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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第一章 俺が親善大使?

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8.随行者?

 色々思いがけない脱線はあったものの、正式に親善大使とやらに任命されたので、もう仕方がない。

 やるしかないか。

 俺も知らなかったんだけど、こっちの世界というかソラージュ王国の場合、こういった自由度が高い仕事のやり方については担当者に任されているらしいんだよね。

 つまり王政府は俺を親善大使に任命するだけで、俺がどうやってその職務を遂行するのかについてはこっちの自由なのだ。

 もちろん最低限訪問すべき国とか挨拶しなければならない人とかのリストは来るけど、それをどんな風にやるのかについては自由に決められるらしい。

 ある意味丸投げ。

 これは、そもそも王政府にはそれを計画したり手配したりする能力がないからだとか。

 「小さな政府」なのだ。

 だから今回の場合は俺の方でこういうルートで行きます、と計画案を出して王政府に承認して貰う形になるらしい。

 その計画を立てるということで、早速ユマさんやラナエ嬢たちに集まって貰った。

 夕食会じゃないよ?

 何か食いながら検討できるような案件ではないのだ。

 場所は俺の書斎。

 ハスィーとジェイルくん、ヒューリアさんのヤジマ商会常駐組はもちろん、フルーさんとカールさんにも同席して貰っている。

 それぞれ貴族社会とギルドの生き字引だからね。

 ユマさんは王政府の幹部職員だし。

 ラナエ嬢は「完璧(ザ・パーフェクト)」だけあって大規模な事業計画にも詳しいので、立案担当として来て貰った。

 総力戦だ。

 ヤジマ商会の興亡、この一戦にあり。

「問題は費用が必要最低限しか出ないということです」

 ユマさんが言った。

「というと?」

「マコトさんが任命されたのは親善大使ですから上級臨時職公務員二級職です。

 これは大臣の次くらいに高い役職ですが、随員や護衛の数などは予め決められていて、旅費や経費はその分しか支給されません」

 何と。

 じゃあ、それをはみ出した分は?

「自費ですね。

 マコトさんの場合は、諸般の事情で護衛の数なども通常より増やす必要がありますから、完全に持ち出しです」

 そうか。

 そういうことか。

 ユマさんのお父上であるララネル公爵殿下が帝国の全権大使となって赴任したのは、そうできるだけの余裕があったからだな。

 もちろん王政府から最低限の費用は出ただろうけど、それだけでは全然足りなかったはずだ。

 領地を自前で経営して、しかもうまくいっている人でなければ耐えられるもんじゃないんだろうね。

 ララネル公爵殿下にしても、そんな金ばっかかかるような仕事はやりたくなかっただろうけど、そこは『高貴(ノブレス)なる義務(オブリージェ)』ということで、引き受けざるを得なかったわけか。

 大変だな。

 ユマさんが悪戯っぽく笑いながら続けた。

「マコトさんの場合は事業に成功して余裕があるはずだからいいだろう、と判断されたんでしょうね。

 普通、このような大役は失礼ですが子爵程度の下級貴族には回ってこないものです。

 増して法衣貴族には。

 その分、うまく成し遂げれば昇爵もあり得ますよ」

 いらねェよ!

 ていうか、やっぱ俺の金を当てにしていたのか。

 確かに普通の法衣貴族にこんなことをやらせようとしても、無理があるもんな。

 ロッドさんのお父上は男爵だそうだけど、役所で働いているサラリーマンだから、大使なんかに任命されたら破滅するだけだ。

 そういう職務は、俺みたいに政府の仕事はしてないけど金がある奴に回ってくるんだろう。

 その金って、借金なんだけど(泣)。

「マコトさんの場合は特殊で、いわば先方から指名されたわけです。

 こういう場合は、本来なら王政府から手厚いサポートを受けられます。

 それをあえて申し出ないのは、マコトさんの実績を強調するためでしょう。

 ヤジマ子爵は自力で成果を上げたと。

 もっとも『お金がない』というのが一番の理由でしょうが」

 ユマさんにかかれば、王政府の目論見なんか筒抜けか。

「貴族院でも議論になっておるよ」

 フルーさんがソファーに背を預けながら言った。

 この中ではカールさんと並んで年長者だけど、印象はせいぜい中年だ。

 しかも恐ろしいほどイケメン。

 エルフって卑怯だよな。

「どのような意見が出ていますか?」

「今やソラージュの財産とも言うべきヤジマ子爵を安易に国外に出すなという声や、外国に行くくらいならうちの領地に来て欲しい、という意見が大多数じゃな。

 親善大使の任命自体は問題になっておらん」

 そうなのですか。

 もっとやっかまれるかと思っていたのですが。

「貴族にとっては、こういった公職に任命されることは悪夢だからの。

 ひとつ間違えたら財産を蕩尽し尽くすことになる。

 今更名誉だとか昇爵など、誰も欲しがっておらん。

 それよりは安定ということじゃな」

 日本の若者みたいだな。

 でも、こっちでは公務員になる事が破滅なのだ。

 いや違うか。

 臨時職の公務員に任命されることが怖いのだ。

 正規職員は別だ。

「カル様からは、何かございますか?」

 ラナエ嬢が言った。

 そう、ギルドはあらゆる公的な活動に関係しているからね。

 大使なんて仕事は、ギルドのサポートなしではどうしようもない。

「そういった役職に対するサポート部門はあるのじゃが」

 カルさんが難しい顔になった。

「王政府の役所ではないからの。

 あくまでギルドの職務の延長線上のものだ。

 従って、サポートと言ってもせいぜい情報提供に留まる上に、民間主体で他国政府の内情などには疎い。

 そこらあたりは、王政府の外務省に協力して貰った方が早いじゃろう」

 うーん、やっぱカールさんは凄いね。

 そういう情報って、普通ならこんなにすぐには出てこないもんな。

 少なくともヤジマ商会は、そういう方面ではチート能力があるということだ。

「もっとも、ソラージュのギルドは他国のそれとかなり密接に情報交換をしておるからな。

 親善大使という、言わば政府の外で活動するのなら、民間情報も十分役に立つじゃろう。

 わしから言っておくから、ギルド本部を訪ねるがいい。

 全面的に協力してくれるはずだ」

 ありがとうございます。

 いやー、こんなに楽でいいんだろうか。

「マコトさんの力です。

 それだけの業績を築き、協力者を集めてきたということですよ」

 ユマさん、そういうことは言わないで。

 でも誰も反論しない。

 意見統一が成されているらしい。

 神輿(みこし)を褒め称えるのは、ある意味常套手段だからな。

「マコトさんはお飾りではありません。

 命令すれば、みんな従います」

 いやその命令自体が誰かの命令という気がするけど。

「訪問国にかかわらず、ヤジマ親善大使の使節団の内容や規模はほぼ変わらないでしょう。

 王政府から訪問先リスト等が届くまでに、こちらである程度の計画案を作っておきます。

 皆さんもご意見や提案があれば提出して下さい」

 ジェイルくんがてきぱきとまとめた。

 こういう席ではリーダーになるんだよね。

 マジで貴族に相応しい人だ。

「ここで、ラフ案でもいいのでマコトさんに同行するメンバーを上げてみませんか?

 おそらく職務上、ある程度自動的に決まってくると思いますが」

 ヒューリアさんが言って、付け加えた。

「私は同行させて頂きます。

 マコトさんの社交秘書ですので」

 先手を打ってきたのか。

 でもまあ、そうだろうな。

 ソラージュ国外、特に北方諸国に行ったことがあるヒューリアさんは、この仕事には欠かせない。

「わたくしは残留組ですわね。

 セルリユ興業舎から手が離せません」

 ラナエ嬢が残念そうに言った。

「私は王都の制圧に時間がかかりそうですので。

 でも、片付いたら後を追うかも」

 ユマさん、物騒な言い方は止めて!

「ヤジマ商会はマコトさんが戻るまで守って見せます」

 ジェイルくん、別にそういうのはいいから。

 好きにしていいよ。

 ハスィーは俺を見て微笑むだけで何も言わない。

 まあ、奥方を置いていけるわけないよね。

 フルーさんはそもそも対象外だ。

「わしは同行させて貰う」

 カールさん、何をおっしゃるので?

「わしは役に立つぞ?

 現役時代に、他国のギルド幹部たちと結構付き合いがあったからの。

 それに、わしが行くということはナレムもそばにおるということじゃ」

 帝国騎士(ライヒスリッター)がついてきてくれるのは、それは心強いですが。

 でもいいのですか?

「何、わしもそろそろ物見遊山の旅をしたくなっての。

 ギルドにいた頃は結構旅行したものだが、すべて職務上であって気が抜けんかった。

 ここらでひとつ、気楽に諸国漫遊でもしてみようかと」

 あの。

 別に観光旅行に行くわけじゃないんですけど?

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