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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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9.謁見?

 外国の君主とはいえ国王陛下を待たせている(?)ので、その避暑地だか離宮だかまでは強行軍だった。

 2日と言われたが1日半で何とか到着し、でも着いた時には日が暮れかかっていたため、その日はとりあえず宿泊することにする。

 エラ王国の役人が気を利かせてホテルを探してくれていたようだが、国王陛下が避暑に来るような土地にまとも? なホテルがあるはずもない。

 ここに避暑に来る人って、大抵は自分の別荘を持っているからね。

 別荘を持ってない人でも知り合いとか親戚の別荘に泊まるので、リゾートホテル的な宿は皆無だ。

 庶民が気軽に観光旅行する日本とは違う。

 こっちの世界では、避暑なんてのは上流階級だけの行事だから。

 それ以外の理由で来る人は使用人とか商人なので、宿泊するのは実用一点張りの粗末な旅館になる。

 俺としてはそれでも良かったんだけど、ソラージュ王国の親善大使をそんなホテルに泊めるわけにはイカンということで、何と国王陛下の離宮に部屋をとって貰えることになった。

 これは極めて異例で、陛下の個人的な友人でもなければあり得ないらしい。

 それはそうだよね。

 重要なお客さんなら部屋も余っていることだし離宮に泊めてやるくらいのことは当たり前だけど、正式に謁見する前に当人が陛下と同じ場所に泊まるってどうよ?

 俺はそういうのに詳しくないからよく判らないけど。

 外務省のセルミナさんも理由が思い当たらないらしい。

「仕組まれているような気がしないでもありませんが、それでエラ王国に何の益があるのか判りません。

 一応、用心はなさって下さい」

 でも用心するって何を?

 ハマオルさんたちも控えの部屋に入れることになったので、大丈夫でしょう。

 ちなみに離宮に入れて貰えたのは俺たち夫婦以外はヒューリアさんとアレナさん、それにカールさんだけだった。

 お役人の二人は何とか確保できた一番いいホテルに泊まるという。

 大使夫妻とその従者であるヒューリアさんとアレナさん、そしてソラージュでギルド総評議長を務めただけでなく帝国皇子でもあるカールさんは、身分や役職から言っても当然という理屈ではある。

 それぞれの護衛であるハマオルさん、リズィレさん、ナレムさんも漏れなく付いてくる。

 それに対して、セルミナさんとトニさんは正式な使節団員とは言っても単なる役人だからな。

 貴族でもないから、エラ王国としては離宮に入れる必要性を感じなかったんだろう。

「そういう建前だろうな。

 だが見方を変えれば、ソラージュ政府の眼を排除したとも言える。

 マコト殿は今のところ公人だが、間違っても王政府の役人ではないし」

 さすがにカールさんの読みは深かったけど、だからといってどうしようもない。

 泊めてくれると言っているのに、断ることなんかできるはずないでしょう。

 相手はこの国のトップなんだよ!

 そして俺は親善とはいえ大使。

 つまりソラージュの代表だ。

 俺がエラ王国国王陛下の不興を買ったくらいで戦争になるとも思えないけど、ここは素直に従っておくべきだということは誰にでも判る。

「心配はいらないでしょう。

 (あるじ)殿。

 国家がここまで公然と話を進める以上、安全は確保されていると見るべきです。

 国としての面子がかかっておりますので」

「それでも万一のことがあれば、私どもが何としてでも防ぎます故」

「こういう場合のナレムの意見は正しい。

 安心して良かろう」

 ハマオルさんとナレムさんが言って、カールさんが保証してくれたからいいか。

 ハスィーも頷いてくれたしね。

 というわけで、俺たち一行は護衛隊と別れてエラ王国の離宮に入った。

 もちろん裏口からだ。

 正門から入ったら正式な訪問になってしまう。

 使節団の護衛隊は許可を得て、近くの空き地でキャンプするらしい。

 振り返るとフクロオオカミたちがウロウロしているのが見えた。

 逆にエラ王国のことが心配だ。

 迷惑かけないよね?

 案内の人に連れてこられたのは、離宮の中でも本邸と少し離れて独立した建物だった。

 と言っても、それ自体がプチホテルくらいの大きさがある。

 一階は広いリビングとダイニングにその他の生活設備で、二階が個室になっていた。

 まさに高級山荘といったかんじで、何の用途に使われるのかよく判らない。

 陛下の愛人とか妾妃とかを住まわせるのだろうか。

 乙女ゲームのノベライズなんかにこういうのが出てきた気がする。

 割合に大きな風呂、というよりはシャワールームがあったので順番にお湯を被って待っていると、みんながダイニングに揃った時点で飯が運ばれてきた。

 普通に豪華なディナーだった。

 今では何とも思わなくなったけど、もし日本にいたら一生無関係だったに違いないレベルだ。

 俺も慣れてきたなあ。

 まだ自分が貴族だとか大会舎の会長だとか親善大使だとかの実感は沸かないけど、人間は何にでも慣れるからな。

 でも、俺の根っこはサラリーマンだから。

 これから落ちぶれて四畳半でカップラーメンを啜るような日常が戻ってきても、適応できる自信がある。

 しかしハスィーは無理だろうな。

「そんなことはございません。

 わたくしも生活の苦労を知らないわけではありませんよ?

 それにマコトさんと一緒なら、どのような生活でも楽しく暮らせる自信があります」

 ハスィーの洞察力も凄いからな。

 俺の心を読むのなんかお手の物だろう。

 でも、謀略に長けたラナエ嬢にはいつもしてやられているんだよなあ。

 そこが可愛いんだけど。

 じゃなくて。

「ハスィーも生活苦を知っているの?」

「『苦』というほどではありませんが、物心ついた時には既にアレスト家の家計は逼迫していましたから。

 『学校』を終えてアレスト市に戻ってきた時も、ギルドで結構なお給料を頂けるようになるまでは一人暮らしでした」

 何と!

 傾国姫にそんな過去が!

「領主館を出て別宅に移ったのも、生活費を節約するためです。

 大きな館の維持費って、信じられないほどかかるものですから」

 わたくしが居住用に使用しないことで、館の維持費を領主代行官つまり王政府に押しつけることが出来ました、と笑顔で言う傾国姫。

 もういいよ、ハスィー。

 そういうのは止めて。

 傾国姫のイメージが崩れるから。

 でもなるほど。

 これだけの美貌や才能やカリスマを持ちながら妙に堅実なのはそのせいか。

 若い頃の苦労はしておくものだなあ。

 ハスィーに比べたら、俺なんか贅沢の極みかもしれん。

 実は俺も地球では色々あったんだけど。

 黒歴史なので言わない。

 食事を終わって使用人たちが食器などを片付けてからお茶の用意をして出て行ってしまうと、俺たちは何となくリビングに集まった。

 まだ早いしね。

「さて。

 そろそろかな」

 ふとカールさんが言った途端に、ハマオルさんがドアを開けて言った。

(あるじ)殿。

 お客様です」

 客?

 誰?

「決まっておろう。

 お忍びじゃよ。

 マレバ伯爵、だろうな」

 カールさんは予想していたみたいだけど、意味がわからない。

 伯爵って、国王陛下の離宮でその程度の貴族が何をしに来るの?

「マレバ伯爵は、エラ国王陛下の付随爵位のひとつですわ」

 ヒューリアさんが言って、素早く立ち上がった。

 アレナさんと一緒に壁際に下がり、直立する。

 俺がつられて立とうとしたら、カールさんが「そのまま」と指示してきた。

 国王陛下が来るのでは。

 じゃなくて伯爵か。

 でも爵位から言えば俺の方が下だから、立って迎えるべきじゃないの?

「マコトさんは大使ですから。

 これは伯爵と同等の身分と見なされます」

 そうなんですか。

 知らないですみません。

 ハマオルさんとリズィレさんが素早く部屋に入ってきて、壁際に目立たないように溶け込む。

 ナレムさんはいつの間にか控えていた。

 続いて中年の知らない人が2人。

 お仕着せを着ているので、使用人に見えるけど多分護衛だろうな。

 ドアの左右に展開すると、いよいよエラ国王陛下のお出ましだ。

 その人は、ひょいっというかんじで踏み込んできた。

「失礼する。

 夜分すまないが、どうしても早く会いたくてな」

 まだ若いイケメンだった。

 細身、長身に輝く金髪、紫色の瞳。

 間違いなくエルフだ。

 つまり、年齢は不明ということだね。

 それにしても、そんなにハスィーに会いたかったのか。

 俺じゃないよね?

「カル!

 久しぶり!

 ちっとも来てくれないじゃないか」

「ルミトは変わらんな。

 わしはもう、老いぼれて動くのがおっくうでの」

 違った。

 目当てはカールさんでした!

 エラ国王陛下は俺たちには目もくれずにカールさんに駆け寄ると、座っているカールさんの前に跪いて肩をバンバン叩いた。

「歳食ったのは私も同様だよ!

 しかもこっちはめったに国外には出られないんだぞ」

「そう見えんから腹が立つんじゃよ。

 ところで親善大使殿が唖然としておるぞ。

 エラ国王陛下として、それでいいのか?」

 カールさんに言われて、国王陛下は初めて俺たちがいるのに気がついたようだった。

 素早く立ち上がって俺に相対し、手を差し出してきた。

「失礼。

 私がルミト伯爵だ。

 マレバ領の領主を務めている。

 よろしく」

 エラ王国の国王陛下だよね?

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