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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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18.羞恥プレイ?

 翌日には出立の命令が下った。

 ルミト陛下が王都に戻るのだそうだ。

 避暑に来ていたんじゃないの?

 夏はこれからなんですが。

 でも王様が言い出したらもうそれは決定だからね。

 当然、俺たちソラージュの親善大使一行も同行する。

 王室の大半は残るそうだけど、王子様や王女様はフクロオオカミたち見たさにルミト陛下について行きたがったらしい。

 王室のお子様たちはもともと親から離れて来ていたので、王都に戻るのならそれはそれでいいということで、大移動になってしまった。

「これ、最初からの計画だったんでしょうか」

「かもしれないの。

 ソラージュ国王陛下とかなり頻繁に連絡を取り合っておったらしい」

 詳しいですね、カールさん。

「ユマ司法管理官が教えてくれたよ。

 案外、あの娘御が描いた絵なのかもしれんな」

 やっぱしかよ。

 もう諦めたけど、俺やハスィーってマジで操人形(パペット)だよね。

 まあ、そんな情報知ってても無意味だけど。

 そもそも俺は何がしたいわけでもなく。

 強いて言えば観光したいけど、そんなの許されるはずもないし。

「そんなことはございません。

 エラ王国の王都に落ち着いたら、ご希望を出してみたらいかがでしょうか。

 許可が下りれば観光できますわよ」

 セルミナさんが言ってくれたので、希望を持って待つことにする。

 親善大使なんだから、親善したいのでどこそこに行きたいと言えば大抵の所には行けるらしい。

 しかも親善する相手はこっちで決めて良いと。

 もちろんエラ王政府の要請があればそっちを優先するけど、あとは招待などもされるので、行き先に困ることはないだろうということだった。

 そんな甘いもんじゃないことは判ってるけどね。

 俺としては、とにかく珍しいものとか初めて見るモノがあればそれでいいと。

「どうでしょうか。

 エラ王国はソラージュの源流ですから、基本的には同じです。

 古い街並みなどはありますが、古すぎて建て直されていることが多いそうですし」

 ハスィー、夢を壊さないで!

 ルミト陛下の移動は、まさに重列(コンボイ)と言いたくなるような大規模な馬車の隊列だった。

 豪華な御用馬車とそれを守る護衛用の馬車。

 王族の方々だけでも御用馬車が何台も必要だ。

 それにお付きの人や宮廷を構成する高位貴族の皆様の馬車。

 そしてその護衛。

 ひとつの街がそっくり移動するようなものだ。

 これだけの規模だと、先頭が動き始めてから最後尾が動き出すまで1時間くらいかかる。

 止まるまで1時間に、野営の準備をするだけで1時間。

 従って一日の移動距離は普通の馬車の半分くらいらしい。

 しかも通っている間は街道を事実上封鎖してしまうので、周囲の住民や旅行者たちからはかなり顰蹙を買っているらしかった。

「これもまた、エラ王国の伝統の弊害とも言えますね。

 何よりも格式が優先されるので、何かするのにやたらに人数が増えていくんですよ。

 ソラージュがいかに効率化されているかお解りでしょう」

 セルミナさんが言ったが、まあ俺は日本人だからね。

 ソラージュより遙かに機械化・効率化された世界から来たわけで。

 俺から見ると、どっちもどっちという感覚だ。

 それでも、確かにエラ王国のやり方がどうしようもないほど非効率なことは判った。

 でも、だからといって俺たちにどうこうできるはずもない。

 結局、俺たち使節団とその随行であるセルリユ興業舎北方派遣隊は、この大規模キャラバンについていくしかない。

 悪いことばかりでもなかった。

 毎日のように、主に王室のお子様方のご要望でサーカスの公演を行うことになったのだ。

 これには宮廷貴族の方々も反対できなかったらしく、渋々ながら陛下の御前で芸を見せることが許可された。

 皆様の炊事および食事の間に準備を進め、日が暮れてから大量の松明とキャンプファイヤーの明かりの下で公演を行う。

 エラ側から何人かの手伝いが派遣されてきて、その辺りを仕切ってくれた。

 中でもソラルちゃんと同じくらいの歳の美少女が目立っていて、手伝いの人たちのリーダーのようだった。

「ルリシアと申します。

 ヤジママコト閣下にお目通り出来て、光栄でございます」

 明らかにエルフの血を引く目立った金髪で、紫色の瞳が神秘的だ。

 ていうか露骨にエルフだ。

 どうみても貴族家の出だね。

 とても下働きするような身分には見えないけど、何かあるのかも。

 マコトと呼んで下さい、と言ったら何かというと嬉しそうにマコトさんマコトさんと繰り返すのでちょっと閉口したけど。

 でもルリシアさんは物凄く役に立ってくれた。

 結構顔が利くみたいなんだよね。

 そばに立っていてくれるだけで、大抵の要求が通るのだ。

 やっぱ高位貴族の令嬢?

 貴族やお付きの人たちには執拗に反対されたが、何日か後にはどうしてもやりたいということで、王子様や王女様とフクロオオカミたち野生動物の対面が実現した。

 ルシリアさんが取りなしてくれたらしい。

 いや対面じゃなくて、もう最初からベタベタ触りまくりだったけど。

 一番人気はフクロオオカミだったが、一角獣(ユニコーン)も結構モテていた。

 こっちの世界にも「ユニコーンは美しい処女しか(さわ)れない」という伝説があるらしくて、王女様たちは角のある馬を撫でながらご機嫌だった。

 王子様たちは近寄らなかった。

 いや、別に童貞じゃないと触れないわけじゃないから。

 意外だったのは、セルリユ興業舎の派遣隊に猫や犬も同行していたことだ。

「『ニャルーの(シャトー)』や『ドルガ実業』から派遣されて来ています。

 将来的にエラ王国にも商売を広げたいらしくて、現状視察のつもりでしょう」

 ソラルちゃんが教えてくれたけど、あの猫又や犬神に限界はないのか。

 まあ、エラにも犬猫はいるだろうけどね。

 派遣隊の犬猫たちは、たちまちエラ王室御用達の癒やし要員となった。

 ハスィーやヒューリアさんが猫撫でや犬の子守について説明した所、早速試したいと言われて王家の馬車に赴き、たちまち気に入られてしまったのだ。

 特に猫は「ニャルーの(シャトー)」でも指折りの人気猫が選ばれて来ているらしく、王女様たちが夢中になった。

 その場でソラルちゃんが呼ばれて、代理人として派遣契約を結ばされてしまったほどだ。

 犬猫たちは以後王室の馬車に乗って移動するようになった。

 貴族の人たちが口から泡を吹いて抗議していたけど、ルミト陛下が許可してしまったらもうどうしようもない。

 実際、何の害があるのかと聞かれて明確に答えられない時点で勝負はついている。

 でも伝統に凝り固まった貴族の人たちには受け入れがたいことだったらしい。

 何人かは側近を辞して自分の領地に帰ってしまったそうだ。

「いいのだ。

 実は狙っていた。

 五月蠅い奴らはなるべく減らしておきたいからな」

 ルミト陛下は無責任に笑っているけど、結果的に俺が相当恨みを買っているんだよね。

 外国の親善大使に直接何か言ってくることはなかったけど、貴族配下の者たちからセルリユ興業舎派遣部隊に嫌がらせが頻発した。

 俺が直訴したことでルミト陛下が勅令? を発し、それは止んだけど、そのことで俺は更に恨みを買ったらしい。

 一人になるなとか、暗いところには行くなとか、新月の夜は気をつけろとか言われたよ!

「大丈夫です。

 (あるじ)殿は絶対にお守りします」

 ハマオルさんを信用してないわけじゃないけど、精神的な重圧感が酷い。

 でもどうしようもないからなあ。

 ハスィーがいてくれて良かった。

 ちなみに、キャラバンは一応宿泊施設がある街を辿りながら王都に向かっているようだったが、当然だけど全員が泊まれるほどの宿はない。

 というよりは、それなりのホテルは王室の方々と高位貴族、そしてそのお付きの人たちで満員になってしまうので、それ以外は格落ちの宿や野営ということになる。

 俺たちソラージュの親善使節団は食事と風呂くらいはホテルでとることが出来たんだけど、それ以外の人たちは全員アウトドア生活だ。

 ソラージュ一行は安全上の理由もあって、毎晩キャラバンから少し離れた所で固まって夜を過ごすようにしていた。

 俺たちの馬車は野営設備が整っているが、ヒューリアさんたちは野宿だ。

 テントくらいは張るけど、女性の皆さんは俺の馬車で休んではどうかと聞いたら遠慮されてしまった。

 ハスィーがいるとはいえ、男の俺と一緒に泊まるわけにはいかないか。

 カールさんも野宿だと聞いたが、ナレムさんが手慣れた様子で立派なテントを張っているのを見て何か言うのを遠慮した。

 カールさんご自身も気にしてないみたいだったし。

 アウトドア生活が平気というより、むしろそっちが自然なんじゃないのか。

 東ドイツ出身の「迷い人」、そして帝国皇子でソラージュの元ギルド総評議長という肩書きに誤魔化されていたけど、カールさんってまだ隠していることが色々あるみたいなんだよね。

 ルミト陛下と親友というのもよく判らないし。

 そもそもなぜナレムさんがカールさんに心酔して自ら執事をやっているのかも不明だ。

 気にすることもないか。

 俺とハスィーについては、毎晩自分の馬車にしつらえたベッドでゆっくり休むことができた。

 ハマオルさんとリズィレさんが警戒してくれているし、その周囲をフクロオオカミたちが取り巻いて寝ているという、鉄壁の布陣だ。

 しかも、セルリユ興業舎のキャンプは俺たちの馬車を中心にして円陣を作っているという堅固さ。

 これを突破できる相手って、多分今のこっちの世界には存在してない気がする。

 というわけで、俺たちは何の不安もなく夜を過ごしていたんだけど。

 でもよく考えたら新婚夫婦が夜の生活を周り中から監視されているようなもんだよね。

 おまけにハスィーが毎晩妙に色っぽく誘ってくるし。

「何と申しましょうか。

 自分でも意外なのですが、わたくしはこういう状況(シュチュエィション)では興奮するようです。

 別に見られているからどうというわけではないのですが」

 そんなエロ小説みたいなのは止めて!

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