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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第一章 俺が親善大使?

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21.密命?

 王政府からの呼び出しで、俺は「楽園の花」に来ていた。

 この忙しい時に何なのかと思ったけど、逆らえないよね。

 まあ忙しいと言っても俺がやることって特にないし、むしろ俺がソラージュを離れた後の体制作りでごった返しているヤジマ商会では身の置き所がなかったからな。

 ハマオルさんを筆頭とする護衛隊を引き連れて、一般外出用の馬車で出かけてきたというわけだ。

 今回はジェイルくんやハスィーなどのお供はいない。

 俺直々に何か命令があるらしいのだ。

 何せ、呼び出したのが王陛下の側近であるトゥーレ侯爵閣下なんだよ!

 トゥーレ侯爵に会ったのは俺の子爵昇爵の時だけだが、あの謹厳実直な顔と態度でボケをかます高度なお笑いの達人を忘れるはずがない。

 いや、それは言い過ぎか。

 あまりにも高度過ぎて、お笑いかどうか判らなかったくらいだもんね。

 でも、王陛下ともう一人の側近のロム伯爵閣下がお笑いだったんだし、あのコンビと一緒にやっている人がシリアスなはずがないだろう。

 どう考えてもトリオで売っているはずだ。

 そう思ってはいたけど、何せ今回は王政府からの正式な呼び出しなのだ。

 しかも、場所が役所や城じゃなくていきなり民間のレストランである。

 びびっていたんだけどね。

 「楽園の花」の駐馬車場には、トゥーレ侯爵閣下の紋章(だと思う)がでかでかと書かれた豪華な馬車が待機していた。

 護衛の馬車もある。

 俺の馬車は、どう見ても格落ちだ。

 侯爵ともなると、馬車も段違いだな。

 急いで店に入ると、トゥーレ侯爵閣下は既にお待ちになっているということで、特別室に案内された。

 この部屋は、もはやヤジマ商会の専用貴賓室みたいになっている。

 ラヤ僧正様から「我々はヤジマ商会の仮教堂を使うので、どうぞご自由に」と言われて提供されたんだよ。

 以来、ヤジマ商会にとって大切なお客様は、ここでビジネスランチを振る舞う事になった。

 さすがにロハというわけにはいかないため、その分の経費は払うことにしたらしい。

 教団って、ひょっとしたら物凄く商売上手なんじゃないの?

 まあいいけど。

 トゥーレ侯爵閣下の護衛らしい人が待機しているのを横目で見ながら、ハマオルさんにもそこで待つように言って、俺は特別室に入った。

 トゥーレ侯爵閣下はくつろいでいた。

 既にお茶が出ている。

 それはそうか。

「遅くなりました。

 トゥーレ侯爵閣下」

「何、かまわんよ。

 しかしまあ、少し腹が減ったな」

 そうかよ。

 やっぱあんたもロム伯爵の同類なんですね。

「では食事にしましょう。

 特別メニューでよろしいでしょうか?

 ロム伯爵閣下にはご好評でしたが」

「それで」

 やはり。

 俺は鈴を鳴らしてウェイターさんを呼び、例の特別メニューを2人前注文した。

 まあ、俺も食いたかったしね。

 ていうか、多分そうなるだろうなと思って腹を空かせてきた。

 この食事代はビジネスランチということで、経費につけてやる。

 注文ついでに俺の護衛に加えてトゥーレ侯爵閣下の護衛隊にもテイクアウトの弁当を人数分振る舞うように命じると、トゥーレ侯爵が笑った。

「これはありがたい。

 わしの手元が不如意で、部下たちにはいつも苦労をかけているものでな」

 ホント、相方と同じことを言うなあ。

 どっちがボケなんだろう。

 両方ともかもしれないけど。

 それから飯が来るまで、俺たちは無駄話をして過ごした。

 そこはトゥーレ侯爵閣下も長年政治の世界で生き抜いてきた人らしく、隙を見せない。

 俺の方は魔素翻訳で丸見えだろうけど、どっちにしても俺には隠すことなんかないからね。

 そもそもこの呼び出しにしたって、何を言われるのか見当もつかないし。

 食事が届くと、お互いに「それでは」とか言ってしばらくは没頭した。

 いや、マジで美味いんだよ!

 料理長以下コックさんたち、いい仕事するなあ。

 教団お抱えのレストランらしいけど、ヤジマ商会も出資できないものか。

 いや、こんなに高い飯はヤジマ商会には似合わないな。

 うちは庶民御用達の会舎ですから。

 そういえば、前回いい仕事をしてくれた料理長以下の人たちに何かしたいと思って呼んだら、それぞれ希望を言ってくれたのでジェイルくんに丸投げしたんだった。

 ヤジマ芸能の公演を最前列で見たいとか、「ニャルーの(シャトー)」で人気猫を撫でたいとか色々あったけど、皆さんご満足頂けたという報告は受けたっけ。

 その時同席していたロム伯爵も何かせがんできたから、面倒くさくなってオーケーしたんだよなあ。

 あれ、どうなったっけ。

 トゥーレ侯爵閣下が不意に言った。

「ロムが、ヤジマ子爵にお礼を言っておいてくれと伝言してきた。

 ヤジマ芸能の公演はとても良かったそうだ」

「……そうですか。

 それは良かったです」

 ロム伯爵、ヤジマ芸能に行ったのか。

「何でも前々から見てみたかったらしいが、伯爵の身でそんな俗な演芸を嗜むのはいかがと言われるのを恐れて踏み切れなかったと。

 だが、今回はヤジマ子爵が是非にというもので、仕方なく」

 そうじゃねえだろう!

 でも、世間的にはそういうことになっているんだろうな。

 トゥーレ侯爵閣下は食べ終わった皿が下げられた席で、優雅に食後のお茶を楽しみながら続けた。

「その話を王陛下に申し上げたところ、陛下はご家族での晩餐の席で話してしまわれたそうでな」

「はあ」

 嫌な予感がする。

 あれだ。

 定番の展開だ。

「王女様方が、何それずるい、と」

 やっぱり!

「本来は王家の方々に関係があることではないからな。

 王陛下もはしたない、と(とが)められたそうだ」

 それは良かった。

 ていうか助かった。

 ルディン陛下にも常識というものがあったんだな。

「そんなに何もかも望んではいけない、今回は一人ひとつずつにしておきなさいと」

 訂正。

 やっぱ駄目だ、あの人。

「というわけで、王陛下からご希望のリストを預かってきている。

 恐れ多くも、王陛下自らが皆様からご希望を聞いてまとめて下さったそうだ」

 トゥーレ侯爵閣下は懐から紙を取り出した。

 凄く豪華そうな紙だ。

 例えば王室で使用されるような。

 ひょっとして、今回の呼び出しってそれですか?

「そんなことはないぞ。

 これはまあ、ラミット勲章を持つ臣下に対するちょっとしたご依頼だ。

 本来の使命は別だよ」

 少しほっとしました。

 ていうか、本当に何か命令があるんですね?

 むしろない方が良かった気もするけど。

 俺は手渡された紙を開いてみた。

 レネ王女様は「ヤジマ食堂(レストラン)」でのお忍びの食事か。

 結婚式のクイホーダイがよほど気に入ったらしいな。

 リシカ王女様は「猫撫で」ね。

 ミラス王太子殿下の話を聞いたのかもしれない。

 で、王陛下と王妃殿下は揃ってヤジマ芸能?

「ロムの奴が熱狂して話すので、王陛下も興味を持たれたらしい。

 (ロム)は特にシリーンチームとやらの誰かにハマッたらしく、以来暇を見てちょくちょく通っているそうだぞ」

 あー。

 ロム伯爵の好みってああいうのか。

 シリーンさんのチームは清楚可憐系だもんね。

「王陛下は芸能にご興味が?」

「陛下というよりは妃殿下だな。

 ああ見えて、妃殿下は武芸というか身体を動かすのが得意で、ロムの話で出てきたイレイス一座に興味を持たれたらしい。

 王陛下はまあ、初めて経験することなら何でも楽しまれる方なので」

 さいですか。

 別にいいですよ。

 で、俺はこの手配をすればいいんですね?

「そうだ。

 ヤジマ商会のジェイルといったか?

 あの近衛騎士に仕切らせるようにとの仰せだ。

 マコト殿の結婚式の進行が見事であったことに加えて、ユマ・ララネル公爵令嬢から推薦されたのでな」

「承知いたしました」

 何だ、ジェイルくんに丸投げでいいのか。

 だったら俺はかまいませんよ。

 何でも言って下さい。

 よく考えたらジェイルくんも王陛下からラミット勲章貰っているんだし、この際存分にサービスすればいい。

 ひょっとしたら、昇爵するかもよ?

「ということで、良いか。

 本題に入る」

 トゥーレ侯爵閣下が姿勢を正した。

 やっと本題か。

 俺も背筋を伸ばす。

「密命ゆえ、口頭で命ずる」

「は」

「王陛下のお言葉をそのまま伝える。

 『今回の北方諸国親善訪問について、ヤジママコト子爵に命ずる。

 好きなようにせよ』」

 え?

「以上だ」

「……申し訳ありません。

 それだけですか?」

「そうだ。

 ソラージュのことなど考えず、マコト殿がやりたいようにやってよし、ということだ。

 結果を気にすることはない。

 貴君の行動の責任は、すべてルディン陛下がとられる」

 パネェ。

 俺が呆然としていると、トゥーレ侯爵が姿勢を崩して言った。

「ところでさきほどのリストには載ってないが、私も陛下ご夫妻の護衛を兼ねてヤジマ芸能を希望するが、良いな?」

 別の意味でパネェよ、あんた!

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