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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三章 俺は冒険者チームのインターン?

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9.魔獣?

 俺は、もうそれ以上話し続ける気力がなくなって、馬車のそばに戻って歩き続けた。

 何となく、頼りがいがあるモノのそばにいたかったからだ。

 残るセスさんと話す気にもなれず、機械的に足を進めていると、だんだんと上り坂になってくるのが判った。

 意外にも、あまり疲れていない。足も痛くないし、思ったより体力があったらしい。

 主人公補正?

 いや、多分頭の中が、体長2メートルの巨大な狼で占められていたせいだ。

 「説得」するのが俺ではないことは幸いだけど、その場にいなきゃならないんなら、何が起こるか判らない。

 何で仕事の初日から、こんなにハードルが高いんだよ!

 配属されたらいきなり名刺持たされて、百軒飛び込み営業してこい、と言われるようなもんじゃないか。

 俺は、それやっている先輩の後ろで立っているだけの役だけど。

 フクロオオカミか。

 もちろん、地球にはそんな動物はいない。

 そういう風に聞こえるということは、地球の狼に袋がついているイメージなんだろうな。

 カンガルーみたいなものか。

 有袋類って、どっちかというと草食だった気がするけど、ここは地球じゃないしな。

 しかも2メートル。3歳で。

 てことは、もっと年長だと凄いことになるんじゃないのか。年長さんの頭は人間と変わらないという話なので、大丈夫とは思うけど。

 でも3歳だからなあ。

 幼稚園児が切れ味抜群の鉈か何かを携帯しているようなもんじゃないか。

 ちょっとでも気に入られないことがあると、泣きわめいて凶器を振り回す幼稚園児。しかも体長2メートル。

 こっちにはナイフすらないというのに。

「そろそろ休憩にしようか」

 ホトウさんが言って、全隊が停止した。

 見ると、そこはもう頂上というか、平らになった場所だった。

 いつの間にか山を登り切っていたらしい。

 と思ったのは間違いで、山裾の渓谷を抜ける道を進んできたようだ。

 体長2メートルのオオカミモドキで頭がいっぱいなせいで、周りなんかろくに見てなかったからな。

 結構歩いた気がする。

 足がガクガクだし。

 太陽も、気がつけばかなり高くなっていた。

「ちょっと早いけど、昼飯にしよう。その後休んで、一気に突入する」

 まあ、ここで食わないと食い損ねる可能性が高いからな。だって、目的地はすぐそこみたいだし。

 見下ろすと、渓谷が目の前にあった。

 あそこを体長2メートルが徘徊しているのか。

 俺が突っ立っていると、他のメンバーはそれぞれてきぱきと動いて昼食の準備をしていた。

 といっても、単に荷馬車から弁当を出すだけだ。小さな樽も取り出されて、コップが配られる。

 先輩社員のボルノさん【馬】には、バケツの水と牧草らしきものが用意されていた。

「今日は日帰りだから、火を起こしたりしないで、お弁当で済ませるの。何日かかかる場合は、ちゃんと料理するけどね」

 マイキーさんが言い訳したが、俺に文句などない。正直言って、飯のことはすっかり忘れていた。これで「食い物は各自持参。おやつは三百円まで」とか言われてたら、断食になるところだった。

「すみません。何も役に立たなくて」

「いきなりは無理でしょ。いずれ慣れたら、何か担当して貰うから」

 そうなんだよね。

 冒険者のパーティって、魔物と戦うだけではないのだ。いや、こっちの世界の冒険者は魔物や魔王と戦ったりしないみたいだけど。

 今回みたいな日帰りクエストの場合でも、人間が生きて動いている限りは腹が減るし喉が渇く。トイレにも行く。

 特に食料は、都合良く宿屋とかがない場合には、最初から用意しておかなければならない。あるいは、進みながら獲物を狩るとか。

 いずれにしても、生で食うわけにはいかないから料理道具が必要だし、それは往々にしてかさばる。

 だから『ハヤブサ』も荷馬車と共に行動しているのだろうし、それがなければ生活用具だけで身動きとれないはずだ。

 俺も、ラノベとか読んでいて、そこら辺の描写に不満があった。

 もちろん、パーティの日常についてきちんと描写しているラノベもあったけど、大半はゲームみたいに都合良く宿屋があったり、ナップザックも持ってないのになぜか快適に生活していたり、あるいは魔法の袋に何もかも入れて済ませていた。

 いや、魔法の袋があるんなら使えばいいけど、そんなもんが本当にあったら、その世界の流通って根底から覆らない?

 下手すると、運送業者や倉庫のたぐいはあらかた壊滅する。旅商人は魔法の袋一つを持っていれば、どんな大量輸送でも出来てしまうのだ。容量が限られていたって、問題は変わらない。

 高価すぎて商人には手が出ないというのなら、尚更冒険者なんかが手に入れるのは無理があるぞ。

 そんな便利な道具を権力が放置するわけがない。絶対に国家が集めて管理するはずだ。

 だって、魔法の袋が実用化されれば、軍隊の輜重問題が全部解決してしまうんだから。補給部隊はただ物資を集めればいいだけになり、各部隊(兵士)はそれぞれ自分の補給品を全部携帯しながら進軍できるのだ。

 部隊のほとんどが戦闘員で占められ、装備や糧食の補給の必要がない軍って、どれだけ有利に戦えるか。

 ある意味、最終兵器といっていい。

 だから、フリーの冒険者なんかにそんなもんが渡るはずがないのだ。

 いくら冒険者が強くても、国家組織に勝てるはずがないし、勝ったとしたって最低でもその国にはいられなくなるだろう。

 さらに、国家に刃向かうような冒険者は他の国からも総スカンを食うはずだ。結果として居所がなくなり、もう魔王となって世界征服するしかなくなる。

 従って結論はこうなる。

 魔法の袋などはない。

 というわけで、俺ははからずもラノベで感じていた疑問を自分で解決することになった。

 冒険者の仕事の大半は、生命活動の維持である。

 宿屋があるなら泊まって定食を食えばいいけど、そんな便利な場所ばかりではない。

 今回みたいに日帰りで行けるけど人が住んでいない場所とか、人里離れた秘境とかなら、どうしたって飲食物は自分で用意する必要がある。

 その他にも、道具類や装備は現地調達するわけにもいかないという問題もあるしな。

 だから、荷馬車を伴って動くのだ。

 そして、生活するための役目はパーティのそれぞれに割り振ってあるのだろう。

 リーダーは、そこら辺まで管理しなきゃならないのか。

 日本の会社の課長よりひどいな。

 やっぱ冒険者になるのは止めよう。

 俺たちは車座になり(先輩社員のボルノさん【馬】はもちろん別だ)、弁当を食った。

 内容はサンドイッチのようなもので、ゴワゴワしたパンのようなものに具が挟まっていた。

 まあまあの味だったけど、日本のコンビニパンになれた舌だときつかった。

 贅沢言ってられないから、全部食ったけどね。大学時代に耐乏生活を経験しているので、俺は粗食には結構強い。

 もちろん、美味いものは好きだけど。

 予算が許す限り。

 食い終わるとホトウさんの命令で全員が用をたしてから、俺たちはいよいよダンジョンの攻略に向かった。

 じゃなくて、体長2メートルのフクロオオカミさんの説得に向かった。

 峡谷の手前でとりあえず止まる。

 ここで荷馬車とボルノさん【馬】は待機だ。

 でもホトウさん、武器のたぐいを全然持たないで行くんですか?

「武器持ってたら、最初から殺り合うみたいで嫌でしょ。平和的な交渉に行くんだから」

 そうですか。

 何かアレに似てますね。

 生贄というか、地雷原に最初に踏み出す人というか。

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