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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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13.興業?

 ソラージュって、俺が思っていたより先進的な王国だったらしい。

 もともと移民してきた人たちが建国した国だからか、歴史と伝統より実利を求める風潮が強いのかも。

 アメリカなんかもそうだよね。

 ヨーロッパ諸国が長すぎる歴史に縛られて身動き取れないのに対して、現住勢力を駆逐して全部最初から作った国だから、その時点で有効と思える制度を遠慮無く取り入れられたのだ。

 その分無茶をしている部分もあって、かなりトリッキーな運営にもなっているけど、国力が増大するのは当然と言える。

 エラ王国は、俺が見たところイギリスとかフランスみたいなものだな。

 身分制度ががっちりしていて、その分進取の気質に欠ける所がありそうだ。

 既得権益層が強すぎるんだろうね。

 ルミト陛下が「ぶっ壊す」と言っているのはその部分なんだろう。

「それにしても人間の奴隷っているのか。

 ソラージュでは信じられないけど」

 俺が言うと、セルミナさんが訂正した。

「奴隷と言っても経済および犯罪奴隷ですよ?

 生まれながらの奴隷といった人は存在しません」

「そうなんですか。

 良かった」

 異世界物(ラノベ)ではよくある設定だな。

 つまり、何かの犯罪の罰として奴隷階級に落とされたり、借金が返せなくて奴隷として売られたりするわけだ。

 ていうか、俺には奴隷と聞こえるけど、これってむしろ「強制奉公人」とかそういうものなんじゃ。

 俺の脳があえて誤訳している可能性がある。

「当然、条件が満たされれば解放されるわけですね?」

「建前としてはそうですが、現実的には難しいようですね。

 一度奴隷に落ちた人が解放されたからといって普通の使用人として再雇用しようという職場は少ないですし、何か自分で商売を始めようとしても資金がありません。

 結局は奴隷の時と大差ない条件で働くことになると聞いています」

 結局、また何か問題を起こして再び奴隷落ちも多いようですとセルミナさん。

 それは酷い。

 日本の前科者のような状態だな。

 違っているのは、日本では人権が建前とはいえ保障されているせいで、公的な援助体制が一応整っていることだ。

 更正のためのシステムもあるみたいだし。

 よく知らないけど。

 でも、エラ王国にはそんなもんはなさそうだな。

 ああ、そうか。

 それでか。

「奴隷を買うというのは、つまりその契約を買うということですね?」

 俺が聞くと、セルミナさんは頷いた。

「解放された元奴隷の方で、有能なら契約を買って使うなり、ソラージュなりに連れて行くというのも手です。

 エラではもう前途は真っ暗ですから、争って応じると思いますよ」

「事業の失敗で借金を背負った者などもおりますので、狙い目ではあります。

 犯罪奴隷も領主などに逆らったり逆鱗に触れて罪に落とされた者もいると聞きますから、人格的に問題がなければヤジマ商会で雇うのも良いでしょう」

 トニさんも詳しいな。

 なるほど。

 ソラージュ王政府がこの人たちをつけてくれたわけが理解出来た。

 こういった情報の生き字引なのだ。

 「学校」出のハスィーやヒューリアさんに欠けている、実際的なデータという奴だ。

 しかもこのお二人、やはり相当有能だ。

 セルミナさんはもちろん、考えてみればトニさんだって難しいアレスト市の領主代行官を務めていたんだしね。

 無能なはずはない。

 それにしてもいいことを聞いた。

 後でフォムさんか誰かに、奴隷になっている人を積極的に雇用するよう伝えておこう。

 移民も大歓迎だ。

 もちろん能力と性格が最優先だけど。

「ありがとうございます。

 とても役に立つデータです」

 俺が礼を言うと、二人は慌てて手を振った。

「頭をお上げ下さい。

 我々は職務を果たしているだけです」

「そうですわ。

 子爵閣下で親善大使が簡単に頭を下げないで下さい」

 でも俺はサラリーマンだから。

 尽力してくれる人に対して頭を下げるのに抵抗感はないんだよ。

(ノール)が言っていたことが実感として判りますね」

 セルミナさんが感心したような口調で言った。

「ノールさんは何と?」

「本当の意味で人の上に立たれる方は、自分からそうなさるのではなく、周りの人が自ら下につくのだと。

 ヤジマ閣下は、真の意味での貴族でいらっしゃいます」

 止めて!

 寒気がするから!

 ハスィーやヒューリアさんも頷いているんじゃない!

 カールさんもそのニヤニヤ笑いは勘弁して!

(あるじ)殿。

 お気になさらずに」

 ハマオルさん、判ってくれますか。

(あるじ)殿の真価は皆知っておりますので」

 違うだろ!

 もういいよ。

 この話は忘れよう。

「で、何の話だったっけ」

「奴隷を買う話では」

「違います!

 謁見で約束させられたことですよ!」

 カールさんが肩を竦めた。

「それか。

 決定事項じゃからな。

 やるしかないじゃろう」

 いやそれはそうですが。

「その件については、ハマオルに依頼して昨夜の内にセルリユ興業舎の派遣部隊に伝えてあります」

 ヒューリアさんが言った。

「そうなの?」

「はい。

 そういった細かい事は社交秘書である私が片付けますので、マコトさんはお気にされる必要はございません」

「エラはなかなか難しい国じゃからな。

 貴族に命じられた宮廷衛兵が何だかんだ言って妨害してくる可能性がある。

 よって、わしの方でルミトから勅令(めいれいしょ)を出して貰っておいた。

 絶対王制の良い所じゃな。

 一番上を押さえておけば、大抵の所は何とかなる」

 俺がぼやっとしている間にも、みんな動いてくれていたようだ。

 それにしても妨害があることが前提なのか。

 ソラージュっていい国だったんだなあ。

 国外に出て初めて、その国のいい所が判るというけど本当だな。

 するとアレナさんが驚くべき事を言い出した。

「実を言えばエラ国王陛下に依頼されるまでもなく、こちらでサーカスの実演を行うことは予定に入っていました。

 セルリユ興業舎のラナエ様より、詳細な計画書を頂いております」

「そうなのですか。

 わたくしは存じておりませんが」

 ハスィーも驚いている。

 アレナさんって、ハスィーの社交秘書だったのでは?

「ヒューリア様は親善使節団およびヤジマ商会関係の事業を担当されるということで、私がセルリユ興業舎の担当としてラナエ様に委託されました。

 もともとアレスト興業舎で事務部長を務めておりました関係上、セルリユ興業舎の業務全般にも詳しいということで」

「私は残念ながら、セルリユ興業舎の事業はあまり存じ上げておりませんので」

 ヒューリアさんが淡々と言った。

 なるほど。

 確かにアレナさんが適任かも。

 本当はフォムさんが総責任者なんだけど、本隊を率いてエラ王国の王都に向かったからな。

 代理の指揮官はいるにしても、俺との連絡係は誰かが務めるしかない。

 で、アレナさんがその役を担当すると。

 ハスィーは不満げだけど、これは傾国姫や親善大使夫人の従者としての仕事とは関係ないからね。

 人数が限られているから、一人で何役も務めなければならないのは当たり前だ。

「ご報告が遅れて申し訳ありません」

 アレナさんがハスィーに謝っているので、俺が慌てて取りなした。

 もちろんハスィーも判ってはいるんだろうけど、感情がついていかないよね。

 特にラナエ嬢ってハスィーの親友ではあるけど、何度もいいようにやられているからなあ。

 劇で晒し者にされたりとか。

 絵本でいいように捏造されたりとか。

「……仕方がありません。

 アレナはお役目を果たして下さい。

 ラナエにはわたくしの方から一言言っておきます」

 スルーされて終わりだろうけどね。

 ハスィーは気を取り直して続けた。

「それでは、こちらでのサーカス開演の準備は既に始まっているということですか」

「そのはずです。

 もちろん、遠征でしかも分遣隊ですので、大したことは出来ません。

 フクロオオカミや他の野生動物を中心とした実演(デモンストレーション)以上のものにはならないと聞いております」

 そうだろうね。

 サーカスというよりはむしろ、旅芸人の一座みたいなものだろう。

 って、今何て言った?

 フクロオオカミだけじゃないの?

「はい。

 ぶっつけ本番ですが、現在セルリユ興業舎に派遣されてきている野生動物が総出演するということです」

 パネェ。

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