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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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11.無理難題?

「それはかまいませんが……謁見の席でですか?」

 無理でしょう。

 日本でいうと、新任の大使が初会見の場でいきなり余興の話を持ち出すようなものだ。

 馬鹿かと思われるだけだ。

 それをやれと?

 陛下から持ち出すのならともかく。

「そんな話はこっちからは出来ん。

 一応国王だぞ?」

「でしたら、私も一応ですが一国の親善大使です。

 謁見の席で申し出るのも変でしょう」

「それはそうなのだが」

 まあ、ルミト陛下が言い出すのは不自然だということも判る。

 そんなのは、俺の親善大使としての職務を完全に逸脱した要件だからだ。

 俺がヤジマ商会の会長として謁見するのならいいんだけどね。

 だが大使としては駄目です。

「マコト殿自身で言わなくても良いのだが」

 するとハスィーが?

 さらに不自然になるだけだ。

 後はヒューリアさんとアレナさん、それにお役人の二人か。

 無理ですね。

 公式の謁見の場では、貴族以外は口をきくことが許されないから。

 その辺りは厳しいと聞いている。

 ていうか、それを許したら貴族制度自体が崩壊するかもしれないそうだ。

 俺にはよく判らないけど。

 そもそも、何で謁見の場で言い出す必要があるのでしょうか。

 後でいくらでも機会はあるのでは。

「ないこともないが、これを逃すとかなり後になる。

 王都に帰ってからになるだろうし、そうなったら高位貴族どもが五月蠅い。

 謁見式は、私と親善大使が一対一で語り合えるほぼ唯一の機会なのだよ。

 しかも、お目付役も我々が話している間は口出しできない。

 そしてマコト殿の申し出に私が『了』と答えてしまえば、それはもう決定だ」

 そうなのですか。

 でも、それだけの権力があるんだったら。

「公式に話を通すと、私の所に届く前に握りつぶされる恐れがある。

 だから、是非謁見の場で既成事実化したいのだ」

 そんなもんですかね。

 でも、陛下の言われる通り親善大使の俺やその妻であるハスィーがサーカスについて言い出すのは変だろう。

 ヒューリアさんやアレナさんは、出席できたとしても発言は許されまい。

 だとすると。

「つまり、わしに言えと」

 カールさんが迷惑そうに言った。

 確かに帝国皇子であるカールさんなら、無礼ということもない。

 普段は何の役にも立たない身分だが、こういう時には無類の力を発揮するのか。

「そうなるな。

 昔二人でよくやっただろう。

 あの出来レース」

「思い出したくない思い出じゃがな」

 カールさんは忌々しげに言った。

 何かやったらしい。

 カールさんも昔はやんちゃだったのか。

「マコト殿。

 言っておくがわしは巻き込まれただけで、しかもエラ王家の権力で口を封じられた立場だからな。

 こいつらと一緒にせんで欲しい」

 「こいつら」ですよ!

 しかもルミト陛下、それを聞いてもニヤニヤ笑っているだけだ。

 やっぱルディン陛下の同類だったか。

 しかもピン。

 それで国王を張っているんだとしたら、恐るべき芸人と言える。

「ということで、よろしく。

 マコト殿」

 ルミト陛下がまとめてしまった。

 そういう所だけは国王陛下なんだな。

 カールさんも苦笑いしていた。

 親友だと言っていたけど、むしろ悪友というか腐れ縁なんじゃないか。

 しょうがない。

「カールさんにはご迷惑をおかけしますが、そういうことでしたら」

 気を取り直して聞いてみる。

「サーカスを上演するのは良いとして、何か目的が?」

「風穴を開けるためだ」

 即答だった。

 そうか。

「フクロオオカミですね」

 ハスィーが言うと、ルミト陛下は頷いた。

「ソラージュ駐在大使からの報告は聞いているし、議会でも報告されている。

 しかし、信じようとしない者が大半でね。

 というよりはむしろ無関心だ。

 野生動物がこの誇り高いエラ王国に何の関係があるのか、というわけだ。

 わが国土の大半も山林で、人の支配する土地はさらに少ないというのに、エラ王国という殻に閉じこもって現実を見ようとしない。

 その殻をぶち抜いてやるのさ」

 ショック療法ですか。

 まあ、いきなりフクロオオカミを見たらぶったまげるでしょうね。

 アレスト市ギルドのパーティの余興として演った時だって、悲鳴や失神が出たからな。

 しかも、あそこにいたのはソラージュでも辺境のアレスト市の市民で、比較的野生動物に慣れている人たちだった。

 古い文化を誇るエラ王国の宮廷貴族に与えるインパクトは計り知れない。

 ちょっと心配になってきたぞ。

「まさか、パニックになった貴族の方々の命令でフクロオオカミたちが射られたりはしないでしょうね?

 少しでもその可能性があるのでしたら、この申し出はお断りさせて頂きます」

 そう応えると、ルミト陛下はちょっと目を見張った。

「なるほど、な。

 まさしく『迷い人』。

 ソラージュに現れたのも、(むべ)なるかなということか」

「そうじゃな。

 マコト殿がエラに転移していたら、今頃は死んでいたかもしれんて」

 物騒なことを言わないで下さい!

「まあそれはそれとして。

 フクロオオカミと言ったか?

 野生動物の安全は保証する。

 国王としての言葉と思って貰っていい」

 伯爵閣下だと思いましたが。

 まあいいか。

 こっちも対策がないわけじゃない。

 準備を整えて対処すれば何とかなるか。

「判りました。

 お受けします」

「感謝する。

 マコト殿」

 ほーっ、と声に出ない安堵の空気が流れた。

 無言で立っているヒューリアさんやアレナさんは辛いだろうなあ。

 ハスィーの機嫌も悪いままだし。

 こんなの早く終わって欲しい。

「それでは。

 邪魔したな。

 ゆっくり休んでくれ」

 ルミト陛下は唐突に言って立ち上がった。

 護衛の人たちに先導されて、あっという間に部屋を出て行ってしまう。

 さすが芸人。

 引き際が鮮やかだ。

 お後がよろしいようで。

「すまんかったな。

 マコト殿」

 カールさんが謝ってきた。

「いえ。

 驚きはしましたが」

(ルミト)は昔からエラ王国の王族としては型破りでな。

 古い因習に反発して、一時期は宮廷を出奔してあちこち放浪していたほどだ。

 久しぶりに会ったが、その頃から変わっとらんな」

 何と。

 「放浪の王子」を地でいっていたのか。

 シルさんもそうだけど、高貴な人って家出しやすいのかなあ。

 でもそれで、よく国王になれましたね?

「古い因習の国というものは、つまり事例と慣習を重んじるということだ。

 ルミトは第一王子だし、有能さは際だっておったからな。

 宮廷貴族どもも、廃嫡することが出来なかった。

 本人も、ああ見えて責任感は強くてな。

 散々自由にやったんだから、残りの人生はエラをぶち壊すことに費やそうと」

 駄目じゃん!

 心を入れ替えたんじゃないのかよ。

 ていうか、責任感が強い人が出奔とかしちゃ駄目でしょう!

 やっぱルディン陛下に通じるものがあるなあ。

 おちゃらけと真剣が入り交じっているというか。

 友達になれそう。

「ルミトとルディン陛下は親友(こころのとも)じゃよ?

 あまり会ったこともないはずじゃが、聞いた所では知り合った途端にお互いの肩を抱いて泣き崩れたそうじゃ。

 あまりにも相手の気持ちが判りすぎて気味が悪いくらいだったと言っておった」

 さいですか。

 同族嫌悪とかなかったんですかね。

「そんなものを越えた所で共鳴しあったらしい。

 一時期、かなり真剣に両国を合併できないかどうか検討したとか。

 互いに国王を押しつけ合って、両方とも譲らなかったために立ち消えになったそうじゃが」

 もう何も言えませんね。

 芸人同士、思う所があったのだろうけど、俺としてはそんな馬鹿馬鹿しい事態に巻き込まれたくないだけだ。

 出来るだけルミト陛下の言う通りにして、やり過ごそう。

「マコトさん。

 ルミト陛下をお気に入られたようですね」

 ハスィーが言ってきた。

「何で?」

「ルディン陛下に向けるのと同じ目をしていらっしゃいますよ?」

 両方とも苦手なだけだよ!

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