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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第一章 俺が親善大使?

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5.極秘公演?

 お役人さんに聞いてみた所、別に俺一人じゃないと駄目ということはないようだった。

 むしろ、さっき謁見した全員でお伺いした方が良いでしょうということで。

 それでは仕方がない。

 俺たちはお付きの人にまだ待っているように伝言を頼んで、三人で引き返した。

 お役人さんは、さっきとは違ったルートで進んでいく。

 謁見の間ではないらしい。

 あの時は王陛下とお付きの方以外にも、色々な人がいたからな。

 今度は私的(プライベート)な謁見ということか。

 廊下を延々と歩いて、階段をいくつも昇った後、お役人さんは重厚な扉を指して言った。

「こちらでございます」

 それでは、と去って行くお役人さん。

 後は自分でやれと?

 ハスィーとジェイルくんが、俺を盾にするように控えている。

 しょうがない。

 俺はドアをノックした。

「誰か?」

「ヤジマ子爵、および2名です」

 ここは正確に言わないと駄目らしい。

 ラナエ嬢に仕込まれた。

 俺も貴族に染まってきているなあ。

「入れ」

 命令ですよ。

 当たり前だけど。

「失礼します」

 ドアを開けると、そこは執務室だった。

 ヤジマ学園の理事長室に似ている。

 こっちの方が遙かに豪華だけど。

 つまりソファーがあって、執務用の机が奥の方に見えた。

 そして、ルディン陛下はやはりソファーに座っていた。

 身体を投げ出して足を組み、両手をソファーの背に投げ出している。

 徹底的にプライベートだ。

 俺はやっぱりと思っただけだったが、ハスィーとジェイルくんが息を呑む気配が伝わってきた。

 まあ、インパクトあるよね。

 自分の国のナンバーワンがだらけている姿なんか、普通じゃまず見られないし。

「まあ、座れ」

 言われて初めてソファーにもう一人いることに気がついた。

 子爵にされた時に王陛下についていた側近の人で、若い方のイケメンだ。

 失敗(しま)った。

 名前忘れた。

 王陛下の側近なのに!

「ロム・メサですよ。

 ヤジマ子爵」

 愛想良く言ってくれたが、顔から火が出そうだった。

 知られている?

「マコトがちょっとやそっとでは男の名前を覚えないのは有名だぞ?」

 ルディン陛下が古傷を(えぐ)ってくる。

 俺の後ろで、ハスィーとジェイルくんが崩れ落ちそうになっているのが気配で判った。

「申し訳ありません」

「一度しか会ってませんし、あの時は陛下のインパクトが強すぎて、他のことはすっ飛んでしまったでしょうから。

 でも、今度は覚えて下さいね。

 あ、ちなみに私の相方はトゥーレ・ロクラスといって侯爵です」

 相方かよ!

 ぴったりだけど。

 でもまあ、許して貰えたようだ。

「ロム・メサ伯爵閣下。

 トゥーレ・ロクラス侯爵閣下。

 覚えました」

 忘れたら死ぬぞ。

 貴族として。

「俺の名は忘れてないだろうな」

 ルディン陛下が面白そうに聞いてくる。

 忘れるわけないだろ!

 さすがにカッと来て言ってしまった。

「ルディン・ソラージュ国王陛下。

 覚えました」

「それでいい。

 あと、俺はトレナ伯爵でもあるから、忘れないように」

 ミラス殿下のムト子爵のようなものか。

「了解しました」

 ルディン陛下は満足そうに頷いて、更にソファーの上で伸びた。

 ここまで無警戒な君主って珍しいのでは。

 俺が陛下の真向かいに座ってもハスィーとジェイルくんが立ったままだったので、慌てて手を引っ張って座らせる。

 「座れ」ってのは命令なんだよ!

 それにも気づかないほど、二人とも唖然としているようだ。

 まあ、絶対君主がアレであるといきなり知らされたらそうなるか。

 ため息をついて見回すと、陛下とロム伯爵以外にも壁際に目立たないように数人が立っているのが判った。

 護衛がいるのは当然か。

 あれ?

 ロムさんだけ?

「側近だからこそ、いつも一緒にいるとは限らん。

 トゥーレはラトーム城の執務室だ」

「今頃は陛下が放り出した決裁書類に埋もれているはずです。

 今回は私がうまく逃げましたので」

 やっぱお笑いだよ!

 ソラージュ国民が知ったら何と言うか。

 国家機密だな。

 ばらしたら死刑だ。

「何だ何だ。

 ノリが悪いな。

 せっかく貴重な時間を割いて公演してやっているのに、観客が沈んだままだとこっちも気分が悪いぞ」

「それは役者が下手なのですから、仕方がありませんよ。

 やはり、トゥーレのあのボケがないと」

 マジでお笑いだったのか!

「冗談だ」

 冗談になってませんよ!

 その頃になってやっと、ハスィーとジェイルくんが再起動した。

「し、失礼いたしました!」

「申し訳ございません!」

「いや……真面目にとってくれるな。

 マコトのノリが良すぎるもので、我々もつい調子に乗ってしまって悪かった」

「本当に、ヤジマ子爵は得がたい観客です。

 きちんとノリツッコミもしてくれましたし」

 してないよ、そんなの!

 改めてハスィーとジェイルくんに名乗らせる。

 こういう時は、一番位が高い人が随員を紹介するんだよね。

 これもラナエ嬢に仕込まれた。

 貴族は大変なんだよ!

「ハスィー・アレスト嬢。

 ミラスとの噂はすまなかった。

 下手につつくと事態が更に悪化しそうで、手が出せなかった」

 ルディン陛下が下手に出ている。

 私的(プライベート)だからな。

 公式には、王陛下は絶対に謝ったりしない。

 絶対君主は人に頭を下げてはならないし、自分の過ちを認めるわけにもいかないそうだ。

 それ、結構辛いよね。

 だから、これはハスィーへの謝罪でもあるけど、むしろルディン陛下の心の安寧のために必要な事なんだろうな。

「結果としてわたくしはマコトさん……ヤジマ子爵に遭えました。

 今は感謝しております」

 ハスィーも堂々と対応している。

 もともと「傾国姫」だからな。

 一国の君主を相手にしても、臆するような人じゃない。

「そう言って貰えると助かる」

 ルディン陛下は、次にジェイルくんを見た。

「ジェイル・クルト近衛騎士。

 マコトのサポートご苦労である」

「ありがたきお言葉。

 ですが、私自身はまだ未熟の身で、日々ヤジマ子爵閣下に学ばせて頂いているばかりです。

 近衛騎士にして頂き、ミラス殿下には感謝しております。

 これで今後もヤジマ子爵閣下のお役に立てる可能性が出てきました」

 ジェイルくんも立派なものだ。

 さっきの動揺がなかったかのように対応している。

 やっぱ凄いよ、ジェイルくん。

「そうか。

 だが、マコトがソラージュを離れるとすれば、現在の状況では代行が難しくなることもあろう。

 ロム」

「お心のままに」

 何?

 ロム伯爵閣下が合図すると、壁際に立っていた人が箱を捧げ持って歩いてきた。

 差し出された箱をロム伯爵が受け取って開き、ルディン陛下に差し出す。

 ルディン陛下が立ち上がり、わざわざテーブルを回ってジェイルくんの前に立った。

 ジェイルくんが慌てて跪く。

「ジェイル・クルト近衛騎士。

 汝に我がラミット勲章を授ける。

 何時いかなる状況でも良い。

 困ったことがあれば、このルディンを頼れ」

 唖然としているジェイルくんの首に、見覚えがある勲章がかかった。

 そうか。

 これが目的か。

 ルディン陛下がまたソファーに戻ると、ジェイルくんは弾かれたように立ち上がった。

「ありがたく存じます!

 誠心誠意、ヤジマ子爵に尽くさせて頂きます!」

 違うでしょう!

 俺は関係ないんじゃ?

 だがルディン陛下は満足そうに頷いているし、ロム伯爵閣下に至っては小さく拍手していた。

 このお笑いコンビ、判らん!

「さてと。

 これで用は済んだ。

 俺はラトーム城に帰るが、お前はどうする?」

「私は食事でもしてから戻ります」

 側近がそれでいいの?

 するとロム伯爵閣下が立ち上がりながら俺に言ってきた。

「この間約束しましたよね?

 一緒に食事しましょうと。

 奢って貰えます?」

 あんた、ホントに伯爵?

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