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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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17.風穴?

「かしこまりました」

 ハスィーが言って頭を下げた。

 もう副会長に全部任せていいか。

「マコトさんから、セルリユ興業舎の代表に命じて下さい。

 好きなようにやれ、と」

 ハスィーにもルディン陛下やルミト陛下が伝染(うつ)ったのか?

「マコト殿。

 そうすればいいだけのことじゃよ。

 後は連中が好きなようにやるだろうて」

 カールさんが無責任に言い放った。

 そうなんでしょうね。

 でも、責任は全部こっちに来るような気がするんですけど。

「今更何を。

 これまでだってそうだったじゃろう?」

「そうだ。

 為政者とはそういうものだ」

 ルミト陛下、俺は為政者でも支配者でも何でもないんですよ。

 ただのサラリーマンなんです。

 言っても無駄か。

 確かにあれだけ大量のヤジマ○○っていう会舎を作っといて言う台詞(セリフ)じゃないけどね。

 しょうがない。

「判りました。

 ありがとうございます」

「礼には及ばんよ。

 私もマコト殿を利用するのだからな」

 そこがよく判らないんだよね。

 何でヤジマ商会がエラ王国で事業展開するのが、ルミト陛下の役に立つんだ?

 そう思っていると、ルミト陛下はゆったりと座り直しながら言った。

「そもそもは我が国の旧態依然とした制度が問題なのだ」

 説明して頂けるらしい。

 俺に理解できるかどうか不明だけど、とりあえずありがたい。

 ハスィーも聞いているから、判らなかったら後で教えて貰おう。

「マコト殿はソラージュを知っているから、我がエラがどれだけ遅れているかよく判るであろう?」

「いえ、遅れているとまでは」

「実感が沸かないか。

 ならばこれからよく見ることだな。

 一見は同じように見えるだろうが、ソラージュやララエでは当然のように行われている事が、こちらでは存在しないことに気づくはずだ。

 あいかわらず非効率で無意味な方法で物事を進め、それが伝統と理念であるなどと主張するばかりだ」

「つまり、制度ですか?」

「それが元凶と言えような。

 例えばソラージュや帝国では当たり前に運用されている軍や騎士団だ。

 特にソラージュは、騎士団をすべて中央集権化している」

「そうですね。

 確かに凄いことだと思います。

 地方領主から私兵を奪ってしまったわけですから」

 俺が何気なく言うと、ルミト陛下は身を乗り出した。

「その通りだ。

 さすがだな、マコト殿」

「封建国家ではあり得ないような制度と思います。

 領主を領地の権力者から地主もしくは知事にしてしまいました」

 知事で通じるかと思ったけど、ルミト陛下には判ったようだった。

 どんな単語に変換されているんだろう。

「そうだ。

 ソラージュはこれによって国家単位での効率的な戦力の運用体制を実現しただけでなく、事実上領地貴族同士の戦争や内乱の可能性を封じてしまった」

 そうなんだよね。

 例えば俺は誰だか知らない人と「戦争」しているわけだが、大規模な軍事衝突になっていないのはお互いにそれだけの私兵を持っていないからだ。

 こっちはともかく、俺の敵から見るとヤジマ商会の場所は判っているんだから、もし数百人とか千人単位の戦力があれば、直接ぶつければそれで終わる。

 でもそんなことをしようとしたら、現行制度ではまず国家に対する反逆になってしまうから、事を起こした途端にソラージュの騎士団と軍に鎮圧されてしまうだろう。

 だから貴族家同士の諍いも、せいぜい私闘というレベルでしか発生しない。

 確かに凄い話だよね。

 普通の異世界物(ラノベ)にも出てこないぞ、そういう制度は。

「エラ王国では違うのでしょうか」

 さっき教えられたような気がするけど、とりあえず聞いてみる。

 ルミト陛下はため息をついた。

「我が国では、あいかわらず地方領主が領地における絶対権力を持つ。

 警備隊や騎士団も自前だ。

 国家軍はあるが、平時は貧弱な上に薄っぺらく散らばってしまっていて、まとまった戦力とは言えん。

 まあ今のところ戦う相手がいないので支障はないがね」

 封建国家そのものだな。

 むしろ正統?

「その結果どうなっていると思う?

 同じ国内だというのに、領地ごとに法律や施政方針もバラバラだ。

 領土間の交流も歪で、鎖国状態の領地すらある。

 事実上、別の国だよ」

 どっかで聞いたことがあると思ったら、それって帝国も同じなのでは。

 確か、あそこも領地ごとに法律も何も全然違うという話だったし。

「帝国は、そもそも連邦とも言うべき体制じゃからな」

 カールさんが説明してくれた。

「領地ごとに警備隊や騎士団を所有してはおるが、それとは別に帝国軍が存在しておる。

 これが領地を越えた統制を維持するわけじゃ。

 さらに、帝国法で基本的な制度は統一しておる。

 孤児は帝国が面倒を見るとか、領地間の移動は原則として自由などという制度が領地法の上にある」

 そうなのですか。

 ああ、帝国ってローマとかアメリカ合衆国の制度に近いと思った覚えがあるな。

 州ごとに法律や軍もあるんだけど、その上に連邦法とか国軍が存在しているわけだ。

 で、エラにはそんなものはないと。

「そうだ。

 だから、私の立場は国王とは言っても『最大最強の領地貴族』の域を出ないのだよ」

 ルミト陛下は自嘲するように言った。

「そして、貴族どもは相変わらず勢力争いに余念がない。

 隙あらば領地を拡大しようとして、調略や政略結婚に励んでばかりだ。

 騎士団や軍は細分化されて非効率きわまりない上に、実力より縁故や身分が幅を利かせている。

 領民は移動の自由を制限され、教育は遅れ、格差はますます拡大する。

 このままでは、エラは近いうちに崩壊してしまうだろう」

 最後は愚痴っぽくなってきた。

 でも、封建国家ってもともとそういうものなのでは。

 ソラージュが異常なのだ。

 王様がいるのに三権分立って、何の冗談なんだよ!

 でも、それにしてはエラって別に崩壊しかかっているようには見えませんが?

「それはだな。

 エラ王国が豊かだからじゃよ」

 カールさんが教えてくれた。

「非効率な方法で運営しても、飢えることがないくらいの収穫があるのじゃよ。

 人間、とりあえず食えていればそう簡単にはおかしくならないもんじゃからな」

 そうか。

 逆に言えば、豊かだからこの体制が続いてしまっているというわけか。

 大学の講義で習ったけど、文明の進歩は必要に迫られて発生するらしい。

 日本では縄文時代が長く続いたけど、これって狩猟文化だ。

 それが農耕文化である弥生時代に移行したのは、気候変動で狩猟による食料の確保が出来なくなったかららしい。

 中国なんか、あまりにも豊か過ぎたために文明の発生は早かったけど、その後五千年くらい似たような生活が続いたらしいからね。

 支配者が変わっても、中華帝国の制度は変化しなかったのだ。

 外圧と呼べるほどの危機はなかったから、勢力争いは内部に向かった。

 ていうか、外部から攻めてきても中原を支配した途端にその文化に取り込まれてしまったと。

 エラ王国も、それと同じような状態なのかもしれない。

 日本だって、黒船が来るまでは三百年くらい同じ制度でやっていたんだし。

「そういうことですか。

 つまり、ヤジマ商会は黒船だと」

 つい言ってしまったが、ルミト陛下は大きく頷いた。

 「黒船」って通じたというか、そういう単語がこっちにもあるんだろうな。

「そうだ。

 ヤジマ商会という異質な文化をエラ王国に取り込む。

 まずは我が領地つまり王都と、私と親しい地方領主の領地だな。

 それと辺境の山間部だ」

「おっしゃることは判りましたが……その方法では時間がかかるのでは」

 ハスィーの疑問に、ルミト陛下はにんまりと笑った。

「経済力や文化侵略だけではない。

 ヤジマ商会にはもっと大きな武器(ソフトウエポン)があるだろう?

 ご両者とも、大いに働いて貰うぞ」

 ちょっと待って下さい!

 ルミト陛下、俺たちに一体何させるおつもりですか?

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