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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三章 俺は冒険者チームのインターン?

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10.中ボス?

 峡谷は静まりかえっていた。

 生き物の気配はない。いや、木とか草は生えているけど、動物がまったくいないのだ。

 これって、やっぱりオオカミモドキを恐れて逃げたということか?

 ラノベでよくあるシーンなので、俺はへっぴり腰のまま、ホトウさんの後ろにくっついていく。

 マイキーさんが笑っていたけど、冗談じゃないよ!

 ラノベでもゲームでも、こういう状態になったらまず、無事では済まない。

 最悪の場合は負傷者を抱えて、誰かが「先に行ってくれ」と言って追っ手の前に立ちふさがって終わる。

 もちろん、その人は追いついてこない。

 まさか、自分が本当にそんな立場に追い込まれるとは、思っても見なかったなあ。

 冒険者なんか、絶対やるもんじゃないぞ。実際の戦闘もひどいものだが、こうやって何が起こるか判らない状態で延々と進み続けるのはきついなんてもんじゃない。

 精神的に来るんだよ。

 現代日本じゃ、こんな状況はまずないからな。本気で命がかかっていて、しかも引き返せないことなんか、めったにないはずだ。

 ちょっと待てよ。

 引き返せないのか?

 俺は駄目です向いてませんとホトウさんに正直に言って、ボルノさん【馬】の所に戻って待っていればいいんじゃないか。

 そうしようそうしよう、と思ったが、口は動かなかった。

 駄目だよね。そんなことじゃ、冒険者どころか人間失格だ。マルトさんにも見捨てられて、ホームレスでもやるしかなくなり、最終的には犯罪者か餓死だ。

 それは嫌だ。

 明るく考えなければ。

 そうそう、オオカミモドキさんって、気のいい人かもしれないじゃないか。

 人じゃないけど。

「いた」

 突然、ホトウさんが言った。

 口調がちょっと変化している。

 反射的に顔を上げると、峡谷の向こうの、カーブしている所から何かが現れたところだった。

 大きさはちょっと判らない。

 あれが体長2メートルのオオカミさんモドキなのだろうか。

 一匹、いや一人だ。

 話が通じるんだから、単位は「人」だよね。

 自動的といっていいのか、パーティの陣形が変化していた。ホトウさんが先頭なのは同じだが、他の人たちは立ち止まって、塊になる。

 と、俺もぐいと手を引かれてその中に取り込まれた。というよりは、俺を中心にして三方を警戒する形になった。

「マコトはじっとしていて。私たちがカバーするから」

 マイキーさんが囁いてくれる。

 お客様を守ってくれるわけか。

 何がインターンだよ。

 つまり、俺って仲間というよりは荷物だったわけだ。本当なら、荷馬車やボルノさん【馬】と一緒に置いてきたかった所だろうが、インターンという名目で連れてきている以上、それは出来ない。

 だから、最大限俺に危険が近づかないような陣形を取るということか。

 情けないけど、文句は言えない。この状況で、パーティにドシロウトが混じっていることの危険性は、俺にでも判る。

 俺がパニックを起こして、オオカミモドキの方に向かって駆け出さないとは限らないのだ。何せ、俺のことがまったく判らないんだから。

 ひょっとしたら、『ハヤブサ』のみんなにとってはあのオオカミモドキより、俺の方が怖いのかもしれないな。

 そう思うと力が抜けた。

 もう、どうでもいいや。

 そうこうしている間にも、ホトウさんと正体不明の何かはお互いに真っ直ぐに接近していた。

 だんだんと見えてくる。

 遠目でみたら、確かにオオカミというか、犬科の動物に見えた。

 顔つきとか耳とか、確かに犬だ。

 でも縮尺が間違ってないか?

 結構向こうにいるのに、どうしてオオカミの顔がホトウさんの上にあるんだよ。

 体長2メートルなんてもんじゃないぞ。

 その1.5倍はありそうだ。

 二人、というかホトウさんとそのスーパーオオカミは、同時に向かい合って立ち止まった。

 行き詰まる瞬間。

 ホトウさんが、気の抜けた声で言うのが聞こえた。

「やあ。いい天気だね」

 巨大オオカミは何も言わない。

「ところで、こんな所で何をしているんだい?」

 オオカミモドキが吼えた。

 咆吼という奴だな。ビリビリきた。

 だが、意味は感じられない。オオカミ何とかって、話せたんじゃなかったっけ?

 それとも、あの図体でまだ幼児なのだろうか。だったら、成体はどれくらいになるんだ?

「いや、そうは言っても、協定で決まっているんだよ。特別な理由がないと、ここに来ちゃ駄目だって」

 オオカミが咆吼する。

「僕が決めたわけじゃないし、大体そっちの長老だって了解しているんだから」

 会話が成立しているようだ。

 そうか、これが魔素の距離制限というものか。

 ホトウさんは、俺の近くにいるからその声は俺の理解できるものとして聞こえる。

 しかし、オオカミモドキはそれより遠くにいるから、俺には鳴き声としてしか聞こえないということだ。ちなみに、ホトウさんと会話が出来ているので、あの距離がおそらく意味が通じるギリギリなんだろう。

 そういうことは、人間も動物も常識として理解しているんだろうな。

 オオカミモドキが、突然座り込んだ。

 何か、泣き言みたいな調子で鳴き声をあげる。

 といっても図体が図体なので、やはり音量調節に失敗した合唱団の録音の再生みたいにしか聞こえなかったが。

「うーん、そう言われてもね。僕には何とも言えないなあ。あ、そういえば会って貰いたい人がいるんだよ。おーい、マコト」

 ホトウさんが、こっちを向いて叫んだ。

「ちょっと来て貰っていいかな」

 良くないよ!

 でも、拒否権はないんだよな。

 パーティのみんながどいてくれたので、俺は恐る恐るホトウさん、というよりはオオカミ何とかに向かっていった。

 でかい。

 立っているホトウさんと、座り込んでいるオオカミ何とかの高さが同じくらいだぞ。

 体長は3メートルくらいあるだろう。よくこんな巨体で動けるものだ。

 よく知られているように、筋肉の太さは自乗で増えていくけど、質量は三乗で増加するからな。

 倍の太さがある足では、四倍に増えた重量を支えきれないから、身体がでかくなればなるほど足は太く、動作は鈍くなっていくはずだ。

 象がいい例だよね。

 地球の象ほどではないけどこの図体で素早く動けるとしたら、よほど効率がいい身体の構造なんだろうな。

 こっそり見てみると、足が異様に太かった。

 狼の足じゃないよ。虎とかの、猫科の猛獣の足に近いかもしれない。

 肩とか腿とかの筋肉も凄そうだ。

 その反面、胴体はむしろほっそりしていて、かなり重量軽減を図っているのが判る。

 ああ、そういえば地球にも似たようなのがいたっけ。

 サーベルタイガーとか。あれも猫科だけど。

 地球では絶滅したけど、こっちでは生き延びているらしい。氷河期がなかったのかも。

 それにしても、ホトウさんたちってこんな物凄い魔物、じゃなくて猛獣の人(違)と、万一の場合はやり合うつもりだったのか。

 『栄冠の空』の依頼料って、凄く高いんだろうなあ。

 ラノベだったら、間違いなく中ボスか、何かの宝物を守っているレベルだぞ。こういうのとまともに戦っては駄目だ。

 説得するんだ。

 あ、だから俺たちはここにいるのか。

「マコト、紹介するよ。フクロオオカミのツォルくんだ。ツォルくん、こっちが新しくパーティに加わったマコト」

「つぉるダ」

 そう聞こえましたよ。

 フクロオオカミさんは吼えただけだが、俺には意味が判った。

 すごい。

 これが魔素の力か。

 それも凄いけど、動物にしか見えない人(違)が話せるというのが驚きである。

 いや、マルトさんたちと会話していて魔素の力は判っていたつもりだったけど、もちろん先輩社員のボルノさん【馬】ともちょっと話したけど、今の今まで信じ切れていないところがあったのだ。

 動物と話が出来る。

 ドリトル先生も真っ青だな。

「マコトといいます。見習いです」

 インターンとかめんどくさくなりそうだから、分かり易く言っておいた。

「ツォルくん、さっきの悩みをマコトにも教えてあげたら」

 ホトウさんが言うと、ツォルさん【フクロオオカミ】は俺の方を見てバウバウと吼え始めた。

 耳が痛くなりそうだ。

 明確に俺に向かって話しているせいか、意味が非常によく判る。

「退屈。モット遠クニ行キタイ。デモ怖イ。心配」

 何それ?

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