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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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3.逆転移?

「それほどの規模ではありません」

 フォムさんがてきぱきと言った。

「また実際にも調査や事業展開などを行いますから、メンバーが入れ替わったり途中で追加されたりするかもしれません。

 ヤジマ子爵閣下はお気になさらず」

 さいですか。

 つまり、俺はフォムさんたちを無視していればいいということですね?

「そうではなく、ある程度の連携は必要と考えますが、それはヤジマ子爵閣下の護衛と打ち合わせますので」

 振り向くと、いつの間にか壁際に控えていたハマオルさんがかすかに頷いた。

 ならば俺は構いませんが。

「それから、出来れば派遣団が当地の領主などと商談なりを行う機会があれば、口添えしていただきたく。

 これはヤジマ子爵閣下だけではなく、カル元ギルド総評議長閣下へのお願いでもあります」

「かまわんよ」

 カルさんが言った。

「わしで役に立てるのなら、いくらでも使って貰って構わない。

 ヤジマ大使の随員として動こう」

「ありがとうございます。

 よろしくお願い致します」

 ラナエ嬢がまとめて、その場は終わった。

 何か出来レースがあったみたいだね。

 グレンさんがいるから、後で王太子府や王政府にも情報が行くのだろう。

 面倒くさいなあ。

 色々打ち合わせがあったんだろうな。

 俺がやらないで済んで良かった。

 ハスィーが俺のそばに来たので、肩を抱いて引き寄せる。

 周りからヒューヒューという口笛が上がった。

 ホントにみんな口笛吹くのね。

 でも大丈夫。

 もう俺たちはその程度では動じなくなっているのだ。

 あの結婚式の荒技が酷かったからなあ。

 あれで恥じらうような感情はもう、どこかに吹っ飛んでしまった。

「お熱い所を見せて頂いた所で、皆様拍手をどうぞ!」

 ヒューリアさんの声がして、一斉に手を叩かれた。

 もう何でもして。

 それから同行する人以外のみんなが俺たちの所に来て声をかけてくれた。

 嬉しいね。

 この人たちと縁を結んで良かった。

 あいかわらず俺には勿体なさすぎる状況だけど。

 大学でも北聖システムでも、俺は基本的にボッチだったからなあ。

 まあ、自ら望んでだったけど。

 あの頃は人と話すのが気持ち悪かったんだよね。

 話す内容と内心が違う気がした。

 向こうもこっちも。

 体裁を繕って、何とか波風を立てずに流そうとしているみたいで。

 かと思うと、そんなの全然考えずに嫌なことばかり言う奴もいたし。

 あれってつまり、こっちみたいに魔素翻訳がないせいでお互いにコミュ障に陥っていたんだと思う。

 こっちでは気をつけないと内心が出てしまうだけに、みんな真剣に話すんだよ。

 もちろん誤魔化そうと思えばできないことはないだろうけど、疲れる。

 しかも完全に誤魔化せるかというと、駄目だ。

 だからそんな無駄な努力をする人はあまりいない。

 その結果、お互いに率直に語り合うことになるんだよね。

 俺にとってみれば、素直に話してくれること自体が嬉しい事だからな。

 だからこっちも素直に話せる。

 コミュ障を克服できたのは多分そのせいだ。

 ああ、そういうことか。

 前にホスさんが教えてくれた、俺がなんでみんなに親切にして貰えるのか、という答えがそれなんだろう。

 だって、俺にとってみればみんなの方が最初から優しくしてくれているわけだから。

 それだけで感謝なんだよ。

 だから当然、こっちだって素直に話すしかないでしょう。

 地球から来た人たちがみんなすぐに亡くなってしまうというのが信じられない。

 こんなに簡単な事ができないというのか?

「出来ないのじゃろうな」

 いつの間にか隣にいたカールさんが言った。

「わしも東ドイツ時代はいつも秘密警察(シュタージ)を気にして、ろくに人とも話せんかったからな。

 こっちに来て、その心配がないと判ると喋りまくったものだ。

 それが良かったのかもしれん。

 お互いに幸運(ラッキー)だったな」

 そうかもしれませんね。

 でも俺やカールさんが特別な人間だとは思えないんだよな。

 異世界人って、もっとたくさん生き残っているのではないだろうか。

 自分から身を隠して生きている人も多いのかも。

 そこで、俺はふと気がついた。

 転移って、一方通行なのか?

 こんなことを話せる人は一人しかいない。

 ハスィーが離れたのを機に、俺はカールさんと話し込んだ。

「こっちから地球に行った人っていないのでしょうか」

「それは当然、いるとは思うぞ」

 カールさんは明快に答えてくれた。

「わしはこっちに来てから長いからの。

 仕事の合間とかに色々と考えた。

 調査もしてみたよ。

 こっちでも、突然いなくなってそれきりになる人がいる。

 もちろん、ただの失踪かもしれんが」

「転移した可能性もある、と」

「そうだな。

 人間だけではない。

 野生動物なども転移しているだろう。

 証拠はないが」

「でも、地球ではそんな事件は報告されていませんよね?」

「わしが地球にいた頃までは、なかったな。

 時々話題になった宇宙人などがそれかもしれんが。

 だが、わしが考えるにそれらの存在が話題にならない明白な理由がある」

 あるのですか。

「マコト殿。

 わしや君はこっちに来てすぐ、出会った人と普通に会話……というよりは意思疎通が出来たわけじゃが、それはなぜだ?」

「もちろん魔素翻訳……ああ、そうか」

「そうじゃ。

 魔素翻訳がなければ言葉が通じない。

 地球においては、それは即外国人だということになる。

 誰かと接触しても、得体の知れない不法密入国者としてしか扱われんだろう。

 おそらく、それがこっちから地球に転移した者に起こることだ」

 そうか。

 訳のわからない言葉を話す、身分を証明できない転移者。

 本人はパニックになるだろうし、暴れれば投獄されるだろう。

 何年か生活すれば言葉を覚えるかもしれないが、そのときになって例えば私はソラージュの人間だ、などと話しても妄想と思われるだけだ。

「だとすると、地球ではその地域の言葉を覚えて普通に生活しているこっちの人がかなりの数、存在するかもしれませんね」

「そうだな。

 幸いと言ってはなんだが、地球はこちらに比べたら人権が保護されているからな。

 内戦中の国とか、極度に排他的で文化的に遅れた所に転移しない限り、生き残れる確率は高いだろう」

 密入国した言葉を話せない人って、どうなるんだろう。

 日本だったら基本は強制送還だろうけど、その国が判らないとしたらとりあえず拘置して調べるしかない。

 ただちに処刑とかはあり得ないし、送還できないとしたらもう、在住許可を与えるしかないか。

「自分が転移したことを証明できませんかね」

「無理だな。

 こっちは文明進度では地球より数世紀は遅れている。

 我々はソラージュに新しい概念や仕組(システム)みを持ち込めたが、逆は無理だ。

 増して言葉が通じないのでは、の」

 とすれば地球に転移した人は、そのうちに言葉を覚えて身元不明の移民として生きていくことになるのか。

 死ぬよりはマシだけど、切ないなあ。

「野生動物とかも転移するのでしょうか」

「したとしても、生物相にほとんど差が無いのだから問題にはならんよ。

 まあフクロオオカミやスウォークなどが転移したら大騒ぎになるかもしれんが。

 突然変異とかオカルトで片付けられるのではないかね」

 そうだよね。

 確率的に言えば、フクロオオカミやスウォークが転移することはまずないだろうし。

「地球にはもう戻れないと思った方がいい。

 もはや我々には関係がない世界の話だ。

 気にしないことだな」

 カールさんはそう言って去った。

 そうだよな。

 俺もこっちで結婚したし、今更日本に戻りたいとは思わない。

 異世界物の小説(ラノベ)だと主人公はアニメやゲームを懐かしがって帰りたがるけど、俺は主人公じゃない、というよりはそんなものより現実(リアル)の方が面白いし。

 まともな会社の正社員にはもう、なれそうにもないけどしょうがない。

 これだけの借金を背負ってしまった上に、変に名前と顔が売れてしまって逃げることもできないしな。

 ハスィーや他の人たちとも別れたくないから、今チャンスがあっても地球には戻らないだろうね。

 戻ったらまた無職だし(泣)。

 年金はないけど、こっちの方がまだマシだ。

「マコトさん。

 もとの世界に帰りたいのですか?」

 いつの間にか俺のそばに戻ってきていたハスィーが言った。

 悪戯っぽく笑っているから、これは戯れ言だよね。

「ハスィーを置いていけるわけないだろう」

「わたくしはマコトさんの行く所なら、どこにでもついて行きますよ。

 マコトさんは、思うがままに生きて下さい。

 それがわたくしの望みです」

 俺ってリア充?

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