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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第三章 俺が巡業団長?

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1.臨時親善大使館?

 ルリシア王女殿下という協力者を得たソラージュ親善使節団は、すぐに臨時大使館となる屋敷を押さえる事が出来た。

 いや実際に動いたのはロロニア嬢だったけど。

 この万能なる侍女は王宮外にも大量のコネがあるらしくて、ヒューリアさんから大使館の条件を聞くとその場で不動産屋? を紹介してくれたのだ。

 紹介状まで書いてくれて、クレモン家の名を出せば話がスムーズに通るとまで言ってくれた。

 どうも、ロロニア嬢は王女殿下の侍女や子爵家令嬢といった身分を越えた大規模なネットワークを持っているらしい。

 俺たちは、その新装なった「ソラージュ親善大使専用エリンサ臨時大使館」の一室に集まっていた。

 俺を含む親善使節団の全員にハマオルさんたち護衛、そしてエラ王国のルリシア殿下主従だ。

 セルリユ興業舎の人たちは、こっちの方針が決まってからこの部屋に来て貰うことになっている。

 まだゴタゴタしているが、とりあえず俺たちの居住/執務スペースはセルリユ興業舎派遣隊の皆さんが大車輪で整えてくれたのだ。

 かなり大きな屋敷で、エラ王国の某領地貴族がエリンサの拠点として建てたものの、維持費がかかりすぎるので貸し出したものらしい。

 場所は王都エリンサの中心部からかなり外れた高級住宅街で、広い道が魅力的だ。

 庭と裏庭も広くて、例えばセルリユ興業舎派遣隊の野生動物なども十分活動できるということだった。

 何の活動をするのか知らないけど。

 俺にはとりあえず関係ないので、親善使節団が確保した会議室でこれからの方針を検討するためにルリシア王女殿下を招いた所、あっさりと応じてくれた。

 何と、馬車一台でいらっしゃった。

 ルリシア殿下と侍女のロロニア嬢の他に、護衛が2人だ。

 それで大丈夫なの?

「私は王位継承権を持ちませんし、財産と言えるほどのものもありません。

 王女の身分にしても私程度の者は王室にゴロゴロいますので、ことさらに警戒する必要がありませんから」

 軽く言われてしまったけど、でも王女殿下だよ?

 ソラージュだったら例えプライベートでも大名行列になる所だ。

「現在のエラ王国は、王室の頭数が過剰です。

 王陛下が子だくさんな上、正室以外の方にも分け隔て無くお情けをかけられたこともあって」

 セルミナさんが苦笑しながら解説してくれた。

 なるほど。

 地球と同じで、王様には側室がつきものだということですね。

 ルリシア殿下も側室の子なのか。

 でもソラージュのルディン陛下にはそんな噂はなかったみたいだけど。

「ルディン陛下は愛妻家として有名です。

 公式の側室はおられません」

 トニさんが堅い表情で言った。

 非公式には存在するのか?

 まあいいや。

 話を戻すと、つまりエラ王国では王子や王女殿下ってそれほど珍しくも重要でもないということですね。

「それでも王族であることには違いありませんので、しかるべき礼儀を忘れないようにお願いします」

 トニさんの忠告に、なぜかルリシア殿下ご自身が不満げな表情を見せたが、まあいい。

 でも、ルリシア様ってご自分で言われるほど軽い立場ではない気がするんだけど?

 ソラージュの親善大使の接待を任されるくらいなんだから、下手すると大臣とまではいかなくても、役所のかなり偉い立場くらいの重さはありそうな。

「それは……私というよりはロロがですね」

 ルリシア王女殿下が言いにくそうに言うと、その場の全員が後ろに控えている侍女を見た。

 そうなの?

 ロロニア嬢って、身分的には子爵家の令嬢というだけじゃなかったっけ?

 まあ、あっという間にこの大使館を紹介してくれたりしたけど。

「ロロニアの正体は、謎です」

 「学校」仲間として一番よく知っているはずのヒューリアさんが重々しく断言した。

「『学校』時代から、物資の調達や情報調査には無類の実力を発揮しておりました。

 自国でもないのに、どうしてあれだけの手配が出来るのか判りませんでしたが、それは今も変わってないようですわね。

 まして、ここはホームグラウンド。

 無敵かもしれません」

 不気味な。

 「学校」において「交易商」の異名をとったヒューリアさんにそこまで言わせるとは。

 カールさんが口を挟んだ。

「クレモン家は法衣子爵家だがむしろ大規模な貿易業者と言った方がいいからの。

 詳しくは言えんが、ギルドにも大きな影響力がある」

「ソラージュのギルドにもでしょうか」

 ハスィーが困惑したように言ったが、カールさんは肩を竦めた。

「各国のギルドは協力体制にあるからの。

 実際、国際貿易が盛んになるとどうしてもそうなる。

 法的な問題や特許なども、どこかで妥協や協調せねばならんからな。

 時には経済的な国際紛争の調停なども必要で、よってギルド同士は普段から密接な情報交換を行っておるわけじゃ」

 ソラージュの元ギルド総評議長がそう言うんだから、そうなんだろうな。

 でも、それはギルド同士の関係ですよね?

「ギルドとは、すなわち業者の集まりだからの。

 有力な企業や業者が集まっているだけで、『ギルド』という個人や団体があるわけではない。

 必然的に、ギルドの評議員を出すほどの企業や業者は他国の業者と関係を深めていくことになる。

 クレモン家など、その筆頭じゃろう」

 なるほど。

 つまりは、ギルド自体というよりはそこに属する「人」のコネや伝手なんだろうな。

 カールさんも現役時代にはクレモン家とやり合ったり情報交換したりしていたわけか。

 そしてそのクレモン家の令嬢であるロロニア嬢は、そういう裏のネットワークを使えると。

 ルリシア殿下って凄い部下を持っているわけだ。

 いやむしろ、ロロニア嬢が利用できる王女というコマを持っていると言った方がいいかも。

「失礼な!

 私はそこまで傀儡ではありません!」

 ルリシア王女殿下が叫ぶが、既にその口調が内心の不安を露呈しているぞ。

 多分、ルミト陛下は全部ご存じなのだろう。

 いくら王女とは言っても、いきなり他国の接待役を投げられてもどうしようもないだろうからね。

 むしろロロニア嬢に役目が押しつけられたと思った方がいい。

「その考察は正しい。

 ルミト陛下は辣腕にして悪辣。

 何かあると無理難題を押しつけてくる」

 ロロニア嬢がちょっとうんざりした表情で言った。

 そしてかすかに笑う。

「もちろん、こっちもそれなりの報酬を要求するけど」

 やっぱし。

 怖い世界だなあ。

 ユマさんやラナエ嬢で慣れていたつもりだったけど、こっちの人たちって変に隠したりしないから、怖い人は露骨に怖さが判ってしまうんだよね。

 これはやっぱり魔素翻訳のせいだろうな。

 どうも、内心を隠して裏でやり合うという習慣がほとんどないみたいなのだ。

 地球だとそれは常套手段なんだけどね。

 軽小説(ラノベ)なんかでも、最初は味方だと思っていたのに実は黒幕だったとか、微笑みながら裏切ってくるような悪役が当たり前に出てくるけど、こっちにはまずいない。

 だって、そんなことしたって長い間誤魔化しようがないからね。

 「仲間」と呼べるような間柄では、とてもじゃないけど裏切り続けることなんか無理だ。

 絶対にバレる。

 だから、ある意味こっちの闘争は単純な力のぶつかり合いになってしまっている。

 まあそれでも謀略とか作戦とかは必要なわけで、このロロニア嬢も達人の一人だというわけだ。

 凄いね。

「マコトさん。

 あなたこそ凄い」

 ロロニア嬢が俺に正対して言った。

「何がでしょうか?」

「……その前に、丁寧口調は止めて下さい。

 マコトさんの方が身分が高いし、どちらにしても大使閣下なので」

 そうだったっけ。

 どうもユマさんやラナエ嬢並と思えてしまうので、俺より上位だと認識していたらしい。

 考えてみればいくら王女の侍女だと言っても、身分は単なる貴族の令嬢だもんな。

 子爵位を持つ俺の方が身分的には上なわけか。

 うーん。

 ロロニア嬢がこう言ってくるということは、多分本音を出すつもりになったわけだな。

「そう、その洞察力。

 そして内心を曝け出しているにも関わらず、奥が読めない深さ。

 もっと早く会いたかった」

 何を言い出すの?

 だがロロニア嬢はあっさり話題を変えた。

「私のことはロロニア、もしくはロロと呼んで下さい。

 出来れば呼び捨てで」

「そんなことは許しません」

 ハスィーが突然割って入った。

 傾国姫、そういう話題には敏感だからなあ。

「どうして?

 身分から言っても、大使閣下で子爵であるマコトさんが、王女の侍女である私を呼び捨てにすることは当たり前」

「そんなことを言って、一気に親しくなろうとしても無駄です。

 呼び捨てにされるのは、妻であるわたくしの特権です」

 いや、シイルとかも呼び捨てにしているけど。

「傾国姫は考えすぎ。

 私はただ、これから一緒に仕事をする上で気安い間柄になろうと」

「許しません!」

 ハスィー、ムキになりすぎだよ!

 みんなも、なんでニヤニヤしているばかりで止めてくれないの?

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