 費用はソラージュの政府持ちだし。

 いや、護衛とかの経費はヤジマ商会が出しているから、俺の借金を使っているんだけど。

「その分はラナエやその他の方々が稼いでくれますから。

 お気になさらずに」

 ハスィー、俺の操縦技術が向上したんじゃない?

 というわけで嫁の言う通り面倒なことは考えないようにして、俺はヒューリアさんから下される指示に従ってあちこち出かけているのである。

 断られる事はまず無い。

 王都エリンサ内ならどこでもほとんどフリーパスだ。

 ルリシア王女殿下という最強のパスポートがあるからね。

 このパスポートで入れない場所はほぼない。

 もちろん最初に指摘された軍や政府の施設なんかを除いて。

 それも、頼めば入れて貰えるかもしれないくらい万能の通行手形だ。

 どこでもドアか。

 いや、厳密に言うとエラ王国貴族が所有する土地はその領地になるので無条件には入れないのだが、ルミト王陛下が許可した親善大使を拒める貴族はあまりいない。

 現在当主もその代理もいませんので、と断られる事はあるけど、そんな場所にはどっちみち用はない。

 俺が会うのは貴族本人なのだ。

 で、会って何するのかというと、歓談である。

 ヒューリアさんやアレナさんが調べてくれた、その領地における特産物とか交易品とかのデータを元に、商売になりそうかどうかを聞く。

 本当は探らなきゃならないんだけど、俺は何も隠せないので単刀直入に尋ねることにしている。

 そうすると大抵は応えてくれるから。

 それどころか、むしろ熱心に売り込んでくる事も多い。

 エラ王国の領地貴族であるからには、ソラージュと違って例外なく自分の領地を治めているわけで、収支決算が絡むと大抵の事よりは優先される。

 だから俺も、商売になる可能性がある限り拒まれることはないんだよね。

 ヤジマ商会は外国企業なので領地内で競合することはまずないし。

 いや、競合するんだったら断ればいいだけだから。

 そういうわけで、俺は王都エリンサにある主な領地貴族の別邸は大方回ったと思う。

 もちろん中には最初から毛嫌いして拒否してくるのもいたらしいけど、その情報は俺のところまで上がってこないからな。

 俺はヒューリアさんが立てた予定に従って淡々と出かけていって貴族に会うだけだ。

 親善大使ということで伯爵扱いになっているので、相手が例え侯爵だとしても土下座しなくて済んでいるのはありがたかった。

 エラ王国ではソラージュより貴族の位階の差が大きいらしいのだ。

 基本はソラージュと変わらないが、例えば高位の方から話すといったマナーは徹底されている。

 だから本当は叙爵されたてで子爵の俺なんか、鼻もひっかけられないはずなんだけどね。

 そうはいかない。

 俺には強大な武器がいくつもあるんだよ。

 まず、ヤジマ商会オーナーという経済力。

 これはとても強力で、公爵と言えども俺の機嫌を損ねないように気配りせざるを得ないほどだ。

 領地貴族って不動産や動産はあるんだけど、流動資産(げんきん)をあまり持ってないんだよね。

 それに対して俺は、下手すると領地の価値並の資金を動かせるらしい。

 らしいって自分の事なのにアレだけど、地球で言えば為替ファンドみたいな認識のされ方をしている。

 指先ひとつで莫大な資金が流入したり引き上げられたりする、恐怖の対象だ。

 実際にはそんなこと出来ないんだけど、傍目には判らないからね。

 次に、親善大使という立場。

 俺は俺個人じゃなくて、ある意味ソラージュを代表しているわけで。

 どんな領地貴族でも、一国と喧嘩したい人はあまりいない。

 俺の嫁も物凄い戦力だ。

 勇者で言ったら聖剣とかそういうレベルの武器だよ。

 理由は言うまでも無いと思う。

 そして、あれ以来いつも俺のそばにいるルリシア王女殿下。

 水戸黄門の印籠みたいなもので、相手が身分をかさにして圧倒しようとしてきても、王女に勝てるはずがないからね。

 しかもルリシア殿下はルミト陛下の「勅命」を受けている。

 その気になればルリシア殿下は「陛下の命令で」動けるわけだ。

 というわけで、俺は順調に仕事(イベント)を消化しているんだけど。

 これってレベル1の村人がカンストした武器や防具を装備し、同じくカンストした賢者や僧侶、戦士などのパーティの力だけでサクサクイベントをこなしているだけという気がするなあ。

 まあいいけど。

 今日も何とかいう公爵殿下の屋敷に来ていた。

 領地は比較的小さいんだけど、特産品があってそれをセルリユ興業舎が扱いたいというもので。

 多分。

「うむ。

 実に満足のゆく会談でしたな。

 ヤジマ大使」

 殿下という身分で、しかも俺より遙かに年上なのに、腰が低い公爵だ。

「時間を割いて頂いてありがとうございます。

 それでは、以後の商談はセルリユ興業舎の者に任せますので」

「あい判った。

 ではそのように」

 俺の仕事はこれで終わりだ。

 何を「親善」しているのか判らないけど、少なくともこの公爵殿下とはいい関係を築けたからいいんだろうな。

 ルディン陛下に好きにやれとお墨付きを頂いて良かった。

 好きかどうかはともかく、シバリがまったくないのはありがたい。

「ところでヤジマ大使。

 そろそろエリンサの主立った所は回られたのかな?」

 名前忘れたけど公爵殿下が愛想良く言ってきた。

 公爵だから王家の血を引いているわけで、ご多分にもれずこの人もエルフだ。

 エラ王国ってエルフが多い、というよりは王家や貴族の大半がエルフだからね。

 もちろん人間やドワーフと混血して血は薄まっているらしいけど。

 公爵殿下は当主だから結構なお歳のはずだが、やっぱりせいぜい中年にしか見えない。

 しかもイケメン。

 まあ、俺の隣に座っているハスィーのおかげで相手の美貌が目立たないから助かっているが。

 劣等感で落ち込みそうになると、ハスィー印の妙薬を呷ることにしているんだよ。

 俺の嫁に比べたらまだまだだね、と思えるから。

「そうですね。

 主立った貴族家の別邸は回りましたが」

「エリンサにはあまり見所がないからな。

 どうかね。

 ヤジマ大使もエラに来られて随分たったことだし、この辺りで休暇をとられてはどうかな?

 我が領土の景勝地にご招待したいが」

 何と。

 受けていいものか?

 この公爵殿下は比較的ルミト陛下と親しい方らしいけど、その領地では領主が絶対権力を持つことになる。

 例えば俺を投獄するとか、簡単なんだよな。

 俺が逡巡している間に、ハスィーが応えていた。

「ありがとうございます。

 喜んでお伺いさせて頂きます」

「それは重畳。

 早速手配しようか」

 決まってしまった。

 焦ってヒューリアさんやアレナさんを見るが、平然としている。

 いいの?

「ルリシア殿下はどうなさりますか?」

「もちろん、ご同行させて頂きます」

 こっちも即答だよ。

 セキュリティ、大丈夫なのか。

 公爵の前を辞して馬車に乗り込むと、俺は早速みんなに聞いた。

 みんなと言っても俺とハスィーに加えてヒューリアさんとアレナさんだけど。

「受けてしまって良かったの?

 安全面とか」

「大丈夫でございます」

 ヒューリアさんがニヤリと笑った。

「セシアラ公爵領は、自然が豊かで比較的エリンサに近く、貴顕の方々の観光地として賑わっているとのことです。

 マコトさんも最近お疲れのようですので、この際ゆっくり休んで頂ければと」

「いやそうじゃなくて」

「親善使節団に加えてルリシア殿下もいらっしゃいますし、当然ですがセルリユ興業舎の派遣団も護衛を兼ねて同行いたします。

 万一何かありましても相手が軍隊でもない限り、実力で排除できる程度の戦力がありますので」

 アレナさん、無表情で言わないで!

 でもそうか。

 俺たちだけで行くわけじゃないのか。

 えーと、何て言ったっけあの公爵殿下も、めったなことでは俺をどうこうしそうにないしね。

 やっと観光?

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