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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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2.北方諸国開発団?

 ソラージュに限らず、こっちの世界では文明の発達度に相応してあまり道が良くない。

 日本の江戸時代みたいなもので。

 ヨーロッパあたりだと、とりあえず都会なら石畳などが敷かれていたはずだけど、少なくともソラージュはそこまで行っていないのだ。

 つまり、王都の都心でも舗装されてるのはごく一部で、後は小石混じりの未舗装道路が続いているだけだ。

 ローマ帝国なんか、版図全体に石張りの街道を敷設したという話だけど、よくそんな余裕があったものだと思うよ。

 帝国や北方諸国は知らないけど、ソラージュは文化の発達度合いに比べても人口が少ないみたいで、あまり大規模な土木工事をやる余裕がないようなんだよね。

 王太子府の要塞や役所になっているセルリユ城が存在するのだから作れないわけではないんだけど、どうもここ百年くらいは大規模な戦争がなかったために、軍隊が縮小されると同時に生産資源をソフトパワーに回したらしいのだ。

 つまり、箱物じゃなくて生活向上の方に力を入れたというか。

 だから俺でも感心するくらい生活水準が高いし、病気や怪我の治療なんかも進んでいる。

 地球の歴史を見ると贅沢をする階層がいる一方で食うや食わずやの貧民階層が溢れているというのが中世から近代の図式だけど、こっちではスラムじみた場所ですらある程度の余裕があるみたいで。

 これは多分、魔素翻訳のせいだと思う。

 地球では当たり前だった、貴族が恐怖と圧政で庶民を押さえつけるという方法論が使えないのだ。

 地球でよくやっていた、民衆の中から手先を選んでそいつに支配させて憎悪をそっちに向けるという方法も駄目だ。

 本気になったら簡単に本音がバレるからね。

 かつて「迷い人」の扇動で反乱が起こったみたいに、押さえつけられた庶民は容易に激発する。

 簡単には騙されないのだ。

 必然的にそういう方法論を取った支配者は滅んでしまって、もっと穏やかに支配するタイプの貴族や王族が残ったのだろう。

 ルディン陛下や側近がお笑いなのも、高度な支配技術なのかもしれない。

 おっかない話だなあ。

 そんなことをぼんやり考えていると、馬車が立派な建物の門をくぐるのが判った。

 ホテルのたぐいらしい。

 俺の馬車が止まり、その周りを守るかのように他の馬車が囲むと、何とジェイルくんがやってきた。

 一緒に来ていたの?

「私はヤジマ子爵家の重臣ですから、(あるじ)殿が旅立つのを最後まで見送るのは当然でしょう」

 あー。

 確かに、みんなにさよならとか言わないで出てきたっけ。

 てことは、それをここでやると。

「皆さん揃っています。

 こちらへ」

 俺がハスィーに手を貸して馬車から降ろし、ハマオルさんとリズィレさんに護衛されて建物の方に向かうと、四方八方から人が集まってきて壁を作ってくれた。

 いや、なんか周り中から注目を浴びていたもので。

 俺はともかくハスィーを認めた人たちが騒ぎ出したようで、これは先が思いやられるな。

 エントランスをくぐり、階段を上がって立派な部屋に入ると、そこは食堂だった。

 ていうか、臨時にそうなっているらしい。

 ホテルのレストランは使えないか、あるいはそもそも存在しないのだろう。

 こっちでは宿泊施設で飯を食うという発想があまり普及していないようなのだ。

 食事が出るくらい豪華な宿では、日本の高級旅館と一緒で部屋に飯が運ばれてくる。

 それ以外は近くのレストランで食うのが当たり前らしい。

 ここにもそういう店はあると思うんだけどね。

 どっちにしても俺たちが占有するわけにもいかない。

 他のお客様のご迷惑になってしまう。

 だから大部屋を借り切って食堂にしたと。

「おう、マコト。

 久しぶりだな」

 豪快に挨拶してくれたのはシルさんだった。

 アレスト市から来てくれたのか。

 いや、俺のためじゃないかもしれないけど。

「本当に久しぶりですね。

 結婚式にはお呼びしないで失礼しました」

「私は正式にはソラージュにいないことになっているからな。

 あそこに出て行けば、帝国皇女だの何だのという話になってしまう。

 だから気にするな。

 フレアから式の様子は聞いたよ」

「ありがとうございます。

 では改めて。

 シルさんには本当にお世話になりました。

 ハスィーと結婚できたのも、シルさんたちのおかげです」

「おう。

 ……まあ、良かったな」

 何か間があったけど、別にいいか。

「マコトさん、大丈夫そうですね」

「少し心配していたのですが、お元気で何よりです」

 ユマさんとラナエ嬢もいるのか。

 幹部が勢揃いだな。

 グレンさんもいる。

 さすがにミラス殿下やフレアちゃんはいないな。

 王政府からも誰も来ていない。

 使節団のお役人の二人も欠席だ。

 遠慮してくれたのかも。

 カールさんはいる。

 つまり、これはヤジマ商会の会合ということだね。

「皆さん、席について下さい。

 時間が押してますので、早速お食事を始めたいと思います」

 ジェイルくんが言って、ヒューリアさんと一緒に席に着いた。

「それでは、マコトさんの旅立ちを祝って乾杯!」

 いや、お茶だけど。

 後は無礼講だった。

 みんな言いたいことを言っている。

「ハスィー様、今日は一段とお綺麗ですが、何かありましたか?」

「新婚の奥様なのですから、それは当然」

「マコトさんは変わりませんのね。

 安心しました」

「確かに。

 アレスト興業舎を立ち上げた時と、印象(イメージ)が全然変わってないぞ。

 大丈夫か?」

 言ってろ。

 俺は俺で、変わりようがないんだって。

 俺はサラリーマンであって、勇者とかじゃないんだよ!

 エルフを嫁に貰ったからといってそうそう変わってたまるか。

 でも楽しかった。

 最近は夕食会でも、あまりこういった何でも言いたい放題にはならないことが多いんだよね。

 やっぱ「戦争」していることもあるし。

 それに、みんな凄く出世してしまって、責任がのし掛かってきているからということもあるんだろうな。

 俺みたいななんちゃって経営者とは違うのだ。

 こないだちょっとジェイルくんに聞いたら、ヤジマ商会およびそのグループ企業の構成員は、見習い舎員まで含めると既に4桁に達しているそうだ。

 これは、臨時雇いや下働きを含まない数だと。

 北聖システムを越えてない?

 いやいやいや、あり得ないでしょ?

 聞かなかったことにしたけど、それを一手にまとめているジェイルくんって凄いよね。

 逃げたい。

「だから、マコトさんはひとまずソラージュから離れて一休みして下さい」

 ジェイルくんが言った。

「ソラージュ国内でのヤジマ商会の活動は、後は我々だけで回していけます。

 次の目標は海外進出および国際化です。

 マコトさんの思うがままにやって下さい」

 いや、俺はそんなつもりは何もないんだけど。

 でもちょっと休むというのはいい考えかも。

「別に強制ではございませんわよ」

 ラナエ嬢が言った。

「海外進出についても、既にアレスト興業舎とセルリユ興業舎がそれぞれ独自路線で動いておりますので。

 マコトさんには、その活動を視察していただければと」

「そうだ。

 セルリユ興業舎は知らんが、アレスト興業舎は野生動物会議を通じてあらゆる方向に進出しつつある。

 野生動物には国境など関係ないからな。

 北方諸国にもあちこちに伝手があるから、よく見てきてくれ」

 ラナエ嬢とシルさん、初耳ですが?

 一体何してるんです?

 それ、俺の借金でしょう?

「……まあ、それはそれとしてこれからの問題だが」

 シルさんが露骨に話を逸らせた。

 別にいいですけどね。

 どうせ俺は案山子だし。

「案山子ではなくて神輿だが。

 マコトがでかくなって行くに従って、敵も増えてくるのは道理だ。

 ソラージュ国内では王政府やヤジマ商会関連の警備部隊などが守ってやれるが、国境を越えたら内政干渉になる。

 というわけで、ユマ」

 ユマさんが立ち上がった。

「はい。

 マコトさんを護衛してきたギルド警備隊と騎士団は、残念ながらここで帰還します。

 よって、その替わりとしてヤジマ商会傘下の各企業の派遣隊が護衛を担当します」

 すると、いつの間にか部屋に入ってきていた人が進み出た。

 マッチョだ。

 フォムさん?

 セルリユ興業舎の警備部長だったのでは?

「フォム・リヒトです。

 この度、ヤジマ商会北方諸国開発団の団長を拝命しました」

 北方諸国開発団?

 ラナエ嬢が言った。

「フォムはセルリユ興業舎からヤジマ商会に出向しました。

 傘下の各企業群から派遣される部隊をまとめて、北方諸国への進出について調査・開発するという名目で、マコトさんに同行します。

 派遣団は公的にはマコトさんの親善使節団とは関係なく動きますが、常に随行させて頂きます」

 それって。

 民族大移動?

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