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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第三章 俺が巡業団長?

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6.深い?

 俺が親善使節団を引き連れて、王都在住の著名な文化人やルミト陛下に親しい貴族などにご挨拶して回っている間に、セルリユ興業舎エラ王国派遣隊およびエリンサ支店の皆様は着々と準備を進めてたらしい。

 ある日、エリンサ郊外の大規模農場を経営しているという地主の方と歓談して臨時親善大使館に帰ってくると、フォムさんが現れて言った。

「明日開幕します。

 つきましては奥方様とルリシア殿下にはオープニングのご挨拶をお願いいたします」

「わかりました」

「え? 私もですか?」

 ハスィーは平静に受けた。

 それに対してルリシア殿下は慌てている。

 格の違いか。

 ハスィーは特に緊張もせず、どうでもいいと言わんばかりの態度だ。

 ルリシア殿下は対称的に、どうしましょうとかロロニア嬢に泣きついて無情に突き放されている。

 酷い。

「マコトさんの安全に関係ありませんので。

 適当に済ませます」

 ハスィーも結構図太いね。

 もともと俺の嫁は、こういった公的なイベントには無類の強さを発揮するからな。

 対個人ではその美貌で圧倒し、大勢の前に出れば強大なカリスマでその場を支配する。

 しかも、その出力を自在に加減できるというチートさ。

 まあ、逆に意識しないとパワーがただ漏れになってしまって、出会い頭に相手を卒倒させたりしているけど。

 ソラージュも王太子妃だとか言わずに外務相として使えば良かったのでは。

 外交問題が一挙に解決していたかもしれない。

「わたくしは興味の無いことはしませんし、そもそもマコトさんが関係していなければお断りします。

 もちろんマコトさんに命じられれば何でもさせて頂きますが」

 ハスィーは真面目に言うけど、なんで俺なんかにそんなに入れ込むんだろう。

 ルリシア殿下もおずおずと言った。

「私も……マコトさんのためでしたら、頑張ります」

 王女殿下まで!

 それはちょっと、接待役の義務を越えているのでは。

 何がみんなをそこまでさせるんですか?

 俺の問いに、ハスィーとルリシア嬢が困った顔で答える。

「理屈で説明しろと言われるとちょっと」

「そうです。

 マコトさんがマコトさんだから、としか言いようがありません」

 さいですか。

 まあいいや。

 そう思ってこの話題を打ち切ろうとしたら、関係ない人たちが参戦してきた。

「その辺りは感覚というか、心で感じるものかと」

「その通りです。

 判る人には判ります」

「マコト様を見れば一目瞭然です」

 セルミナさん、ヒューリアさん、アレナさんが口々に言うけど、理解できん。

 ていうか、何でアレナさんが混じってるの?

 カールさんはニヤニヤしているばかりだし、トニさんはあいかわらず無表情に見せかけてハスィーに神経を集中している。

 何ともはや、こんなんでいいのか。

 その場は俺そっちのけで議論の場となってしまった。

 それにしても、ルリシア殿下とロロニア嬢はこの場に不自然なほど自然に溶け込んでいるな。

 二人とも最近、親善使節団の中に当たり前に居るのでスルーしてしまうことが多い。

 あっさりしたワンピースを着ているもので、普通の貴族の娘にしか見えないんだよなあ。

「私なら説明出来るかもしれません」

 そう言って進み出たのはロロニア嬢だった。

 カモフラージュのつもりか、ルリシア殿下と同じデザインの服を着ている。

 でも何か幼く見えるんだよね。

 「学校」出なんだから、ハスィーやヒューリアさんたちと同年代のはずなのに、例えばシイルなんかより年下に思えるほどだ。

 ロロニア嬢はエルフでもドワーフでもないけど、それはシイルも同じはずなのに。

 やはり個体差か?

「マコトさんは、深いのです。

 底が見えません。

 どこまでも見通せるようでいて、深淵を覗き込んでいるような気になります。

 とても魅力的です」

 この一見たどたどしい話し方もその理由かもしれないな。

 って、何を言うの?

 俺が深いって?

 戯れ言を。

「あ!

 そうなのですね」

「なるほど。

 確かにそうです。

 そこら辺のチャラチャラした殿方とは一線を画しています」

「言われてみればその通りですわね。

 こちらが恥ずかしくなるほど、深い。

 ゾクゾクします」

 俺は何なんだよ。

 珍獣か何かか?

 あるいはホラー映画や難解な文学作品みたいな評価だな。

 違うって。

 俺はただのサラリーマンなんだって!

「皆さん、判っておられませんね。

 マコトさんの魅力は、そんなものではありません」

 一人だけ意見が違う人がいるけど、もうハスィーの言うことは割り引いて考えた方がいいかも。

「ハスィー、あなたのは説明になってないから」

「なぜです?

 わたくしが一番マコトさんに近いのですよ」

「近いからといって、理解しているとは限りません。

 かえって全体を見逃しているかも」

 ロロニア嬢、たき火にガソリンをぶっかけるようなことは言わないで!

「何と言われようが、わたくしがマコトさんの妻です」

「妻が一番近いとは限らないでしょう」

 もう止めて(泣)。

 このままでは戦争になりかねないので、俺は慌てて割って入った。

「俺のことはいいから、その開催するイベントについて教えて下さい」

 フォムさんに無理矢理振る。

 フォムさんは無表情だったが、面白がっているのは明らかだった。

 深慮遠謀なら俺を助けろよ!

「かしこまりました。

 イベントのコンテンツは3部構成になっておりまして、奥方様およびルリシア殿下のご挨拶の後、まずヤジマ芸能の選抜チームが演技を披露します。

 次にセルリユ興業舎のサーカス班が寸劇を公演し、そのまま開場に繋げます」

 ハスィーとルリシア殿下で観衆の目を引きつけておいて、いきなりダンスで度肝を抜くか。

 そして野生動物を投入。

 確かにインパクトはあるだろうけど、金になるかどうかは疑問だ。

 いや、今回はデモンストレーションだからいいのか。

「物販などはあるのでしょうか」

 質問が出た。

 よし。

 何とか話が逸れてくれた。

「会場内に屋台やテントを設置して、展示即売を行います。

 まあ、今回は販売よりは我々の存在を認知して頂くのが目的ですので、あまり大規模ではございませんが。

 その後、一定時間ごとに公演を繰り返す予定です」

「お客様はお呼びしているのですか」

 これはルリシア殿下だ。

 そういう役目は自分が担うべきだと思っているのか。

「はい。

 主立った貴族家の方はワラム侍従長様を通じてご招待させて頂きましたし、商家の方もロロニア様に手配して頂きました」

「そうですか」

 ルリシア殿下、ちょっとがっかりしているような。

 まあ人には適材適所というものがあるからね。

 言うと泣かれそうだから言わないけど。

「貴族家の方をよくご招待出来ましたわね。

 エラ王国ではそういった手続きは難しいのですが。

 エラでは貴族の『格』が重要視されますから、民間企業がおいそれと接触できるはずがありません。

 例え陛下のご紹介があったとしてもです」

 セルミナさんが聞くと、フォムさんは澄まして答えた。

「実は、カル・シミト様にお手数をおかけしました。

 ありがとうございました」

「何の」

 カールさんが手を振った。

「わしが役に立てるのは、こんな事くらいじゃからの」

 そうか。

 帝国皇子だったら、この国の国王陛下の次くらいには格が高いからな。

 さすがフォムさん。

「それにしても、カル様はセルリユ興業舎と直接ご関係しておられないのでは」

 セルミナさんが抵抗するが、フォムさんは悠々たるものだ。

「ここ数日ヤジマ子爵閣下にお会いして頂いた方々がその貴族や大商人でして。

 親善大使閣下自らに表敬訪問していただけて、助かりました」

 あーっ!

 俺、そんなことに使われていたのか!

「同時にヤジマ商会関連企業からの商談や融資などの話も別途させて頂きましたので」

 道理で皆さん、満面の笑みだったわけだ。

 パネェ。

 フォムさんって、ひょっとしたらラナエ嬢並?

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