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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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7.旅路?

 ソラージュ国内を街道に沿って北上し、国境に着くまで1週間程度を要した。

 帝国との国境に近いアレスト市から王都までがやはり馬車で1週間程度だったから、概算だけど王都セルリユってソラージュの中心部にあると言って良さそうだ。

 もっとも今回は俺の馬車だけでなく、護衛なのか隊商(コンポイ)なのか判らない集団を引き連れての移動だったから、速度はさらに遅かったと思う。

 1日に多くて40キロ程度しか進めなかったのではないだろうか。

 これには他の理由もあって、つまり親善大使一行を泊めるに足る格式があるホテルを飛び石的に辿っていったんだよね。

 そういうホテルは大抵貴族領地の領都にしかないので、つまり一直線に北上したわけではないらしい。

 例によってホテルに泊まる度に領主閣下やその代理人がお忍びで尋ねてきて、俺とちょっと会談した後はセルリユ興業舎の担当者と商談に入る、というパターンが定着してしまった。

 通達が行き届いていたのか、領主の令嬢を紹介するというような話は一切なかった。

 助かったぜ。

「最初の訪問国はエラ王国です。

 ここはソラージュ王国の源流とも言うべき土地で、もともとはエラでの勢力争いに敗れた豪族が無人だった南方に下ってソラージュを建国したと歴史にあります。

 その後もエラからの人材の流入が続き、本家より発展しました。

 エラ王国は古い歴史を誇りますが、現在は斜陽とされています」

 旅程の2日目から外務省のセルミナさんが俺たちの馬車に同乗して、これから訪問する国について色々と説明してくれていた。

 ハスィーもここまで詳しく教えて貰うのは初めてだということで、興味深そうに聞いている。

 俺はまだ外国に関する常識が心許ないため、ハスィーに覚えて貰ってその都度教えて貰うことにした。

「ヤジマ大使はそれで良いでしょう。

 大使ご自身が細々したことまで覚える必要はございません。

 私もおそばでサポートさせて頂きます」

 セルミナさんも言ってくれた。

 ありがたい。

 よろしくお願いします。

 そういうわけで、日中はずっと馬車に籠もって話を聞くだけだったけど、退屈するということはなかった。

 ときにはトニさんも参加して、その時に通過しているソラージュの領地について教えて貰ったり、これから訪問する国や重要人物について聞かせて貰ったりした。

 トニさんは行政省の役人だけど、領主代行官業務だけでなく国家の施政などについても詳しかった。

 そういう調査の仕事もやったことがあって、外国の行政についてもある程度は知っているそうだ。

 まあ、ど素人の親善大使につけられるくらいだから、そういう技能がないはずはないよね。

 トニさんのハスィーに対する忠誠心は隠すベくもなかったけど、俺に対してもとりあえずは節度を守った態度をとってくれたので、別に文句はない。

 ハスィーを守ってくれるのなら何でもいいのだ。

「それにしても、今回の親善大使閣下は凄いです」

 セルミナさんが突然言い出した。

「何がですか?」

「ですから、ヤジマ大使閣下ご自身が希有な『人たらし』であられますし、奥方は傾国姫様。

 このお二人が組まれたら、大抵の相手は平伏するしかないのでは、と」

 何それ。

 ハスィーが凄いのは知っているけど、何で俺が「人たらし」なんだよ。

 秀吉じゃあるまいし。

「ご自身についてはよく判らないというのは本当ですね。

 ヤジマ大使閣下にお会いした方は、どなたも口を揃えて賞賛しかなさいません。

 威張ることも偉ぶることもなく、また卑屈にもならず、どなたにも同じように気さくで丁寧に接せられると。

 大変な評判でございます」

 知らん。

 俺はそんな気配りをやった覚えはまったくないぞ。

 まあ、確かに会った人たちには丁寧に接したけどね。

 北聖システムで散々経験したからな。

 俺の担当は中小零細企業だったから、その社長のオヤジたちと散々つきあってきたわけで。

 そうしないと仕事にならなかったんだよ。

 あの人たち、みんな小なりとも一国一城の(あるじ)だから。

 だって、自分で事業をやって従業員を食わしているんだぜ?

 大したものだと思う。

 でもこっちが引くと、いきなり威張り出したりするからなあ。

 あげくに値引きしろとか言ってくるし。

 最初の頃はそれで課長に散々叱られたっけ。

 だから、相手は立てるけどこっちも譲らず、それでいて侮辱したりしないように接する癖がついたんだと思う。

 俺がヤジマ商会の会長として相手をするのは、大抵貴族の当主や大商人だからね。

 プライドはあるし、自分の臣下や配下の生活を背負って立つ気概に満ちている。

 でも俺に対しては取引を持ちかけているという弱みがあるわけで、そこんところを刺激しないように対応していただけなんだけど。

「それが『人たらし』というのです。

 私もヤジマ大使閣下と取引した方からお話を聞きましたが、閣下はどんな相手でも敬意を持って接し、それでいて主張すべき所は譲らず、さらに最後はこちらの面子が立つようにして下さったとおっしゃっておりました。

 これは外交官としても、考えられる限り最良の対応です」

 さいですか。

 別にいいですけどね。

 俺はペーペーのサラリーマンとしてやっているだけですから。

 でも、考えてみればジェイルくんがそういう客ばかり回してくれただけのような。

 親善大使って、それとは違うのではなかろうか。

「セルミナ殿の言われることは本当でございます」

 トニさんが口を挟んだ。

「ヤジマ大使閣下は、例えば私のような者に対しても、節度と敬意を持って遇して下さる。

 失礼ですが、これは貴族階級の方の態度としては希有です。

 まして、私との過去の出来事から考えると、まずあり得ないと言って良い。

 感服しております」

 トニさんもどうしたの?

 いや、俺はトニさんに含む所はないんですが。

 だって別に直接やりあったわけでもないし。

 大体、あの時はよく判らないうちに終わってしまって、俺の中でまとまってないんだよね。

 あの何とかいう警備隊の隊長さんには悪いことをしたと思うけど、あれはまあやらなければこっちがやられていたということで。

 でもトニさんについては、ハスィーを崇拝していただけという印象しかないからね。

「そこまで昇華して考えて頂けると、こちらは恥ずかしさで隠れたくなります。

 このトニ・ローラルト、敬服いたしました。

 精一杯職務に励ませていただきますので、よろしくお願い致します」

「はあ。

 よろしくお願いします」

 うん。

 口ではそう言っているけど、まだ警戒心が抜けてなさそうだな。

 魔素翻訳がなくても判る。

 まあハスィーも嬉しそうだし、いいか。

 というようなやりとりがあり、後半はヒューリアさんやアレナさん、カールさんも加わって和気藹々と話しながら国境の街に到着したわけで。

 ホテルに着くと、セルミナさんが宣言した。

「ここで、通行許可が下りるまでは待機になります」

「許可がいるのですか」

「はい。

 普通の商人や旅行者ならあらかじめ大使館で滞在許可(ビザ)をとって通過できますが、大使ですと相手国側も迎えの準備が必要です。

 セルリユの外務省からエラ王国政府に対して、別途通達が出ているはずですが、対応に時間がかかります」

 そうか。

 セルリユの王政府から外交文書を送ったと思うけど、まずそれがエラ王国のセルリユ大使館に渡され、そこからエラ王国に送られるわけだ。

 エラ王国政府はその文書を受け取ってから誰かが決定して、そこで初めて準備が始まる。

 国境の街の入国管理所か命令が通達されるまでには、どうしても時間がかかるということだな。

 こっちは地球みたいに光の速度で情報が飛び交っているわけじゃないからね。

「ゆっくり来たのはそのせいですか」

「そうですね。

 いつ到着するか、という予定日は外交文書に記載されているはずですが、予定はあくまで予定です。

 お互いに数日のズレは予め覚悟しているはずです」

 うーん。

 江戸時代だからなあ。

 黒船が長崎に来てから江戸幕府にそれが伝わるだけで1週間くらいかかってしまうと。

 俺が好きな海洋小説で読んだけど、例えばヨーロッパでもナポレオン戦争時代、つまり電信などがなかった時は、戦争を始めるのも終わらせるのも大変だったらしい。

 お互いに「○月○日をもって開戦」といった決定ができないんだよね。

 大陸のどこかや大西洋なんかでお互いの軍隊や戦艦が戦ったとしても、その情報が本国政府に届くのに下手すると何週間もかかったりして。

 地球の反対側だと、戦争が始まったり終わったりしてもそれが判るのが半年後だったりしたらしい。

 だから、当時の議会では「おそらく○月○日をもって両国は戦争状態に突入したと思われる」というような報告になったと書いてあった。

 いい加減だけど、仕方がない。

 知りようがないんだから。

 同じように、戦争に勝ったか負けたかもよく判らないまま、半年くらい過ぎてしまうこともあったと。

 別の大陸に軍隊を展開している場合、本国政府が降伏してしまったのを知らずに戦い続けていたりしてね。

 日本の江戸時代や、ヨーロッパの近世ってそれくらい悠長だったのだ。

 こっちでも同じと考えていいだろう。

 てことは、俺としては入国許可が出るまではのんびりしていればいいと。

 別に急ぐ旅じゃないしな。

 そう思って、しばらくは国境の街の観光でもしていようかと考えていたら、翌朝一番に知らせが届いた。

「お待ちしておりました。

 すぐに入国して頂いて結構です」

 わざわざエラ政府の役人がホテルまで来て知らせてくれたらしい。

 何期待されているの?

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