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サラリーマン戦記 ~スローライフで世界征服~  作者: 笛伊豆
第三部 第一章 俺が親善大使?

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2.結婚?

「私も帝都の宮殿で、各国からの使者に何度もご挨拶させて頂いたのですが」

 フレアちゃんが続けた。

「ほぼ例外なく、ご夫婦でいらっしゃいました。

 私的(プライベート)な集まりでは、子供さんたちを伴っておられることもよくありました。

 特に大使は公的なその国の『顔』ですから、そういった家系的な安定感も重要な要素と思います」

 フレアちゃん、意外といっては悪いけど鋭いね。

 伊達に帝国皇女を張ってないのか。

 シルさんの妹だからな。

 やっぱただ者じゃないってことだね。

 ミラス殿下が惚れたのも頷ける。

 いい王妃になるかも。

「確かに、そうですわね」

 ヒューリアさんがちょっとしてやられた、という雰囲気で言った。

「外交使節は、できる限りご夫婦であることが望ましいのは確かです」

 ユマさんも続ける。

「その方が、本国でどのような立場にいるのか、ということも見られますから。

 立派なご家名があって、夫婦円満で、しかも後を継ぐべき子弟もきちんとしている、ということは信用を増す要素になります。

 むしろ、独身ですとフラフラしているか、あるいはプレイボーイである、と宣言しているように取られる恐れがありますね」

 さいですか。

 別にいいですよ。

 どうせいつかは結婚するんだし。

 そもそも隣のハスィーがすっかりその気になっていて、とても嫌だとかまだ早いとか言える雰囲気じゃないからね。

「判りました。

 出発前に結婚します」

「おめでとうございます」

 フレアちゃんが真っ先に言ってくれた。

 マジでいい王妃になりそう。

「「おめでとうございます」」

 やや遅れて、ユマさんとヒューリアさんが頭を下げる。

 ハスィーは小さく「ありがとうございます」と言いながら目を伏せていた。

 頬が真っ赤だぞ?

 そんなに嬉しいの?

「まあ、マコトさんの場合は別にご夫婦でなくとも問題ないとは思いますが」

 ユマさんが水を差すようなことを言った。

「それは?」

「マコトさんとヤジマ商会の事は、既に各国でもよく知られていますから。

 そもそもハスィー自身がソラージュ以外の国でも噂になっていましたので。

 その『傾国姫』をゲットしたというだけで、話題になるのは当然です」

 ゲット(笑)。

 でもそうか。

 ハスィーのことは、帝国リストルテ領のリナ姫様ですら知っていたもんな。

 既に国際級のスターだったわけだ。

 その傾国姫と婚約したペーペーの近衛騎士が話題に上らないはずがない。

「それだけではなくて、アレスト興業舎の成功や野生動物との協調、帝国の難民の救助、そして王都に進出して今や飛ぶ鳥を落とす勢いのヤジマ商会のオーナーである、という話も伝わっております。

 アレスト興業舎やセルリユ興業舎は海外企業とも取引があり、絵本なども輸出しておりますので」

「何だってーっ!」

「そんな!

 あの絵本が広まっているというのですか!」

 俺とハスィーが同時に悲鳴をあげた。

 ハスィーの狼狽は判る。

 事実無根の「傾国姫物語」が国際的に定説になってしまうかもしれないことに怯えているのだろう。

 ラナエ嬢の罪は重いな。

 俺も似たようなものだ。

 狼騎士(ウルフライダー)とか、警備隊長との決闘とか、事実からかけ離れた話が定着してしまっているからな。

 それより、これまでみんながやってきたことが全部俺の手柄になってしまっているというのが嫌だ。

 シルさんやユマさんやラナエ嬢や、何よりジェイルくんの偉業だろうそれ!

「マコトさんの業績です」

 ユマさんがにこやかに微笑みながら言った。

「すべて、マコトさんがおられなければ存在しなかったことばかりです。

 人の評価は、その方個人が成したことではなく、全体の中でその方が務めた役割で決まります。

 マコトさんは、すべての(かなめ)ですから」

 そんなこと言われてもなあ。

 力なく肩を落としていると、ハスィーが俺の腕をとった。

「わたくしの虚名が、マコトさんのご負担にならなければ良いのですが。

 でも、ユマが言ったことは本当です。

 マコトさんが成されたことなのですよ。

 みんなが幸せになったことも」

 それは過大評価だと思うけどね。

 でもまあ、シイルやあのもと丁稚(違)たちが家名を持てるほどになったのは、確かに俺のせいかもしれない。

 いいのかなあ。

 俺、サインしたり人と会ったりしていただけなんだけど。

「私を守って下さったではありませんか」

 ユマさんがハスィーとは反対側の俺の手を取った。

「私のミスを、マコトさんはいつも取り戻して下さいます。

 人の評価などお気になさらないで下さい。

 マコトさんは、そのままでいいんです」

 ユマさん。

 何かこないだから性格が違ってきてない?

 こんなに馴れ馴れしいというか、親密な事を言う人だったっけ?

「ユマも少しは遠慮なさい。

 ハスィーが睨んでますわよ」

 ヒューリアさんが割り込んで、ユマさんは頭を下げた。

「失礼しました。

 確かに、この間から変になっているようです。

 生まれてからこれまでに、一度も感じたことがない気持ちになってしまって」

「判ったから抑えて」

 ヒューリアさんとユマさんが揉めている間、ハスィーは俺の腕をがっちりホールドして二人を睨んでいた。

 ハスィーも変になっているな。

 まともなのはフレアちゃんだけか。

 そのフレアちゃんも、なぜか顔を赤くして目を逸らせている。

 よく判らん。

 まあいいか。

 翌日、朝食の席でジェイルくんの了解を得て、俺たちの計画が動き出した。

 ユマさんが断言したんだから、まず間違いなく俺は親善大使とやらに任命されるだろう。

 つまり、俺とハスィーは王都いやソラージュを離れることになる。

 ヤジマ商会の会長と副会長兼渉外担当がいなくなるわけで、その間の体制をどうするのか決めなければならない。

 一番簡単なのは、ジェイルくんを会長代理にでもして、権限を持たせることなんだけどなあ。

「お断りします。

 私はヤジマ商会の大番頭で、このポジションが一番お役に立てるかと」

「でも会長権限はジェイルくんが代行できるとしても、会長不在というのはまずいんじゃ」

「ここはやはり身内ということで、フルー・アレスト議員にお願いしてみては。

 実際の業務は私がやりますので」

 なるほど。

 会長の義理の祖父で、もと伯爵閣下ならヤジマ商会の代紋背負っても不足はないか。

 貴族院議員なんだけど、それは別に問題ではないらしい。

 ちなみに、フルーさんは今も俺の代理議員をやってくれている。

 俺は近衛騎士であると同時に子爵なので、議員も二人必要なのかと思ったら違うそうだ。

 複数の爵位があっても、その中の一つしか議員資格を持てないらしい。

 爵位じゃなくて、それを持っている人の代理だから。

 俺の場合は近衛騎士ではなくて子爵としての議員資格になるわけだね。

 なお、別にどうしても議員になったり代理任命したりしなければならないわけでもないそうだ。

 例えば、ミラス殿下は王太子でムト子爵だ。

 その他にも色々持っているらしい。

 王族には貴族院議員の資格はないが、ムト子爵は貴族なので、その気になれば貴族院議員になったり誰かを代理にしたり出来る。

 でも、慣例として王族は議員にはならないとか。

「時々、無理を言って代理議員に任命して貰う人がいるようですが」

 さすがにジェイルくんは物知りだった。

「無役ですと、生活に困窮する方もいらっしゃるらしく。

 代理議員になれば議員手当が出ますからね」

 そうやって恩を売ることもあるのか。

 フルーさんも、貴族院からいくらか受け取っているらしい。

 でもそれは「雑収入」としてヤジマ商会に入れてくれているとか。

「フルー様は、ヤジマ商会から十分な給与を受け取っていらっしゃいますからね。

 そんなつまらないことでマコトさんの信用を失うわけにはいかないですし」

 そうなんだろうな。

 俺は別に気にしないけど。

 借金の額が膨大すぎて、そんなもんは端金にしか思えないしね。

「じゃあ、会長代理はフルーさんにお願いすることにする。

 ハスィー、よろしく」

「判りました」

 人に丸投げするって気持ちいいよね。

「その他の問題ってあるかな?」

「マコトさんが直接業務を担当している会舎は『ヤジマ経営相談(コンサルティング)』だけですので、こちらは誰か適当な人を考えておきます。

 方法論は既に判っていますから、大丈夫です」

 まあ、もともとジェイルくんが舎長代理みたいなもんだからね。

 それもよし、と。

「後は、結婚のことかな」

「そうですね。

 問題はないでしょう。

 ギルドに届け出ればいいだけですし」

「そうなの?

 結婚式や披露宴はやらないでいいのか」

 俺が何の気なしに言うと、ジェイルくんの目が光った。

 魔法のように、いつものメモ帳が現れる。

「結婚式。

 そして披露宴。

 確かにこちらでもやりますが、マコトさんの世界のものは内容が違うと見ました。

 何か凄いイメージを感じたのですが、そこの所を詳しく」

 また地雷踏んだ?

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