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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第一章 俺が親善大使?

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4.任命の儀?

 召喚令状で指定された日に、俺たちはセルリユ城に向かった。

 近衛騎士の承認儀式の時以来だ。

 あの時は馬車二台だったっけ。

 今度は子爵なので、結構大がかりな行列になる。

 世襲貴族が王政府からの正式な招集で公的に訪問するんだからね。

 俺の婚約者たるハスィーと従者役のジェイルくんも同行する。

 俺たちが乗る儀礼用馬車に、俺とジェイルくんの護衛がそれぞれ一台ずつ馬車でついてきている。

 その他にもヤジマ警備の精鋭が馬車数台に分乗して前後を警戒してくれているのだ。

 何せ「戦争」状態なもので。

 これだけ過剰な警戒をしていれば、向こうもうかつに手出しできないはずだ。

 その辺はハマオルさんたちに任せっきりなので、俺はよく知らない。

 もちろん、護衛は謁見の場には入れないけど。

 今度はジェイルくんも貴族だから、例え王陛下との謁見でも同席できるらしい。

 ハスィーも大丈夫だ。

 この辺り、俺にはさっぱりなのでユマさんとラナエ嬢に色々教えて貰った。

 ユマさんの話では、ひょっとしたら王陛下ご自身が出てくるかもしれないそうだ。

 直接命令されると。

 大使級の役職の任命って、それだけ重いんだろうな。

 日本じゃどうだったっけ。

 確か、総理大臣は天皇陛下が任命? する建前になっていたような。

 まあ、日本とソラージュでは社会体制が全然違うから、比較対象にはならないけど。

「やはり、落ち着かれていますね」

 子爵に昇爵した時にヤジマ商会で作った豪華な儀礼用馬車の席で、向かい側に座ったジェイルくんが言った。

「そう?」

「はい。

 王陛下に謁見するかもしれないのに、悠々たるものです。

 やはりマコトさんは、そちらの世界でもかなりのご身分だったのでは?」

「そんなことないって。

 偉い人と会うのに慣れているだけだよ」

 就活の面接に比べたら、こんなの何でもない。

 そもそももう結果がわかっている話だからね。

 俺がよほど無礼なことでもしない限り、この面接(・・)の結果は決まっているのだ。

 何を恐れることがある。

「わたくしは、陛下に直に謁見したことがありません。

 少し心配です」

「そういえば、私も遠目で拝見したことがあるだけでした。

 ちょっと不安になってきました」

 ハスィーもジェイルくんも何言っているのか。

 あんなおちゃらけた王陛下の何が怖いと。

 いや、ルディン陛下の正体を知っているのはこの中では俺だけか。

 でもあれはプライベート空間での話だったからな。

 公式の場であんな態度はとるまい。

 でも大丈夫。

 俺は正体を知っているんだから。

「王陛下は気さくな方だよ。

 それに、まだ陛下にお会いすると決まったわけでもないんだし」

 王政府の役人が出てきて任命状を渡してくれるだけかもしれない。

「そうですね」

「でも、覚悟は決めておきます」

 ヤジマ商会の大番頭と、王都いや国際的にも知られた傾国姫が何を言っているのか。

 君達の方が、多分陛下より恐れられているぞ。

 そんな馬鹿話をしているうちに、セルリユ城が近づいてきた。

 あいかわらずでかい城だな。

 でも堀や石垣もないし、ディズニーなんかのファンタジー的お城にも見える。

 どうみても戦闘用じゃないよね。

 貴族用の入り口から入り、色々な手続きを経て、何とかエントランスにたどりつく。

 今度はジェイルくんが駆け回るようなことはなかった。

 そういうのは全部、もっと下の人がやるのだ。

 ジェイルくん自身にも従者がいるからね。

 誰なのかは知らないけど。

 と思ったら、何か見覚えがある少年が駆け回っていた。

「あれは?」

「トムロですね。

 テムもいるはずです。

 私の従者見習いに任命しました」

 凄いじゃないか!

 御者とか雑用だったあいつらが、更に出世しているのか。

 近衛騎士とはいえ、貴族の従者とは。

「まだ『手の者』扱いですよ。

 さすがに従者を任せるには経験が不足しているので」

「でも、そのうちに昇格させるんだろう?」

「連中次第ですね」

 ジェイルくんも、自分の派閥を着々と築きつつあるようだ。

 そういえばハスィーは? と思ったけど、考えてみたらハスィーにはもうアレナさんやマレさんがいるしね。

 あの二人は、ヤジマ商会の部長待遇だ。

 当然、ハスィーについてくるんだろうな。

「まだ決まっていませんが、どちらかはセルリユに残る予定です。

 わたくしが不在の間でも、色々とやって貰うことがありますから」

 さいですか。

 その辺、俺にはよく判らないからなあ。

 そういえば俺が親善大使とやらになってソラージュを離れても、ジェイルくんは残るんだよね。

 そうしないとヤジマ商会がポシャる。

「そうですね。

 私としても、マコトさんと離れるのは断腸の思いですが、こればかりは仕方がありません。

 マコトさんの留守を守ります」

 そうなのか。

 困ったなあ。

 ジェイルくんがいないと、俺って何すればいいのかわからんぞ。

「そんなことはないでしょう。

 マコトさんなら、私なんかいなくてもやれますよ。

 奥方様もご一緒ですし」

 ジェイルくんが無責任に言うけど、自信がない。

 大体、俺は自分から何かしようなどとは思わないからね。

 安穏としていればそれで満足だし。

 悩んでいたら、用意が出来たので降りるように言われた。

 馬車を出たら、また絨毯が引かれていた。

 楽隊はないようで助かった。

 ハスィーに手を貸して降ろして腕を組み、先導役に従って静々と進む。

 二度目だけど、やっぱり無駄に豪華だ。

 所々に衛兵も立っているし。

 この辺、結構税金が使われているんだろうな。

 ヤジマ商会は高額納税者だから、つい気になってしまう。

 長い廊下を歩き、角を曲がり、豪華な階段を昇ってまた廊下を進み、でかい扉を抜けると、そこが儀礼会場だった。

 近衛騎士の認証の時とは違う場所だ。

 こぢんまりしている、といっても三十畳くらいはある部屋で、両側の壁に正体がよくわからない人たちが並び、中央の玉座にルディン陛下が座っていた。

 やっぱし。

 ジェイルくんの歩調が一瞬乱れ、俺の腕に掴まっているハスィーの手に力が入るけど、そんなに緊張することはないよ?

 何せ、ルディン陛下はアレだし。

 結論から言うと、親善大使任命の儀はあっさりと終わった。

 ルディン陛下も余計なことは言わなかったし、大体進行役の役人らしい人が淡々と進めるだけで、俺が跪いて礼をとった後、立派な盾を貰って終わり。

 それが任命状らしい。

 こっちの世界では、紙じゃなくて板なんだよね。

 頭を下げている内にルディン陛下とお付きの人たちが退席したので、俺たちも淡々と来た道を戻ってエントランスに出た。

 その途端、ジェイルくんが深呼吸した。

「終わりましたね」

「そうだね」

「緊張しました。

 マコトさんはよく平気ですね」

 ジェイルくんが心底感心したように言うので、俺は肩を竦めた。

「陛下のことは、大体判っているからね。

 子爵にされたときに色々あったし」

「そうですか。

 そういえば、マコトさんはルディン陛下からもラミット勲章を頂いているのでしたね」

 ポイと投げて寄越された勲章って、価値があるんだろうか。

「ま、これで話が進められるよね」

「そうですね。

 そちらはお任せ下さい。

 マコトさんにはご負担はかけませんから」

 もちろん、そのつもりだけど。

 それにしても頼もしい。

 ジェイルくんがいる限り、俺は安泰だ。

 その時、誰かが近づいてきた。

 立派な制服を着た、かなり高位のお役人か?

「失礼いたします。

 ヤジマ子爵閣下に、ご伝言がございます」

 書状を差し出す。

 俺が手を出す間もなく、ジェイルくんが受け取った。

 従者になりきっているな。

 君も近衛騎士だろうに。

 ジェイルくんは俺に黙礼して書状を開く。

 目が見開かれ、震える手で俺に書状を渡してきた。

 何?

 簡単な伝言だった。

「『ちょっと来い』(意訳)」

 でも署名が問題だよ!

 ルディン陛下、冗談が過ぎるでしょう。

 いや書状は公式のものだし、お役人さんが辛抱強く待っているから、これは正式な命令なんだろうけど。

「マコトさん」

 横から覗き込んだハスィーが震え声で言うけど、しょうがないよね。

「ちょっと行ってくるから、先に帰っていて」

「とんでもありません!

 わたくしも参ります!」

 ハスィー、別にラスボスとの決戦じゃないんだから(笑)。

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