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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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14.上演?

 ラナエ嬢もリスキーなことを平気でやるなあ、というのが感想だった。

 俺が前にセルリユ興業舎で引き合わされた野生動物たちは、とてもじゃないけどまともな演技や芸が出来るような連中じゃなかったしね。

 あれから進歩したのだろうか。

 そんな俺の心配をよそに、セルリユ興業舎の分遣隊は迅速に準備を進めた。

 離宮の施設管理者と打ち合わせて、中庭のスペースを使わせて貰うことになったらしい。

 うまいことに、そこは四方を建物に囲まれた広場になっていて、つまり観客は周りの建物の窓や渡り廊下から見物することが出来る。

 万一野生動物が暴れ出した時の対処としても、衛兵隊が中庭を囲んだ上で貴族の人たちは2階以上から観るということで決着した。

 どうも宮廷の保守派が最後まであれこれ反対していたらしいんだけど、そこはルミト陛下が押し切ったそうだ。

 たった数日で機材が設置され、小道具や大道具が配置された。

 そして当日。

 俺はハスィーやカールさんと一緒にルミト陛下のそばに席を与えられることになった。

 もちろん周りをエラ王国宮廷の衛兵に囲まれている。

 誰も何も言わないけど、もしちょっとでも怪しい動きがあればたちまち俺たちは人質ということになるらしい。

 一国の親善大使だから丁寧に軟禁という程度だろうけど。

 ハマオルさんは渋い顔をしていたが、ナレムさんに諭されて諦めた。

 リズィレさんも不満そうだったけど、俺たちは一応外交特権に守られているからね。

 これだけ目撃者が多くては、密かに始末するとか出来ないだろうし。

「飲み物や食べ物に何か仕掛けられる可能性はあります。

 こちらが用意するもの以外は口にしないで頂きたい」

 ハマオルさんに真剣な顔で言われたので、俺たちはセルリユ興業舎の派遣部隊が用意したランチバスケットを持参した。

 それも検めようとした衛兵隊と一悶着あったけど、外交特権で押し切った。

 まあ、一応開いて見せたけど。

 ルミト陛下は苦笑していたけど、こんなエラ王国をぶっ壊したいという決心に同調できたよ。

 ソラージュが懐かしい。

 あそこは自由で良かったなあ。

 俺たちとルミト陛下が席についた時には、中庭に面した窓という窓には人が鈴なりで、渡り廊下にもぎっしりと人が詰まっていた。

 王族と高位貴族以外は立ち見になってしまったそうだ。

 もともと観客席なんかないからね。

 それでも、今まで噂でしか聞いていなかったソラージュの野生動物サーカスを一目見ようとみんな押しかけてきたらしい。

 本邦初。

 俺だってまだ観てないんだもんなあ。

 陛下(と俺たち)が着席してすぐに銅鑼の音が鳴り響き、私語のたぐいが止んだ。

 続いて「ルミト陛下よりお言葉を賜る」と宣言があり、何か演説するのかと思ったら、ルミト陛下は一言「皆の者、楽しむが良い」と言って黙ってしまった。

 一瞬、戸惑ったような雰囲気が流れたが、すぐに万歳、というような歓声が上がる。

 いや、ルミト陛下って目立つからね。

 エルフだし、イケメンなんてもんじゃない。

 正直アレスト伯爵家の方たちより上だと思う。

 もちろんハスィーを除いて。

 だから、ハスィーは暗い色の服を着て大きなつば付きの帽子を被り、さらに薄いベールのようなもので顔を隠していた。

 そうしないと確実にルミト陛下より注目を集めてしまう。

 それはまずいでしょ?

 本人は気にしていないというか、何が問題なのかも判ってないようだったけど、それでも立ち上るオーラが凄いんだよ。

 近くにいた貴族や衛兵がよろけたり手を顔に当てたりしていた。

 顔も見てないのに判るんだなあ。

 俺の嫁って凄い。

 それはともかく、歓声が治まると中庭の中央に一人の女性が出てくるのが見えた。

 あれ、ソラルちゃんじゃないか!

 分遣隊にいたのか!

「ソラルさんは、どうしてもマコトさんに同行すると言い張って押し通したそうですよ」

 ハスィーが俺の耳に唇を寄せて囁いた。

 ぞくっとするから出来ればもうちょっと離れて。

「ジェイルさんにねじ込んで、駄目なら辞めるとまで強言したと聞いています」

「そうなのか」

 何が彼女をそこまで駆り立てるのだろう。

「ヤジマ芸能をあそこまで持って行った実績は否定できませんからね。

 北方諸国での事業拡張も必要ですし、ソラルさんは派遣団の副団長格で参加したと」

 団長がフォムさんなんだから、つまり今ここにいる分遣隊ではトップなわけか。

 まだ十代の女の子なのに。

 いや、こっちの世界では少年漫画並に若い人たちが活躍するんだったっけ。

 ハスィーなんか、十代半ばでギルド支部の最高幹部にまで上り詰めていたしね。

 それにしてもソラルちゃんがねえ。

 考えてみたら、ソラルちゃんって俺がこっちに転移してきて初めて会った人なんだよな。

 あの時、対応を間違えていたりソラルちゃんの判断が違っていたら、俺は今頃は死んでいたか、少なくともここにはいなかったわけだ。

 ハスィーと結婚することもなかったと。

 怖っ。

 思わずハスィーを抱き寄せてしまったが、俺の嫁はすぐに力を抜いてもたれかかってきた。

 ホント、もう人の目なんか全然気にしてないな。

 人のことは言えないが。

 ふと視線を感じて目を上げると、ルミト陛下を初めとする周囲の人たちがじとっとした視線を向けてきている。

 生暖かさを通り越して、粘着質なイメージすらあるぞ。

 衛兵の諸君も横目で見ていたりして。

 俺に見返されると、みんな慌てて取り繕ったり視線を逸らせたりした。

 ルミト陛下だけは、無表情のまま目だけが笑っていたけど。

「観て!

 凄く大きな犬!」

 いきなり高い声が響いた。

 ルミト陛下の前列にいる小さな女の子が立ち上がって手を振り回している。

 王女様の一人だね。

 言い忘れたけど、ルミト陛下だけじゃなくて離宮にいる王室ご一家が勢揃いしているのだ。

 国王陛下の代行の方は政務のために王都の残っていらっしゃるらしいし、その他の王族も大半は各地に散っているらしいけど、小さな王子様や王女様を初めとする王室ご一家が十人近く揃っていた。

「あれはフクロオオカミだ!

 山にしかいないはずなのに」

「本当だ!

 サーカスって凄い」

「あれ、砂豹(デザートパンサー)じゃないのか?

 めったに見つからない動物だぞ?」

 王子様王女様に続いて、その周囲を固める高位貴族たちも騒ぎだした。

 パニックになる様子がなくて良かった。

 これだけ離れていたら、いくら大きくても危険は感じられないからね。

 ソラルちゃんがいるので、フクロオオカミの大きさがよく判る。

 幼児と大型犬なんてもんじゃないんだよ。

 フクロオオカミたちは、中庭を一週するとテントの中に消えた。

 その他の動物たちも次々に戻っていく。

 ソラルちゃんが何か話しているけど、距離があるので魔素翻訳が効かなくて内容がわからない。

「ハスィー、ソラルさんは何と?」

「野生動物たちは、使役されているのではなくて自分の意思でここにいる、と。

 セルリユ興業舎の正式な舎員ですので、人間と同じですとおっしゃってます」

 なるほどね。

 こっちの世界では、抽象思考が出来ない動物は奴隷として使役されるからな。

 ていうか、そういう状況を理解できない種族には人権? がない。

 フクロオオカミたちも、一見したところでは同じように見えるから、釘を刺したというところか。

「これから難民救助の寸劇を行うとおっしゃっています。

 これは実際に行われたことの再現だそうです」

 何?

 アレをやるの?

 ソラルちゃんが引っ込んで中庭に誰もいなくなった後、バラバラと数人が出てきた。

 そのまま、あちこちに力なく横たわる。

 動きが途絶えた所で、フクロオオカミが一人、袖から駆けてきた。

 誰だか判らないけど、ツォルじゃなさそうだな。

 それほどでかくない。

 もっとも体長3メートル越えだけど。

 フクロオオカミは、倒れている人たちを一人一人チェックするように臭いを嗅いでから、いきなり遠吠えを始めた。

「ワウォォォーン(怪我人発見!)」

「ウォン(至急)、ウォォォーン(出動させたし!)」

 何と、意味が判る!

 周り中の人が驚いているが、これはアレスト興業舎でやったのと同じトリックだな。

 あらかじめ中庭の四方に散らばったフクロオオカミたちが、一斉に吼えているのだ。

 その魔素翻訳有効範囲中にいる人には、吠え声の意味が理解出来る。

 あいかわらず凄いな。

 誰だか知らないけど演出の人。

 フクロオオカミが吼え続けていると、すぐに他のフクロオオカミたちが駆けつけてきた。

 周りの人たちが再びざわめく。

 フクロオオカミに人が乗っているんだよ!

 シイルたちか。

 シイルはフクロオオカミから飛び降りてヘルメットを脱いだ。

 くすんだ金髪が広がり、周りから歓声が沸き起こる。

 狼騎士(ウルフライダー)の登場だ。

 しかも美少女。

 それはインパクトがあるよね。

 だが、続いてシイルはとんでもないことを叫んだ。

「難民を発見!

 すぐにヤジママコト近衛騎士様にお知らせを!」

「ウォォーン!(了解です! シイルの姉御!)

 俺の名を出すんじゃない!

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