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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第二章 俺が文化使節?

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1.新婚旅行?

 馬車の窓からではよく見えないが、前にも後ろにも隊列が続いているようだった。

 俺の馬車の両側は騎士団とギルド警備隊が固めてくれている。

 凄いぞ。

 ていうか、止めて!

 凱旋行進じゃないんだから!

「そういえばユマから聞きましたが」

 ハスィーが言った。

「何を?」

「王都の外れまでは、テロを防ぐためにも騎士団と警備隊が総力を挙げて護衛してくれるということです。

 親善大使が王都で襲われでもしたら、王政府の恥になりますから」

 そういう名目で手配してくれたのか。

 ありがたい。

 でも、それって王都を出たら後は知らないということなのでは?

「そこまでは。

 でもユマのことですから、何か手は打っているはずです」

「そうだね」

 「略術の戦将」だからな。

 気にしないことにしよう。

 俺は立ち上がって前に進み、馬車の前面の壁をノックした。

 すぐに小窓が開いて、ハマオルさんが顔を出す。

 小窓の他に、小さいけどドアもある。

 この馬車は、御者席の後ろにドアがあって客席と直接行き来できるようになっているのだ。

 豪華だ。

(あるじ)殿。

 ご用でしょうか」

「大したことではないんですが、これからの予定を聞いておきたくて」

「おお。

 失礼いたしました。

 そういえば、(あるじ)殿ご夫妻しか乗っておられませんでしたな」

 ヒューリアさんとアレナさんは使節団の随員ということで専用の馬車に乗っている。

 カールさんと一緒で、つまりナレムさんが護衛についているから、俺たちと同じくらいは安全だろう。

 お役人の二人は王政府が用意した馬車に乗っているはずで、そっちは知らない。

 護衛くらい雇っているとは思うけど。

「使節団の随行員には、それぞれ専任で護衛がつきます。

 私が指揮を執りますので、ご安心下さい」

 それなら大丈夫ですね。

 いやそうじゃなくて。

「本日は昼食までこのまま進んで、ランチの後ギルド警備隊および騎士団は引き上げることになっております。

 王都の正式な版図がそこまでですので」

「そうですか。

 ありがとうございました」

「とんでもありません。

 (あるじ)殿。

 何かありましたら、すぐにお呼び下さい」

 小窓が閉まった。

 うん。

 凄い人だよね。

 単に俺の護衛というだけじゃなくて、使節団全体の護衛の指揮を執っているわけか。

 だとすると帝国騎士(ライヒスリッター)であるナレムさんも指揮下にいるのか?

 帝国騎士(ライヒスリッター)って身分じゃなくて役職名らしいし、そもそもナレムさんはもう引退しているんだっけ。

 だとしたら身分的には平民の民間人だから、ハマオルさんが命令しても問題ないのか。

 従ってくれるかどうかは別にして。

 席に戻ると、ハスィーがお茶を入れていた。

 そういう設備もあるんだよね。

 本格的な料理などは出来ないけど、お茶を用意するくらいは可能だ。

 お金持ち用のリムジンに小型のバーが備え付けられているようなものか。

 ちなみに、後ろの座席を上げて扉を開けるとトイレもある。

 長距離移動用の貴顕専用馬車なのだ。

 ていうか、これって王族や上級貴族用の機材じゃないの?

 あと大金持ちとか。

「ヤジマ商会の資金力を持ってすれば、この程度は当たり前です」

 ハスィーは落ち着き払っているけど、本来は伯爵令嬢でしかないハスィーにとっても豪華すぎると思うんだけど。

「『学校』時代に遠出したとき、ミラスが用意したのがこういった馬車でした。

 席に空きがあったとかで、わたくしもお邪魔させて頂いたことがあります」

 そうか。

 王太子だもんな。

 でも、それって多分「空き」じゃないと思うよ。

 ミラス殿下のお相手として選ばれたに違いない。

 ひょっとしたらミラス殿下自身が手配して。

「それが、当日になってミラスがどうしても外せないお役目が出来たとかで、本人は来られませんでした。

 あの時はわたくしとラナエ、それからユマの3人で乗車したと思います」

 やっぱりかよ!

 ミラス殿下自身がビビッたか、あるいは王政府の横やりが入ったかどうかしたんだろうな。

 ラナエ嬢やユマさんはともかく、ハスィーとミラス殿下を接近させることを嫌った誰かがいたんだろう。

 でも露骨にハスィーを遠ざけるわけにもいかず、その結果がミラス殿下自身の欠席になったと。

 哀れな。

「どうぞ」

 ハスィーが差し出してくれたお茶を飲む。

 結構美味いな。

 さすがにいい葉を使っている。

 どうせならということで、たたまれていた座席を引き出してハスィーと向かい合わせに座ってみた。

 うーん。

 やっば美人。

 ていうような形容詞では到底足りない。

 でも正式に結婚したせいか、婚約時代の何か焦っているようなピリピリした雰囲気が消えて、ほんわかしたムードになっている。

 一時期、廊下でハスィーとばったり顔を合わせた使用人がその場で気絶していたりしたからな。

 もう人間兵器だよ。

 その劇物だった美貌のエルフは落ち着いてお茶を飲み、俺の視線に気づくとにっこりと微笑んでくれる。

 ありがたや。

 北方諸国に行って要人を気絶させたりしたらどうしようと悩んでいたんだけど、どうやらその懸念は解消したらしい。

「マコトさん?」

「うん。

 ハスィーは大丈夫?」

「平気です。

 マコトさんと一緒ですから」

 ちらっと牙がのぞいたような。

 あのヤジマ邸襲撃事件の時、自分がアレスト伯爵邸に避難させられていたのがよほど悔しかったらしい。

 まだ根に持っているな。

 でもあれは必要なことだったので。

「マコトさんこそ、大丈夫ですか?

 親善大使などというお役目、本当はやりたくなかったのでは」

「まあ、積極的にやりたいとは思ってないけどね。

 でも、外国を見て回るって面白そうじゃない?

 ハスィーも一緒だし」

 美しいエルフは頬を染めた。

 悪く言えばチョロいな。

 それだけ甘い言葉に抵抗がないのかも。

 大抵の男は、そこに行くまでに撃沈されていただろうしね。

 それに、ハスィーはどうも本能的に相手の脅威度を測れるようなのだ。

 そして、少しでも敵対すると思うと容赦なく粉砕する。

 トニさんなんか、一言で代官辞めさせられていたしなあ。

 ずっと前の、ギルドでアレナさんに言い寄っていたあの何とか言う次席も反論すら許されずに葬り去られてしまったし。

 あの人には悪いことをした。

 今どうしているだろうか。

「フィーなら、アレスト市ギルドの施設部次長に異動しましたよ」

 ハスィー、そこまで読めるの?

「あの時はマコトさんを侮辱されて、わたくしもやり過ぎてしまいました。

 だから後で推薦しておいたのですが、フィーは喜んでくれました。

 昨年結婚したと聞いています」

 そうですか。

 幸せになって良かった。

 でもアレナさんの諦めはついたのかなあ。

「アレナがわたくし付きだと気づいてからは、ばったりと近寄らなくなったようです。

 そもそもアレナ自身は何も気づいてなかったようで、どうもフィーの一方的な想いだったみたいですね」

 なるほど。

 人にはそれぞれ歴史というか事情があるものですね。

 俺にしてもハスィーにしても、あの頃はこうなるとは全然思ってなかったからなあ。

 何がどうなってこうなったのか、未だによく判らないくらいだ。

「マコトさんが歩んできた道です。

 わたくしはそのあとを追いかけてきただけです。

 こんなに幸せになって良いものか、今でも少し怖くなります。

 マコトさん、ありがとうございました」

 そう言ってハスィーは綺麗に頭を下げた。

 どこからそういう発想が出てくるんだろう。

 俺なんか、周りの人たちに言われるままにサインとかしていただけなんだよ。

 ハスィーと結婚出来たのだって、もうホントに僥倖というか、そんな恐れ多いこと考えたこともなかったのに。

「では、わたくしと結婚しない方が良かったとか?」

「そんなはずないでしょ。

 判ってて言うんじゃない」

 思わず手を伸ばしてハスィーの頭を撫でてしまった。

 その途端、ハスィーが俺の胸に飛び込んで来た。

 可愛いなんてもんじゃないぞ。

 しかし何、この反応。

 あ、俺たちって新婚旅行中だったっけ。

 最近のハーレムアニメじゃあ、あんまりこういうシーンないからなあ。

 いやアニメじゃないけど。

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