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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三章 俺は冒険者チームのインターン?

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7.従業員?

 装備を受け取ったり(慣れてくると自前でもっといいものを用意するらしい)、細々したものを買い集めたりで、その日は終わった。

 ちなみに、金はジェイルくんが用意してくれた。貸しだそうだ。まあ、マルトさんから出ているんだろうけど。

 早めにマルト商会の寮に帰り、さっそく支給された仕事着に着替えてみる。

 ちょっとは丈夫かな、と思える服だけど、マルト商会で用意してくれた仕事着とほとんど変わらない、ただの作業服だった。

 防御力とか俊敏性とかはまったく付与されてなさそうだ。

 魔力もない。

 冒険者って、ホント警備員なんだなあ。いやもっとひどいかも。

 警棒のたぐいすらないのだ。

 その代わりに、ナップザックのようなものに入った七つ道具? がついてくる。これは支給品で、冒険者の基本装備だと言われた。

 手袋とか小手とか、あるいはロープや大小の丈夫な袋とか。何かこう、やらされる仕事を暗示しているような。

 やっぱり街の何でも屋なんじゃないかなあ。例えば軒先の蜂の巣除去とか。

 なぜこれが個人の基本装備なのかというと、もっと大きなかさばる道具はまとめて馬車に積んでいって、必要な時に支給するからだそうである。

 そういう装備は汎用なんだろうな。

 まあ、何でも屋さんが大道具をバンとかに積んで行くようなものだ。冒険者の場合は、一緒に行動する人数が多いので、細々した個人装備は自前で持つことになっているのだろう。

 ちなみに、武器のたぐいはまったくない。

 剣や弓矢とまではいかないが、せめてナイフとかくらいあってもいいのに。だって、小手みたいなものが標準装備なんだぜ!

 何と戦う予定なんだろうか。

 武器も、まとめて荷馬車に積んであるんだろうけど。

 専用武器がないということは、少なくとも『栄冠の空』所属の冒険者が戦闘のプロじゃないことを示していると思う。

 日本では、警察ですらピストル持っているのになあ。その程度の武器なしで、どうやって盗賊と戦うのだろう。

 いや、戦わないのか。

 まあ、俺なんか弓矢や剣を渡されても、どうしようもないけどね。

 もちろん魔法もない。

 俺の常識? における冒険者は、こっちの世界では存在しないわけだった。つまり、ひょっとしたら、そんなに危険な仕事というわけでもないのかも。

 面接の時、あれは絶対に圧迫面接だったと思うんだけど、研修しないと死ぬとか言われたんだが、あれは脅しだったのかなあ。

 そもそも、研修の話なんか全然出てないし。

 というような事をグチグチ考えていたら眠くなったので、水浴びて寝た。

 起きたら朝だった。

 初出勤は昨日だったけど、今日は初仕事だ。

 多分、全然仕事にはならないで、見ているだけだと思う。

 道路工事のバイトがこんなかんじだったけど、あの時はぼやっと突っ立っていたら、おっさんから何か運べとかグズグズしないで穴掘れとか、何かしら指示があったっけ。

 それに従っていればいいんだから、ある意味楽だった。別に研修もなかったし(笑)。

 いや待て、ひょっとしたらOJTか? OJTは、俺も入社してからそう言われてやらされたんだけど、つまり「習うより慣れろ」という奴だと思う。

 On the Job Trainingの略で、つまり仕事しながらそれが研修になるというスグレモノだ。

 もちろん、何も判ってない奴に一人前の仕事が出来るはずがないので、指導にあたる人はドシロウトが何かやらかさないように、常に気を張って監視したり訂正したり、暴走しかけたら阻止したりする必要がある。

 まあ、まともにやろうとすれば。

 でも、そんな力量がある人って大抵もっと儲かる部門に回されてしまって、OJTの担当になる人は大抵やる気・技能・根気のうち一つ以上が欠けているのばっかなんだよね。

 それに、OJTって指導役の人がいくら頑張っても、本人のやる気・能力・根気などで効果が全然違ってくるからなあ。

 その結果が考課に反映されるとしたら、指導役なんかやってられないよね。だって、プラスになるかマイナスになるかは受け持った新人次第なんだから。

 俺はまだぺーぺーだからOJT指導担当になったことがないけど(そもそも俺より新人っていなかった)、来年あたりは誰か受け持たされそうだったんだよね。

 ちなみに、OJTの指導役って上記の理由でやはり、なるべく階級が低くて使えない奴に回ってくることが多いんだよ。

 会社も、稼げる奴はなるべく現場に出して稼いで貰いたいわけで、俺はどうかなあ。駄目とまでは言わないけど、出来るというほどでもなかったから、微妙なところだっただろうな。

 過去形だけど(泣)。

 とまあ、現実逃避はそれくらいにして、今の俺は冒険者インターンでいきなり現場に投入されようとしたいるわけだが、これぞまさしくOJTと言えるだろう。

 ホトウさんも、見学していろとか言っていたしな。社交辞令でなければいいけど。

 どっちみち、もう逃げられないんだから、やるしかないか。今までもそうやってきて、何とかなってきたんだし。

 いつものように社員食堂(違)で飯を食ってから、一人で『栄冠の空』の拠点に向かう。

 最近はもう慣れてしまって、ソラルちゃんやジェイルくんがいなくても堂々と動けるようになった。

 マルト商会の人たちからも、俺のことはそういう奴なんだ、と認識されたらしく、特にトラブルは発生していない。

 働きもせずにただ飯食らっている奴がいたら、血の気が多い人なんかはちょっかいかけてきそうだけど、どうもソラルちゃん、ジェイルくんといったマルト商会の結構上の方の人とつるんでいるために、一目置かれているらしい。

 というか、ひょっとしたら俺に構うなという命令が出ているのかもしれないな。

 そんな得体の知れない奴がいたら、何物なのか聞いてみたくなりそうなものだ。

 でも、誰も何も言ってこない。ついでに、避けられているとまでは言わないけど、そばに寄ってくることもない。

 だからいつもボッチ飯なんだけど、それはいいんだ。日本でもそうだったし(泣)。

 まあいい。

 そんなことは忘れて、今日から仕事だ。

 不思議なもので、仕事に向かうのだと思うとなんか心が弾んで……はこないが、とりあえず軽くなっているような気がする。

 ニートって、結構辛いのだ。

 さらに俺の場合、マルトさんのご厚意に甘えているわけで、足下がスカスカなのが効いている。早く自分で稼がないと、という焦りが大きい。

 まあ、インターンだから稼げないんだけどね。

 まして、俺は冒険者になる気なんかないし。

 でも今日から働けるのだと思うと、やっぱり気が楽だ。別の心配はあるけど。

 体感で20分ほどかけて、『栄冠の空』につくと、受付で挨拶する。

 今日は、キディちゃんが受付にいて「おはようございます」と返してくれた。

 ネコミミ髪は今日も健在である。

 毎朝セットしているのかなあ。

 代表もネコミミだそうだけど、あまり見たくないな。

「あ、ヤジママコトさん。ホトウさんからの伝言で、裏の練習場で待っているそうです。本日の仕事の打ち合わせをするということで」

「わかりました」

 俺は元気よく答えて裏庭に回った。

 ホトウさんと、数人が立っていた。

 荷馬車も一台ある。

「マコトくん、こっち」

 ホトウさんが手を挙げて呼んでくれた。

 周りの人たちが一斉にこっちを見る。

 うわあ。

 とりあえずぺこりと頭を下げて、小走りで駆け寄った。新入りは謙虚でなくちゃね。

「こっちが今日から参加するマコトだ。マコト、僕のパーティの仲間だよ。自己紹介して」

 ホトウさんが笑顔で言う。

 口調は爽やかだけど、相変わらず怖い。

 目がスナイパーなんだもん。

「ケイルだ」

 年配の人だ。ガタイが良くて、顔もゴツい。ホトウさんが戦闘機ならこの人は戦車だな。

 褐色の肌にボサボサの黒髪、目も黒だ。日本にもよくいるおっちゃんに見える。こんなに凄いのは珍しいけど。

 俺を鷹揚に見ているが、絶対お荷物が来た、としか思ってないな。

「セス」

 女性だ。

 顔はまあまあだけど、胸と腰が凄い。

 体形はがっちりしていて、姉御というイメージである。年上の魅力?

 冒険者やるより水商売やったら儲かりそうだけど、多分性格的に向いていないんだろう。ホトウさんほどじゃないけど、鋭い目つきであまり酒の席で同席したくないタイプだな。

 あ、実は俺は酒はほとんど飲めない。すぐに酔っぱらって頭痛がしてくるから。

「マイキーです。よろしく」

 こちらも女性、いや女の子だった。

 ラノベかよ。

 控えめだけど胸があるし、体つきもしなやかそうだ。でも鍛えているのが判るんだよね。高校の時の、全国大会に行った女子陸上部の同級生がこんなかんじだったな。

 でも残念ながら、さわやかスポーツ少女という印象じゃない。笑顔だけど目が笑ってないんだよ。表と裏で切り替えて動きそうで、こっちもあまり深く付き合いたくないなあ。

 まあ、みんな冒険者ということで、一筋縄ではいかないのは当たり前か。

「どうも、マコトです」

 それだけ言って一礼する。

 みんなああ、とかおう、とかよろしく、とか適当に返してくれたが、ホトウさんがバンと手を叩くと静かになった。

「よし、もうちょっと親しくなりたいところだけど、現場に行くまでに時間はあるから、途中で話してね。説明は歩きながらする。では出発」

 簡単なものだった。

 ホトウさんに言われて俺もナップザックを馬車に積んで、すぐに歩き出す。

 そうだよ。

 俺も歩きなのだ。というよりは、馬車の御者をやっているマイキーさん以外は全員徒歩だ。

 その馬車はあまり大きいとは言えず、しかもかなり大量の荷物が積んである。俺たちも乗れないことはないけど、そうしたら馬がバテるので駄目らしい。

 あ、歩き出す前に、マイキーさんが馬に話しかけて、馬が答えるのを見てしまった。

 俺に向けられた言葉じゃなかったので意味は判らなかったけど、明らかに会話が成立していたよ。

 つまり、馬も『栄冠の空』の従業員というわけで、これは大変な世界に来てしまったもんだ。

 今のところ、俺の身分はインターンで員数外だから、馬の方が立場が上ということになる。何てったって、正規の社員だからな。

 給料はどれくらいだろう?

「マコト、ちょっと来てくれない」

 マイキーさんに呼ばれて駆け寄ると、「ボルノが挨拶したいって」と言われた。

 ボルノさん?

 すると馬が首を回して嘶いた。

「ヨロシク」

「あ、はい、マコトです。よろしくお願いします」

 挨拶しちゃったよ。

 格上の社員である馬に。

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