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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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19.エリンサ支店?

 のろのろ進んでいるように思えても、進み続けていればいつかは目的地に到着する。

 1週間ほどで、俺たちはエラ王国の王都エリンサに入った。

 郊外で王陛下のキャラバンと別れ、案内に従ってセルリユ興業舎が確保した場所に向かう。

 セルリユ興業舎エリンサ支店。

 アレスト興業舎によく似た何もない広大な土地に、それはあった。

 古ぼけたでかい倉庫のような建物までおんなじだ。

「この様式は元々エラの仕様ということです。

 アレスト市やセルリユにあった倉庫の方が複製(レプリカ)なんでしょうな」

 出迎えてくれたフォムさんが説明してくれた。

 そうなのか。

 昔のエラ王国人が、食料などを備蓄するためにこういう規格の建物を設計したらしい。

 ソラージュの文化の源流はエラだから、そういうものもそのまま再現して使っていたんだろう。

「するとここも?」

「そうですね。

 やはり、使われなくなった備蓄倉庫がギルドに塩漬けになっておりましたもので、権利を買い取りました。

 正確には借地権ですが、当面の目的には十分です」

 フォムさんも立派な経営者になっているね。

 元々はギルドの警備隊士官だったことを思うと、凄いものだ。

 シルさんの下で働いていたんだから無能なはずはないけど。

「私が商人の真似事をするとは思ってもなかったのですが、シルレラ舎長にまあやってみろと言われまして。

 やってみたら、案外面白いものですな」

 フォムさんも楽しそうだ。

 ますますイケメンのマッチョぶりが増している気がする。

「これからどうするのでしょうか」

「ソラルから連絡がありまして、エラにおける事業展開の準備を進めております。

 既にエリンサのギルド当局と折衝中ですので、そちらはお任せ下さい。

 それから申し訳ありませんが、ヤジマ子爵閣下と奥様は当面、こちらで生活して頂くことになります」

 それはいいですが。

「なぜでしょうか」

「セキュリティ上の問題です。

 エラ王政府との連絡その他については、随行員を王都の出張所に常駐させて対応して頂くことになります。

 ヤジマ子爵閣下および奥様は、安全が確認されるまではこちらで待機をお願いします」

 つまり、危険が危ないと。

 ソラージュからの刺客はともかく、まだエラ王国内の状況が判らないからね。

 ここにいれば軍事基地に籠もっているようなものだ。

 了解しました。

 俺はともかくハスィーを危険に曝せない。

 でも、随行員の人たちは大丈夫なんでしょうか。

「ヤジマ子爵閣下に比べれば危険度は少ないかと。『敵』にしても、勝手が判らない外国では動きにくいはずです。

 人質をとって、といった行動は難しいでしょう。

 それに使節団はソラージュの外交特権で守られておりますからな。

 何かあればエラ側の失態になりますから、エラ王政府が対処してくれるはずです」

 それでも安全とは言い難いけど、そんなことを言い出したら話が進まなくなるのは判る。

 だから、とりあえず俺たちだけは隔離しておこうということか。

 気が進まないけど、しょうがない。

「ではそういうことで」

 フォムさんも忙しいようで、俺たちを案内の人に託すと消えた。

 案内の人は、まだ若い男だった。

 セルリユ興業舎の舎員らしいんだけど、見るからに緊張していて可哀想なくらいだ。

 俺やハスィーを直視できないらしくて、始終俯いたまま案内してくれた。

「俺、そんなに怖がられているのか」

 思わず呟いてしまったが、ハスィーが訂正してくれた。

「そうではなくて、マコトさんを畏れているのでしょう。

 セルリユ興業舎の舎員から見たら、マコトさんは親会社のオーナーなのですから」

 なるほど。

 つまり、北聖システムの平社員だった俺が、命令されて親会社の会長夫妻の世話をやかなければならなくなったようなものか。

 それは緊張するよね。

 しかも慣れたセルリユじゃなくて、自分も知らない土地だ。

 粗相でもあったらどうしようと思っても不思議じゃない。

 でもラナエ嬢が派遣隊に採用するくらいだから、本来は優秀な人材のはずなんだけどなあ。

 案内されたのは安宿にしては比較的マシ、と思える程度の部屋だった。

 もともと廃棄されかけていた倉庫なんだから仕方がないけど、ハスィーは大丈夫か?

 いや俺は平気だけど。

「馬車で休むよりは落ち着けると思います。

 それに、何度も言っていますがわたくしはマコトさんがいれば、後は何も必要ありません」

 最近のアニメなんかだと、こういうことを言ってくれるヒロインってほとんどいないよね。

 大抵はすぐに暴力を振るったり、必要以上に嫉妬深かったりするだけで。

 俺がアニメを見なくなったのは、ヒロインがそんなんばっかになってしまったからもあるんだよなあ。

 まあいい。

 これはアニメじゃないし、俺は主人公じゃないし、ハスィーもヒロインじゃない。

 俺の嫁だ。

 いやこの言い方は厨二かもしれないけど。

 でも事実だから仕方がない。

 その日は長旅の終点ということもあって疲れていたので、セルリユ興業舎の人が運んでくれた荷物を解いたりしてゆっくり過ごした。

 夕食は急遽しつらえたらしい食堂で、それにしては結構な食事が出た。

 もっともマナー重視のディナーではなく、イザカヤ方式に近いざっくばらんな場だ。

 セルリユ興業舎の派遣隊に同行している「ヤジマ食堂」のコックさんが腕を振るってくれたらしい。

 何でも有りだな、セルリユ興業舎。

 夕食には、親善使節団の残りのメンバーも集合してくれた。

 みんなは王都エリンサの屋敷に常駐することになるそうだ。

 屋敷とは言っても小規模なもので、せいぜい十部屋程度しかないらしい。

 それで小規模かよ!

 使節団が詰めるためには十分だというけど、俺とハスィーが滞在するとなると護衛がいる場所がなくなる。

 しかもエリンサの中心部にあるため、野生動物が入り込みにくい立地条件だということだった。

 急だったためにその物件しか契約できなかったのだが、そもそもは俺たちの拠点としてではなく、セルリユ興業舎エリンサ支店の中央窓口として準備した屋敷なのだ。

 親善使節団の拠点は別途探しているので、決まるまではこの倉庫にいて欲しいということだね。

 なぜ皆さん恐縮していたが、別にかまいませんよ?

 俺はもともとペーペーのサラリーマンだし、出張で変な場所に泊まることも仕事の内だ。

 ハスィーも傾国姫と称されるにしては居住環境にあまり文句を言わないタイプだしね。

「そう言って頂けると助かります。

 実は、ソラージュ王国の大使館にも打診したのですが、とても対応しきれないということで断られてしまいまして」

 それはそうでしょう。

 現地大使館にはそれなりの仕事があるはずだ。

 職務に何の関係もない親善大使に押しかけられても困る。

「私は今夜からこちらに泊まります」

 アレナさんが言った。

 ハスィーの従者だからね。

 当然だ。

 部屋を用意して貰わないと。

「私はエラ当局との折衝がありますので」

 ヒューリアさんは都心に残るらしい。

 お役人の二人も同様だ。

 それは当然で、何か期待されるような顔つきだったので許可した。

 なるほど。

 使節団の団長は親善大使である俺か。

 つまり、俺の指示や命令がないと動けないわけね。

「そんなのいいですから、自由にやって下さい。

 責任は俺がとります」

 丸投げだ。

 でも、これを言って貰うと部下としては随分楽になるんだよなあ。

 何かあったらお前が責任とれよ、という上司は駄目だ。

 俺の短いサラリーマン生活でも思い知ったからね。

 そういう管理職、結構多いんだけど、そんな奴には誰もついていかない。

 組織の上司だから仕方なく従っているけど、そんなんじゃいい仕事できないって。

「さすがじゃな。

 マコト殿は、やはり地球でも大きな仕事で人の上に立っておったのではないか」

 カールさん、戯れ言言わないで下さい。

「まあよい。

 ちなみに、わしはナレムと都心のホテルに泊まるが良いか?」

「もちろんです。

 ご自由に動いて頂いて結構です」

 ナレムさんがいれば安全だろうし、むしろ俺のそばにいない方がうまくやれるんじゃないかな。

 どうもカールさんって、謎が多いというよりは何か隠しているみたいだからね。

 とっくに引退したという話だけど、まだまだあっちこっちにコネや伝手がありそうだし。

 そもそもエラ国王陛下とお互いに呼び捨てしあうほどの知り合いなんだよ!

 そんな人を俺ごときが制御できるはずがない。

 好きにして下さい。

「了解した。

 連絡は常にとるようにするのでよろしく」

 カールさんの言葉にヒューリアさんが頷いていた。

 ヒューリアさんが、この親善使節団のプランナーということか。

「ところで」

 セルミナさんが言った。

「早速ですが、明日エラ王城で謁見が予定されていますので、準備をお願いします」

 早いよ!

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