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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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22.王女殿下?

 エラ王国の国王陛下はお城に住んでいるらしかった。

 この辺りはソラージュと同じなんだけど。

 規模というか、迫力が違った。

 こっちはまだ、国王=権威なのだ。

 ギルドがあまり力を持ってないし、相対的に貴族の力が強いとしたら、国王陛下は更に強くないとやっていけない。

 だから、俺たちが連れて行かれたのは立派なお堀や石垣もある堂々とした戦闘用の城塞だった。

 おっかないね。

 巨大な門から馬車ごと入り、誘導に従ってエントランスに向かう。

 あちこちに兵隊の姿が見えた。

 これが正常な「王国」の姿なのか。

 今思うとソラージュって変だったよね。

 そもそもあれだけの規模の封建国家で、兵隊の姿がほとんど見えないというのは異常だ。

 むしろ民主国家に近かったような。

「ヤジマ子爵!

 こっちだ」

 声がして、カールさんが手を振っているのが見えた。

 待っていてくれたらしい。

 トニさんやヒューリアさんの姿も見える。

 使節団全員で謁見に臨むわけか。

 それはそうだよな。

 公式な謁見って、これが最初になるのかもしれない。

 離宮のは臨時くさかったし。

「そんなことはございません。

 信用状は提出済みですし、ヤジマ子爵閣下はソラージュの親善大使として認められています」

 トニさんがなぜか口を挟んできた。

 その辺、気になるところなんだろうか。

 まあどうでもいいけど。

 俺には自分の意思ってもんがないからね。

 言われるままに振る舞うだけだ。

「それでここまでのし上がってきたわけだから、マコト殿は底知れぬ怪物じゃな」

 カールさんも戯れ言が多いですよ。

 ああそうか。

 今気づいたけど、カールさんがソラージュのギルド総評議長にまで出世した理由ってそれかも。

 さっきセルミナさんが言っていた「トップの重圧」って奴ね。

 カールさんも俺と同じ「迷い人」だから、A・T・フィー○ドを持ってないわけだ。

 つまり反チート能力の持ち主だ。

 相手が向けてくる感情を受け止めることが出来ないわけで。

 トップの重圧がそれだとしたら、カールさんはどんな感情を向けられても平然と受け流せることになる。

 これって、物凄いアドバンテージなのでは。

 そういうSFを昔読んだような気がするなあ。

 超能力を信じない男には、どんな超能力者の攻撃も通じないという。

 ギャグだったけど。

 俺がぼやっとしている間にも、護衛の馬車から人や野生動物がわらわらと現れて俺たちを囲んだ。

「では、参りましょう」

 セルミナさんの指示で動き出す。

 どうやら護衛を連れて入れるようだ。

 セルミナさんがエントランスで立哨していた兵隊に何か書類を見せて、その兵隊が一度引っ込んだと思うとすぐに出て来た。

「少しお待ち下さい」

「判りました」

 この辺りはソラージュの王太子府なんかと同じだね。

 でも、あの時はハマオルさんたちはエントランスで止められたけど。

「こちらはソラージュの外交使節団ですから。

 ある程度の外交特権が認められています」

 逆に言えばそれって、自分の身は自分で守れと言われているようなものでは。

「この辺はまだ外交的には『外』です。

 謁見の場には、さすがに護衛は入り込めません」

 なるほど。

 エントランスで待っていると、侍従らしい立派な制服を着た人がやって来た。

 兵隊が敬礼して、何かの書類を渡す。

「失礼します。

 ソラージュ王国親善使節団の方々でいらっしゃいますか?」

「はい。

 ヤジマ大使以下使節団員6名。

 および随行6名です」

「……随行員の記載がございませんが」

 案内の人が当惑したように言ったが、セルミナさんが「こちらの方々です」と言って犬と猫を紹介した。

 いや子供向けアニメだよね、このシーン。

 ていうか、いくらアニメでも無理がありすぎる気がする。

 普通の異世界物(ラノベ)だったら、ここは従魔とか妖精とか、野生動物の姿をしていても何か超常の存在だろう。

 だが、ここにいるのは普通の犬猫なのだ。

 戦闘力は侮りがたいけど。

「……少し、お待ち下さい」

 侍従の人は、あたふたと戻って行った。

 それはそうだろうなあ。

 そもそも書類に記載されていない随行員を通す言われはないよね。

 あの侍従の人の権限を越えている。

「大丈夫でしょうか?」

「まあ、平気じゃろう。

 ルミトはシャレが判る奴じゃからな」

 カールさんか呑気に言うけど、マジでヤバくないのか。

 そもそも謁見の場に野生動物を連れ込もうとする事自体が問題という気がする。

 でも、俺以外は誰も心配していないようだった。

 犬猫の人たちも平然としている。

 みんな凄いなあ。

 しばらくすると、侍従の人が何かもっと偉そうな人を連れて戻ってきた。

 さらに立派な制服を着けた初老の人だ。

 穏やかな好々爺というイメージだが、眼光がその雰囲気をぶちこわしにしていた。

 ちょっと怖い。

「侍従長のワラムと申します。

 ヤジマ大使閣下にはお手数を取らせてしまい、失礼いたしました。

 どうぞお通り下さい」

 でも言葉と態度は丁寧だった。

 この人、ルミト陛下の懐刀か何かなんだろうな。

「では」

 ワラムさんの後についてゾロゾロと進む。

 立派な廊下をしばらく歩き、階段を昇ってからさらに歩き、大広間みたいな場所に着くと、そこには下で立哨していた兵隊とは明らかに違う制服を着た兵士が並んでいた。

 近衛兵という奴か。

 つまり、ここからはセキュリティが厳しくなるということだね。

 ワラムさんが言った。

「護衛の方々は、ここでお待ち下さい」

 俺がハマオルさんを見ると、かすかに頷いたのでセルミナさんに目配せする。

「承知しました」

 セルミナさんが、とりあえずのリーダーということだ。

 外交的な手順には一番詳しいからな。

 俺を含めた他の親善使節団のメンバーは、この時点ではお客さんだ。

 ハマオルさんたちが整列して立哨する。

 近衛兵の人たちと睨み合う形になったけど、大丈夫だよね?

「心配いらん。

 形式的なものじゃよ。

 護衛も交代で休めるようになっておる」

 カールさんに言われて見ると、部屋の向こうの方にドアがあった。

 来賓用の休憩室になっているらしい。

「従者や『手の者』などもあそこで待機することになっておる。

 エラは歴史が古いだけあって、その辺りの作法は洗練されておるでな」

 カールさん、異様に詳しいんですが。

 やっぱ昔、何かあったのでは。

 考えている暇はなかった。

 ワラムさんが扉を開けて、俺たちを招き入れる。

 その向こうはまた廊下だったが、正面や左右にいくつか立派な扉があって、いよいよ目的地に到着したらしい。

 ハスィーが俺の手を握ってきたけど、別に緊張することもない。

 ソラージュとかでもこういうのはあったからね。

 エラ王国国王陛下の正体は判っている。

 その本質はピン芸人だ。

 おそらくトリオで演っているソラージュのルディン陛下よりさらに過激なはずだ。

 従って、俺としてはどんなギャグが飛び出してもノリツッコミに走らないように心を静めておくだけでいい。

 多分、ハスィー以下の人たちは圧倒されて反応できないだろうしね。

 ワラムさんが突き当たりの扉を押し開けて、どうぞという素振りをするので俺が真っ先に踏み込んだ。

 作法が違うかもしれないけど、いいかげんに飽きてきたりして。

 そこは、さすがに豪華な部屋だった。

 あまり大きくない。

 せいぜい30畳といったところか。

 いや、俺の感覚も日本とは違ってきてしまっているんだよな。

 正面は大きなガラス張りの窓になっていて、遠くの方に石壁が見えた。

 中庭に向かって開けているのか。

 相当広いな。

 一方の壁にはカーテンが掛かっていて、使用人とか護衛が控えていそうだ。

「エラ王国王女、ルリシア殿下である」

 女性の声が聞こえたので、俺はとっさに頭を下げて片膝をつく。

 条件反射だ。

 この辺はラナエ嬢とユマさんの教育のたまものだね。

 考えなくても身体が動くようになってしまったのだ。

 訓練、辛かった(泣)。

「よう参られた。

 お初にお目にかかる。

 ルリシア・エラと申す。

 (おもて)を上げられよ」

 さっきのとは違う、澄んだ声がかかった。

 何か聞き覚えがあるんだけど、王女殿下か。

 知り合いにはあまりいないんだよね。

 結婚式の時にちらっとお目にかかったくらいで。

 顔を上げると、見覚えのある顔が澄ましてこっちを見つめていた。

 ルリシア様って。

 あんた、王女様だったんですか!

「ん?

 そちとは初対面だと言ったはずだが?」

 そうなのですか。

 まあいいけど。

「な~んてね!

 マコトさんいらっしゃい!」

 やっぱ芸人かよ!

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