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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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6.覚悟?

 日が暮れる前に、目的地であるホテルに到着した。

 街道沿いの立派な宿だ。

 何とか言う領地の領都の郊外にあるらしい。

 もちろんこの領地にも貴族がいるんだけど、公式な表敬訪問はあえて行わないそうだ。

 正式に会ったら挨拶やら会食やらで最低でも一日潰れるとか。

 ここの領主の爵位は伯爵だから、本来なら俺の方から挨拶に伺わなければならないんだけど、いちいちそんなことやっていたらいつまでたっても国境を越えられない。

 というわけでこっちはスルーするつもりだったんだけどね。

 何とか伯爵の方は会談に大いに乗り気で、是非ヤジマ商会の会長とお話ししたいというので、交渉の結果向こうが身分を隠してこのホテルに来た。

 俺も疲れているんで、夕食前にちょっと一緒にお茶を飲みながら挨拶して、あとは随行の人たちに丸投げする。

 伯爵がハスィーと対面して気絶しかけたこともあって、あっさり終わったらしい。

「こちらの領地の特産品をセルリユ興業舎で扱うということで話をつけました。

 泣くほど感謝されておられました」

 ヒューリアさんが簡単に報告してくれたけど、伯爵ですらそうなのか。

 なまじ領地なんか持っていると、金の工面が大変なんだろうな。

「幸いソレニ伯爵閣下はものの判った方で、お嬢様をマコトさんに会わせたいなどとおっしゃらなかったので助かりました。

 それだけで好印象ですわ」

 ヒューリアさんも溜まっているらしい。

 これまで何人断ってきたんだろうか。

 しかも自分が未婚の貴族令嬢だもんね。

 ストレス酷いと思うよ。

「その役目は誰かに替わってもらってもいいんですよ?」

「私はマコトさんの社交秘書でございます。

 これは私の役目です」

 思い切り断られてしまった。

「わたくしがこういう事を言うと失礼かもしれませんが、ヒューリアの思い通りにさせてあげて下さい」

 ハスィーにも叱られた。

「はい」

 関わらないようにしよう。

 夕食は部屋に運んで貰った。

 このホテルで一番ではないらしいけど、結構豪華な部屋だ。

 飯も豪華だった。

 これがデフォルトなんだろうな。

 ある程度の地位や財産がある人は、旅行する場合でもあまり貧相な手段をとってはならないのだ。

 日本いや地球でもそうだけど、例えば北聖システムの社長が海外出張する場合、飛行機は最低でもビジネスクラス、出来ればファーストを使わなければならない。

 そうしないと、相手は「社長がビジネスクラスも使えないようなショボい会社なのか」と誤解するかもしれないそうで、つまり商売の妨げになる。

 地位に見合った「格」の手段を使わないといけないのだ。

 北聖システムの社内規則でも、社員が出張する場合に使う交通手段の規定があったもんね。

 確か、部長職以上は新幹線ならグリーンを使うように、と書いてあったと思う。

 これはこっちの世界でも同じらしい。

 仮にも一国の親善大使がエコノミーを使ったらイカンということで、スイートに近いような部屋があてがわれたわけだ。

 俺としてはビジネスホテルでもいいんだけどね。

 でもハスィーは貴族令嬢だから、やっぱりある程度の豪華な部屋じゃないと駄目だろうな。

「そんなことはありませんよ?

 『学校』では実習で狭い部屋に雑魚寝という状況がありましたし、アレスト市に帰った時は野宿もしました。

 それに、今はマコトさんと一緒ですからどんな場所でもかまいません」

 泣いちゃうから止めて。

 飯を食ってから風呂に(一緒に)入ったら、疲れていたけどやっぱり襲ってしまった。

 いや我慢なんか出来ないって。

 俺もまだ若いからなあ。

 北聖システムの先輩たちや上司は、飲み会の席で「八島くんにはまだ判らないだろうけど、歳くってくるとそんな気がなくなってくるんだよ」とか言っていたけど、俺はまだ枯れてない。

 それに、ハスィーは嫌がらないどころかむしろ誘ってくるんだよね。

 これから親善大使の夫人しなきゃならないのに、子供が出来たらどうするんだ。

「その時はその時です。

 エルフは逞しいのです。

 どんな状況でも産んでみせます」

 さいですか。

 そこまでの覚悟があるんだったら、俺には何も言えないけど。

 でも、正式に婚約してから結構頻繁にヤッてるんだけど、まだ子供が出来ないよね?

「それはわたくしにはどうにもならないことですが。

 もともとエルフは妊娠しにくいと聞いております。

 (フロイ)など、フレロンドが出来るまでユリタニア義姉(ねえ)様と何度ヤッたか判らないと申しておりました」

 そうなのか!

 フロイさんの奥様のユリタニアさんは楚々とした美少女だったけど、数え切れないくらい何度もヤッたのか。

 ていうか、兄妹でそんな生々しい話をするのかよ。

 アレスト家、パネェ。

「アレスト伯爵邸に泊まった時、(フロイ)に捕まって一晩懇々と(さと)されました。

 子供は絶対に作れと。

 (フロイ)もある意味、必死だったそうです。

 子供が出来ないと廃嫡されるかもしれないということで」

 そんな馬鹿な。

 フロイさんってアレスト伯爵家の長男な上に唯一の男子でしょう!

 その人を廃嫡してどうするんだよ!

「アレスト家は少し特殊ですので。

 他の貴族家より血の繋がりを重視すると申しておりました。

 最悪の場合は、嫡子を廃してでも先代の血を引く子供を養子に迎えかねません」

 うーん。

 その場合でも、フロイさんの養子にすればいいだけのような気がするけど。

 何かしきたりでもあるのかなあ。

 まあ、婿養子に入らなくて助かったかも。

 そんな面倒くさそうな貴族家とは親戚付き合いに留めておいた方が良さそうだね。

 でもそこまで直系に(こだわ)るって、つまりあの王家との盟約があるからだろうな。

 大変だなあ(人事(ひとごと))。

「ハスィーはどう思っているの?」

「わたくしは……どうも、そういった考え方に馴染めないと申しましょうか。

 家系などどうでも良いと思ってしまうのです。

 おかげで子供の頃から家の中で浮いてました」

 そうか。

 傾国姫と呼ばれるのは、そこら辺も関係しているのかもしれない。

 何ていうか、ハスィーってある面では貴族らしくないんだよね。

 「家」より個人を重視しているような。

 だから俺みたいな風来坊を簡単に拾い上げてくれたんだろうし、アレスト伯爵家の令嬢という立場を出来るだけ使わないようにしている。

 まあ、最低限かな。

 もっともアレスト市のギルドに就職するときや、アレスト興業舎を作るためにギルドに借金した時にはコネを大いに使っただろうけど、そのときでも家族の力を借りようとは思ってなかったみたいだし。

 実際、自分一人で何もかも片付けてしまった。

 ひょっとしたら、ハスィーって俺なんかよりよほど希少な人材なんじゃないのか。

「マコトさん。

 これまでがどうあれ、今の私はマコトさんの妻というだけの存在です。

 マコトさんがすべてなのですよ。

 わたくしを大いに利用して下さい」

 いや。

 まっすぐ俺を見つめながらそんな殺し文句を言わないで欲しい。

 普通の異世界物(ラノベ)ではあり得ないよね。

 恋愛小説というよりは、むしろエロ小説に近いのでは。

 この世の者とも思えないような美貌に直撃されてまた気が遠くなりかけたけど、俺は必死で精神力をかき集めて耐えた。

 自分の妻に悩殺されてたまるか。

 で、気がついた。

 思い切り抱きしめれば、ハスィーの顔を見なくて済むのでは?

 結果から言うと、確かに気絶はしないで済んだんだけど、ハスィーもその気になってしまってまた襲ってしまった。

 これはマジで、旅の途中で子供できるかもなあ。

 というわけで、さすがに二人ともクタクタに疲れてベッドに倒れ込んでそのまま寝てしまった。

 ハードな一日だったぜ。

 かなり早い時間に寝たので、明け方には目が覚めた。

 本当は寝直したい所だけど、仕方がない。

 しがみついているハスィーを起こして二人でシャワーを浴びる。

 今度はさすがに耐えた。

 着替えてホテルのエントランスに行くと、やはりハマオルさん以下の警備員の人たちが待機していた。

 ヒューリアさんもいる。

 ジェイルくんは昨日のうちに王都に戻ったからいないけど。

「おはようございます。

 (あるじ)殿」

 ハマオルさんとリズィレさんに合わせて、そこにいた人たちが一斉に頭を下げる。

 良かった。

 サボらなくて。

「おはよう。

 待っていてくれたんだ」

(あるじ)殿の習慣ですからな。

 臣下の者が従わなくてどうします。

 まあ、いらっしゃらなければ我々だけで教練を行うつもりでしたが」

 そうなのか。

 でも俺たちもせっかく起きてきたんだから、いつもの通りやりましょうか。

 ハマオルさんが先駆けを出して、コースを下見してくれていたらしい。

 俺たちは体操した後、いつものように一丸となって駆けた。

 ホテルの従業員らしい人たちが、あっけにとられて俺たちを見送ってくれたけど、まあ普通は驚くよね。

 変な伝説が出来なきゃいいけど。

 ある程度走った所にちょっとした林があったので、俺はそこでなんちゃって示現流の稽古をする。

 ハマオルさんが何か新しい必殺技(違)を考えてくれるはずなんだけど、さすがに忙しくて後回しになっているらしい。

 まあ気長に待つさ。

 ハスィーはヒューリアさんと一緒に、リズィレさんの指導を受けつつ護身術の練習をしていた。

 自分ひとりならともかく、子供ができたら守って戦う必要があるかもしれないかららしい。

 こっちの世界って大変だな。

 ハスィーをそんな目に遭わせないようにしなければ。

 みんなで走ってホテルに戻ると、今度は従業員が揃って出迎えてくれた。

「「お帰りなさいませ。

 お客様」」

 「ご主人様」じゃなくて助かった……。

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