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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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10.ピン?

 俺は慌てて立ち上がって握手した。

「ヤジママコトです。

 マコトと呼んで下さい」

 いや、ここで爵位とか大使とか言うのは場違いという気がして。

「了解した。

 マコト殿。

 私のことはルミトと呼んでくれ」

 いや無理でしょう。

 しかし伯爵として扱って欲しいんだったらしょうがない。

「わかりました。

 ルミト殿」

「それでいい。

 ところで失礼したね。

 カルとは本当に久しぶりだったものだから」

 外見と同じくらい言動も若いな。

 いくつなんだ?

 見た目は30くらいだけど。

 するとカールさんが言った。

「ルミトはこれでも50を越えておるよ。

 もう孫がいる」

 さいですか。

 純粋なエルフだな。

 こんな人が国王陛下やってたら、それは人気が出そうだ。

「ほう。

 これはこれは。

 カル、そういうことか?」

「そうじゃ。

 マコト殿は本物の『迷い人』じゃよ」

 ルミト陛下、じゃなくて伯爵閣下とカールさんの間で二人だけのやりとりがあって、それからルミト伯爵閣下は頷いてから初めてハスィーに相対した。

 陛下、それはヤバいのでは。

「お初にお目にかかる。

 ハスィー・アレスト殿とお見受けする。

 ルミト伯爵だ」

「お目にかかれて光栄でございます。

 伯爵閣下。

 ハスィー・ヤジマです」

 傾国姫、全然引かないね。

 ていうか、まともに受け答えしているけど、ルミト伯爵閣下は大丈夫なのか?

「そうか。

 ご結婚されたのであったな。

 失礼した」

「今はヤジマ家の者ですので。

 よろしくお願い致します」

 ルミト伯爵閣下はフム、と頷いてカールさんを振り返った。

「なるほど。

 噂には聞いていたが、凄いものだな。

 それで、ソラージュはどういうつもりだい?

 これだけの戦力(ソフトウエポン)を送り込んできて、エラを併合でもしようというのか」

「ソラージュ国王の意図はわからんが、呼んだのはそっちじゃろう。

 せいぜい防ぐことじゃな」

 訳がわからないやりとりになってきているよ!

 戦力(ソフトウエポン)って何?

 併合って?

 俺、そんなに脅威だと思われているの?

 するとルミト陛下はいきなりニカッと笑った。

 国王陛下とも思えない、いや端正で華麗な美貌のエルフにはそぐわない笑い方だった。

「いやー、すまんすまん。

 君達にそんな意図がないのは判っている。

 だが、いきなり超弩級の影響力を持つ夫婦が王家の離宮に乗り込んできたら、とりあえず用心するものだろう?」

「そのようなつもりは微塵もございませんが、ご迷惑をお掛けしていたのならお詫び申し上げます」

 ハスィーが平坦な声で言った。

 傾国姫、相当怒っているな。

 違うんだよ。

 この国王陛下もアレだ。

 お笑いなんだよ。

 ソラージュと一緒だ。

 国のトップを務めるという重圧に耐えるために、あえて芸の方向に走ったのだろう。

 でもルディン陛下はトリオだったけど、エラ王国の国王陛下はピン芸人なのか?

「いや、それは私にだって側近くらいはいるよ。

 今日は完全なお忍びのつもりだったからな。

 カルに早く会いたかったし」

 つまり、俺たちはオマケというか付け足しだったわけですね。

「ルミト伯爵閣下は、カル様とどのようなお知り合いなのでしょうか?」

 ハスィーが興味なさそうに聞いた。

 なら聞かなきゃいいのに。

「それは……わしもあの頃は若かった」

「そうだな。

 お互い馬鹿やったものだ」

 カールさんとルミト陛下が揃って遠い目になった。

 言わないでいいです。

 聞きたくありません。

 俺は気を取り直して言った。

「ルミト殿。

 ご紹介させて頂きます。

 こちらがヤジマ商会舎員で私の社交秘書のヒューリア・バレル。

 同じくハスィーの社交秘書であるアレナ・エイルスです」

 壁際に並んで立っていたヒューリアさんとアレナさんが、それぞれ緊張した面持ちで膝を落とした。

 伯爵閣下に対する礼だ。

「これは失礼した。

 マレバ伯爵のルミトだ」

 ルミト陛下も動じない。

 ここはあくまで伯爵で通すつもりだな。

 でもこれで正式に挨拶できたわけだから、ヒューリアさんたちも無視されずに済むことになる。

 ラナエ嬢に叩き込まれたんだけど、貴族の礼儀ってマジ面倒なんだよ。

 ていうか、むしろ貴族とそれ以外だね。

 この場において、ルミト陛下は伯爵として存在している。

 国王陛下じゃないんだけど、それでも貴族だから平民は基本的に声をかけられるまでは何も話せない。

 さらに言えば、ルミト伯爵がそうするまでは存在しないものとして扱われたりするのだ。

 俺とカールさんは貴族と皇族身分なのでそんなことはないし、ハスィーも子爵の正室だから貴族として扱われるけど、それ以外の人はアウトオブ眼中ということになる。

 まあハスィーは国際的にも色々と有名なので、俺の嫁じゃなかったとしても認識されただろうけどね。

 その証拠にルミト陛下は自分からハスィーに話しかけたし。

 でもそうじゃない人たちは駄目だ。

 俺が紹介することで、ヒューリアさんとアレナさんは口を利けるようになったわけで、そうしないといつまでたってもルミト陛下からは無視されることになってしまう。

 だって、ルミト陛下の方から声をかける理由がないからね。

 ちなみにハマオルさんたち護衛はデフォルトでいないものとして扱われている。

 嫌なんだけど、仕方がない。

 実を言えば、逆にヒューリアさんやハマオルさんたちがいることで俺たちは貴族のマナーを強要されているとも言える。

 ルディン陛下たちの漫才を見せられた時は、その場に身内しかいなかったから出来たわけで。

 一番低い身分がジェイルくんの近衛騎士で、つまり貴族だったからね。

 ああ、面倒くさい。

 もう何か嫌になって、俺は気になっていることを聞いた。

「ところでルミト殿は、私に何かご用なのでしょうか?」

 カールさんと旧交を暖めたいのなら、勝手にやって欲しい。

 精神的に疲れたから、今日は早く寝たいんだよ。

 ハスィーに慰めて貰いたいし。

 明日は正式にエラ王国の国王陛下との謁見があるからな。

 身体と心を休めておきたい。

 笑えないお笑い芸を見せられても迷惑なだけだ。

「もちろんだとも。

 明日、皆の前では言えないことがあるからな。

 それを話したくて来たわけだ」

 ルミト陛下は平然と言った。

 さすがにピン芸人を張るだけのことはある。

 一人でノリツッコミまでこなせるのか。

「ヤジマ商会会長としての私に、でしょうか」

「ほう!

 判るかね」

「親善大使としての私にでしたら、謁見の席で命じれば良いことですから。

 それに、わざわざこんな舞台を整えて待っておられたのですから、何かあるとは気づきますよ」

「いいねいいね!

 カル、凄いじゃないか!

 同じ『迷い人』でも君とは段違いだ!」

「これはそうじゃよ。

 マコト殿はこちらに来てまだ3年たっておらんのだぞ。

 それが既に子爵で親善大使だ。

 わしなんぞギルドの評議員になるまでに何年かかったと思っておる」

「そうか。

 そうだな。

 よし」

 ルミト伯爵閣下は大きく頷いた。

 俺を正面から見る。

「我がエラ王国のことはどの程度知っている?」

「ソラージュの『親』で、古い歴史を持つ豊かな国であるということくらいでしょうか」

 そのくらいしか知らん。

「その通りだが、衰退しつつあることも確かだ。

 私を含めて皆考え方が古いし、大きく打って出るというような行動がなかなか出来ない」

 いや、陛下は十分大きく出ていると思います。

「私が一人で空回りしているだけでね。

 よって、是非マコト殿にお願いしたいことがあるのだ」

 何?

 あまり酷いことは嫌ですよ。

「私に出来ることでしたら」

「私には孫娘が七人いるが、そのうち一番上の……いや、判ったカル!

 真面目にやるから!」

 やっぱ駄目だこの人。

 それにしても、国王陛下ってこんなのばっかなんだろうか。

 やっぱトップがアレでも有能な官僚がいれば国は何とかなるのか。

 日本も政治家はアレだけど、官僚がしっかりしていて何とかなっているみたいだし。

 国債発行高が酷いことになっているけど。

 俺が半ば絶望している間に体勢を立て直したルミト陛下が姿勢を正して言った。

「マコト殿に改めてお願いする。

 是非、皆の前でサーカスを上演してはくれまいか?

 というか、そちらから申し出て欲しいのだが」

 それだけ?

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