表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第一章 俺が親善大使?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

384/1008

22.出発?

 王室ご一家のご希望を手配したり、それを聞きつけた王弟殿下の王女様たちに泣きつかれたミラス殿下から「今回だけだからよろしく」と言われてジェイルくんに丸投げしたりしているうちに季節が変わった。

 いつの間にか、俺がソラージュを立つ日が迫っていた。

 誰かが勝手に決めて、俺には後で知らされたんだけどね。

 別にいいけど。

 旅立ちの手配は全部ヤジマ商会でやってくれているし、旅自体は随行するヒューリアさんとアレナさんが仕切ってくれるらしい。

 俺とハスィーは新婚旅行のつもりでいいと言われた。

 行く先とか経路とか行った国での要人との会見なんかはソラージュ王政府のお役人さんたちがセッティングしてくれるそうだ。

 もちろん王政府からも親善大使が行くからという連絡が行っているはずで。

 ホントに俺がやることって無いんだよ。

 むしろ問題だったのは、俺がいない間のヤジマ商会その他の手配だった。

 といっても大したことはない。

 ヤジマ商会自体は大番頭のジェイルくんに任せてしまっているし、あとはヤジマ学園の理事長職と「ヤジマ経営相談(コンサルティング)」の舎長職くらいなもので。

 そういえばアレスト興業舎の顧問はとっくに首(笑)になっていた。

 俺は知らなかったんだけど、アレスト興業舎の役員会で決定されていたそうだ。

 結構前に。

 その結果として顧問職の給料がなくなっていたはずだけど、俺もう自分の口座にいくら入っているのかすら知らないからね。

 毎月の収入額も判らない。

 桁が多すぎて数えられないんだよ。

 物凄い金額が入金されて、税金とかその他の名目で出金されていることは知っているけど、いちいち確認する気にもなれない。

 俺個人がどう頑張っても使い切れないくらいの金額がプールされているんだもん。

 そもそもソラージュで生活している限り、俺が自分で金を払うことってほとんどないからね。

 何か食ったり買ったりしても、大抵はツケか誰かが払ってしまうし。

 俺個人の買い物でも、ほぼ全部経費で落ちてしまう。

 地球でも、大企業の経営者って似たようなものなんじゃないかな。

 移動はビジネスジェットだったりして。

 今回の旅行中はヤジマ商会が各国のギルドに口座を開設して、そこに送金してくれることになっている。

 青天井だと言われた。

 日本にいた頃、金持ちの知り合いにクレジットカードのブラックバージョンというのを見せて貰ったことがあるけど、あんなものだ。

 使用額の限度なし。

 俺がいくら使っても、その分をヤジマ商会が振り込んでくれるそうだ。

「北方で軍隊を雇ったり、お城でも買う場合以外は大丈夫なだけの金額をストックしておきます。

 もし不足した場合は、なるべく早く連絡して下さい。

 すぐに手配しますから」

 ジェイルくん、冗談は止めて。

 昔読んだ漫画の「俺○空」じゃないんだから!

 というわけで旅行中のお小遣いには困りそうにないことが判って一安心だ。

 話を戻すと、ヤジマ学園の理事長職はそのままで長期出張ということになった。

 ジェイルくんが理事長代理に就任してくれるらしい。

 「ヤジマ経営相談(コンサルティング)」の方もジェイルくんが舎長代理ということで、業務を継続していく。

 俺としては、全部ジェイルくんに譲ってもいいんだけど。

「まあまあ。

 私に代理をやらせて下さい。

 マコトさんの代理ということだけで、気合が入るんですよ」

 ジェイルくんって、変な趣味してるよね。

 そういうことで後顧の憂いを無くした俺は、ついに出発の日を迎えたのだった。

 日本にいた頃は、長期の海外旅行に行く時は荷物を作ること自体が大変だったけど、今はもう誰かが全部やってくれるので、俺は馬車に乗ればいいだけだ。

 着替えなんかも全部用意されているらしい。

 万一何かを忘れていても、現地で買えばいいと言われている。

 俺、いつの間にそんなお大尽になっていたんだろう。

 「80日間世界一周」という凄く面白い映画があるけど、あんなものかな。

 言っとくけどジャッ○ー・チェンの奴じゃなくて、最初の方ね。

 原作も読んだけど、あれって世界一周旅行に出るのにトランクに靴下か何かと札束を入れただけで出発するんだよね。

 必要なら旅先で何でも買えばいいということで。

 確か、旅の途中で象を買ったり貨物船を買ったり女を……いや、あれは盗んだのか。

 まあいい。

 その日の朝、俺はいつものようにハスィーにしがみつかれながら目覚めて、顔を洗った後ジョギングその他の朝練をこなした。

 朝食もいつもの通りで、一瞬全部夢なんじゃないかと思ってしまったけど、部屋に戻ると儀礼用の礼服が用意されていた。

 いつの間にか決まっていたらしいヤジマ家の紋章を胸に付けた、黒に近いような渋い紺色の服だ。

 近衛騎士であることを示す赤い色が混じっているのが泣ける。

 これを着て旅立てということだな。

 ハスィーに用意されていたのも似たような服で、ただこっちはドレススカートだった。

 夫婦であることをお揃いの服で示すらしい。

「その服は、北方諸国での要人とお会いする時にも着用して頂きますので」

 着替え終わって待っているとやってきたヒューリアさんが言った。

 何かしゃれた礼服を着ている。

 おかげでいつもより落ち着いたビジネスウーマンに見える。

 まあ親善使節団の随行員だからね。

 ヒューリアさんに連れられてエントランスに行くと、そこにはカールさんや王政府の役人の人たちが待っていた。

 トニさんとセルミナさんね。

 二人はそれぞれ役所の儀礼服らしい高級そうな服装を着用していた。

 国の正式な使節団員なんだから、様式が決められているんだろう。

 カールさんは地味な礼服だった。

 でもこの人の場合、何を着ているかに関係なく存在感が凄いんだよね。

 伊達に王都ギルドの総評議長にまでなっていない。

「それでは。

 いっていらっしゃいませ」

 ジェイルくんが言って、エントランスに横付けされた馬車を示した。

 簡単だな。

 スピーチとかはいいの?

「したいんですか?」

「したくない」

「そうおっしゃると思いましたので」

 お見通しか。

 まあ、やらなくてもいいのならその方が楽だ。

 ハスィーに手を貸して馬車に乗り込む。

 今気づいたけど、何かでかくない?

 しかも凄い豪華だぞ?

「特注品です。

 長距離移動に耐えうる頑強な構造と、長期間の滞在に必須な快適な居住性を併せ持つ最新型の馬車です。

 その上で、親善大使に相応しい高級感を実現しています」

 どっかの新車の宣伝文句みたいだけど、つまり俺はこの馬車で北方諸国に乗り込むわけか。

 完全に陸路を想定しているな。

「海路を行く場合もあると思いますが、そのときはこの馬車は回送すればいいだけのことです。

 ……乗り心地はいかがですか?」

 ジェイルくんが聞いてくるので、俺は馬車の中を見回してみた。

 広い。

 日本的な感覚で言うと、三畳間くらいはある。

 天井も高いな。

 いや、馬車だからね。

 普通の馬車なら、人間が4人も向かい合って座ればいっぱいになってしまうし、まっすぐ立てない程度の広さ高さしかないはずなのだ。

「いいね」

「内装を組み替えればベッドになりますので、宿泊施設がない場所でも馬車の中でお休み頂けます。

 まあ、原則として宿泊する場合は宿屋(ホテル)の予定ですが」

 さいですか。

 その辺りはもう、全部お任せにしているのでどうでもいいけど。

 それからジェイルくんは新型馬車の機能について色々と説明してくれてから言った。

「それでは。

 随時連絡をとれるようにしますので」

 ジェイルくんが下がり、馬車のドアが閉まると、もう出発だった。

 随分スムーズな発進だ。

 サスペンションとかも工夫されているのかもな。

「いよいよですね」

「そうだね。

 まあ、ゆっくりしよう」

 広い空間に俺とハスィーがゆったり並んで腰掛けているだけだ。

 そういえば、これって俺たちの新婚旅行を兼ねているんだっけ。

 ハスィーが俺にもたれかかってきた。

「新婚旅行が北方諸国漫遊になるとは思いませんでした」

 ご満悦のようだ。

「うん。

 どうなるのか全然判らないけど、気楽に行こうよ」

「はい」

 俺はもちろん、ハスィーもソラージュから出たことがないらしい。

 俺は地球で結構海外旅行しているから、ある意味慣れているけどね。

 でも貴族として旅して外国の要人と会談するなんてことはしたことがないし。

 ていうか、何について話せばいいんだろう?

 ルディン陛下は自由にやれとか言ってくれたけど、まさか本当に自由にやるわけにもいくまい。

 ヒューリアさんかセルミナさんが指示してくれるだろうからいいか。

「きおつけーっっ!

 しゅっぱぁつ!」

 やたらに勢いのある声が響いてきたので、何気なく窓から外を見ると、そこは一面の人だった。

 俺たちの馬車を囲むようにしてギルド警備隊と騎士団が進み、その外側には群衆が。

「ヤジマ子爵閣下、バンザーイ!」

「傾国姫様、お元気で!」

 パレードかよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ