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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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25.臨時職?

 ロロニア嬢も反対しないようだった、というよりは無視されたので、俺はルリシア王女殿下と思う存分語り合った。

 すぐにハスィーとヒューリアさんも参戦してきたけど、張り合うわけではないようで助かった。

 結局の所は、俺たちは全員エラ王国のことについてほとんど何も知らないんだよね。

 だから、王家視点とはいえ直接ご存じの方から話を聞けるのは助かる。

「すると、王政府とは言ってもむしろ王都や国王領の統治機関というべきものなのですか」

「そうです。

 もっとも国防や魔王対策などは王政府がまとめて行っていますが、事実上それぞれの貴族領は独立国家のようなものです」

 ルリシア王女殿下は、ロロニア嬢の支配が及ばない所では博識で有能だった。

 正式な役職についているわけではないが、女性だてらに王政府の中でかなり顔が利く存在らしい。

 逆に言えば、それ以外の人が大したことないのかも。

「実を言えばロロの力が大きいのですけれどね。

 それでも私がマコトさんの接待役を任されても、周囲から文句を言われない程度には認められています」

 もっともそんな役は誰もやりたがらなかったから回ってきたようなものですが、とルリシア殿下はため息をついた。

「なぜでしょうか。

 マコトさんはソラージュの親善大使という以前にヤジマ商会の会長です。

 商売や交易を考えれば親しくなっておいて損はないと思いますが」

 ハスィーの疑問に、ルリシア王女殿下は額に指先を当てて答える。

「既得権益を脅かされるのではないか、という意見が大多数なのです。

 商売にしても、昔からの取引がある少数の御用商人が牛耳っている状態で、リスクをおかそうと考える者はあまりいません。

 増して、マコトさんのお仕事は野生動物や教育関係といった、これまでに存在しなかった事でしょう?

 あえて火中の栗を拾おうとする人がいなかったということです」

 それでもやりたがる人は多いと思いますが、地位や身分の問題で声が上げられないので、とルリシア殿下は言った。

 こっちにも栗があるのか。

 じゃなくて、つまり超保守なわけね。

 親善大使を呼んだのも、どうやらルミト陛下がほとんど独断でやったことみたいだし。

 王政府の中にも陛下の方針に賛成している人はあまりいないと。

「そんなことはございません。

 そもそもエラ王国政府は陛下が絶対君主なのですから、逆らっていいことは何もないわけです。

 領主の方たちは好き勝手おっしゃいますが、無責任で言っているだけです。

 それ以外の人たちは、例え反対でも表立って逆らうことはありません」

 ということは。

「はい。

 表立っては反対しないのですが、消極的な反対というか、わざと手を抜く程度のことは日常茶飯事で。

 それに、地方領主に買収されている者もいると思います」

 ソラージュとは全然違うなあ。

 最初聞いた時は、ソラージュの大本の国だから似たようなものかと思ったんだけど、実際には建国理念自体が違うのか。

 あれだな。

 イギリスとアメリカみたいなものかもしれない。

 エラの状況に耐えられなくなった人たちが移民して作った国がソラージュだったと。

 道理で妙に民主的で物わかりが良すぎると思った。

 普通なら封建国家があんなに開明的なはずはないんだよなあ。

 俺が会った地方領主や貴族の人たちって、揃いも揃って庶民的だったし。

 つまり、エラを反面教師にしているわけか。

「それでは……ルミト陛下も色々やりにくいのでは」

「ですから、宰相も置かずに直接統治をなさっておられます」

 ルリシア王女殿下がきっぱりと言った。

 そうなの?

 そういえば王政府の重職の人たちって紹介されてないけど、宰相もいないのか。

「直接統治って、そんなの無理ではないのですか。

 いくらルミト陛下が有能でも、限界があるのでは」

 ヒューリアさんが言うと、ルリシア殿下は頷いた。

 今更だけど、この王女様も気軽だね。

 親善大使の随員で男爵令嬢でしかないヒューリアさんと対等に話している。

 この王女様も、エラでは異端なんだろうな。

「もちろん、それらの役職の者がいないというわけではありません。

 常設のお役目ではないというだけです。

 継続して勤務している者もおりますが、陛下が直接任命なさって、その意思を実現している形になっているということですね。

 私もマコトさんの接待役兼アドバイザーに任命されました。

 これは言うまでもなく臨時の役職ですが、正式の職務でもあります」

 そうなんですか。

 つまりアメリカ合衆国方式ですね。

 大学の政治学で習ったけど、国の統治方法には色々あって、国家元首が統治者を兼ねている国とそうでない国に分けられるらしい。

 うろ覚えだから間違っているかもしれないけど、前者の代表がアメリカで、後者は日本やイギリスだ。

 後者は、さらに国家元首が世襲の場合と選挙で選ばれる方式に分けられる。

 日本やイギリスは天皇や国王がいて世襲なんだけど、フランスなんかは大統領を選挙で選ぶんだよね。

 でもその大統領は国の統治はやらない。

 それはいいとして、アメリカ方式っていうのは大統領がすべての権限を握っているわけだ。

 アメリカにも日本の大臣に当たる「長官」がいてそれぞれの専門分野を担当しているんだけど、この人たちの役職名は「United States Secretary of ○○」で、つまり大統領の秘書なんだよね。

 秘書というと単なるアシスタントに思えるけれど、普通の秘書はsecretaryで、アメリカ合衆国政府の長官はSecretaryだ。

 頭文字が大文字なだけだけど。

 何を言いたいのかというと、アメリカ政府の長官とは大臣と違ってあくまで「大統領の意思を遂行する」者なのだ。

 そう習った覚えがある。

 エラ王国も多分同じで、すべての役職はルミト陛下の意思を実現するための代行者であって、例えば日本でいう大臣みたいな自分の意思で何かを動かせる人というわけではないということなんだろうな。

 いやまあ、建前上だけど。

 よって、ルリシア王女殿下が「ソラージュ親善大使の接待役」というような役職に任命されれば、それは王政府の中で正式な立場になる。

 ルミト陛下の意思を遂行するわけだから、ルリシア殿下自身の身分や序列に関係なく王政府の中で権限を持てることになる。

 でも臨時雇いだ。

 ルミト陛下の気が変わったら、一瞬で役職を解かれる可能性がある。

「マコトさん……。

 たったこれだけの話から、どうやってそこまで理解できるのでしょうか」

 ルリシア殿下があっけにとられた表情で聞いてきた。

「と言われますと?」

「私はただ、臨時の役職ですと申し上げただけですのに。

 この方式を採用している国は珍しいらしくて、他の国の方は理解するのに時間がかかります。

 ですが、マコトさんは一瞬で理解なさいました」

 言葉が丁寧になっているけど、何で?

「そのような政治形態をとっている国について、習ったことがありますので」

 面倒なので誤魔化すと、ハスィーが自慢げに言った。

「マコトさんはこのように、一を聞いて十を知ります。

 それ故に、短期間にここまでになったのです」

 いや、それは違うから。

 ハスィーの身贔屓は置いといて、話を続ける。

「すると、ルリシア殿下はソラージュ使節団の対応については全権を握られていると考えてよろしいのでしょうか」

「……はい。

 そう言っても良いと思います。

 もちろん陛下のご意思に沿わない場合は違いますが」

 まあ、大丈夫だろう。

 ルミト陛下自ら、エラをぶっ壊したいとか言っていたもんな。

 王政府の権限が及ぶ限りは自由にやっていいと言われているし。

 よし。

 では早速、足場でも固めるか。

「まだよく判らないこともありますが、とりあえずして頂きたいことがあります」

 改まって言うと、ルリシア殿下は目をぱちくりさせた。

 実務になると駄目なのか?

「はい!

 何でも言って下さい!」

 違った。

 むしろ張り切る方か。

「とりあえず、我々使節団が本拠に出来る屋敷を借りたいんです。

 今はセルリユ興業舎が商売用に借りた施設に間借りしている状態で、郊外なので何かと動きにくいので」

「それはもちろんですね。

 条件はありますか?」

「はい。

 ヒューリアさん、よろしく」

「了解しました。

 親善大使閣下」

 ヒューリアさんも仕事モードで返してきたな。

 これは親善使節団の役目だからね。

「他には?」

「そうですね。

 後は人を雇いたいんですが、ルリシア殿下にご紹介頂いて……」

「はい!

 王女のご用はありますか?」

 違うでしょう!

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